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『CROWN』
作:是音



TURN17〜人工魔鬼『END OF WORLD』〜


『ジークフェルド社長。エンドオブワールドの解凍作業が終了しました。いつでも出撃できます。』

「そうか!よし、出撃だ。」

無線を聞いたジークフェルドは笑い声をあげた。

「フフ、ハハハハハハ!!やっと!やっとだ!!アハハハハハハ!!!」



〈ゴゥン、ゴゥン、ゴゥン、ゴゥン・・・〉

「ジン、様子が変だ。」
「コンテナだな。」

「メーヴェ、あれはまさか・・・。」
「ええ。人工魔鬼を出撃させるつもりね。」

戦闘の手を止めて全員がARISの後ろに接続された巨大なコンテナの方を見る。
コンテナが開いていく。
仰向けになった人工魔鬼がついにその姿を現した。

「さあ起きろ、私の『END OF WORLD』!」

ジークフェルドの言葉に呼応するようにゆっくりと人工魔鬼は起き上がった。
大きさはイカ型程ではないが、十分に巨大で、人型だが天使のような白い大きな翼を持ち、頭部の上半分には仮面が取り付けられている。身体全体に甲冑の様な純白の装甲、そして腰に薄紫の布を纏っている。首と、両腕両手首、両足両足首、そして腰から生えた尻尾には金色の制御リングがはめられていた。神々しくもどこか恐怖を感じさせる威圧感、そして仮面の下から覗く青白い瞳。魔鬼ではなく、まるで巨人のような、まさに崇高な生物の象徴とも言える姿だ。
その姿を見た全員が言葉を失った。

しかし突然ジークフェルドが叫んだ。
「あの魔鬼を焼き払え!『END OF WORLD』!!!」


その言葉を聞いたエンドオブワールドが飛び上がる。そして口を大きく開けると、エネルギーを溜めはじめた。
〈ギィィィィィィィ・・・〉

それを見た黒い虎駝の隊長が、イカ型に応戦している虎駝隊の部下達へ通信で叫ぶ。

「全員避けろぉ!人工魔鬼はお前達ごと魔鬼を焼き払おうとしている!!早くそこを・・・」

その瞬間
〈ビシュン〉

・・・・・・。

一瞬の静寂の後

〈ズガァァァァァァァァァァァァ!!!!〉



巨大なイカ型魔鬼も、そして虎駝隊も・・・消えた。

跡には遠くまで深々とえぐれた地面が果てしなく続いているだけだった。
ボスを失った魔鬼の大群は逃げるように去っていった。


「素晴らしい!素晴らしいぞ『END OF WORLD』!ハハハハハハ!!」

ジークフェルドが龍怒{ロンド}の中で大笑いする。



「あ、あぁ・・・うぁ・・・!」
「うそ・・・み、みんな・・・!」

赤い虎駝に乗った少女達が目を見開いたまま涙を流す。

黒い虎駝に乗った隊長も目の前で起こった光景が信じられないのか、コクピットの中でただ呆然としている。

ザック達も呆然としていた。

「な、仲間ごと焼き払ったのか・・・!」

「ひ、ひでえ・・・!」

アウスが炎と化した身体の中で青く光る眼を滲ませる。

「ジークフェルド!貴様ぁぁぁぁあああ!!!」

メーヴェも目から涙を溢れさせながら叫ぶ。

「ゆ、許さない!」

アウスがジークフェルドに向かって巨大な火玉を放ち、メーヴェは超圧力で機体を潰そうとする。

「フフフ、この機体はそんなにヤワじゃないよ。」

ジークフェルドは全ての攻撃を受け入れた。しかしジークフェルドの乗る機体《龍怒{ロンド}》にはアウスの、メーヴェの攻撃さえも効いていない。
力を出しすぎたメーヴェを発作の苦しみが襲う。
スティングが急いでメーヴェを抱えた。



ジークフェルドはレーダーの異変に気付いた。
「やれやれ、やっとおでましかい。」

ジークフェルドが空を見上げるとそこには五つのワープゲートが開いていた。
中から全身に包帯を巻かれ、手足から鎖を垂らした、以前ザックとアウスが倒したはずの試作型魔鬼が落ちてくる。しかも五体。
そして一斉にジークフェルドに向けて収束レーザーを放つ。

