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『CROWN』
作:是音



TURN5〜大合戦〜


〈ヒィイイイイン!〉
漆黒の瞳を持った青年はショートカットの少女の背につかまりながら、ホバースクーターに乗って荒野を物凄い速さで疾走していた。

「おいおい!結構走ったら都会の地面がいきなり荒野に変わりやがった!この世界って全部あんな感じなんじゃ無いのか!?」

「この世界はあらゆる土地が再現されてるの!20年経った今でもまだ未発見の土地があるんだから!」

異常にだだっ広いゲームの世界に驚愕するザックの質問にショートカットのユノが答える。風を切る音の大きさのせいで二人の声はほとんど叫び声に近いものだった。

「20年かかっても調べきれてないのかよ!?じゃあここ創るのに一体何年掛かったってんだよ!?」

「そんなの知るわけないでしょ!専門の道具もないのに、しかも命懸けでよくここまで調べられた過去の人達がすごいのよ!この旧式のホバースクーターだってこの世界じゃ珍しい乗り物なんだからね!」

ゴーグルを付けた眼でしっかり前を見ながらユノが叫ぶ。

「さあ、見えたわ!」

目の前には高い防壁に覆われた大きな監視塔が見えた。門まで近づくと、二人の男が走って近寄ってきた。

「よう、ユノじゃねぇか!久しぶりだなぁ!」
「ユノ、お元気そうで何よりです。」
頭にバンダナを巻いた元気のいい男と、金髪の長い髪を後ろで綺麗にまとめ、眼鏡を掛けた白衣の男がユノに声をかける。二人とも背が高く、顔立ちも端正だ。

「サイ!ミシェル!久しぶり、半年前に別れて以来だね!」

ユノが笑顔で答える。サイと呼ばれたバンダナの男が後ろに乗っているザックに気が付く。

「お?そちらさんは?」
「都市部で出会ったの。この世界に来たばかりだけど、考えは私達と同じよ。」

サイは一瞬気の毒そうな顔をするが、すぐに笑顔になり挨拶した。
「オレの名はサイ。クラス《QUEEN》の人形使いだ!仲良くやろうぜ!」
「私はミシェル。クラス《JACK》の治癒能力者で、医療を担当しています。」
「ザック。影使いだ。よろしく。」

挨拶もそこそこに、サイはユノに報告へ行くように指示する。四人は監視塔のエレベーターから下に降りた。ちょうどその時、かなり遠くの方で地面が少し盛り上がったことに誰も気付かなかった。

手すりのみのエレベーターから外を見ると、そこには地上からは想像もできなかった広い空間があり、土が露出した壁面には無数の穴が空けられ、人々の様子からここは居住区であるとすぐに理解できた。地下だとは思えない程明るく照らされたその場所は活気に満ち溢れ、人々が笑顔で暮らしている。
(ここで生まれ育った者も少なくないだろうに。)
エレベーターから降りると、ザックは前を歩く三人に連れられて居住区の中を進んだ。最奥へ進み、看板に{司令室}と書かれたドアをユノがノックした。

「入れ。」

と言う声を聞いて四人は中に入る。部屋の中には様々な種類の銃が飾ってあり、まるで武器庫みたいだが、銃の他には椅子に座った筋肉質な大男が俯いているだけだった。ミシェルが扉を閉めると、男は顔を上げて言った。

「よう、ユノ。帰ったか。調子はどうだ?」
「これといって重要な情報は得られなかったわ。」
「そうか。で、そっちの小僧は何だ?」

男はザックに睨みをきかせる。ザックはその視線よりも小僧と言われたことが癇に障った。

「誰が小僧だ。これでも18歳だ、筋肉馬鹿。」
「ハン、オレから見ればまだまだ尻から蒙古斑が消えねえクソガキだぜ。」

その場の空気が一瞬で凍り付く。

「こ、この人はザックっていって、一緒に魔鬼と戦ってくれたの!意志は私達と同じよ!」
「影使いなんだってさ!」

慌ててユノとサイが説明する。
二人は少しの間睨み合っていたが、男が少し笑って言った。

「OK、オレぁ元軍人でよ。これがオレら流の挨拶なんだ。」

(ただケンカ売ってただけじゃあ・・・。)
と思ったがミシェルは口には出さなかった。
男は続ける。

「オレはレイモンド。一応この地下組織ダラムのリーダーだ。オレ達は皆殺し合わずして生き残る道を選んだ。弱者の為に居住区を設け、ゲームが終了する日を信じて待ち続けている。お前も同じ意志を持つなら我らの同士だ。よろしくな。」

