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トラフィック・キングダム 作者:石川博品
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 ベルフローラとか、入口の前にガチャいっぱいあって、ガキの頃は行きたいなって思ってたけど、いまは別にって、ただのでっかいドラッグストアじゃんって思って、別に楽しくない。

 それでもうちら、行くとこないし、塾とか行ってないし、家に親いないし、夜になったらとりあえずベルフロで、みたいな感じで集まる。

 パケット乗る前に菓子とか調達すんべって、明香たちとベルフローラ行って私、基本カネないから、腹減ったら飴食えばいいか不味いけどって、今夜は何も買わないことにしたんだけど、多華美も菓子買う明香たち見てるだけだった。

「おまえ何も買わないの?」
「私、電池買うからお金貯めてる」

 は? って思って、そんで思いだしたけどコイツ、ドローンにやる電池買わなきゃなんないんだった。
 ドローンにとっての電池って、うちらにとってのご飯みたいなもんらしい。

「でも私、お小遣いすくないんだ」って多華美がいうから私、
「んじゃ待ってろ」っつって、何でもよかったんだけど、ジュースを冷蔵庫から取って、多華美に「来い」っつって、歩いて、電池売ってるとこ来たから、「これ見ろ」っつってペットボトル渡したら多華美、
「わあ、トートバッグが当たるって」っつって、何かペットボトルに書いてあるプレゼントのこといっててコイツ、体でかいからいい感じに防犯カメラの陰になって私、電池パッて取って袖に隠した。

 だからもうジュースとか、ホントはいらないんだけど、飲みたくなるかもしんないし、一応買って外出たけど、寒いから、あったかいのにすりゃよかったって思った。

 万引きとか私、欲しいのないからあんまやんないけど、むかしはけっこうやったから、やろうと思えばいつでもできる。

 そんで店出てから多華美に電池見せたら、
「奈琉、盗んじゃ駄目だよ」とかいうから、は? ってなって、
「じゃあ捨てるわ」っつって投げるふりしたら多華美、
「駄目だよ」っつって私の腕つかむから、
「だべ?」っつってその電池、多華美に渡した。

 何か私の方がドローン飼うの本気っぽくなってて、ちょっとうける。

 外の道にうちの学校の男子がたむろしてて、こっち見てるから、うぜえって思ってガンくれてたら、
「桐原コラァッ」って誰かがいうから、え? そんなキレる? って思って、よく見たら西中の染井がいた。

「おい桐原ァ、来いやァ」
 とかいってて、いやいや、行くかよって思って、そもそもおまえなんでうちの学校の男子とつるんでんの? って、私だったら男子とかうざいから絶対仲間に入れないけど、染井は男子といっしょにいてたぶん染井、北小から西中行ったんだけど、うちの学校にも北小から来てる奴けっこういるから、そっちの絡みだろうなって思った。

 まあソイツらは別にいいからシカトして行こうとしたら、染井のツレの女が、
「オメエ堀河じゃねえか」っつって多華美の方に来ようとして、したら多華美、それ見て、
「誰だっけ」って、バカだから、いって、うける。

「堀河オメエ、桐原とつるんでんかよ」ってその染井のツレがいったら、
「オメエにゃ関係ねえだろ」ってなぜか明香がキレて、そっち向かってった。

 そうなったら行くしかないから、行くかっつって、行こうとした。

 したら、男子の中にいた奴が、
「あれ? 大木の妹じゃね?」っつって出てきて、それ見て明香、
「あっ、モトヤ先輩!」って何か、いままで聞いたことねえような高い声出して、そっち走ってった。

「誰よ、あれ」って私、美晴と櫻にきいたら、櫻とかビビリだから、喧嘩になりそうだったんで一瞬で遠くまで逃げてたんだけど、ふたりとも「知らねえ」っていった。

 その男、雰囲気からいって高校生とかだと思うけど、明香と話してて明香、笑うとき手で口隠して何かキモい。
 うちらそれ見てたら明香、
「おまえら、こっち来て先輩に挨拶しろよ」っていうから、行って、
せきもと先輩。うちの姉ちゃんのツレの元カレの従兄(いとこ)の幼馴染の弟」って明香がいうから、いやそれ他人じゃんって思ったけど、一応「ちわっす」っていっといた。

