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短編

Master Mischievous Online

作者: ZEST.Co VRMMORPG企画開発室

遊森さんの武器っちょ企画にのっかってみた。

べ、別に唆してなんか……ッ!



●短編であること

●ジャンルは『ファンタジー』

●テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』


【補足】他の方の作品をまだ全部読めていないので、被っている方を発見したら修正します。





広がる草原、明るい太陽、爽やかな風。

緑の匂いと、人々の騒がしい声、金属音。

木陰で休憩しながら、それらを興味深く観察する。

何というか、本当にリアル、だ。

視覚も聴覚も嗅覚も再現され、風すら感じるとは一体どういう仕様なのだろう。

説明されたところで理解出来るとも思わないが、気になるものは気になるのだ。


「フフフ……さすがあたし! 当たり武器だわぁ」


うっとりと黒い銃身を撫でる隣の人物アネキに、鳥肌を立てる。

実際は立たないので、気分だけだ。現時点でそこまで細部の再現は出来ないらしく、汗もかかない。


「ところでぇ、アンタの武器は何だったの? 見せてみなさいよ」

「あ」


強引に奪い取られたMy・武器。

長さは二十数センチほどで持ちやすい、初心者向け。

軸は竹、穂は馬と羊毛を使用。

すでに穂はおろされており、いつでも使うことが出来る。

出来る、が。


「きゃははははっ! 何これ! 何これ! アンタ本当に運がないわねぇ!」


笑い過ぎだこのヤロウ。そもそも姉がコレな時点で運がないのは分かりきっている。

奪われた武器を取り返し、懐にしまう。


「別に、いいだろ。初期武器を絶対に使わないといけないってわけじゃないんだし」


始まりは三週間前。姉貴が日本初のVRMMORPGの一日体験テストプレイモニターに当たったことから始まった。

姉貴が毎月欠かさず買っている雑誌の懸賞で、同伴者一名まで可というそれに、巻き込まれたのである。

隠れオタらしい姉貴には、そういう友達がいない。ネット上にはいるらしいが、VR装置のある会場に集合しなければならないのだ。すなわち顔バレ必須。しぶしぶ弟を連れて行こう、となったようだ。一人で行けばいいじゃん、とは言ったのだが、却下された。一人より二人の方が有利、便利だという理由で。


「まぁね。でもせっかくのサービスなら選ばせて欲しかったわぁ」


確かに。

そうすれば剣や刀、弓などごくごく普通の武器を選んだのに。何でこんな変なものを武器にしてしまったのか。運営ェ……。

ちなみに、選べないのは初期武器だけではない。従来のMMORPGならキャラメイクはある程度自由だ。しかしこのゲーム、一般テスターはキャラクターもランダム作成になっている。

初期段階のテストプレイ、開発会社関連のテスターの九割が美形設定にしたらしく、偏るからつまらないと開発者せきにんしゃの一言で決定したという。さすがに完全商品化する時は、自由作成可能に戻すらしいが。


