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投稿が遅くなり申し訳ありません
謎の少女
 クリュウの目が点になる。
 誰が機械の中にあった装置から小さな女の子が現れるなどと、予測することが出来るであろうか。
 そして彼女は一糸纏わぬ姿でそこにいた。
「おはようございます。ごしゅじんさま」
 クリュウより頭一つ小さい少女はそう言う。
 開いた口が閉まらないとはこういうことを言うのだろう。クリュウはしばらく、思考が止まり喉から言葉も一切出なかった。
 少女は不思議そうに小首を傾げる。
「どうしたんですか、ごしゅじんさま?」
 少女はクリュウに近づく。
 その行動に、フリーズしていたクリュウの意識が再起動される。いくらHSA(ハイサ)以外関心が薄いクリュウといえど、このような露骨な場面に遭遇すれば頭も沸騰するであろう。
「あ、あ、あ、あば」
「早速、ご命令ですか、ごしゅじんさま?」
 当の本人といえば肢体を晒しているというのに恥ずかしがる素振りも見せない。ここで悲鳴の一つでも上げられれば、クリュウも頭を下げたりと色々行動することが出来たのだが、目の前の少女がそういった仕草を取らない所為かクリュウの頭も徐々に冷えてくる。
「き、君は?」
「そういえば」
 少女は、ポン、と手を叩く。
「自己紹介がまだでしたね。名前は……アレ?」
 今度は少女が名前を思い出せないのか止まる。
 ふとクリュウの視界に飛び散ったカプセルの欠片――文字の書いてあった事を思い出す。
「ガラ……メーメ……」
「そうそれなのです。メーメはガラメーメと言うのですよ。よろしくお願いしますね、ごしゅじんさま」
 今更だがここに来てクリュウは、略称でメーメというらしい少女が、自分のことを主人と呼んでいることに気がつく。
「ご主人様ってオレのことか?」
「そうですよ。だってごしゅじんさまがメーメを卵から出してくれたのではないですか」
 メーメの中ではそれが唯一の回答なのらしい。
「もし、メーメに長い尻尾でもあれば出会い頭に尻尾アタックを喰らわせて、ツンデレ!!ってことも出来たのですが……残念ながらメーメにはそのような装備は搭載されていないので、ごく普通に主人に付き慕うというモードを選択したのですよ」
 よく分からない言い回しと言葉を使うメーメに今度はクリュウが小首を傾げる。
「いや演出とかはともかく、そのご主人様ってのは勘弁してくれ。むず痒い」
 アイザのようにお金持ちでメイドでも雇っているのであればそんなことも無いが、人間的にも収入的にも貧相としか言いようが無いクリュウにとって、突然ご主人様と言い寄られれば違和感を覚えてしまうのは当たり前であろう。
「とにかくなぁ」
 メーメを今の状態で放って置くには忍びない。
「クシュン!!」
 クリュウが着ているものを貸そうと思っても、作業着である。作業場には当然幼い少女が着れそうな物はない。
 かといって、この真夜中に全裸の幼女を街に連れ出す訳にも行かない。
 ふとクリュウの頭に身近にいる少女の姿が浮かんだ。


