閑話 連絡と紹介
大狼を倒した後、そこに既視感のある魔法陣が浮かび上がってきた。
第一階層にて、第二階層へと転移する時に使った魔法陣と同じものだ。
俺は一度周りを見渡し、広大な森に別れを告げた。
第三階層へとやってきた。
ーーー第一階層と少し似ているな。
そう思った。
しかし周りは石畳ではない。
どうやらここは洞窟のようだ。
何やら気配を感じ、後ろを振り返る。
淡い光が集まり、人の形を取っていく。
やがてそこに現れたのはーーー神だった。
「いや何でだよ!?」
つい大声でツッコミを入れてしまった。俺らしくもない。
「やぁやぁ黒崎君、久し振りだね。」
「おい自称神、何でお前なんだよ。ティアはどうした?」
「会って早々酷いねまったく...。彼女は僕が消えたら出てくるよ。」
「...どうしてお前が現れたんだ?」
「ちょっとした連絡をね...。因みに、君以外の人にもこの連絡はしているよ。直接言うのは君だけなんだけど。」
そんな特別扱いはいらない。
そんな心の声が聞こえたのか、自称神はクスクスと笑っている。
「まぁ話だけでも聞いておくれよ。君にとっても悪い話じゃないさ。」
「...そうだな、とりあえず話を聞こうか。」
「そうこなくっちゃ!実はね、このダンジョンへと転移してきた君達40人のうち、第一階層を踏破したのはまだ10人しかいないんだよね。」
俺と田中達以外に、まだ5人いるということか。
そう考えると田中達は案外優秀なパーティーだったんだな。
いや、リーダーが優秀だっただけか。
「そして、第一階層で死んでしまったのが、15人だ。」
ーーー15人だと?そんなに死んでいたのか...。
それくらいの犠牲は出るだろうと予測はしていたが、実際に聞くと少なからず衝撃を受けていた。
更に田中達を入れると、死亡者は19人になる。
未だ殆ど攻略されていないにも関わらず、約半数が死んでしまったという事だ。
「そこで緊急処置を取ろうかと思ってね。第二階層以上へ到達している人に、こうして現状を教えてあげているのさ。」
「そんな事をして何になる?」
「君も知っているはずだよ?一度踏破した階層へは、安全地帯から好きに転移できるって。」
ーーーなるほどな。クラスメイトが大事なら、自分達で助けに行けと、コイツは言っているのだ。
「まぁ、これは飽くまでも連絡だから。決して強要はしないけどね。」
ムカつく奴だ。俺が既に四人を殺している事は知っているだろうに。
「君が殺人鬼である事は間違いないけどね。一応だよ、一応。」
自主的に手を差し伸べる事はしない。
転移初日、何をしてでもこのダンジョンで生き残るという覚悟と共に、そう決意した。
しかし、未だ一回層で立ち止まっているクラスメイト達が、うまく攻略を進められずにいるというのも確かだ。
これは、"助けを求めている"という事になるのだろうか。
ーーーそんなのは"こじつけ"だ。心の底では他者の命を気にしているが故の、単なるこじつけに過ぎない。
そう思った。それ以上考えると、自分を見失ってしまいそうだった。
「行かねぇよ。行く訳がないだろ。」
「うん、そう言うと思ったよ。君の本心がどこにあるのかはともかく、ね。」
いつもの笑顔を浮かべて意味深にこちらを見据える。
「それで、連絡は以上か?」
「うん、これで終わりだよ。」
「そうか、それじゃ早く消えてくれ。」
「まったく冷たいなぁ。そんなあの妖精に会いたいのかい?やはり君ってばロリコ「良いから早く消えろっての!」はいはいわかりましたよ...。」
「それじゃ、また会おうね、黒崎君。」
もう二度と来なくて良い。心の底からそう思った。
神が消えて数分。
また淡い光が集まり、人の形を取った。
そしてーーー「お久しぶりです、黒崎さん。」
小さな妖精は優しく微笑んだ。
「...あぁ、久し振りだな、ティア。」
何だか凄く懐かしい気がする。
以前に会ってから一ヶ月程しか経っていないのだが。
第二階層では色々とあったからな...。
「まぁ、とにかく座ろうか。」
ポイントを消費して手に入れたシートを敷く。
「はい、そうですね。失礼します。」
それからはお話の時間だった。
他の人間については自称神から聞いていたため、俺はこの第三階層について質問をした。
どうやら第三階層では、今までになかったトラップが設置されているらしい。
また、精神に作用するスキルを使う魔物や、ゴブリンよりも大型の人型の魔物なども現れるらしい。