「・・・あぁ、よろしく。」

ザックはレイモンドから差し出された手を握る。

「それからユノ、こっちは色々な情報が手に入ったぞ。どうやらオレ達の読み通りこのゲームを企画したのは《M・イリュージョン{マテリアル・イリュージョン}社》らしい。」

「な、何だと!?」

ザックはその意外な会社名を聞いて驚いた。
M・イリュージョン社は20年程前にワープ航行技術を全世界に発表したのを皮切りに急激な成長を遂げ、現在ではDNA研究もかなり進んでいる元の世界では間違いなくNO.1のシェアを誇る大企業だ。
しかしなぜそんな大企業が?
ザックの疑問を察知したのか、レイモンドが説明を続ける。

「この企業が何の為にこのゲームを仕掛けたのかはわからん。ただ、この世界は何故か最新のワープ航行技術が使われていたから怪しいとは思っていた。」

ザックはこの世界の入り口でもあった《カードの海に溺れるピエロ》の絵を思い出した。

「でもその仮説が何故真実だと思うようになったの?」

黙って話を聞いていたユノが問うと、サイが

「捕らえた《Z・E》の奴が喋ったんだ!」
と元気よく言う。

「そう。オレ達の敵である殺人・拉致部隊《Z・E{ジオ・エンプレス}隊》のメンバーで、五年前から捕らえていた男が自身の解放を条件にやっと吐いたんだ。
さらにこれでZ・E隊はイリュージョン社の私設部隊である可能性も浮かんできたわけだ。」

(企画者の私設部隊ということはこのゲームの世界と元の世界を自由に行き来しているんじゃ・・・。)
ザックより先にユノが反応する。

「じゃあ・・・!」
「ああ、元の世界に帰れるかもしれない。」

一筋の光が見えた瞬間だった。

〈ドドオォォォン!〉
突然の爆発と振動。
サイが部屋の外に出る。

「敵襲か!?」
「サイさん!魔鬼の大群です!住民は現在避難区画へ移動中です!」

そうか。ここで生まれ育った者はカードを持っていないし、老人や女性もほとんど能力が低くなっている。戦えるのは自分達だけだ。そしてレイモンドが指示を出す。

「戦闘員の三分の一は避難の援助に回れ!残りは全員地上の魔鬼を撃破しろ!いいか!一匹も中に入れるんじゃねぇぞ!!」



地上には無数の鳥型と蟲型の魔鬼が基地を空と地上から攻撃していた。それを監視塔から狙撃する者、地上で格闘する者、飛んでくる火球を防御する者、皆能力を発揮して戦う中で敵を圧倒する集団がいた。

「いくぜぇ!牙陰{ガイン}、陽斬{ヨウザン}!!」

サイは両手についた指輪を動かして黒と赤の傀儡{くぐつ}を操る。
黒の傀儡《牙陰》の両手から出たヒートブレードで魔鬼を切り裂き、口から出す高エネルギーのレーザーで焼き殺していく。
そして赤の傀儡《陽斬》はエネルギーシールドを張り、サイと牙陰への攻撃を全て防いでいた。

「こいつらはデモン型より戦闘力は低い!臆するな!!」
レイモンドがグローブをはめた手で地面に触れると地面は一気に膨れ上がり巨大な大砲が現われた。
「くらいな化け物!!」
同じようにして精製したロケットやミサイルを撃ちまくる。