 コンコン
 クリュウは窓を叩く。
「オレ、オレだよ。開けてくれ」
「私にオレさんなんて言う知り合いはいないんだけど……」
 そう言いながらもサリナは何の用事かと窓を開けてくれる。
 この時クリュウはサリナの部屋が一階にあることを密かに感謝した。
 クリュウは窓から部屋に跳び入る。
「ちょ……ちょっとクリュウ!?」
 まさか入ってくると思わなかったサリナは驚く。
 だがこの後、彼女は更に肝をつぶすこととなる。
「こんな夜中に女性の部屋に押し入るとは、ごしゅじんさまも中々やるのですよ」
 そうクリュウの手を取りサリナの部屋に入ってきたのは、真っ裸のメーメである。
「あのさ、悪いんだけど……」
 クリュウが口を開いたのと同時に、サリナの手が飛んできた。
 その見事な手際にメーメはお見事といわんばかりに手を叩いていた。
「まったくどういう神経してるのよ!!」
「いや、待てこれには理由がッ!」
 クリュウが再び叩かれる、と思い目を閉じた。
 だがビンタが飛んでくることは無く、代わりに頭から布団を掛けられただけだった。
「その布団取ったら、家から放りだして檻の中に入れてやるから」
 クリュウは背筋が凍る。布団を剥ぐと桃源郷の風景、その後漆黒のブタ箱の中、である。
「とりあえず、アナタを何とかしないと」
 ガチャリと扉を開ける音がする。
「とはいっても、昔の服なんてあったかなぁ」
 どうやら、サリナはメーメに着せるための服を探してくれているようであった。
 クリュウは手痛い一発は貰ったものの、当初考えていた通り目的は達成出来たようで一安心と息をつく。
「おお、真っ黒なのですよ」
「ちょっと、アナタ何を手に取ってるの!!」
(平常心……平常心……)
 そんなクリュウの気遣いを知ってか知らぬかメーメは、何か(・・)を手に取ったようであった。
「ごしゅじんさま、ごしゅじんさまこれを見て欲しいのですよ」
「やめてぇ!!」
 クリュウの背にタラタラと冷や汗のようなものが流れる。この布団を取った後、無事では居られないのではないのか、そんな不安が過ぎる。
「もう! 余計なことしないで!」
「残念……なのですよ」
 災いはひとまず去ったのだが、クリュウはそれに気がつくことなく硬直している。
「あった、あった。ほら、これなら着られるんじゃないの」

「もう……なんで、こんなに着せにくいのよ……」

「コラ! 動かない!!」
「はーい」

「下着は……まぁ明日にでもこのバカに買わせるとして、ドロワーズもあるし大丈夫でしょ」

 そんな、ごそごそと桃色のやり取りがあったのだが、この先の余りの恐怖に一つとしてクリュウの頭に残らなかった。
「ほら、いいわよ」
 被されていた布団が払われる。
「じゃーん、なのですよ。ごしゅじんさま」