「しかもチュートリアルもないし」


そうなのだ。

チュートリアルも説明書も、一切、ない。そんなゲームあるのかよ、と思ったが、モニターの意見を基にチュートリアルを作成するということで、現時点では存在しない。

普段なら説明書は見ない派だが、VRは全くの初めてなのだ。あるのならば見たかった。

姉貴は説明書どころか攻略本熟読派ネタバレバッチコイ派なので、さらに不満だろう。


「VRは初めてじゃないからいいけどぉ……」


現在VRは軍事や医療に取り入れられている他、アミューズメント施設にも利用されている。

そこには一応、FPSやRCG、ACT、RPGなどが設置されている。が、家庭用ではないため、どのゲームも比較的短めのシナリオばかりだ。

今回のMMO開発は一般家庭にVR機を普及させよう、というのが表向きの理由で、その実開発者の趣味だとか。


「俺最近のは初めてなんだけど」

「あたしが教えてあげるわよ……いたぁっ!」


立ち上がったと思ったら、姉貴が頭を押さえてしゃがみ込む。

ほぼ痛みはないはずなのだが、人間って不思議だ。


「錯覚だろ、錯覚」

「わかってるわよっ!」


キャラメイクがランダムなせいで、姉貴は実際の身長との差が激しい。プレイし始めてから一時間弱、何もないところで転んだり、頭をぶつけたり散々だ。


「アンタはいいわよねぇ……身長ほとんどかわってないでしょ」

「まぁね」


その点は運が良かったとしか言い様がない。だがそこで運を使い果たしたせいで、武器がアレなんじゃないだろうか。



「あーあ、身長変わったら歩きにくいとか動きにくいとか嘘だと思ってたんだけどなぁ」


その点は同意だ。普段高いヒールとか履いてるのだから、慣れていそうなものなのに。


「っていうか鈍いだけなんじゃね」


姉貴は鈍い。運動神経焼き切れてる。


「失礼なっ! スピードはあるはずよ!」

「それはステの話だろ……」


今度は頭上に気を付けて、ゆっくりと立ち上がる。無事立ち上がったことを見届けて、同じように隣に立つ。


「じゃあそろそろ、初戦闘と行きますかぁ!」


正直、不安です。




◇◇◇




この武器でどうしろと。

初期装備、アイテムがある程度配布されているので、金銭のサポートはない。戦闘しないと、装備を変えられない。要するに初期装備で戦闘……。


「俺にどうしろと」

「戦えばいいんじゃなぁい?」

「どうやって」

「擽るとか? ぶふっ」


ひでぇ。

しかもモンスターは四足歩行の獣型。もちろん毛がふさふさの、もふもふ。


「どう見ても擽れないだろ……」


呆然と手元の武器を見る。どこからどうみても、筆、である。

本当にありがとうございました。


「とりあえず振り回して当てればぁ?」

「やっぱりそれしかねぇよなぁ……」


姉貴は上機嫌に銃身を構えている。

姉貴の武器は魔力を消費し、銃から魔法の弾を撃つというものだ。何それかっこいい。

本来なら初期段階で手に入るような武器ではなく、特に魔力の少ない初期レベルではそれこそ使えない。

が、今回のテストプレイは一日だということもあり、装備アイテム同様ある程度のステータスも割り振られている。


獣に向かって魔弾を放つ。命中。


「うふふふふ……皆殺しにしてあげるわ……」


うっとりと笑う姉貴。こいつ異常者だ。危ないわ。


姉貴の逃した獣を一応筆で攻撃する。

獣の上部に位置するステータスバーがほんのちょびっと、お情け程度に減少した。


「ですよねー!」


これソロプレイだったら即死亡じゃないのか。テスト期間はデスペナはほぼないらしいが。

隣の姉貴はどんどん撃ち殺し、EXけいけんちを稼いでいる。このままだとレベルに差が……。


「あ、魔力切れだわー。アイテムアイテムっと」


魔力回復用アイテムを消費。

飲用タイプではなく、消費すると光の粒子となってプレイヤーに吸い込まれていく。


「うわぁ、キレーイ! あ、アンタのも寄越しなさいよ。使わないでしょ」

「横暴だ!」


姉貴が数匹倒してやっと一匹という成果で、戦闘は一旦終了。

手に入ったマネーでアイテムを購入するためだ。それにステも割り振りたい。

このゲームは職業がない。自分の好きなようにステを振り、好きなスタイルで戦う。

回復魔法の得意な前衛だろうが、後衛なのに剣装備だろうが、好きに出来る。とはいえ効率を考えれば、おかしなバランスのキャラクターにする人は少数派だろう。

もっとも今回のテストプレイ期間ではそこまで育てることは出来ない。一日体験だし。



最初の街である、アクアライズ。

街の周りには用水路があり、水音が聞こえる。

水は透き通っていて、綺麗だ。良かった、そこまでリアリティは追及してないらしい。

門をくぐり、石畳を歩けば固い感触。そして何故か転ぶ姉貴。もう慣れた。


「とりあえず道具屋?」

「とりあえず案内板!」


噴水広場にある案内板は、街にある店舗一覧が詳しく載っている。

たとえば武器屋でも数店舗あり、刃物専門店や鈍器専門店だったり、初心者用であったり、条件を満たしてないと入れなかったり。


「武器は今のままでいいでしょ」

「よくねーよ!」


買い換えたいです、本当に。


「でも武器に合わせてステ振られてるんだからさぁ、しかもちょっとの間じゃない」


それはわかるが、筆、ですよ? ふ・で!


