STORY:02 熊なんてだいっきらい
歩き始めて3時間くらいだろうか。いい加減足も疲れて来たし、腹も減ってきた。動く足を止めたいのだがそうは言ってられない。
「グルォォォォ」
そう、見た事も無いぐらいの大きな熊に追いかけられているのだ。誰だよ熊に遭遇したら死んだフリなんてデマを流したのは!俺を見つけるなり跳びかかってきたじゃねぇか!!
諸事情により、元の世界の普通の熊なら倒した事はあるんだが・・
こうなったら覚悟を決めるしか無いよね。踵を返し熊に向き直る。
「グルォォォォ!」
立ち上がった熊の姿を見るとやっぱり諦めたくなる。だって普通の熊じゃないんだもん。後ろ足と前足、顔付き。ここまでは普通。普通じゃないのはその大きさと前足の両肩から生えている5本目と6本目の足?手?これってかなり攻撃に幅を利かすんじゃないでしょうか?周りには影になりそうな木なんか1つも無い。ちょっと不利かな?
「グォォォ!」
立ち上がった熊は体長3メートル以上ありそうだ。4つの爪が上下左右バラバラに襲い掛かってくる。避けるだけでも結構しんどいが熊が数匹いると考えればまだ避けやすいか。交差して攻撃してくる熊のプーさん|(今命名)の手を掻い潜り、2本立ちしている両足におもいっきり蹴りとばす。1発じゃ効かないなら2発、3発と蹴りを同じ箇所に当て続けていく。
「グルルルル」
痛みが効いたのか2本足立ちだったのを止め4本足で立つ。それでも十分に大きいのだから困る。プーさんの顔の横から生えているような2本の手はこちらに向いてじっと構えている。これは下手に動けなくなったな・・
ジリジリと距離を詰めてくるプーさん。反対に俺はジリジリと後ろに下がる。プーさんにはプーさんの、俺には俺の距離がある。リーチ的に俺の距離はプーさんよりも短いだろう。せめて長い武器なんかがあればいいんだが。ファンタジーらしく剣とか鑓とかさ・・すると右腕に嵌めている意志の腕輪が淡い光を発した。光はどこからか集まってくる様に集束し、光が俺の手に握られると光の中から戟と呼ばれる形をした鑓が現れた。
「呂布かよっ!!」
「グルォォォォ」
俺の叫びに反応する様にプーさんも叫び声をあげる。俺が武器を取ったのが分かるのだろうか?生憎と武器の扱いなら、俺はちょっと自信があるぞ?リーチで勝った俺は直ぐさまプーの野郎の腕に向かって薙ぎ払いを放った。
「ギャアゥゥ」
プーの腕を戟の刃の部分で大きく弾くと、腕にそって真っ赤な斬り傷がプーの腕に出来た。
「まだまだぁ!!」
頭目掛けて力強く振り下ろす戟を止める手段が思い浮かばなかったのか、頭をズラして避けるプー。弾くか防御だったら良かったのに、肩口には大きな裂傷が出来た。これならいける!と片方の腕を狙って戟を振り回した。
ザシュッザシュッという音が辺りに響き、プーの左腕からは真っ赤な鮮血がダラダラと流れている。
「はぁはぁ、やい!プー公!いい加減倒れろや!!」
腕を狙っていても何発かは頭にもヒットしている。脳震盪なり何なりで倒れて欲しいんだが、このプー公は体力には自信があるようだ。
「これからは筋肉馬鹿プーと呼んでやろう!」
息を整えると再び斬りかかる。もうそろそろだと思うんだが・・
と思った瞬間に戟を伝ってかなりの手応えが返って来た。
ブシュゥゥゥ
「ギャォォォォ」
腕の1つを切断する事が出来た。これでかなり有利になるだろう。右腕ではガードも出来ない角度からプー公の頭を斬りつける。それだけに留まらず、戟の柄の部分も使って殴り付ける。ガキッという硬い音と、ザシュッという鮮血の舞い上がる音が交互に響き、プー公の攻撃はその度に空を切る。目には血が流れ入っており、距離感も掴めていないんだろう。
「グウォォォォォ」
最後の力を振り絞る様に再び立ち上がったプー公は残った腕を一気に振り回してきた。
「あぶなっ!!」
ガギィィン!!
恐らく今までで1番威力のある攻撃だっただろう。戟で防いだが両手がビリビリと痺れている。こんな威力、ウチのジジイの結構マジな一撃に近いぞ。ビリビリと痺れていても戟を取り落とす様な真似はしない。ようやく隙らしい隙が見えたのだ。一気に駆け寄るとプー公の腹におもいっきり戟を突き刺した。
ゾブゥゥゥ
「グォォォォォ」
戟の刃の部分を全て突き刺すと今度は捻って傷口を開く。反撃が来る前に戟を引き抜き距離を取る。すると空いた穴から大量の血液を流しながらプー公は倒れた。
「はぁっはぁっ、手間かかせやがって・・」
肩で息をしながらプー公の成れの果てを蹴り飛ばす。実戦のキツさを思い出したのと、歩きっぱなしと走りっぱなし、そして昨日の夜から紅茶くらいしか胃に入っていない事を思い出しその場に倒れてしまった。
「ちょっと休むか・・」
力が抜けていくのと同時に右手に握られていた戟も光が拡散して消えていくのを感じて目を閉じた。
・・・ガラガラガラガラガラガラガラ・・
滑車が回るような音がして目が覚めた。う、起き上がれない。何か体中が縛られている様だ。辺りを見渡すと松明の灯りが見える。それ以外にはガチャガチャと音を鳴らしながら歩いている兵士の様な人達。これは捕まったと見ていいんだろうな。うん、体中が縄で簀巻きにされてる。捕まったな。捕虜か。救いなのは、周りを歩いている兵士達がしっかりとした装備をしている事だ。これだけの兵士が良い装備をしているって事は賊な輩では無いって証拠だ。ちゃんとした軍とかなら話せば理解してくれるかもしれない。でも、異世界からやってきました〜なんて誰が信じるのかな?
