相棒という名の……
この駄文は遊森謡子様の企画、『春のファンタジー短編祭(武器っちょ企画)』参加作品です。
●短編であること
●ジャンル『ファンタジー』
●テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』
俺たちが『エグレ』という酷い略称で呼んでいるMMORPG『エレメンタルグレイス』での自分のキャラクターになって異世界に迷い込んでしまったという事件から三ヶ月。
最初こそ誰もが混乱していたが、どんな状況でだって人ってのは生き足掻くしかできないわけで……ゲームといえども元々知っていた世界ということもあり、俺らは次第に順応していった。
もちろん、戦闘が出来ずにリタイヤし、街に引き篭もった奴らもいるけどな。
まぁ、それはどうでもいい。
俺がこの世界にきて一番困ったことがある。
相棒がいないことだ。
別に恋人がいないとか、狩り友がいないとか、そういう寂しい話ではない。
……いや、恋人募集中だけどさ。
俺のいう『相棒』というのは、バイクのことだ。
ファンタジーな世界だから基本的な乗り物といえば生き物になる。もちろん船や馬車はあるし、二メートルから三メートルほどの大きさの魔導騎兵なんか代物もあるんだが……バイクはさすがにないんだよな。
「つー訳で造ってくれ。お願いします」
「なにが『つー訳』か判んねーよ」
「ウザイ。帰れ」
バイクに乗りたくて我慢できなくなった俺ことハヤブサは、所属するギルドで唯一の生産職である錬金術師で鍛冶師のミュゲとその恋人であるヴァレリーの前で絶賛土下座中。しかし返ってきた言葉は拒否だった。
土下座してまで頼んだのに酷い奴らだ。てか、ヴァレリー。お前は関係ないよな、脳筋司祭だし。あとミュゲもウザイとか安易に口にしたら駄目だろ。可愛い顔が台無しだ。まあ、中身は男だって話だけどな。
「バイクに乗りたいんだよ。バイクと共に生きたいんだよ。バイクのない生活はもう耐えられないんだよ。オレの我慢も限界なんだよ」
身体を起こし、正座状態で真正面の少女――ミュゲを見詰めながら言葉を紡ぐ。
白藤色の髪のしたにある緑青色の瞳がジッと見返してくる。普段の馬鹿騒ぎでとかでふざけているときなら、元男のミュゲを「幼女萌え」とか言ってからかうんだろうけど、いまは違う。俺は真剣なんだ。
本気で相棒を求めているんだって視線を逸らさず訴えかける。
「やるだけやってみてもいいんじゃないか?」
「ヴァレリー?」
しばらく睨みあう形になっていたところに赤銅色の髪をバックに流した大男からの意外な言葉が降り掛かり、ミュゲはオレから視線を外して隣のヴァレリーを見上げる。ミュゲだけでなく俺も思わず視線を上へと上げちまったけどな。
「ハヤがこれだけ真剣なのは珍しいからな」
ヴァレリーが俺へと視線を向け、ニヤリと口角を上げる。なかなかの兄貴振りだ。いい漢だよ、お前! いや、いい漢女だよ、ヴァレリー!
「それにミュゲもバイク好きだろ。あとアタシもミュゲのバイクに乗りたい」
前言撤回。
惚気か? 惚気なのか?
独り身の男を目の前に惚気なのかよ、ドチクショー!