ジークフェルドの前に出たエンドオブワールドは静かに両手を前に出す。
〈ヴン〉

五体の試作型魔鬼の放ったレーザーはエンドオブワールドの前に張られた巨大なエネルギーシールドに全て消された。
それを見たジークフェルドが鼻で笑った。

「フン、くそジジイ共が。大方私を殺して軍隊とエンドオブワールド、新資源を横取りするつもりなんだろうが、考えが甘いんだよ!!殺れ、エンドオブワールド!!」

〈オォォォォォ・・・〉

エンドオブワールドがレーザーを放つ。そして一瞬にして五体の送り込まれた試作型魔鬼を蒸発させ、葬り去ってしまった。

「醜い試作型を何体送り込んでも、完成体に勝てるはずがないだろうに。」
そう言うとジークフェルドはザック達の方へ向く。

「さて。エンドオブワールドが目覚めた今、もう君達は必要なくなった。虎駝も。キメラも。ARISも。イリュージョン社もだ。
だが私は少し急いでいるんだ。だから今は君達を見逃してあげるよ。
ま、キメラ達は私が誘引自滅コードを与えれば勝手に死ぬだろうけどさ。」

ジークフェルドが方向を変える。それを見たアウスは何かを悟った。
「待てジークフェルド!どこへ行く!!」

それを無視してジークフェルドはエンドオブワールドと共に飛んで行ってしまった。


次々とキメラ達が倒れていく。おそらく誘引自滅コードというものの影響なのだろう。ザック達は何もできないまま黙ってキメラ達の最期を見届けた。


ARISの中へ戻ったザック達は、まず突然の事態に困惑している本社の兵士達に起こったことを全てを話した。兵士達は最初信じなかったが、ジークフェルドと人工魔鬼が消えたという事実が否定を拒んだ。
ARISがここにある今、ザック達は帰ることができる。だがこのままでいいのか?ジークフェルドをこのままにしておいてはいけない。

虎駝部隊の仲間が全員死んでしまったことに泣きじゃくる二人の少女を隊長は抱き寄せ、慰めた。

医務室では倒れたメーヴェに付き添うジンとアンカー、スティング、怒りで一杯のアウスがいる。ユノとライアはどこへ行ったかわからない。サイとレイモンドは兵士達と共にジークフェルドを追う計画をたてている。

そうだ。このままにしておいてはいけない。





ユノとライアはARISの甲板の上で座っていた。
二人共無言で惨劇の跡を見つめている。
ユノは考えていた。
こんなはずじゃなかったと。
私達は魔鬼の大群を撃破した後、ジークフェルドを倒し、そしてARISで元の世界に帰るつもりだった。帰った後もやらなければならないことがたくさんある。『CROWN』の人々を全て救出し、本当の自分達の世界へ連れていく。本社でキメラ達を元に戻す研究をさせる。そしてみんなでまた一緒に騒ぎながら暮らすんだ。
だが、その理想は崩れかけている。人工魔鬼を復活させたジークフェルドは虎駝隊の人達を殺し、キメラ達を殺し、あげく人工魔鬼を連れて飛んで行ってしまったのだ。
ユノは隣で遠くを見つめているライアを見た。

「ライア、あなたは何故いつも私と一緒にいてくれるの?何もないときも、戦うときも。」

ライアはユノの方へは向かず、しばらく遠くを見つめ続けていたが、ふと口を開いた。

「・・・うーん、私の方が歳が上だから、おこちゃまを守ってあげないとねっ。」

おこちゃまと言われたことにユノは顔をしかめる。

「何よそれ〜!」

隣で怒っているユノに顔を向けたライアは笑った。

「さ、そろそろ行きましょ。レイモンド達が作戦を立てているかも。」

そう言うとライアは立ち上がり、甲板を歩いていく。ユノも後に続いて立ち上がる。するとライアがユノに背中を向けたまま立ち止まっていた。

「ユノ・・・。全部が終わったら、私の話を聞いてくれる?」

「え?う、うん。」

ユノは意味がわからなかったが、いつも明るいライアが急に淋しそうな声で言ったので、少し動揺しながら返事した。






ユノ達が官制室に入ると、サイ、レイモンド、ザック、そして虎駝隊の三人、兵士達がいた。
モニターを見ながら何やら話し合っている。

「あぁユノ。ちょうど今新資源について話し合っていたところなんだ。」

レイモンドがユノとライアを呼ぶ。モニターにはジークフェルドが乗っていた《龍怒{ロンド}》という機体と、新資源と思われる立方体の鉱物が映し出されていた。虎駝隊の隊長が前に出る。

「やあ、なんだかんだで自己紹介がまだだったな。
俺は虎駝隊隊長のランス。そしてこの二人がハルとアルマだ。改めてよろしく。」

ランスと二人の少女が軽く挨拶をし、モニターへ向き直る。

「それで、今我々が話していたことなのだが。」

ランスがモニターの画面に触れる。
龍怒が拡大され、構造図が現れた。

「俺はまず、社長が唯一ワープゲート発生装置が備わっているこのARISを捨てたことに疑問を持った。社長の目的は新資源を見つけて持ちかえる事だからな。
そこで誰も知らなかった社長の機体の内部構造を本社から取り寄せて調べてみた。見てくれ。」

