TURN19〜最強崩壊〜
影の鎧を纏ったザックがジークフェルドへ斬り掛かる。それを援護するようにレイモンドが大砲を撃つ。龍怒の動きを止めるためにユノとライアが同時にグラウンド・ボムで龍怒の足元を爆破した。
バランスを崩した龍怒に威力を強化した砲弾が直撃し、鞭のように伸びた影刀とザックの鎧から放たれた無数の影の矢が襲った。
壮絶な連続攻撃で龍怒の周囲が煙に包まれる。次の瞬間、煙の中から多数の太い光の矢が飛び出してきた。その中の一本がレイモンドの投げ捨てた大砲に当たり、大砲が赤色に輝きながらドロドロに融解する。
龍怒は無傷だった。
「メーヴェの圧力にも、アウスの獄炎にも耐える装甲だ。君達では私を殺せない。」
ジークフェルドはそう言うと龍怒のスラスターを全開にして突撃してくる。速さは虎駝の比ではない。が、
「スティングよりかなり遅いな。」
ザックは自分の影のなかに腕を沈めた。龍怒の影が機体を包み込み、動きを止めようとする。しかし龍怒のパワーが影を剥がしてそれを拒む。それでも動きが鈍くなったところを一本のレーザーが襲った。ジークフェルドはスラスターで横に回避するも左腕の装甲をレーザーが擦り、熱で少し赤くなった。
「エネルギー兵器ってのはあんまり好きじゃねぇんだがな。」
遠くで精製した超高収縮レーザーライフルを持ったレイモンドがさらに三発発射する。
命中率を上げる為にザックが《影縛り》をし、ユノとライアがグラウンド・ボムを連発した。高速で回避した龍怒だったが、さすがに三人の援護に再び動きが鈍り今度は脚部に二発直撃した。しかし、龍怒の驚異の冷却性能でほとんど無傷だった。
「性能に頼ってばっかりじゃないの。」
「ランスの方が百倍操縦が上手いわよ。」
ユノとライアの冷やかしにジークフェルドが笑顔で答える。
「ん〜・・・、ランス?あぁ、虎駝隊の隊長か。残念だったよね部隊壊滅しちゃって。無線で最後の隊員達のあの悲鳴聞こえなかったのかなぁ?エンドオブワールドのレーザーが直撃しなくて、機体の熱上昇で時間をかけて死んでいった隊員達の悲鳴。ゆっくり、じっくり、こんがりと♪フフフ・・・」
〈ギギギギィン!〉
影刀が装甲に弾かれる。
「やはり貴様を生かしておけない。貴様はクズ以下だ。ジークフェルド!」
「フフ、だから君達が私を殺すに値するなら殺されても良いって言ってるじゃないか。ほら、せっかく私達を引き離したのに。見てごらんよ。」
ザックが後ろを振り向くとエンドオブワールドがアウス達と戦いながらこちらへ近づいてきていた。
〈ガシュン〉
ジークフェルドはザックが後ろを向いた隙に口、両肩、腹部のレンズを出して一斉にレーザーを発射した。
四本のレーザーが貫通したザックだが、すぐに影となって消えた。
それを見たジークフェルドがスラスターで後退しようとするが、龍怒の影に入り込んだザックが全力で動きを止める。
動きが止まった龍怒の左腕にレイモンドが高収縮レーザーを連射した。普通のレーザーと違い、熱上昇効果を高めたレイモンドの攻撃を何発もくらった龍怒の左腕は冷却が追い付かず、ついに融解した。さらに融解した隙間にユノとライアが戈を突き刺した。戈を引き抜いたユノとライアは急いでその場を離れる。次の瞬間
〈ズガァァァァン!〉
時間差での大爆発に龍怒が吹き飛んだ。隣には左腕が転がっていた。
「ば、馬鹿な!ろ、龍怒が・・・最強の機体が・・・。」
龍怒が左肩から下の部分に火花を散らしながら起き上がる。悔しそうなジークフェルドだったが、その顔はすぐに余裕の表情に変わった。
「よし、殺れ!エンドオブワールド!!」
ザックが後ろを向いたのとエンドオブワールドの口から巨大なレーザーが放たれたのはほぼ同時だった。
(まずい・・・!)
