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  輝夜奇譚 作者:雪架
第一夜 
 ポツリポツリと並ぶ街頭の下を猛スピードで駆け抜ける自転車が一つ。
 出かける前に1時間かけてセットした髪も、その努力も空しくぼさぼさになっている。
 こんなはずじゃなかった。
 本当ならばっちりメイクにお気に入りのワンピースで可愛い自分をアピールするはずだったのに。
 
 「朱里!こんな時間にどこに行くつもりだ!」
 
 まさか出かける直前に運悪く父親に見つかるなんて。
 そのままリビングに連れて行かれ誰と、どこに、何をしに行く、ということを事細かに説明させられ最終的には友達に嘘をついていないかの確認の電話までさせられた。
 友達に電話をしても納得しようとしない父は、母になだめられてようやく出かけることを認めてくれた。
 ようやく家を出た時間は23時55分。
 待ち合わせの時間が0時ちょうど。
 待ち合わせをしている学校までどんなに急いでも20分はかかる距離。
 遅れる旨を友達にメールすると、家の前に止めてある自転車に跨り飛び出した。
 今日は数人で学校の裏山に、しし座流星群を見に行く約束をしていたのだ。
 その中には、一年の時からずっと憧れていた森内先輩もいる。
 折角巡ってきたチャンスをここでみすみす逃すわけにはいかなかった。
 そこの角を曲がれば学校が見えてくるはず。
 と、角を曲がってすぐ。目の前を何かが横切った。
 慌ててハンドルを横にきる。
 反動のついた自転車はバランスを崩し、そのまま朱里は自転車ごとアスファルトの上へ転倒した。
 「いったぁ・・・・・・」
 勢い良く転倒した朱里は、足に痛みを感じて起き上がる。
 見ると、脛の部分に大きな擦り傷。そして手の平も擦れ、赤くはれ上がっている。
 更に、自分の体を見て朱里は絶叫した。
 「あぁ!!!!!!」
 お気に入りのワンピースだったのに。
 両袖には大きな穴が開いている。
 「私が何したっていうのよぉ・・・・・・」
 踏んだり蹴ったりとは正にこのことを言うのだろう。
 朱里は恨めしそうに影の主を探す。
 そこには金色の瞳を光らせた黒猫が、何事もなかったかのように呑気に大きな口を開けてあくびをしているところだった。
 「あんた・・・・・・何でよりによって私の前に飛び出してくるのよ・・・・・・」
 「ニャァー」
 わかっているのかわかっていないのか。耳を掻きながら猫はこちらを見つめている。
 この状態では本日の参加は絶望的だった。
 こんな格好で森内先輩の前に現れるわけには行かない。
 泣く泣く不参加のメールを送るため携帯を開く。
 「ニャァー」
 猫が再び一声鳴いた。
 「浅月。本当にこれなのか?」
 突然聞きなれない男の声が頭上から聞こえた。
 慌てて顔を上げる。
 と、そこにはこの現代社会では考えられないような奇妙な格好の男が一人。
 全身真っ白の着物に身を包み、腕を組んだまま冴え冴えとした瞳で朱里を見下ろしている。
 浅月、と呼ばれた猫が嬉しそうに鳴き声を上げる。
 「はなはだ期待はずれだな・・・・・・」
 フンッ、と男は小馬鹿にしたように笑う。
 この男が何のことを言っていいるのかはさっぱりわからない。
 がわかっていることもある。
 この突然現れた男じゃ初対面でありながら自分のことを馬鹿にし、この状態の元凶とも言える猫の飼い主だということだ。
 朱里は人差し指を突き出すと男をにらみつけた。
 「あんたねぇ、飼い主ならちゃんと見てなさいよ!見てよこれ!」
 両袖を指差して怒鳴りつける。
 男は無残に破れてしまった両袖をチラリと一瞥すると、大して興味もないように黒猫へと視線を移す。
 「お前の感覚を疑う気はないが」
 「ニャゥ?」
 「本当にこれか?」 
 「ニャンニャンッ!」
 浅月はその言葉を肯定するかのように嬉しそうに鳴いた。
 それを見て男は眉間に皺を寄せてため息をついた。
 「そうか。かなり不安を感じるが、仕方あるまい」
 「ちょっとさっきから何話して・・・・・・きゃっ!」
 男は何を思ったか身を屈めると、道路に座り込んだままの朱里を抱き上げた。
 「ちょっと!!何すんのよ!降ろしてよ!!」
 突然のことに真っ赤になりながら朱里は男の胸を叩く。
 「・・・・・・あのお方とこの娘が同じものとは・・・・・・」
 腕の中で騒ぎ続ける朱里を見て、男は認めたくないといった感じで呟く。
 「誰か助けてぇ!!変態に攫われる!!」
 あらん限りの声で叫び続ける朱里。さすがにこのままでは誰かに気づいてここにやってくるかもしれない。
 「少し眠っていろ」
 男が朱里の瞼に手をかざすと、彼女はまるで吸い込まれるように眠りに落ちていった。
 「こんなのを連れて行って・・・・・・どうなっても私は知らないからな」
 ようやく大人しくなった朱里を抱えたまま、男は足元にすり寄る猫を睨む。
 睨まれた猫はシュン、と小さくなりながら弱弱しく鳴く。
 と、空が流星で埋め尽くされた。
 しし座流星群が活動し始めたのだ。
 空から降り注ぐように流れていく流星群を頭上に、2人と一匹はまるで霧のようにその場から姿を消した。
 
 
 
 
 
 

 


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