ランスが構造図をさらに拡大していく。すると、機体の胸部分にレンズがついている事がわかった。

「そう。社長の機体にもワープゲート発生装置が組み込まれていたんだ。
さらに調べると、この龍怒という機体は外観こそ虎駝に似ているが、性能が段違いだということがわかった。
独自に行動ができるように新資源の周波数を取り入れたレーダーが備わっていて、決戦用に造られた為に武装は強力なエネルギー兵器が多数。装甲はテラでしか手に入らない特殊な鉱物を取り込んだ合金。原動力のエネルギーは、なんと核だ。」

「最初から裏切って単独行動するつもりだったのか。一流企業の社長が考えそうなことだ。」

レイモンドが皮肉る。
ランスの説明に疑問を持ったザックがモニターを見ながら質問する。
「なあランス。ジークフェルドの奴がテラへ来たのは初めてなんだろう?なら何でテラでしか手に入らない鉱物が装甲に取り込んである?」

「そこなんだ。」
ランスがザックに指を差す。

「俺もそれを疑問に思って龍怒の製造年月日を調べてみた。すると・・・」

「20年前に造られた物だった。」
後ろからアウスの肩を借りて中に入ってきたメーヴェが答えた。後ろからスティング、ジン、アンカーも入ってくる。

「・・・その通りだ。」

「ザック、30年前に先代の社長がワープ航行システムの実験事故でこのテラを発見したことは以前話したわよね?この話には続きがあるの。
先代社長はテラを発見するのと同時に、他にも異世界があることも発見していたのよ。」


一同が驚愕する。異世界がテラだけじゃない?他にも存在するだと?

「これは社内の極少数の人間にしか知らされていないわ。そして先代社長はテラへ調査に出た。
当時はテラがどんな場所で、どんな生物が生息しているかもまだわかっていなかったの。だから調査部隊の武装は貧弱だった。
そして調査を進めていくうちに先代社長は魔鬼という超異常な生命体に出くわしたの。貧弱な武装ではデモン型にも苦戦し、調査部隊の大半を失いつつも先代社長はついに新資源を発見した。けれど持ち帰るまでには至らず、先代社長はテラで死亡。
残った調査部隊が必死な思いで持ち帰ったものが、特殊な鉱物と新資源のデータ、そして強大な生命体の情報だったのよ。」

全員がイリュージョン社の隠された過去に息を呑む。さらにメーヴェは続けた。
「その生き残った調査部隊の中に先代社長の右腕、今のイリュージョン社を支えてきたと言われている天才科学者がいた。
その男が持ち帰った鉱物を使ってその機体を造り出したのよ。先代社長の意志を継ぐ者の為に。」

「意志を継ぐ者。それがジークフェルドだったのか。で、その科学者はまだ本社にいるんだろ?もう結構な歳なんだろうが。」

ザックはメーヴェの話を聞きながらモニターに映し出されている機体を見つめて言った。

「その科学者は数年前に失踪してしまったの。彼が今どこにいるのかわからない。
・・・ちなみに《虎駝》や《ARIS》、『CROWN計画』や『DNA計画』、『人工魔鬼計画』を発案したのも彼よ。ジークフェルドの教育係もしていたそうよ。」

その場に静寂な時間が流れた。
ザックは全ての元凶は先代社長とその科学者なのだということを知り、自分達がその人物の手の上で転がされているような気がして不快だった。

レイモンドが話を切り出す。
「その科学者は後で考えるとして、突然現れたあの試作型魔鬼は何だ?あの様子じゃジークフェルドの味方とも思えねえ。」

「あれはイリュージョン社に投資している株主達が送り込んだものよ。彼等は自己中心的にしか物事を考えないから。きっとジークフェルドを始末して会社を独占するつもりだったんじゃないかしら?」

レイモンドはふぅんと納得した顔でうなずく。
今度はザックが質問する。
「他にも異世界があるということはわかった。ならそれとジークフェルドが新資源を手に入れようとするのは何か関係があるのか?アウスは私利私欲の為だろうと言っていたが。」

おもむろにユノが口を開いてつぶやく。
「全異世界を侵略・・・とか?」

メーヴェはそれはわからないといった表情を見せた。
「あまり考えたくないけど、もしかしたらそれも有り得るわね。」

どちらにしても、膨大なエネルギーを持つ新資源をジークフェルドに渡して良い事はない。全員の答えは一致した。

ザックは再びモニターを見つめながらつぶやいた。

「天才科学者・・・か。」












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