 ぱっと手を開くメーメ。彼女はファンシーともいえる黒と白のコントラストのドレスを身にまとっていた。ドレスといってもスカートはそれほど長くなく膝が掛かるか掛からないかであり、そしてスカートからはカボチャパンツ――ドロワーズの裾が見え隠れしていた。メーメがクリュウに対する呼び方も相まって、それにエプロンとカチューシャを足せば従者とも見えそうな衣装であった。
 亜麻色の髪と白い肌を持つメーメはこのような服を着るのが当たり前とでもいうように、似合っていた。
「……さて、それじゃあどうしてこうなったかを聞かせて貰いましょうか」
 何時ものサリナが使わないような丁寧語……それがクリュウの恐怖心を駆り立てる。
 クリュウは瞬時に正座する。
 表面上はニコニコ繕い笑うサリナの前ではクリュウはまな板の鯉――どう料理されるのかを待つだけの存在であった。
「で? この子何なの?」
 そう問われても、クリュウ自体も良く分かっていない。
「それが実は、HSA(ハイサ)の中にあったカプセルから出てきたんだよ」
 だから事実をそのまま述べるしか方法が無かった。 
「そんな訳無いじゃない!!」
「嘘じゃないって!」
 サリナは信じていないようであったが、とても嘘を言ってるように見えないクリュウの態度を見ると、
「まさか……」
「本当なんだよ」
「クリュウ……アンタ、とうとうHSA(ハイサ)馬鹿をこじらせたんじゃ?」
 結局は信じてもらえない。
「こういうときは、警察? それとも病院……」
 どちらにしろサリナの考える先に待つのは、クリュウにとって地獄しかなかった。
「盛り上がっている所申し訳ないのです。ごしゅじんさま……人が一人この部屋へと向かって来ているようなのですよ」
 メーメのこの発言にクリュウ、サリナ共になぜそんなことが分かるのかと疑問を抱いた。
 間もなくして、ドアがノックされる。
 サリナの返答を待たずしてドアが開かれ、サリナの母・ルリが入ってくる。
「サリナちゃん! コレ……」
 ルリのその手には今メーメが着ているようなドレスが握られていた。
「ちょっとママ! 勝手に入らないでよ」
 サリナがそういうも、ルリの耳には届いていないようであった。ルリの視線はバッチリとメーメをロックオンしていた。
「ご、ごしゅじんさま。メーメは何か肉食獣にでも見つめられている気分なのですよ」
「同感だ」
 夜中に年端も無い娘の部屋に……しかもよく分からない少女連れでいるところをその肉親に見られた。これは下宿人にあらざる行為であろう。クリュウは修羅場にいることを確信する。
「な、な、な」
 ルリがワナワナと震えだす。
「なにこの娘!? お人形さんみたい、すごい可愛い!!」
 だが待っていた言葉は予想外のものであった。
 ルリはメーメに抱きつく。
「いやぁ~可愛すぎる!! この娘借りていくわ」
 ルリは答えも聞かずにメーメを連れ去る。
「ごしゅじさま!? ごしゅじんさまぁ~~!!」
 クリュウはドナドナと連れ去られるメーメを心の中で敬礼して見送った。
 後に残ったのは無言でたたずむ二人。
「なんかごめん。あんな母親で……」
「いや、こっちこそ」
 二人は頭を下げあった。



