TURN18〜因果〜
〈ゴゴゴゴゴ・・・〉
要塞戦艦ARISは彼女の持てる最大の速さでテラの白い地面を疾走していた。
彼女の巨大な脚は地面の水晶を粉砕していく。眼前にそびえ立つ岩があれば彼女の放つ青色の涙がそれを蒸発させた。
目標は新資源、そしてジークフェルドとエンドオブワールドの撃破だ。
エンドオブワールドに葬られたあの巨大なイカ型魔鬼がここら一帯のボスだったこともあり、今のところ魔鬼には一体も出くわしていない。
ARISの中ではザックが兵士と一緒にレーダーを見ている。ARISが発進してから一時間、新資源の反応が近くなって来ていた。
「ザックさん、そろそろです。」
「ジークフェルドと人工魔鬼は?」
「新資源の近くに反応があります。おそらく社長かと。」
ザックはARISを停止させるように指示する。ジークフェルドと人工魔鬼との戦闘が起こればARISに被害が出る可能性があるからだ。
ザックは艦内放送用のマイクで仲間に知らせる。
『ザックだ。みんな聞いてくれ、新資源の反応が近くなった。ARISへの被害を避けるためにもここで停止して歩いて向かおうと思う。
ジークフェルドや人工魔鬼と戦闘を行うことになる。兵士達はARISで待機。能力者は全員搬出ドックへ集合してくれ。』
搬出ドックに能力者全員が集合する。その中に虎駝隊のランス、ハル、アルマの姿もあった。後ろには黒い虎駝と二機の赤い虎駝がある。
アウスが全員の前に出て仮面を外す。
「みんな、新資源をジークフェルドに渡してはいけない。仮に奴が本当に世界を、いや全異世界を支配するつもりなら我々がここで阻止しなければならない。だが、無理して死に急ぐな。我々には何の因果か、こうやって仲間ができた。頼っていい。助け合おう。」
アウスの正直な気持ちを感じ取った全員がうなずく。搬出ドックのハッチが開き始めた。
黒いヘルメットを被った虎駝隊隊長ランスがハルとアルマに向き直る。そして
「お前達は残れ。」
その突然の言葉に二人の少女は動揺と疑問を隠しきれない。
「何故です隊長!?」
「私たちも一緒に戦います!」
二人が抗議する。が、ランスは冷たく言い放つ。
「お前達はもしもの時の為にここに残ってARISを護衛するんだ。」
納得のいかない二人はさらに抗議する。
「私イヤです隊長!!」
「隊長と一緒がいいです!!」
「これは隊長命令だ。」
ランスが言うが、ふたりは聞き入れようとしない。声はほとんど泣き声に近くなっていた。
「やだよぉ、隊長・・・。」
「私たちも・・・」
「いつまでも甘えるんじゃない!!いいか、社長や人工魔鬼を撃破してもこのARISが破壊されたら全員帰ることができなくなってしまうんだぞ!!キメラ軍が全滅し、虎駝隊も壊滅した今、ここを守ることができるのはお前達だけだ。俺は隊長としてケジメをつけに行く。
・・・俺は大丈夫だ、必ず帰ってくる。言ったろ?この作戦が終わったらどこかの島で三人で暮らそうって。な?」
そう言って二人の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
今回の戦闘は危険すぎる。まだ未来明るいこの少女達をどうしてそんな所へ連れて行けるだろうか。
「ぅ、ぅ、絶対・・・だよ、ランス隊長。」
「必ず帰って来てね。約束だからね!」
「ああ。約束だ。」
ランスは笑顔で二人とゆびきりを交わすと黒い虎駝に乗り込んだ。
三人を見ていたザック達は微笑みを浮かべながら先に外へ出ていった。
「時間をとらせてしまってすまなかったな。俺は虎駝で先に偵察に行ってくる。」
「俺も行くよ。」
そう言うと黒い虎駝とスティングは凄まじい速さで新資源の方へ向かって走る。
ザック達も走り出した。ザックは一度だけ後ろを振り返ってみた。そこにはARISの上へスラスターで昇っていく二機の赤い虎駝がいた。
〈ギュィィィィ・・・〉
〈スタタタタタ・・・〉
「速いな。それが君の能力かい?」
コクピットの中から隣で走るスティングを見てランスは言った。スラスター全開の虎駝は相当の速さの筈だが、それに脚でついてくるなんて。
「オレの能力は音速移動!まだまだ速く動けるぜ?」
そう言うとスティングは一瞬で虎駝の隣から正面へ移動し、反対側の隣へ移動する。これにはランスも驚いた。
「ヒュゥ♪すげぇな。そんな能力があれば敵無しだろ。」