あとは特に聞きたいこともなかったため、雑談をして過ごした。
ティアにルビィを紹介すると、目をキラキラさせて戯れついていた。
ルビィは面倒そうにしながらも、ちょっと嬉しそうだった。
ふと思いついたように、ティアは言った。
「そう言えば、黒崎さんはクラスメイトの皆さんを助けには行かないのですか?」
「...俺は、行かないよ。」
「どうして...ですか?」
「助けを求められない限り、こちらから手を差し伸べはしないと決めた。だから、俺が一階層へ行く事はない。」
何故か、ティアが寂しそうな顔をしている気がした。
「私は知っています。黒崎さんは本当はとても優しい人です。失礼な振る舞いをした私の頭を撫でて、慰めてくれました。」
「もう会えないと落ち込んでいた私のために、神様にお願いしてくれました。」
「私の...私の初めての、お友達になってくれました。」
「それはお互い様だろう。俺にとっても、ティアは初めての友だった。マトモに他人と話す事すらなかった俺に、初対面のティアは色々と教えてくれた。」
「それは、私がそのために作られた存在だから...。」
「だとしても、俺は嬉しかった。嬉しかったんだ...。」
ティアが不思議そうな目で見てくる。
「...黒崎さんって、かなり寂しがり屋ですよね。」
「は?...そう...か?」
「はい、そうですよ!とってもとっても、寂しがり屋です!」
ティアはどこか嬉しそうにそう言った。
そして今度は、急に真剣な目付きになってこちらを見つめてきた。
「黒崎さん、一つお願いがあります。」
「お願い?何だ?」
「黒崎さん、クラスメイトの人達を、助けてあげてくれませんか?」
「...何を言っているんだ、ティア?」
「黒崎さんに、お知り合いの方々を、見捨てて欲しくないんです。」
「...無理だ。俺は行けない。」
「どうして!?何でですか?」
「言っただろう、自主的に助けはしないと。俺がその意志を曲げる事は、俺自身の決意を汚すことになる。...それは、してはいけないんだ。」
「理由が必要なんですね?それなら...」
ーーー嫌な予感がする。途轍もなく嫌な予感が。
「私からのーーー"友達"からの、お願いです。」
ーーー何だそれは。
「おいおい、俺がそんなお願いを聞く訳が「聞いて下さい。」」
「友達からのお願いです、聞いて下さい。」
ティアは泣きそうな顔をしている。
無茶苦茶な事を言っているのは、自分でもわかっているのだろう。
「どうしてそこまで?ティアは俺のクラスメイトの事なんて何も知らないだろう?」
「はい、その方々に関しては何も知りません。私がお願いしているのは、私のためです。」
「ティアのため?...どういう事だ?」
「黒崎さん、クラスメイトの皆さんの事になると、いつも悲しそうにしてます。それが...嫌なんです。」
「黒崎さんは優しい人です。本当に、優しい人なんです。」
「そんな黒崎さんが誰かに誤解されてたり、誰かに騙されたりするのが、嫌なんです。」
「黒崎さんが手を差し伸べれば、きっと何かが変わるはずです。」
「一回だけで良いんです...。私のお願い、聞いていただけませんか?」
ーーーどうしてそこまで...。
ティアは、何故そんなに思い詰めるのだろうか。
俺が誤解されるのが嫌だという。
自分のためとは言ったが、それは俺のためでもある。
何故そこまで思ってくれるのか。
「ティア、どうしてそこまで、考えてくれるんだ?」
「どうしてって、そんなの...」
ーーー友達だからに、決まってるじゃないですか。
そう言って、いつものように優しく笑った。
深く、深く溜め息を吐く。
「わかったよ...俺に何ができるかわからんが、今回だけは俺から行こう。」
「ほ、本当ですか!?本当に!?」
「あぁ本当だ。...友達からの、頼みだからな。」
「ーーーありがとうございます!!」
ティアが満面の笑顔で抱き着いてきた。
その後、適当に雑談をしてティアと別れた。
「自分で頼んでおいてなんですけど、無理はしないで下さいね。」と言って手を振っていた。
俺は「無理なんてしないさ。またティアに会わないといけないからな。」と言って手を振り返した。
とりあえず明日から三回層の探索を始めよう。
次の安全地帯を見付けて、そこから一回層へと転移することにした。
ブックマークが1000件を超えました。
自分でも超驚いてます。
皆さんありがとうございます。