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  輝夜奇譚 作者:雪架
第二夜
 「志岐様。これで帝も一安心ですねっ!」 
 真っ暗な竹林の中、場違いに明るい子供の声が響く。
 「果たしてそううまくいくかな・・・・・・」
 腕に少女を抱いたまま、志岐と呼ばれた男が呟く。
 先ほどまで騒ぎ立てていた少女は志岐の術によってすっかり眠り込んでいるようだ。
 「うまくいくに決まってますよぉ!あの姫様の分身なんですから!」
 十歳かそこらの少年は瞳を大きく輝かせ、男の腕に抱かれている少女を見上げる。
 その言葉に、志岐は己の腕の中にいる少女を見つめた。
 どこにでもいそうなごく平凡な少女。
 この少女が彼が心から崇拝していた姫の分身だとは到底思えない。
 「早く帝の元へいきましょうよぉ!」
 「・・・・・・今夜は遅い。連れていくのは明日にしたほうがよいだろう」
 夜も更けているということもあるが、このぼろぼろの姿のまま恐れ多くも帝の御前に連れて行くことなどもってのほかだ。
 「じゃぁ、今夜は」
 「屋敷へ連れて行く。浅月、先に行って屋敷のものに伝えてもらえるか」
 「はぁい!」
 浅月、と呼ばれた少年は返事をすると闇の中を元気よく走り出した。
 その後姿を見送りながら少女が目覚めた時のことを考え、志岐は軽くため息をついた。

 バタバタと忙しく走り回る足音に、朱里は目を覚ました。
 美里のやつ、また朝っぱらから騒いで。
 一つ下の妹がいつものように廊下を走っているのだろう、と眠い目をこする。
 と、ぼんやりとした視界に飛び込んできた景色に彼女の頭は一瞬で覚醒した。
 「どこここ・・・・・・」
 たった今まで朱里が寝ていたこの場所は、自分の部屋ではなく純和風の見慣れない部屋だった。
 うっすらと光が差し込む障子は、いくつもの影が慌しく行き来している。
 と、他より一回り小さい影が障子の前で止まる。
 そーっと静かに障子を開き、十かそこらの少年が顔を覗かせた。
 「あ、起きたぁ?」
 「・・・・・・あんた誰?」
 怪訝そうな表情の朱里を気にした風でもなく、少年はそのまま部屋へと入ってきた。
 「ぼくは浅月だよぉ、月姫様」
 にこにこと無邪気に笑い近づいてくる少年―――浅月を見て、朱里は部屋の隅へと逃げる。
 「月姫って誰よ。ていうかここどこよ」
 浅月は自分から逃げようとする朱里にきょとんとしながら答える。
 「ここは志岐様のお屋敷だよぉ?」
 「誰よその志岐ってやつ!」
 「ぼくのご主人様」
 誇らしげに胸を張る浅月を見て朱里は徐々に苛立ちを募らせる。
 ただでさえ突然の状況に頭がついていっていないのに、少年は朱里の聞きたいことにまともな答えを返してこない。
 「だぁかぁらぁ、何でそのご主人様の屋敷に私がいるのよ!」
 子供相手に大人気ない、と思いながらも朱里は声を荒げる。
 「それは・・・・・・」
 「浅月、何を騒いでいる」
 ふと低い男の声が響き浅月は後ろを振り返った。
 「あ、志岐さまぁ!」
 その男の姿を見て、昨夜の光景が脳裏によみがえる。
 「あんた!昨日の変質者!!」
 変質者扱いされた男は、自分を指差している少女を無表情のまま一瞥する。
 「起きたのか・・・・・・」
 「起きたのか、じゃないわよ!勝手にこんなとこ連れてきて!!あんた自分が何してるかわかってんの!?」
 騒ぎ立てる少女を見て、志岐はうっとうしそうに眉をひそめる。
 「これは立派な犯罪行為よ!!早く私を家に戻さないと警察呼ぶわよ!!」
 「けいさつってなぁに?」
 不思議な顔をしながら浅月が尋ねる。
 「あんた達を捕まえにくる役人よ!」
 「何でお役人さんが志岐様を捕まえに来るの?」
 「私をこんなとこに連れてきたからよ!」
 「何で月姫様を連れてきたらお役人さんが来るの?」
 全く持って会話にならない。朱里のイライラは募るばかりだ。
 「ちょっとそこのあんた!私の言ったことちゃんと聞いてた!?」
 浅月と会話をすることを諦めた朱里は、障子のそばに無言で立っている男へと標的を変える。
 「浅月、女房達を呼んでそれの用意をさせておけ」
 彼女の問いに答えることも無く、志岐はそう言い残すとその場を去っていった。
 「はぁい!」
 その後をまるで子犬のように浅月がついて行く。
 「ちょっと話はまだ終わってないでしょ!」 
 「また後でねぇー」
 浅月の間延びした声だけを残して、無常にも障子は閉められた。

 その数分後。
 いきなり部屋に雪崩れ込むようにして入ってきたのは何人もの女達。
 彼女達は有無を言わせず朱里の着ていた服を剥ぎ取ると、無言のまま綺麗な模様の着物を朱里に着付けていく。その数十二枚。
 突然のことに呆気に取れれている朱里をよそに次々と化粧を施し、まるで剣山のようにとがった櫛で髪を丁寧に梳いていく。
 「イタイイタイイタイ!!」
 昨日の夜必死にセットした髪を力いっぱいひっぱられ、朱里は非難の声を上げる。
 が、女達は気にも留めずに機械的に続ける。
 ようやくその手が止まった頃には、朱里はすっかり疲れ果てていた。 
 自分達の仕事を終えると、女達は朱里を置いて静かに部屋を後にした。
 女達と入れ替わるように浅月が部屋に入ってくる。
 「うわぁ、見違えるようになったね!」
 今にも倒れそうな朱里を見て、浅月は無邪気に笑う。
 「こういうの何ていうんだっけ。えーっと・・・・・・」
 「馬子にも衣装だな」
 「それだぁ!」
 失礼なことをさらっと口にしながら志岐が部屋に入ってくる。
 先ほどまでの白い着物を着流した姿ではなく、烏帽子を被り黒の直衣に身を包んでいる。
 「準備が整ったなら出かけるぞ」
 反論する気力すらもう残っていない。朱里はため息をつきながら顔を上げた。
 「・・・・・・出かけるってどこによ」
 「帝のところだ」

 
 
  
 

   


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