 その元哉先輩、けっこういかつくて、手の甲までびっしり墨入ってんのコートの袖から見えたけど、うちらの方見て、
「中坊のくせにこんな時間にうろついてるとか、不良だなあ」
 とかいって笑って、こういうガチで悪い人ってなぜか他人のこと不良呼ばわりしがち。

 そこでその人と別れてうちら、よいちょうのパケットステーションまで行った。
 階段のぼって、パケットはパケコンで呼んであったから、乗って、走る。

 多華美、だいぶパケコン使えるようになってて、まあ日本中誰でも使ってるアプリだから簡単なんだけど、グループ解除してひとりでやらせても全然やれる。

 ちょっと走って、多華美が「帰る」っつって、私も「今日お母さん早いからうちも帰るわ」っていって明香たちと別れて、ふたりであの工場跡に行った。

 ツレがたくさんいるときは静かで人数すくなくなるとしゃべりだす奴っているけど、多華美とか完全それで、パケット降りてから工場のとこ行くまでずっとしゃべってる。
 おかげでコイツの家にお父さん・お母さん・お兄ちゃんがいて別の家にお父さんのお母さんが住んでるってことがわかった。

 私の家はお母さんと私だけだし、お母さん夜勤だからほとんど会うことなくて、だから家族の話とか全然ないんだけど、多華美はなぜか、兄貴がモテるとか頭いいとかうれしそうに話してて、は? って思った。

 私なら、兄貴がモテてたって自分がモテるわけじゃないし、兄貴が頭よくても自分が頭よくなるわけじゃないから、全然うれしくない。
 芸能人とかも、おしゃれな服着たり熱愛したりブレイクしたりしても、全然うれしくない。
 そんなことみんな、どうしてうれしいんだろう。
 なんでみんなあんなの観てられるんだろう。

 何も持ってなくてどこにも行けなくて私、頭がおかしくなりそうだ。

 何が欲しいとかどこに行きたいかとか、なくて私、何が欲しがれるのかとか、どこへ行けるのかっていう、そもそもそれがわかんない。

 工場の裏行って多華美が「ピーちゃん」って呼んだらあのドローン、また私のうしろから出てきて私、またちょっとワッてなった。

「奈琉、ピーちゃんに電池あげて」

 多華美がそういうから私、ポケットからさっきの電池出して、ビニール剥がしたらドローン、ピーピーいってハサミ伸ばしてきて私の手から電池取ろうとする。
 私、ワッて思って、ちょっと怖くて、パッて放したらドローン、電池をハサミで持って箱の中に入れて、また次の電池欲しがる。
 そんで私、あげて、また欲しがるから、あげてってくりかえしてたら電池なくなってドローン、ピーピーいいながら私のまわりまわる。

「ピーちゃんすっかり奈琉に懐いたみたい」

 そうやって多華美はいうけどドローン、声は子犬とか子猫とかみたいだけど、図体けっこうでかいから、足とかかれそうで怖い。

 多華美がしゃがんだらドローン、そっちに走ってって、多華美が撫でたらその手、ハサミっていうか、ニョロニョロした何か出して触って、キモい。
 車を自動にしようって思った奴、これ見たら「スゲエ進化した」って喜ぶだろうか。
 けっこう「うわキモ」っていいそうだけど。

「ピーちゃん、ごめんね。今日、部品ないの」

 多華美は箱の上の方を撫でた。

「この間のアダプター、あれどうしたんだ。買ったのか」
「ゴミ捨て場で拾った」
「ゴミ狙いだったらゴミの日以外拾えねえじゃん」
「うん。だから困ってんだ」

 私、考えたんだけど、もっといっぱい部品とか機械とか集めないとドローン、でっかくなれない。
 でもそんなの買うカネないし、うちらそんなんばっかだけど、そんなら盗むしかない。

 ホントは盗んじゃいけないって、私でも知ってる。
 盗んだあとはだいたい、どうしてこんなもん盗んだんだろってへこむ。
 だって盗めたってことは私の目の前にあったってことで、それはこの街、このクソみたいな街にあるクソみたいなもんだってことで、価値なんてない。

 本当に価値のあるものはうちらの手の届かないとこにある。
 手が届かない(・・・・・・)ってことは要するに、リンクが張られてないってこと。
 パケットで行けないってこと。
 ドローンはそこに手が届いてんのかもしれない。
 どこにでも行けるから。