「そうでもないさ。これだけ速いと反応しきれない時もある。・・・それに・・・動きを止められたら終わりだしな。例えば・・・張り巡らされた繊維とか、罠とかで・・・。」
スティングはサイと戦った時の事を思い出して苦笑いになった。
「あれを見ろ、エンドオブワールドだ。」
ランスとスティングは岩影に隠れる。そこには大きなほこらがあり、洞窟の外で巨大な人型究極魔鬼エンドオブワールドが立っていた。
「おいおい、究極破壊兵器を外に放置かよ。」
そこにジークフェルドの乗る龍怒{ロンド}の姿は無い。おそらくほこらの中にある新資源を取りに行っているのだろう。
エンドオブワールドとジークフェルドを同時に相手するよりも、分断させた方が良いと考えた二人はエンドオブワールドをザック達の所まで引き離す作戦にでた。
幸い二人には高速移動ができるという共通の利点がある。
まずはランスがレーザーマシンガンを撃ちながら岩影からスラスターで横に移動しながら飛び出した。それに気付いたエンドオブワールドが手のひらから火球を出そうとする。しかし、瞬時にエンドオブワールドの目の前に移動したスティングが喉に数十発の音速打撃を加え、刀を一本突き刺す。皮膚が堅いせいか、深くまでは刺さらなかったがエンドオブワールドを怒らせるには十分だった。
〈オオォォォォォ!!〉
怒りの声をあげるエンドオブワールドから二人が逃げる。エンドオブワールドは巨大な翼をはばたかせて飛びあがり、二人を追った。
「何故こんなところにほこらが。まさか父さん達が?」
ほこらの中を進むジークフェルドは先程からこの人為的に造られたようなほこらに疑問を抱いていた。
大きな洞窟の中はたくさんの水晶が自ら光を放っていて綺麗だった。
すると壁から龍怒に向かって奇妙なクラゲのような生物が飛び出してきた。ジークフェルドは軽く龍怒の腕を振ってそれを粉砕すると小さく溜め息を吐いた。
「またか。いつになったら新資源に辿り着くのだ?ここはもう反応地点だぞ?」
さっきから変な生物が飛び出してくるばかりで新資源は全く見当たらない。ジークフェルドは苛立っていた。
しかし、生物が飛び出してきた穴を見たジークフェルドは呆然とした。
「まさか・・・!」
〈ビシュン!〉
「おわっ!危ねぇ!」
「ほらこっちだデカブツ!」
スティングはレーザーを避け、ランスはレーザーマシンガンを撃ちながら全速力で逃げ回っていた。ランスは逃げながらも頭部、腕部、脚部とあらゆる場所を狙ったが、全て装甲に弾かれた。
突然ランスは方向転換してスラスターでバックしながらエンドオブワールドに向いて狙いを定める。
〈ビシュ!ビシュ!ビシュ!〉
ランスの放った三発のレーザーがエンドオブワールドの首、肩、翼の付け根と、装甲の無い隙間に当たる。だが、堅い皮膚には大したダメージは与えられていない。
「ふむ。だめか。」「のんきなこと言ってる場合か!オレ達だけじゃこいつには勝てない!」
スティングが必死にレーザーを躱しながら叫ぶ。ランスは舌打ちすると再びスラスター全開で逃げる。
すると、スティングが前を見て明るい顔になった。
「ザック達だ!」
アウスは小声で隣で走るメーヴェに言う。
「・・・メーヴェ、あなたもARISに残った方が良かったのでは?」
「・・・何故?」「長くあなたと共にいた私の目は誤魔化せません。
あなたはおそらくあと数回能力を使えば動くこともできなくなる。下手をすると命を落としかねない。違いますか?」
メーヴェはしばらく黙って走っていた。が、ついに諦めたのか口を開いた。
「ええ、そうよ。自分でも大分前から気付いてたわ。でもアウス、あなたの読みには一つ誤りがある。
あと数回ではなく、今生きていることがもう奇跡なの。しかもまだ普通に動けているわ。」
それを聞いたアウスは仮面の下で唇を噛んだ。なら尚更のこと彼女に無理はさせられない。メーヴェがクスクス笑う。
「これは神様がくれた時間なのかもしれないわね。もしくはキメラとなった人々への罪滅ぼしをさせる為かしら?」
「・・・あなたは死なせません。私が守ります。今までのように。そしてこれから先も、ずっと。」
明るく笑いながら話していたメーヴェはアウスの言葉にメーヴェは驚き、少し頬を赤らめた。ザックに言われた言葉が頭に浮かぶ。
『あまり無理するな。』
フフ、たまには頼ろう・・・かな?
