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遅くなってすみません…。
3.【賭け試合】 【神速】VS【悪運】
 二人の間の距離は約5m。
 ジリジリと互いを目線で牽制し合う。
 先手を取りたいが、カウンターが来る可能性がある。
 いや、ほぼ確実に来るだろう。
 ならばこちらがカウンターを狙う…いや、【神速】相手にそれは不可能に等しい。
 必死に考えるネセルに対し、ヘーゼは笑顔で怒鳴った。
「固まってんじゃねぇよっ!」
 咄嗟にネセルは右に飛び跳ねて転がった。
 次の瞬間、轟―――という音とともにネセルがさっきまでいた場所の周りの大気が震えた。
 速い。
 速すぎる。
 アイツ、この一瞬で「突いて戻す」を三度やりやがった…。
 勿論ネセルの動体視力では先ほどの動きが見えたわけない。
 ネセルはただ、槍が自分の側を通る音を聞いただけだ。
「おう! 今のを避けたか。やっぱお前、悪運強いわ」
 ネセルの二つ名【悪運】は彼のこの悪運の強さに由来している。
 例えば、ネセルがこの軍に来たその日に魔王軍が襲ってきた。
 完全な奇襲という形でこの軍は大きな被害を受けた。
 周り中怪我人や死体だらけの中、ただ一人ネセルだけは無事だったのだ。
 他にも賭け試合で配給を賭けて負けた時、配給で出たものが腐っていたらしく集団で食中毒を起こして一人だけ助かったり、と例を挙げればきりがない。
 そんなことが起きているうちにいつの間にかそう呼ばれるようになったのだ。
「ほらほら、次いくぜ?」
 再びヘーゼが槍を放った。
「――んにゃろっ!」
 ネセルはそれを勘を頼りに必死でかわした。
 そして次の攻撃がこないうちにさらに距離をとる。
 無理ムリ! アレは卑怯だって! 勝てるわけないじゃないデスカ!? と心中で半泣きになるネセル。
 そんな彼を見た野次馬が罵声を上げる。
「オイ腰抜け! 俺はテメーに二日分のメシ賭けてんだよ! 尻尾巻いて震えてんじゃねーぞ!」
 「さっさと闘えクソヤロー」
 次第に野次が大きくなっていった。
 そんな状況の中、ネセルは…ついにキレた。
「ウッセーよ! 試合に出る度胸もねーくせにギャーギャー喚くんじゃねーよこの蛆虫どもがっ」
 叫び、血走った目でヘーゼを見る。
 イっちゃってるネセルの顔を見て流石のヘーゼも若干引きつった笑みを浮かべた。
「オイオイ…目がイっちゃってんじゃねーか」
「アイツら後で絶対殺ス殺ス殺ス」
「ちょっ怖ぇって!?」
 会話もおぼろにネセルは突然ヘーゼに向かって突進してきた。
 それを見てヘーゼは焦った表情をしながらも、冷静にタイミングを狙い槍を突き出した。
 ヘーゼの槍はその速度のため、右にも左にも避ける時間を与えない。
 だからこそ、その槍はネセルに当たるはずだった…。
「――なっ!?」
 ネセルに槍が当たる寸前、ネセルの姿が――消えた。
 いや、実際は消えたのではなく、
「もらったあァァッ!」
 下から響くネセルの声。
 そう、ネセルは地面に滑り込むことでヘーゼの槍を避けたのだ。
 右に避けるにも左に避けるにも、必ずそこには運動のベクトルを大きく変えるために一瞬の停滞時間が生まれてしまう。
 しかし滑り込むとなるとそれはほぼなくなってしまうのだ。
 更に言うと槍を下に向けて放つことは、他の場所に比べて神経を使う。
 槍の先端が地面に当たらないように力を調整しなければいけないからだ。
 それはつまり、思い切り槍を放つことができないということ。
 ヘーゼが槍を引き戻し再び狙いをつけた時、ネセルはすでに体勢を戻してヘーゼの目の前に迫っていた。
(勝てる!)
 ネセルの剣がヘーゼに届いて
(勝てるっ!!)
 ヘーゼの姿がぶれて
(勝…て……)
 ネセルの意識はそこで途切れた。
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