STORY:09 祠の前の攻防
カーゴブル以降は大した魔物もでず今日の旅は終了した。
まぁ、角の生えたカエルとか出て来たけど、吐く唾が強い酸っていうのが一撃目で分かったからそう苦戦もしなかったけどな。
泊まる場所が無いので野宿になったのは仕方が無い。既にこの世界での野宿も経験もしていたのでそう困る事は無かった。
でもちょっと体は洗いたいよねぇ。
「ってなワケで、河原にやってきましたー!」
安物番組のリポーターみたいだな。体を流したいって言ったら近くを流れる川を紹介してもらったんだ。水浴びしか出来ないけど、無いよりマシだ。
イリス姫との遭遇なんてフラグ立てなんてごめんだから、皆が寝静まった頃にやって来たんだけど、こっちの世界は余計な物が無くていいね。月灯りで十分見えるよ。水温はちょっとつめたいけど、浸かるわけじゃないからちょうどいいかな?
星空の下でぼんやりしていると、背後で落ち葉を踏む音が聞こえた。
「誰だ?」
とっさに構える。
「・・私です。」
現れたのはフィルさんだった。危ない危ない。服を着替えておいて良かった。
「どうかしたんですか?」
「ちょっとした散歩です。」
そう言うなりフィルさんは俺の横にちょこんと座り込んだ。む?これはフィルさんフラグが立つのか?
「今日は大変お疲れ様でした。ゼロ様がいなければ、カーゴブルにはかなり苦戦を強いられたでしょうね。」
「どうだろうね?実際、とどめを刺したのは俺だけど、近衛隊なら時間はかかるけど倒せてた様な気もするけどね。」
「謙遜なさらずに。今日の手柄はゼロ様ですよ!」
力無く笑う。何かむず痒い。褒められるとか慣れてないんだよな。
「そんな事よりさ、明日はいよいよ祠に着くらしいけど、祠には一体何があるんだ?式典の為に行くらしいけど?」
「祠には100年以上も消えていない、聖なる炎があると言われています。私も詳しくは知りませんが、そこで祈りを捧げ、火を持ち帰るのが姫様のお役目です。」
「火を持ち帰るのか。10年毎となると結構な量を持ち帰らなくちゃいけないのかな?」
「いえ、ランタン1つに収まる程度ですね。10年前にも姫様は炎を持ち帰っているので、多分同じ量の炎だと思います。」
「ランタン1つ分ねぇ・・」
ランタン1つの炎を10年持たせるというのは大変な仕事だな。城には炎の見張り番とかもいるんだろうか?
「あ、流れ星!」
言われて空を見上げると、一筋の線が空に軌跡を残していた。
「さて、そろそろ戻るとするか。」
暖かい時期とはいえ水浴びしたんだ。このまま長時間佇んでいると風邪をひいてしまう。
「そうですね。明日も早いですから。」
「明日はいよいよ祠だな。何も無ければいいんだけどな。」
「きっと大丈夫ですよ。ゼロ様が付いているんですから。」
「期待に応えられる様に頑張るさ。」
野営を行っている場所に戻り、篝火に当たりながら就寝した。火の暖かさは何とも言えない心地良さがあるね。
翌日、今日で祠に到着するという事もあって早朝から身仕度をし、日が昇り始める時間には出発していた。勿論俺は定位置に座っている。イリス姫も何も言わなくなった。やりやすくていいもんだ。
馬車が走る事数時間。山の麓へと辿り着いた。
「ここからは馬車が使えないので歩きになります。ここまでくれば後少しですしね。」
バナットさんがそう告げてくる。馬車の上、結構気に入ってたんだけどな。
イリス姫も馬車から降りて歩きだす。30分くらい登っただろうか、鳥居の様な門が見えて来た。
「あれが件の祠か?」
「そうです・・我が国の・・祭る・・炎龍姫様が祭られている・・祭壇が・・あります。」
見ると近衛隊以外の2人は慣れない山登りに苦戦しているようだ。特にイリス姫は近衛隊に肩を貸してもらっている。
それも仕方が無いかと思っていると、頭上から何かがやって来る気配がした。
「みんな!伏せろ!」
一斉に地面に伏せる面々。すると、そのすぐ上を大きな影が通り抜けた。
「キングバイパー!」誰かがそう叫んだ。
「キングバイパー?何だそりゃ?」
「この森の魔物の王です!その体に締め付けられると逃れる事は不可能、殆どの生き物を丸呑みにする大蛇です!」
バナットさんが律義に教えてくれる。要は森1番の大蛇ね、了解。流石に山道を登りながらの戦闘は不利か。こうなったら・・
「全員合図を出したら祠に向かって全速力で走れ!祠の手前で片付ける!・・今だ!走れ!」
合図を出すと一斉に走りだす。俺は戟を取り出し、殿を勤める為に1番後ろひ走る。時折振り返りキングバイパーに牽制する事も忘れない。
「うわぁっ!」
後数十メートルという所で1人の近衛兵が転んだ。
その瞬間を待っていたのかキングバイパーはその近衛兵に飛び付いた。
「うわっ、うわぁぁっ!」
バグゥゥッ
「振り向くな!走れ!祠まで全速力で走れっ!」
俺はキングバイパーの腹におもいっきり振り回した戟をぶつける。
ボゴォォッ
衝撃が吸収される様な感覚、鱗の下の体が柔らかいのか、あまり効果は無さそうだ。
「くそっ!」
キングバイパーは近衛兵を丸呑みにしている。助かる確率はかなり低いだろう。
「哺乳類舐めんなぁーー!!」
今度はキングバイパーの頭をおもいっきり叩き付ける。すると、今度は目標を俺と捕らえたのか、こちらを向いてチロチロと舌を舐め回しだした。
「いい度胸だ!かかってきやがれっ!」
戟を構え直し、キングバイパーに向き合う。先に動いたのはキングバイパーだった。
俺を締め付けようと体をうねらせ、巻き付いてくる。それを戟で弾き、戟の刃の部分で斬ろうとするが、硬い鱗に弾かれる。それを何度か繰り返すが一行に有効的な攻撃を繰り出せない。
ボンッ!
