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  輝夜奇譚 作者:雪架
第三夜
 無言の中、牛車の音だけが規則正しく聞こえてくる。
 志岐は、はなから説明をする気などないのか朱里の方を一度も見ようともせずその視線は御簾の方へと向けられていた。
 聞きたいことは山ほどある。
 が、尋ねたとしても今朝方のように無視されるのは目に見えていた。
 それでも朱里はあえて口を開いた。
 このまま何も聞かされないまま、どこかへ連れて行かれるなんてのは真っ平ごめんだから。
 「ねぇ」
 案の定志岐はこちらを向くこともしない。
 「・・・・・・ねぇ、これからどこ行くのよ」
 返事はない。
 話にならない、と思いながら朱里は深々とため息をついた。
 「あんたが私のことを嫌いなのはよくわかったけど、少しは説明ぐらいしてよね?」
 と、志岐が不意にこちらへと目を向けた。
 「・・・・・・別に嫌ってなどはいない。ただ・・・・・・」
 「ただ?」
 「・・・・・・認めたくないだけだ」
 何を?そう聞き返したかったが、志岐は再び御簾へと視線を戻した。
 再び沈黙が落ちる。
 先ほどよりも更に不機嫌そうな志岐に、朱里はこれ以上話をするのは無理だと判断し小さくため息をついた。

 牛車に乗せられ辿り着いた場所を見て、朱里はぽかーんと大きく口を開いた。
 それを見て志岐が眉をひそめる。
 目の前に広がるのは広大な敷地の中に立つ荘厳な建物。
 「いつまでそのまぬけ面をしているつもりだ。さっさと行くぞ」
 いつの間にか志岐は着物姿の女性に案内されて、建物の中に入っていた。
 志岐に促され、建物の中へと恐る恐る足を踏み入れる。
 建物の中は豪華な細工があちこちに施してあり、歩を進めるたびに朱里は思わず立ち止まって見入ってしまう。
 「おい・・・・・・早く来ないと置いていくぞ」
 「あ、ごめんなさい。つい物珍しくて」
 彼なら本当に置いて行きかねない。
 志岐の後を、朱里は慌てて追いかけた。
 案内の女性に建物の奥のほうへと連れて行かれる。
 「ずいぶん奥まで行くんですね」
 「はい。帝は清涼殿におられますから」
 帝。それがこれから朱里が会う人物の名前らしい。
 確か志岐も帝のところへ行く、と言っていたが。
 帝といえば天皇陛下のことだろうか?
 けれど天皇陛下がただの女子高生に一体何の用事があるというのだろう。
 疑問は募るばかりである。
 と、不意に女性が足を止めた。
 「では、こちらで少々お待ちいただけますでしょうか?」
 障子を開け、こじんまりとした一室へと通される。
 志岐が従うのを見て、朱里も中へと入る。
 「失礼いたします」
 障子を閉められ、2人っきりで残される。
 「・・・・・・」
 牛車の中同様、沈黙が部屋中を支配する。
 志岐はといえば、相変わらずこちらを見ようともしない。
 沈黙に耐え切れずに先に口を開いたのは、意外にも志岐の方だった。
 「お前」
 「な、なにっ!?」
 いきなり話しかけられ、全く予想していなかった朱里は声を上ずらせる。
 「ここにきてから何か感じるか?」
 「は?何かって・・・・・・」
 「何不快な感じがしたりはしないか?」
 この屋敷に驚きはしたけれど、不快に感じることなど何もなかった。
 「あんたが何も答えないこと以外、不快になんて感じてないわよ」
 「そうか・・・・・・」 
 軽い嫌味のつもりで言ったのに、志岐はまるで気にもとめていないようだ。
 「やはりお前ではダメか」
 「それってどういう・・・・・・」
 朱里の問いかけは、不意に開いた障子の音と快活な声によって遮られた。
 「おぉ、そなたか!月姫の分身と言うのは!!」
 「はぁ?」
 男はそのままズカズカと部屋の中に入ってくると、呆気にとられている朱里の手を握った。
 「月姫とは違うが、なかなか可愛らしい子ではないか。私はこういう女性も嫌いではないぞ」
 「・・・・・・帝」   
 志岐が咳払いをして男に話しかける。
 「おぉ、志岐!そなたも久しいな。あの日以来だから2年ぶりと言ったところか」
 「帝もお変わりなく」
 「私は健康だけが取り柄だからな。ははははは」
 事の展開についていけず、朱里は手を握られたまま呆然としていた。
 「帝!!このような場所に勝手にいらっしゃっては困ると何度!」
 先ほど案内してくれた女性が眉根を吊り上げながら部屋へと入ってきた。
 「小梅、よいではないか。そんなに怖い顔をしていると折角の美人が台無しになるぞ」
 男は朱里の手を離すと小梅と呼ばれた女の方へと歩いていく。
 開放された朱里は表情一つ変えない志岐に向かって問いかけた。
 「志岐・・・・・・あれってもしかして」
 「この世で最も尊い存在・・・・・・帝だ」
 「あれが・・・・・・帝?」
 小梅の腰に手を当て、未だに耳元で何か囁いている明らかに軽そうな男を見て朱里はただ呆然としていた。
 
 
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