「ラージ・エクスプロード!!」
〈ズドォォォン!〉
ユノはガス噴射能力のカードを併用し、周辺に大爆発を起こす。

「せぃ!」
ザックは影で構成された刀を鞭のように振り回し、魔鬼を切り刻んでいった。



「よし、片付いたか。ミシェル!死傷者の数と被害状況を報告しろ!」
レイモンドが息を切らしながら叫ぶ。

「死者三名、重傷者十五名、軽傷者は全て治癒完了、被害状況は防壁のダメージが40パーセントにのぼっています!」
一体何人を治癒したのだろうか、ミシェルの顔には疲労の色が見られる。
被害は想像以上に甚大だった。しかしこれだけの魔鬼の大群は珍しいのだという。
負傷者を基地内に搬送する中、遠空から一台の輸送ヘリが近づいて来る。

「なんだありゃ!?この世界にヘリなんてあるはずが・・・」
「大変です!あのヘリにはZ・E隊のエンブレムが付いています!!」

異常な光景に目を丸くするレイモンドだったが、監視塔の狙撃兵の言葉に顔を青くした。

「ええぃ!このクソ忙しい時に厄介な連中が現れやがった!!総員戦闘配置に着け!負傷者の搬入急げ!・・・って、動けるのはオレ達だけか?」

搬入を手伝う者以外で残ったのはレイモンド、サイ、ユノ、ザックの四人だけだった。



「魔鬼の大群の襲撃でボロボロだな。こっちの狙い通りだ。」

ヘリの中で話す男、ランク《ACE》のスティングは笑みを浮かべた。

「行くぞ!」



「ヘリから飛び降りて来たぞ!」
「攻撃しましょう!」

サイが指を差す方向にはホバーボードに乗って猛スピードでこちらに向かってくる三人の男がいた。

「くらえ!」

レイモンドがミサイルを連射するが、三人は流れるようにかわす。

「オレがあの四人を引き受ける。そのうちにお前達は防壁を破壊するんだ。」

スティングは部下二人に指示を出し、さらに加速して四人へ突撃する。隊員はロケットランチャーを発射して防壁を攻撃した。

「させるかぁ!」
「おう!」

レイモンドはミサイルを隊員に向けて発射し、ザックも影の刄を出そうと構える。しかし、

「君達の相手はオレだ!」

スティングの持った刀がミサイルを全て切断し、刀を構えたザックに高速のボードの勢いに乗った蹴りをだす。ザックは防御したものの、後方へ吹き飛ばされた。

「弱ったところに奇襲とは、やることが汚いじゃん?」
「策士・・・と言ってほしいねぇ。」

牙陰の胸からのバルカンを空中で旋回しながら避ける。
そのうちに隊員達から発射されたロケットによって防壁が崩れていく。

「みんな伏せて!」
ユノが突然叫ぶ。皆が伏せた瞬間
〈ズドォォォォ!〉
ユノの正面一帯が大爆発を起こした。
ユノは荒野の風を利用して風下に位置する隊員達に向かって大量のガスを放出し続けていたのだ。
一人は爆発で死亡し、もう一人は爆風でボードから落とされたところをレイモンドの大砲に仕留められた。スティングも意外な攻撃でバランスを崩したところを牙陰にボードを破壊されていた。

「諦めるんだな。」

レイモンドはスティングの額に精製したマシンガンの銃口を押しつけて言った。しかしスティングは顔色一つ変えない。

「それは火器精製能力だね?なかなか珍しい。しかしいくら強力な武器があっても当たらなければ意味はないよ。」
「ほう、この距離でどう外すんだ?」

スティングは笑う。

「ハハハ、君達はわかっていない。あのホバーボードは君達へのハンデだったという事を。」
「何!どういう事だ!?」
みんな額に銃口を押しつけられた男の余裕の発言に疑問を抱いていた。

「こういう事さ!」

そう言い終えるか終えないかのうちに
「!!?」
突然四人の体が宙に浮き、そして吹き飛んだ。

「また機会があればお会いしましょ。」

どこからかそんな言葉が聞こえてきた。
四人はしばし茫然としていたが、腹部に激痛が走ったので見てみると、全員の腹には五発ずつあざが残っていた。












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