炎の魔術を繰り出してみたが、鱗には焦げ1つ見当たらない。もしかして、こいつも魔術が効かない種族か?
「くそっ!」
苦し紛れの突き技も鱗がいなす様に流し弾く。参った、攻撃手段が全く思い浮かばない。チロチロと舌を出していたキングバイパーが、今度は攻撃手段を変え、直接噛み付いて来た。
ドゴォォッ!
何とか避ける事が出来たが、俺の代わりにキングバイパーの牙の餌食になった地面が大きく凹んだ。
ドゴォォッ!
ドゴォォッ!
ドゴォォッ!
何度も連続して噛み付いて来るキングバイパー。そして嘲笑うかの様に舌を出す。その時、俺は1つの考えを思い付いた。
「・・嫌だなぁ、失敗したら自殺モンじゃねぇか。」
ドゴォォッ!
しかし他の手段が今の所見当たらない。
「・・くそっ!やってやるよ!かかって来やがれ蛇公!」
観念したと捉えたのか、一際大きな口を開いて俺を飲み込みにかかってくる。俺は避けるでもなく、大きくジャンプし、その口の中に飛び込んでいった。
「貫けぇぇぇっ!!」
肉に戟が突き刺さる感触はあった。後は貫通力だけである。肘を捻り手首を捻り、より深く、より奥まで突き刺さる様に戟を伸ばした。
ブシュゥゥゥゥッ
何とか戟の刃がキングバイパーの口の中を貫通した様だ。戟を伝って大量の血が腕に流れてくる。
「うわっ!」
途端に暴れ出すキングバイパー。食べたと思ったら、思わぬ激痛にビックリしたか?口の中から吐き出されるかの様に振りほどかれ、地面に着地する。
外に出てみて気付く。こいつの血液って紫色なんだな。
戟をくわえた様になってジタバタしているキングバイパー。今なら口が開いている。俺は再び戟を取り出すと開いた隙間を狙ってもう一度突撃した。
ブシュゥゥゥゥッ!
1度目よりも派手に鮮血が舞い、それを最後にキングバイパーは動かなくなり、ドスンッと地面に倒れた。
俺は飲み込まれた近衛兵の位置を腹の膨らみで調べる。場所が見付かると鱗の隙間から剣を突き刺し腹をかっ捌く。
兵士は出て来た。出ては来たが、全身の骨はボロボロに折れ、体も所々溶けて死んでいる。土を被せ、簡単にだが弔ってやり皆が待つ祠へと向かった。
「すまん、1人助けられなかった・・」
「な、何を言ってるんですか貴方はっ!」
何故か1番最初に怒ったのはイリス姫だった。
「こういう言い方をするのは嫌ですが、キングバイパー相手に1人の犠牲で済んだのです!大健闘ですよ!?あの兵士は残念でしたが、他の皆は無事に辿り着いたのです!これは貴方の功績ですよ!」
・・何かイリス姫の中での評価が上がってるな。旅に出発する時はあんなに毛嫌いしていたのに。
「さぁ!尊い犠牲を無駄にしない為にも、早く聖なる炎を持ち帰りましょう!」
「あ、あぁ。」
ちょっと毒気が抜かれたな。助けられなかった事で少し凹んでいたんだが・・まぁ、イリス姫の言う事も一理ある。仕事は仕事だ。せめて安らかに眠れる様に祈ってやろう。
墓を立てた場所を振り返ると小さく黙祷を捧げた。
「ゼロ様・・大丈夫ですか?」
フィルさんまで心配してくれている。
「大丈夫さ。さぁ、炎を取りに行こうか?」
済んでしまった事を反省するのは良い。しかし、同じ過ちを繰り返さない様に、より強くなろうと俺は心に決めた。
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