「部品欲しいならさあ、盗むしかねえべ」

 そういったら多華美に「駄目」っていわれるかと思ったら多華美、「盗めるの?」ってきいてくる。

「うちに盗めないものなんかないから」

 私、そんなこといって、漫画の怪盗みたいな台詞(せりふ)だけど、まあ盗めないものとかふつうにあるし、見つかったらふつうに捕まる。

「捕まるときはおまえもいっしょだけど」
「私、奈琉がいっしょなら怖くないよ」

 そうやって多華美はいうけど、別に怖いとか怖くないとかいう問題じゃなくて、パクられたら高校行けないとか就職できないとかだから困るなって話なんだけど多華美、バカだからわかってないっぽい。

「私、奈琉みたいに強くなりたい。この前、パケットの上に乗ってたでしょ? あれ見て私、すごい勇気あるなあって思ったんだ。私は全然勇気ないから」
「うちも勇気なんかないよ」

 勇気があったらこんな街、とっくに出てる。
 パケットに乗ってどこでも行けるけど、街の中ぐるぐるまわるだけで、どこにも行けない街。

 本当の勇気が欲しい。
 この街飛びだしていけるような。
 あとカネも欲しい。

 ガキの頃好きだった絵本、『オズの魔法使い』、死んだお父さんが買ってくれたやつだけど、おくびょうなライオンが出てきて最後、何か勇気が出るやつもらったんだけど、何だったか思いだせない。

 とりあえず私、多華美にいつもの飴やったら、やっぱすぐ食って、うけた。

       ┣╋╋╋┫

 次の日、学校終わってうちら、朝から曇ってて寒いけど、「行くべ」っつって学校出て、明香たち「どっか行くべ」っつったけど「ちょっと」っつって別れてパケットステーション、昼間だからパケコン使うの見つかったらやばいからふつうにパケットナビ使ってパケット呼んで、乗る。

 うちらの前、ストレージが走ってて、パケットよりずっとでっかい荷物運ぶ用のやつだから、遅くて、パケコンでも動かせないやつだから私、イライラして、「コイツむかつくな」ってPING飛ばしたら多華美、「仕方ないよ」ってリプよこす。

 仕方ない(・・・・)とか、嫌いだ私。
 仕方ないことって本当に仕方ないことなのか。
 仕方ないこと多すぎて、わかんなくなるけど、仕方なくないこともたぶんある。

 街の西の方、一号通り越えて行ったら、、何もない。

 むかし工場あったとこで、それ潰れて、廃品回収の業者が集めたゴミ置くのに使ってて、それも潰れて、いまゴミだけ残ってる。

 うちら、フェンス乗りこえて、その中に入る。
 先行かせたら多華美、足遅いだけじゃなくてフェンス乗りこえんのも遅くてビビった。
 金網の中、爪先つっこんでのぼるだけなのに、何かもたもたしてる。

 マジで遅いから私、イラッとして、下から多華美のケツ叩いた。
 したら多華美、「やめてよ、奈琉~」とかいって笑ってるから、は? ってなって、遊びじゃねえんだけどって思って、スカートめくってちょくでケツ叩いたら、パンツがクマの絵描いたクソダセエやつで、正直ドン引きだったんだけど多華美、「やめてよ、奈琉~」とかいって笑ってる。
 こんなパンツ穿くくらいなら紙オムツの方がトイレ行かなくていい分、勝負パンツとして上だと思う。

 フェンスの中入って、地面のアスファルト割れて草生えてて、なんでただ土に草生えてるよりアスファルトのとこ生えてる方が街の外っぽく見えるんだろうって思った。

 ブルーシートが風でバタバタ鳴ってる。
 バカが張ったせいで潰れたテントみたいにブルーシート、地面にかぶさってて中、もこって盛りあがってて私、バリッてめくった。

 下にはむかしのコンピューターとか、よくわからん機械とか、山になってる。

 私は多華美に「持ってて」っつってブルーシート持たして、下に潜りこんだ。
 私のナイフ、ドライバーとかついてるから、出して、手前のコンピューターの蓋開ける。

「奈琉、すごいの持ってるねえ」って多華美がいって、そんなことよりおまえの体が陰になって暗いんだよって思って、横にずれろっつった。

 コンピューターの中、緑色の板にいろいろ部品とかついてる。
 それはずして多華美に見したら、
「あっ、それピーちゃんが一番好きなやつ」とかいって、菓子じゃねえんだからさって思って、地面に置いて他のコンピューターも開けた。