 場を支配するのは漆黒の闇。
 そこにあるのは円卓である。そして円卓を取り囲むように幾人かがそこに座っている。
「状況はどう転んでも、変わらぬか……」
 その中の一人が苦虫を噛み潰すような声でそう唸る。
「おのれ……クロバ工業め!!」
 その一言を口切りに、何人もがクロバ工業を罵る。
「三賢者の方はどうか……? なにか妙案はないものか?」
「動の賢者に妙案は無い……無の賢者はどうか?」
 動の賢者と名乗った一人は、隣に座る無の賢者に尋ねる。
「…………」
 無の賢者は、眉間を動かすだけで何も語らない。
「では……源の賢者はどうか?」
「あったら、ここに集まってなどおらぬのじゃ」
 源の賢者は声を荒げて言う。
「クッ、此度の賢人会も何も解決せずに終わるのか……」

「何が賢人会よ」

「何奴!!」
 円卓に座っていた一人がその声に反応する。
 その瞬間、闇が晴れ部屋が明るく照らされる。
「「うおおおお!!」」
 急激に明るくなり、目が焼かれ幾人かが顔を伏せる。
「もう、お茶を持って来たら、何辛気臭いことやってるのよ。ってか賢人会って何? ただの町内会の老人会でしょ」
 明るくなった部屋で窓際に立っているのはサリナである。
「そうは言うがなサリナ。こうでもしないとやってられん」
 まるで演劇で悪役が纏うようなローブを脱ぐ、動の賢者ではなく――アドウ。
 サリナがカーテンを開け放ったことによって部屋は明るくなった。
「もう、おじいちゃん恥ずかしいことしないで!!」
 サリナはアドウに言い放つ。
「ウエマーさんもおタネさんも悪乗りしないでくださいよ!」
 無の賢者と呼ばれていたウエマーは相変わらず無言で視線もどこを見ているか分からない。他の面子もあえてサリナとは目を合わせない。改めて言われると自分達がどれだけ恥ずかしいことをしていたのかが身にしみたのである。
「で、結局なんの話をしてたのかの?」
 話が途切れ一人の老人が首を傾げる。
「そりゃああれだ、大企業の仕業でワシら小さい工場が大変だって話だ」
「そうだったのか?」
 と改めて話してみれば振りだしに戻る始末となる。
「そんなに大変なの?」
 サリナは工場の経営などについては良く知らないので聞いてみる。
「そりゃあ大変ってもんじゃないさね」
「アドウさんとこは、まだ腕がいいから仕事はあるんだがうちらは全然駄目さ」
 皆がため息をつく。それほど、小さな工房の現状は悪いのだ。
「昔はよかったのお」
 老人達は昔を思い出すと10も年が若返ったように生き生きとした表情で語り始める。
「昔は工房ごとにお抱えのHSA(ハイサ)とライナーがいたもんだ」
「そうだそうだ。ウチのライナーが勝ったときなんて、この工房のパーツがいいとか噂になったりして、こぞってライナーが買いに来たりしたなぁ」
 だが良いことを思い出すと今の悪いことが愚痴として飛び出してくる。
「それが今じゃあHSA(ハイサ)を弄らせてもらうこともままならねぇ……」
「安い金で大企業様の下請けの型を決められた部品を作る仕事を貰うのがやっとさ」
 本当にそうなのだろうか、サリナはそう思う。例えば、
「アイザさんみたいな人もいるじゃない」
 彼女は名ライナーでありながら、中小工房を利用している。
「そりゃ、アドウさんとこみたいに腕のいい所は使ってくれるだろうけど、ワシらみたいな所には敷居が高すぎる」
 アドウ、ウエマー、タネを除く老人達は頷く。
「じゃあ、クリュウはどう?」
「おい、サリナ……!」
 クリュウの名を聞きアドウが静止の声を上げる。皆がクリュウに対して協力するのはアドウの意に反していたからである。
「クリュウったら……アドウさん家で働いてるアンちゃんか?」
 皆がその名前が今どうして、という顔をする。
「まさか、例のアンちゃんライナーなのかい?」
「まだスタートラインにすら立ってないけどね」
 クリュウのことを頭に思い浮かべてサリナはやれやれ、と思う。
 そして彼のHSA(ハイサ)が一人で修理していることを伝える。
「アドウさん、そりゃねーぜ」
「なんでそんな面白い話を黙っているんだ」
 それに対してアドウは言う。
「あんなHSA(ハイサ)走るものか」
 その態度に皆が静まる。腕の良さを知っている分、アドウがそのような発言することが珍しいからである。
「アイツの使おうとしているHSA(ハイサ)はS系だぞ」
 その言葉に対して疑問を浮かべるものはいない。皆、年を取っている分だけにS系というHSA(ハイサ)を知っているのだ。
「……ヒッ」
 訪れた静寂の中、一つの声が上がる。
「ヒヒ……S系だって!? ヒヒ」
 口を開いたのは、先ほどまで無の賢者といわれていたウエマーという男であった。
「う、ウエマーさんが喋った……」
 皆が驚嘆する。ウエマーが今まで積極的に口を開いたことを誰もが見たことが無かったからだ。
「面白い、面白い、ヒヒヒヒヒ」
 その薄気味悪い笑い声に怯える者までいる。
「ヒヒ、是非とも僕に、EoM(エオム)を作らせて欲しい……ヒヒヒ」
 ウエマーは機関魔法技師――略称EoM技師と呼ばれるものであった。賢者と呼ばれていたこともあり、分野は違えど腕はアドウに並ぶとさえ言われる。ただ、そのEoM(エオム)は奇妙奇天烈なものが多く使えるモノは少ないと言われている。だが、中にはプレミアが付き国の国家予算ほどになるというものもある。
 そんなウエマーが喰いついたということもあり、他の者達もクリュウのHSA(ハイサ)ディーゴに興味を持ち始めた。
 ただアドウだけは最後まで面白くなさそうな顔をしていた。
 

 
明日また話を上げるために奮闘中です。

感想意見等募集中ですのでよろしくお願いします


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