草食と肉食のジンテーゼ
愉快な話ではありません。読後感もよくないと思います。
ナイフが肉を切り裂いて、桃色の断面から溢れた赤い肉汁が皿の上に広がった。
「よく食べられるよね」
女の手がとまる。途端に険しくなったその顔を見て、男は口をついた一言を後悔した。
「雑草ばかり食べてるよりはマシでしょ」
瑞々しい有機野菜のマリネ。ビネガーの酸味と新鮮な野菜の甘みが織り成す至高の味。何故このおいしさがわからないのか? 後悔の念は吹き飛び、腹立たしくなってきた。
「好んで肉を食べる人の気がしれないよ。知ってる? 豚をしめる時、後ろ足を天井に吊り上げて喉を割くんだって。余分な血を抜くためらしい、そうしないと血生臭くて食べれないらしいけど、残酷な話さ。とてもじゃないけど口にする気がおきないな」
「有機野菜なんてろくなもんじゃないわよ。第一、有機肥料ってどんなものだかわかってるの? 排泄物を肥やしに雑菌まみれで育ててるようなもんでしょ。そんな物を口にしておいしいなんて、頭おかしいんじゃないの?」
「食事中にそんなこと言うな」
「それは、こっちの台詞よ」
田園風景の中に小ぢんまりと佇む一軒のレストラン、使用する食材はオーナーシェフ自らこだわりぬいて育てた物だ。一部の食通たちの間で評判となり、メディアで紹介されてからは客入りがとだえることがない。それはいいのだが……。オーナーシェフは声高に言い争う二人を眺めながら、ため息をついた。
生でも食せる自慢のハーブ豚はそのしめ方が秘訣だ、あえて生きたままに苦しませながら血抜きをすることで格段に味がよくなる。
自慢の有機野菜はその肥料に秘密がある。ハーブ豚の残骸で作った肉骨粉をその血と共に糞尿と混ぜ合わせ発酵させる。それを肥料にすることで格段に味がよくなるのだ。
こだわりの食材。お客様には純粋にその味だけを楽しんでもらいたいものだ。オーナーシェフは、げっそりと頬こけた顔を曇らせた。
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。
ついったーで読了宣言!
― お薦めレビューを書く ―
※は必須項目です。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。