「奈琉はどうしてこんな場所知ってるの」
「小学校んときここ、うちらの領地だったから」
「そうなんだ」
「南小の奴らも来てたよ。明香もいて、いっぺんボコした。したら中学校の入学式で、いたから、『あっ』っつって、ふたりとも」

 私、そんときのこと思いだして笑った。
 多華美は笑わなかった。
 ブルーシートの下で変に私の声響いて、何か恥ずい。

「おまえ、ここ来たことねえのかよ」
「私、家事しなくちゃなんないから、時間なくて」
家事(・・)?」

 私、多華美のいってたこと思いだしたけど、確か親二人ともいたはず。
 それでなんでコイツ家事やってんのって思った。

「私、家のこと全部やんなくちゃなんないの。お祖母ちゃん病気だから、そっちの家のことも」
「は? 小学校のときもか? 親何してんだよ」
「お父さんもお母さんも忙しいから」
「でも変なチラシ作ってたじゃん。工場跡がどうとかさ。あれどっかで配るんだろ? そんなことやってる暇があったら掃除洗濯くらいできるだろ」
「うん、そうだね。でも――」
「おまえ、家事好きなのか? ホントはやりたくないんだろ?」

 私がいったら多華美、ちょっとの間考えこんでた。

「……やりたくない。私だって遊びたい」
「だったらそれ、いわなきゃ駄目だろ。黙ってたら何もかわんねえよ」
「でも私、奈琉みたいに勇気ないから」
「それって勇気関係あんのか?}

 とりあえず、多華美の親はバカだ。
 こんなトロい奴に家事させるとか、危ないから私なら絶対やらせない。

 雨降ってきて、けっこう強いから、パケットのとこ行くまでに濡れるなって思って、ブルーシートの下で雨宿りした。

 雨、どんどん強くなってきて、ブルーシートにばしばし当たる。
 うちら、何かキャンプしてる気分になる。
 山とかじゃなくてただのゴミ捨て場だけど。

 私も多華美も、コンピューターの上に座ってる。
 多華美はでかいから、ブルーシートの屋根に頭当たっちゃって、手で上に持ちあげる。

「奈琉は卒業したらどうするの」
「うちは中央かな。あそこマジでバカ高だから、名前書ければ受かるって」

 それでも明香だったら落ちるかもしれない。
 櫻は三回に一回しか書きまちがえないから、合格率もうちょい高い。

 多華美が腕伸ばしたらブルーシートの天井、高くなった。

「私はね、働く」
「へえ。何やんの」
「わかんない。でもねえ私、お給料で犬飼うんだ」
「犬?」
「そう。むかしから私、犬飼いたかったんだけど、お父さんもお母さんも『おまえには絶対無理だ』っていうから飼えなくて、だから飼ったらみんな私のこと見直すと思う」

 それ聞いて私、コイツ本当にバカなんだなって思った。

 犬飼ったくらいで見直されるわけない。
 そんなもんその辺のババアだって飼ってる。
 何ならババア、五匹くらい飼ってる。

「犬じゃなくてもさ、ドローン飼ってっからいいじゃん」
「でもピーちゃんもいつか大きくなるでしょ。そしたらたぶんどこかへ走っていっちゃうと思うな」

 うちら、いまここにいるのはドローンに食わせる部品のためでドローン、部品食ったら大きくなる。
 大きくなったらドローン、どっかに行っちゃって多華美、たぶん泣くだろうけどドローン、部品集めないと大きくなれないし、仕方ない。

 仕方ない(・・・・)がまた出てきて私、多華美が泣くとこなんか見たくないけど、仕方なくて、夏休みの宿題やんなきゃやばいってわかってんのにやんないみたいな、本当はもっと早くどうするか決めなきゃいけないこと先延ばしにしてて、終わりはもうすぐそこまで来てて、何かパケットに乗って何も考えないで走ってるみたいな感じだ。

「ま、そんときゃそんときだろ」

 私がいったら多華美、笑って、ブルーシート青いから、透けて多華美の顔も青っぽくなって、何かキモい。

 雨やまなくて、まわり誰もいなくて、世界にうちらだけみたいって思う。
 車が走る音、街の中いたらどこ行っても聞こえてくるのに、それも消えてうちらの世界、すごく静かで、うちらも静かに嫌いな給食の話とかした。
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