「小隊長、こいつ気付きました!!」
お、どうやら俺が起きてる事に気付いたか。
「そうか、下ろせ!!縄は解くなよ!私は大隊長に伝えてくる!!」
遠ざかっていく馬の蹄の音。どうやら結構大きな部隊がここにはいるみたいだな。荷車から地面にドンッと置かれてのた打ち回る。こっちは敵意無いんだし、簀巻きで身動き取れないんだから、もうちょっと優しくしてもいいだろうに。上半身だけ起き上がらせてもらうと、周囲をぐるりと槍を持った兵士で囲まれた。
「え〜っと、敵意は無いからね?」
「!!」
さっきの兵士達のやり取りを聞き取れた辺り、俺の言葉も通じるだろうと思って声を掛けてみたんだが、こりゃ逆だったかな?
「う、うう、うるさいっ!お前は大人しく座っていればいいんだ!」
カチーン
人が下手に出てみりゃ、恐らく雑魚キャラ兵士Aのくせに付け上がりやがって。右手にイメージを集中する。小回りの利く小刀。縄抜けも頑張れば出来るだろうが、小刀を出せる今はこっちの方が手っ取り早い。縄の結び目を切り、スルスルと簀巻き状態から脱出していく。
「か、構えぇーー!!!」
槍を一斉に構える兵士達。むぅ、こっちは話し合う姿勢でいるって言うのに、いきなり槍を向けて話し合いをする気無しですか。こうなりゃ仕方ない。
キレ易い世代を舐めるなよ?
小刀を構えると一斉に向けられている槍に向かって突き進んでいく。こちとらこんな状況にも慣れっぱだ。槍の間を掻い潜り、スパスパと矛先を斬り落としていく。これなら武器破壊だけで無力化出来る。ある程度斬り落とした所で今度は剣を抜いた兵士が斬りかかってきた。流石にこれを無力化するには小刀だけだと少しきついかな?と思ったその時だった。
「そこまでだ!双方やめいっ!!」
野太い声が辺りに響いた。
「それで現状は何も被害は出ていないんだな?」
「はいっ!歩兵の槍が20本程使用不可能になった程度で済みました!」
ちょっと刺ある言い方だな。
「よろしい、行っていい。」
「失礼します!」
テントの外には大勢の兵士達が詰め寄ってキャンプの設営をしている。そんな中、俺はというとテントの中で呼ばれてきた大隊長とやらと一緒に茶なんかを飲んでいた。
「自己紹介といこう。俺の名前はクロー=トバル。ゼロと言ったな・・貴様何者だ?何故あんな場所にいた?」
「何者と言われてもねぇ・・あんな場所にいたのも自分で好んだワケでもないし。強いて言えば成り行きかな?」
「成り行きか・・では、オーラグリズリーを倒したのも貴様か?」
「オーラグリズリーって何ですか?」
「貴様の横で死んでいた大きな熊の事だ。まさかオーラグリズリーを知らんであの草原を歩いていたのか?」
「あぁ、あのプー公か。そんなにヤバかったですかね?」
「ぷっ・・貴様はどうやらとんでもない力を秘めているようだな。オーラグリズリーというのは魔術を弾く事が出来る魔物の一種でな、兵士による力押しでしか倒せないんだ。私達はその討伐依頼を受けてやって来たのだがな。」
「それは凄い魔物ですね。というか、魔術なんて本当にあるんですね。」
「魔術も知らんのか!?」
「僕はそんな技術の無い場所からやって来ましたからね。」
魔術まであるとは、ファンタジーの定番だな。俺も使える様になった方がいいだろうな。
「ふむ・・魔術を知らず、しかも1人でオーラグリズリーを倒す程の腕前か・・よし、ゼロ、貴様このまま俺達に付いて来てくれるか?」
はい?
「オーラグリズリーを1人で倒す程の猛者だ。俺達の力では敵わないだろう。強制はせんさ。だが理由は知らんが、よく物を知らないと見える。どうだ?宛の無い旅なら俺達に着いて来ないか?」
宛は無いけど、こんな見知らぬ奴を共にしていて大丈夫なんだろうか?
そうすると、俺の疑問を見透かしたかのようにニヤリと笑ったクローが再度口を開いた。
「貴様は包囲を敷いた我が兵士に対し、武器を破壊するだけに到った。これは敵意の無い証拠だと俺は受け取る。」
ふむ、敵意の無さは伝わってくれたか。それでこの対応なのか?
「そして貴様の格好だ。俺はそんな立派な服を見た事が無い。恐らく身分が高い位置に在る物だと判断する。それが理由を伏せて旅をしているなら、是非うちの国に連れ帰りたいだけだ。どうする?」
正解半分、不正解半分って所か。確かにこっちの世界では根無し草の俺は、出来るだけ早く身元を保証する人達が必要だろう。そして、この世界を教えてくれる人達もだな。
しばらく考え込んで、俺はこの話に乗る事にした。最初に手を差し延べられた人達に着いて行くのは悪くないだろうし、お決まりの1つだろうからな。
「分かった。着いて行く事にしよう。よろしく頼むよ。」
ガッチリと握手を交わす。何つーか、アメリカンな感じのシェイクハンド?力一杯握りやがって、痛いっつーの!
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