その時目の前に一つの赤い影が飛び込んできた。
「よ、陽斬・・・!」
もてる最大のエネルギーで作り出したシールドを張った赤の大傀儡《陽斬》はザックの前に立ち、かろうじてエンドオブワールドのレーザーを防いでいる。サイが叫ぶ。
「早く逃げろザック!!陽斬がもたねぇ!!!」
ザックは影の中に沈み、サイの影まで移動した。その瞬間シールドは割れ、陽斬は灰と化した。
「すまない、サイ。陽斬のおかげで助かった。」
「ああ。陽斬がやられたか。また精製しなおさなきゃな・・・。時間がかかるんだよなぁアレ」
サイは少し苦笑いした。陽斬は傀儡だが、サイにとっては今までずっと共に戦ってきた仲間であり、友でもあった。精製しなおせばまた陽斬は造り出せる。だがそれはいままでの陽斬ではないのだ。数々の魔鬼や、スティングやキメラ、虎駝と戦ってきた証の傷は新しい陽斬にはもう無いのだ。サイは少し悲しそうな顔をしていた。
「しまったな。せっかく分断させたのに。」
「だがザック達は龍怒の左腕をもぎ取ったみたいだぞ。」
スティングとランスはエンドオブワールドの弱点を探しながら攻撃を加える。攻撃をしてもあまり効果は無いのだが、これはアウスの指示だった。アウスは攻撃の手を止め、何故かエンドオブワールドをじっと見ていた。
ジンとアンカーはメーヴェの前に立ち、エンドオブワールドから放たれる火球を防いでいる。
「おい、なにやってんだよアウス!」
「こいつの火球は威力が高い!オレ達でも長くは防げないぞ!!」
実際ジンとアンカーにはダメージが蓄積していた。
だがアウスは尚も動こうとはしない。
ザック達はエンドオブワールドが現われたことでジークフェルドに近づきにくくなっていた。近づこうとすればエンドオブワールドからレーザーが放たれる。龍怒の攻撃も避けなければならない。ザックはアウス達がエンドオブワールドを倒すと信じて龍怒から距離をとっていた。レイモンドもレーザーライフルを撃っても足止めするザック達が動けない状況の為に全て回避されていた。
「きっとあそこなら・・・」
ランスは狙いを定めてエンドオブワールドの仮面から覗く二つの青い瞳に向けてレーザーマシンガンを連射した。
〈ギャァァァァァ〉
予想通りエンドオブワールドの両目は潰れ、叫び声をあげ、怒り狂う。
だが様子が変だ。
〈パキィン!〉
所々にはめられた制御リングが壊れていく。エンドオブワールドは完全に暴走した。
〈オォォォァァァァ!〉
エンドオブワールドが空中で両手を広げた。胸の前に黒い球体が現われ、どんどん大きくなる。そのエネルギーの収縮は異常で、周囲の時空が歪み始めていた。ついにエンドオブワールドより巨大になる。これがこの人工魔鬼の名前の由来にもなったイリュージョン社の科学者達が最も恐れていた、世界を終わらせると言われる高エネルギー攻撃
《doomsday{最終審判}》だった。
「何かヤバそうだぞランス。」
「アウス!どうする!?あの黒い球体、エネルギーが半端じゃない!!今までの攻撃とはスケールが違う!」
「・・・そろそろだな。ジン、アンカー、頼むぞ。」
ジンとアンカーは理解できなかったが、アウスが静かに動きだした。メーヴェもわけが分からなかったが、靴から感じる地面が暖かいことに気付いた。
スティングとランスも様子が変だということに気付いて攻撃を止める。
〈ドスン〉
アウスが地面を強く踏んだ。すると
〈バシュウゥゥゥ〉
エンドオブワールドの真下から巨大な噴水のようにマグマが高く吹き出す。マグマがエンドオブワールドを包み込んだ。そしてアウスが吹き出すマグマに腕を沈めて叫んだ。
「絶・対・零・度!!」
その瞬間マグマの噴水を全身に浴びていた、手を広げたままのエンドオブワールドもろとも吹き出したマグマが全て凍結した。doomsdayも消え、それは自然界では全くありえない巨大なオブジェと化した。
「な・・・何ぃ!!?」
ジークフェルドが焦りの声を出す。
「ナルホド、そういうことね!」
「じゃあ思いっきりぶっ壊してやろうぜ!」ジンとアンカーが黒い虎駝に捕まれてエンドオブワールドへ投げられた。
「全身堅固にして攻守最強・・・。」
「是我らが剛闘術最強奥義・・・。」
二人の身体が鉛色に変わり、さらに金剛色に変わった。
「やめろおぉぉぉぉ!」
ジークフェルドは悲痛な叫び声をあげた。
『《伐折羅金剛杵{バサラコンゴウショ}!!!!》』
二人が全力で放った最上級硬度の掌底は凍結して脆くなったエンドオブワールドを装甲ごと粉砕した。