「この際武器は無視してさ、魔法とかどう? 魔法!」

「むっ……確かに魔法は心惹かれる」


この世界の魔法は本当に種類が多い。

ゲーム開始後、少しだけ情報収集のために街を見て回ったのだが、それだけで数種類の魔法の話が聞けたのだ。

魔法は店で買うか、その他条件で入手出来るシステムになっている。課金制のゲームではないので、時間と労力さえかければ全魔法制覇も夢ではない。


「じゃあ魔法屋行こー! どの魔法にする?」

「せっかくだから派手な魔法がいいなぁ」


限られた時間で遊ぶなら、使い勝手よりも演出重視でいきたい。


「召喚とかどう? ドラゴンとか精霊とか呼び出しちゃう?」

「いいね! 高そうだけど」

「見るだけ見てみよーよ、召喚魔法屋ね、決まり、決まりっ!」


魔法屋通り、と称される石畳を歩く。

炎系の魔法屋、水系の魔法屋、治癒系の魔法屋などと専門によって分かれており、少し特殊なところで死霊魔法や召喚魔法、呪歌などを取り扱う専門店もある。


「あ、ここね!」


真鍮で出来た取っ手を押し、中に入る。真鍮はひんやりとしていた。VRすげぇ。

一昔のVRと言えば視覚のみだったのに、開発速度半端ねぇ。


「いらっしゃいませ、召喚魔法屋へようこそ!」


店主らしきエルフの美青年が、にこにことこちらを見ている。

初エルフだ! 耳長いな!


「えぇっと……召喚魔法が見たいんだけど」

「ほいよ、この端末で見るんだよ」


ディスプレイに触れ、メニューを開く。分類ごとや値段順にソート出来るようだ。

想像通り、かなり高い。


「今なら体験キャンペーンがあるよ」

「体験キャンペーン?」

「そう。今日は懸賞の人が多いからね、三回まで利用可な体験キャンペーンやってんの。表示金額の一割で」


一割!

それなら何とかなりそうだ。


「俺らと違って今日だけっしょ? 高い金出してもね」

「え? 俺ら?」

「俺、ZESTの学生なのよ」


NPCと思いきや、まさかのプレイヤー。

ZESTはこのゲームの開発会社である。学生ということはZESTの経営である専門学校生なのだろう。競争率の高い学校らしいが、卒業できればZEST入社に優遇、他の会社にも引く手数多だとか。


「高学年は放課後自由に遊べるからね」

「何それうらやましい! しかも エ ル フ だと……」

「ふふん、しかも開発で内定もらってっからね! 卒業してもプレイし放題っ!」

「なん…だと……くそ、羨ましいぃぃぃっ」


姉貴がエルフをがくがくと揺さぶっている。阿呆は放っておこう。

安価順にソートして、一つずつ詳細を見ていく。ここはやはりドラゴンが欲しいところだ。


「ん?」


その中の一つに目を止める。


「なぁ、これ何?」

「あぁ、それ? 名前通りプレイヤー召喚」

「プレイヤーってプレイヤー?」

「そう、プレイヤー。もちろん普通のプレイヤーじゃなくて召喚用のプレイヤーだけど」

「もっと分かり易い説明でお願いします」


召喚用のプレイヤーって言われても、予備知識ほとんどないんですが。


「えっとね、種族でいうと魔族や精霊になるんだけど、一般の種族たちよりも上位……まぁ王族とか? そういうプレイヤーをランダムで呼び出せる」

「それ、プレイヤーの意味あんの?」


普通の召喚との違いがわからない。


「まぁ今回は体験ってことでランダムに精霊王とか割り当てられてるんだけど、実際は条件を満たせば誰でもなれるんだよね」


これもランダムかよ。


「けっこう厳しい条件にしてるんだけど、良い能力がもらえたりするわけ。その代償に他のプレイヤーに手を貸しますよっていうね」


このゲーム、魔法と同じでスキルも全制覇できなくもない。条件さえそろえば取得できるからだ。ただしこのスキルを持ってなければ、などといった条件がない場合に限る。


「ぶっちゃけ室長がおもしろがって作った召喚魔法なんだけどね!」

「そんなことぶっちゃけていいのかよ……」

「むしろこのゲーム自体、室長の好奇心やってみたかったで出来ている」

「おもしろそーじゃん、これにしよーよ」

「えぇー……」


ランダムってことはハズレもあるってことだ。数少ないんだからハズレは嫌だ。


「体験だから大丈夫、ハズレはない仕様だよ。召喚用プレイヤーに当たった人はもれなく高スペック」

「ほら、ね、いーじゃん!」


結局強引に買わされてしまった。

あああドラゴンの夢が。いやもしかすると竜人王とかいるかもしれないし希望は捨てん!