◆ ◆ ◆
そんなやり取りがあり、ゲーム世界に迷い込んでから更に三ヶ月。
まずは俺らの主力兵器である魔導騎兵を利用しようって話から始まり、バイクのエンジンを魔導騎兵の動力炉に使用される精霊石の小型版、ガソリンタンクは同じくマナタンクを小さくした物を製作。
そこまでは順調だった。
試作されたバイクの車輪が馬車なんかで使う木製の車輪では衝撃が酷く、とてもではないがまともに走れないという結果に製作は頓挫する寸前まで追い詰められた。
この世界にゴムなんてないからな。
ないなら代わりを作ればいいと試行錯誤を進めた結果、竜種の翼膜に白羽の矢が当たり、丈夫な翼膜を求めて狩りに明け暮れたり、ギルド内に裁縫師なんてサブの職業の奴が居なかったために外部の協力者を求めたり、ミュゲが製作に掛かりきりでヴァレリーが拗ねたり、ヴァレリーが拗ねたり、ヴァレリーが(r
色々な苦労と試行錯誤とヴァレリーの嫉妬深さを乗り越え、ようやく完成した魔導バイクはクラシックバイクといった外見の趣味バイクだった。
ファンタジーのこの世界に舗装された道は街中にしかない。それも石畳だから悪路以外の何物でもないわけだが、その道をこれで走れと? いや、第二次世界大戦時の軍用バイクと系統は同じだろうから無理ってことはないんだろうけどさ……。
「それはオレの趣味用に作った星だ」
エトワールは星。
星でクラシックバイクってことは……ミュゲ、お前カワサ菌だったんだな……。
まー、俺は鈴菌発症者なんだけどな。
ちゃっかり自分用の魔導バイクを作っていたミュゲに案内され、ギルドハウス内の魔導騎兵の格納庫の一角に向かう。
そこにはファンタジーをガン無視したオフロードバイクの姿があった。いや、タイヤの形は先に見せてもらったミュゲのバイクと同じだからモタードだな。
「名前はバト●ホッパーとかトライ●ェイサーとかにしようかと思ったんだけどな……ギルマスが止めてやれって言ったし、お前が決めていいぞ」
俺は仮●ライダーになる気はないぞとツッコミを入れたくもなったが、自分で決めていいってんなら酷い名前考えてたとかどうでもいいよな。
しかし、名前かー。
なんて名前にするかなー。
俺の名前は世界最速バイクからきてる訳だが……。
そう。バイクなんだよ。ハヤブサって名前もな。
戦闘機でも人工衛星でもないんだ。
閑話休題。
バイクの名前はシャムシールにした。
なんで武器の名前かって言えば、鈴菌を自負する俺の頭に浮かんだのが、独特のデザインの名車、カタナだったからだ。
それで刀は曲剣だよなって理由でシャムシールに決定。
安直だっていうのは判ってるが、そういう連装をしてしまったんだから仕方がない。
さて、俺の相棒となったシャムシールだが、もうね……最高!
あとゲームのキャラに体が変わっているからか、俺のサブ職が騎手だった恩恵か、体の一部のように扱える。動画サイトなんかで見るだけだったバイクスタントを自分が出来るとか本気で驚いた。
ハハハ。笑が止まりませんな~。グフフ。
「イィィィッヤッッッホォォォォィッ!」
嬉しくて思わずギルドハウスの近くを離れ、街から出てきちまった。
けど、仕方が相だろ。半年振りのバイク。いままでお預けだったバイク乗りにバイク与えりゃこうなるって。うん。仕方がない。
なんて聞く相手もいない言い訳を呟いて居たら街の近くのゴブ森に迷い込んだらしい。
俺を見たゴブリンが雄叫びを上げて仲間を呼びつつ襲ってきやがった。
さすがに戦闘で壊したら拙いと逃げを決め込むが、悪路を走るために全力で走れないだけでなく、動力炉の機動音を頼りにゴブリンどもが追い掛けてくるので振り切ることができない。
「(つーか、トレインしちまってるよな)」
後ろを振り返ってみれば十数匹のゴブリンが俺と相棒を追いかけて走り続けている。
……仕方ない。壊れたら土下座するか。
迎え撃つためにフロントブレーキで制動を効かせ、リアタイヤを空転させてバイクスタントの技の中でも派手なローリンエンドを決めて反転。向かってくるゴブリンに此方からも近付いていく。
しかしこのまま轢き逃げアタックでは芸がないよな。てことで、再びフロントのブレーキを効かせて後輪を浮かせるとそのまま百八十度反転。リアタイヤで先頭のゴブリンの頬を横から叩いて吹き飛ばす。
そしてリアタイヤが地面についたところで左足を地面に乗せてその場で土煙をあげながらクルリと回転。群がってくるゴブリンどもの足を弾くように後輪で引っ掛ける。
ついでに腰にさげている小剣の柄を左手に持つと鞘から抜き、その場に転倒しているゴブリンどもにトドメを刺しておくのも忘れない。
「俺と相棒は止められないぜっ!」
生き残っているゴブリン共に向かい、つい口から出てきてしまった勝ち誇るような言葉。
言葉は通じていないんだろうけど、此方が余裕を持って相手していることくらいは向こうにも通じたらしくジリジリと後ろに後退していく。そしてある程度距離が開くと身を翻して逃げ出していった。
俺の隙を伺うような気配もなくなったところで俺は街へと向かって相棒を走らせる。
俺と相棒のコンビは最強だぜ! とかとにかくこのときは浮かれに浮かれまくっていた。
街に着く前にマナタンクが空になって押して帰るって結果を迎えるまでは……。
燃費の向上が今後の課題だな……トホホ。
企画が面白そうだったので、深く考えずにノリと勢いだけで書きました。御免なさい。
前振りの方が長いとか、御免なさい。
本当に勢いだけで書いたので読み辛かったと思います。本当に御免なさい。
でも、最後まで読んで頂けたのなら嬉しいです。