〈バキィィィン!!!〉
超低温岩のオブジェが音を立てて崩れていく。
《世界を終わらせる》と言われた究極の邪神は、《世界を守る結束》という究極の連携の前に脆く崩れ落ちたのだった。
アウスはスティングとランスにエンドオブワールドを引き付けてもらっている間に地上からテラの地下の浅い部分のマグマを探していたのだ。そしてそれを見つけたアウスは炎の化身となった自分の身体を通してマグマを反応させ、強制的に地上へ吹き出させた。さらに高温のマグマを浴びたエンドオブワールドを瞬時に凍結させることで装甲も皮膚も脆くしていたのだった。
「何故だ!!?エンドオブワールド!!お前は究極の兵器ではなかったのか!!?何故そんなに脆く砕け散る!!」
左腕から火花を散らす龍怒の中でジークフェルドが悲痛な叫び声をあげ続ける。
エンドオブワールドが倒され、龍怒の戦闘力も激減した今、ジークフェルドの計画は失敗して、誰もが勝利を確信した。
だが異変は起こった。
『やれやれ、君だけ回収が遅いから来てみれば・・・。もう負けそうじゃないか。』
「!!」
全員が声のする上空を見上げる。そこには
「龍怒・・・だと?」
開いたワープゲートの前に金色の龍怒が浮いている。しかもその後ろにはジークフェルドと同じ銀色の龍怒がさらに三体浮いていた。その四体が地上へ降りる。
『全く、君にはがっかりさせられたよジークフェルド。君が先代社長の息子で、人一倍ズル賢い性格だからこそイリュージョン社を任せ、しかも君が私達の中で一番弱いから人工魔鬼まで預けたというのに・・・。何だいこの様は?』
「・・・申し訳ありません。」
ジークフェルドが金色の機体に乗る男に謝る。
『それから・・・』
金色のヘルメットを被った男はコクピットから降りるとザック達の方を見て信じられない言葉を発した。
「やあ、元気だったかい?みんな。」
そして男はヘルメットを外した。
「嘘だ・・・。」
ザック達は目を疑った。こんな場所にいるはずのない男が何故?いつも優しさが溢れ出ていた男。いつも皆を心配し、気遣ってくれた男。真面目で誠実で・・・ずば抜けた治癒力を持つ男。
「ミシェル・・・?」
金髪のロングヘアーを綺麗に後ろでまとめた眼鏡の青年がザック達の目の前で笑って立っていた。
「お前、こんな所で何してる?」
やっとのことで口を開いたレイモンドがダラム基地で皆の帰りを待っているはずの男に聞く。
「何って・・・テラの新資源の回収ですよ、レイモンド。」
ミシェルが軽く答える。全員は状況を理解できていなかった。何かに気付いたメーヴェが恐る恐る尋ねる。
「まさかあなたが・・・天才科学者の・・・。」
ミシェルが笑顔で答えた。
「はい、私がイリュージョン社科学研究所所長《ミシェル・B・クラウン》です。テラ調査部隊の生き残りでもあります。」
全員がその答えに驚愕した。この男が全ての元凶?しかしミシェルはずっとダラムにいたはず・・・自分達と。それに年令が違いすぎる。たしかテラの調査は20年前の話だ。
「今のイリュージョン社の技術なら若返ることなんて造作も・・・」
「んなことはどうでもいい!問題はミシェル、てめぇがオレ達を騙してたってことだ!」メーヴェの言葉を遮るようにレイモンドが怒りの声を出す。
「フフフ、CROWNは実に良い隠れ家でしたよ。イリュージョン社やテラの新資源の方はジークフェルドに一任していましたから。その間に私は他の異世界を研究することができましたし。その時にあなた達に出会ったんですよね、その時はよもやあなた達が私の計画の障害になろうとは思いもよらなかったですけど。」
「て、てめぇ!!!」
「落ち着けレイモンド!・・・一つ聞くミシェル。お前の話だと他の異世界にもまだ新資源があるような言い分だが、お前は新資源を手に入れて一体何をするつもりだ?」
驚いた顔でミシェルはザックを見る。
「良い予想ですザック。いいでしょう、お話しましょう。あなたの予想通りテラの他にある四つの異世界にはそれぞれ違った新資源があります。いや、ありました。それら全てはこのジークフェルドがモタモタしている間に私達が回収してしまいましたから。つまり、今ジークフェルドが持っている新資源が最後の一つなんですよ。
そして私がそれら全てを手に入れる目的は侵略でも支配でもありません。
それは・・・」
全員の意識がミシェルへ集中する。そしてミシェルは静かに口を開いた。
「・・・宇宙を消滅させるのです。」 |