二人の少し前を走っていたサイが宙を見上げる。
「神様がくれた時間・・・か。野暮な事聞いちまったな。」
その時ザックが
「おいみんな!スティングとランスがいたぞ・・・・・・って・・・何連れてきてるんだよあいつら!!」
スティングとランスの後ろには巨大なエンドオブワールドが後を追ってきていた。
「ザック、ここは大丈夫だ。どうやらジークフェルドがいないということは、これはスティング達の分断作戦だ。ここは私たちで抑える。貴様等は新資源を頼む!!」
「アウス、頼んだぞ。」
ザック、レイモンド、ユノ、ライアはエンドオブワールドがスティング達に気をとられているうちに下をくぐり抜けようとする。
しかし四人に気付いたエンドオブワールドは口にエネルギーを溜めだした。
〈キュィィィィ・・・〉
〈ドガァ!〉
炎の化身となったアウスが火球をエンドオブワールドの口にぶつける。
動きが止まった隙に四人はエンドオブワールドの下をくぐり抜けた。
尚も追い掛けようとするエンドオブワールドの脚に何千本もの強化繊維が束になったワイヤーが巻き付く。地中からワイヤーを出した邪混沌が姿を現わす。
「貴様はザックと行かないのか?」
残ったサイを巨大化したアウスが見下ろす。
「神様がくれた時間は大切にしなきゃ!だろ?」
サイが笑みを浮かべてメーヴェを見た。
「サイ、貴様・・・。」
「聞いていたのね。」
アウスとメーヴェは顔を見合わせた。ニコニコ笑うサイを見た二人は参ったという顔で笑った。
〈ビシュン〉
「おっと!どうでもいいが・・・」
「そろそろ手伝ってくれないか?」
エンドオブワールドの攻撃を避け続けていたランスとスティングが助けを求めた。
「これは・・・まさか」
ジークフェルドは龍怒で洞窟の壁を掘る。
〈ガン〉
龍怒の爪が金属音をあげた。
「やはりか。ここは父さん達調査隊の船だ。ならば話は早い。」
ジークフェルドは龍怒のコンピュータで本社にアクセスし、20年前の調査船の全体図を取り寄せた。自分が裏切っても利用できれば利用する。ジークフェルドはそういう男だった。
「そうか、ここより少し進んだ保管室だね。父さん達あとちょっとだったんだな。」
おそらくはあのクラゲのような魔鬼にやられてしまったのだろう。保管室はそれらの巣になっていた。
「こんなクズ共に父さんは殺されたのか!!」
ジークフェルドは全てを焼き払った。
そして焼け落ちた巣の奥には緑色の光を放つ立方体の鉱物がある。それは新資源だった。
「見つけたぞ。あとはこれを持ち帰るだけだ!フハハハハ!!」
龍怒の頭部を上に向ける。
〈ガシュン〉
口にあたる場所からレンズが現われた。
〈ヒィィィィィィン〉
「ジークフェルドはこの洞窟に入っていったのか。」
「私達も追いましょう!」
「! ちょっと待て!下がるんだ!」
中へ入ろうとしたザックとユノ、ライアをレイモンドが引き戻した瞬間
〈ビシュウ!!〉
極太の光の柱が地面から飛び出した。それは一瞬にして巨大な穴を作り出した。
「な!?何だ今のは?」
するとまだ熱で周りが赤くなっている穴から龍怒が現われた。
「ジークフェルド!」
「おや?君達か。丁度良い、君達が私を殺すことができるか確かめないとね。」 |