「あとはーアイテム補充かな? ここから近い道具屋ってある?」

「……んー、店を出て左、四軒目の道具屋がオススメだよ」

「そ、ありがと!」


道具屋ももちろん数軒ある。店によって取扱い商品が違うし、同じものでも値段が違うことがある。

オススメの道具屋に入ると、肌蹴た着物風衣装の迫力美女が出迎えてくれた。

ものすごく好みなんだが、おそろしく世界観に合ってない。


「いらっしゃい。何をお探し?」


声まで好みだ。だがしかし所詮は作り物……。


「体力回復と魔力回復のアイテムください」


姉貴が手早く買い物を済ませる。


「貴方……」


じっと顔を覗き込まれ、顔が熱くなる。

いや熱くなった気がしただけで、実際熱くも赤くもならないのだが。


「これ、あげるわ」

「え?」


手渡された紙袋を見る。


「え? 何? イベント?」


姉貴が楽しそうに紙袋を開ける。


「あぁー! そういうこと!」

「何?」


紙袋の中身を見て、納得する。

いやだがしかし……。


「それ、レアものなのよ。良かったわね」


良かった……のか?





◇◇◇





そんなわけで草原である。

獣相手に召喚魔法を試す。召喚魔法とアイテムのせいで残金ゼロ。余れば他の魔法も買えたのにな……。


光が灯った指先で、空中に描く魔方陣。ちなみに自動オート


「すっげ」


派手だ。かなり派手だ。

光の渦と轟音に、獣たちが怯む。何が出てくるんだろう。

魔方陣から白い手がにょきりと生える。

ちょ、何と言うホラー……ッ!


するすると姿を現す、その物体。


「なっ……!」

「きたああああああああ超絶美幼女おおおおおおおおおっ!」


姉貴の興奮した叫びが辺りに響く。他のパーティにガン見されている。恥ずかしい。

だが確かに美幼女だ。背中に白い羽根が生えている。ぱたぱたしてて異様にかわいい。

ふわっふわのくるっくるの金髪、緑色の透き通ったぱっちりとした瞳。小さなピンクの唇。

そしてそこから紡がれる、鈴のような愛らしい声。


「死ね」


え、と思ったその瞬間、獣達が黒い煙を出しながら一斉に消えた。そして大量に入るEX。

何だ、即死魔法か?


「うっわぁ、美幼女、美幼女だよ、あ、プレイヤーなんですよね!」

「あぁ、プレイヤーだとも。中身は四十手前のおっさんのな!」


自棄になった美幼女の愛らしい声が響く。何というか、うん、ご愁傷様です。


「いやぁん! 中の人なんてどうでもいいし! かわいい、かわいい! お持ち帰りぃっ!」


ぎゅうぎゅうと美幼女を抱きしめる姉貴。必死に抵抗する美幼女。


「やめろっ気色悪い!」

「うん姉貴、犯罪臭いから止めて。もっさい熊男と美幼女なんて誰得」

「あたし得っ!」


ともかく姉貴は放っておいて、もらったアイテムを試そう。

助けを求める声なんて聞こえない。あーあー聞こえなーい。


さて。

紙袋から取り出し、封を開ける。

そして徐に筆をつけ、描く。

何を?

もちろん――。





なんちゃってドラゴンが炎を吐いて獣を焼く。

召喚魔法を買わなくても、召喚魔法っぽかったな。

墨で描いたなんちゃってドラゴンだがかなり強い。

レアという言葉に納得だ。

一日体験だということであまり遊べなかったのは不満だが、無料の景品だし。

VR部分は感動ものだったが、ゲーム部分は最初何ていうクソゲーと思わなくもなかったが。

結果的には変わった武器でそれなりに面白かったし、まぁいいか。

もうすぐログアウトの時間だ。

姉貴はまだ美幼女を愛でている。


「このゲーム、揃えたらどんくらいかかるのかなー」



Master Mischievous Online、略してMMO、日本初のVRMMORPGのタイトルである。





「室長、アンケートマイナス評価多いですよ」

「うわぁ、すごいっす。キャラのランダムはありえない、ばっかり」

「もうやらないよ」

「そうですか、それは良かったです……来月は自社HPからの募集があることですし」

「うん。中身OLのオッサンキャラと中身オッサンの美幼女見たから満足した」

「」

「」



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