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第4話 殺人理論

 夕暮れ時、造園会社「クロマ・ジャルディニエーレ」の面々を見送って庭を見渡すミナ。



 今年も綺麗に青い薔薇が咲くといいなぁ。去年はまだ少しマチマチだったけど、今年は夏の剪定も済んだし、去年よりたくさん見れるかも。あ、どうせなら薔薇の近くにガーデンコテージみたいな小さな休憩所を作っちゃおうか。たまには体得した建築技術を使わなきゃ腕が鈍っちゃうしな! まぁ、素人と大して変わらないけど。



 そう考えていたら、両親の事を思い出した。


 あれからもう6年が経過した。時効まであと9年。でも、もしその間に私が犯人と確定して指名手配されていたら、海外にいた期間は時効にカウントされない。

 アルカードさんはインドを出る時近いうちに戻ってくるだろうと言っていた。その内日本にも立ち寄れるのかな。でも、所詮は化け物時間。既に一年経っているし、近い内と言っても年単位での話だろう。


 あの事件は、その後どうなったんだろう。


 急に事件の顛末が気になりだして、調べたくなった。でも、私はパソコン持ってないしな。というかチーム吸血鬼は情報源を何も持たない。パソコンを持ってて、私の事を話せる人・・・アンジェロしかいない。

 アンジェロに調べてもらおう。そう思って城に戻った。




「アンジェローお願いがあるんだけど」

「ノックしろっていつも言ってんだろ、バカ」

「ゴメン」


 いつも通り勝手に部屋に入ると、ソファで読書中だったアンジェロにいつも通りに怒られた。珍しく素直に謝罪した私にアンジェロは少しだけ何かを感じ取ったような眼をする。



「なんだよ、どした?」

「あのね、調べて欲しい事があるの」

「なにを?」

「6年前に日本で起きた無差別殺傷事件について」

「・・・もしかして、北都か?」


 アンジェロの言葉にとても驚いた。あれ、なんで知ってるんだろ。話した覚えはないんだけど・・・



「話したっけ?」

「いや、聞いたことはない」

「じゃぁどうして?」

「なんとなく」

「アンジェロすごいねぇ、逆に怖いよ」

「なんでだよ」

「心を読まれるのはアルカードさんだけで手一杯だよ」

「アホか。俺を伯爵みてぇなバケモンと一緒にすんな」



 言いながらデスクに移動したアンジェロはパソコンの電源を立ち上げる。アンジェロの横まで移動して、検索するアンジェロと共に画面を見つめた。



「お前読め。俺日本語読めねぇから」

「えっとね、あ! コレだ! 6年前の事件!」

「ちょっと待ってろ、時系列に並べ替える」

「うん・・・あれ、最新は半年前?」

「ちょっと待て、開くから」



 開かれた最新のニュース。半年前の記事にはこう記されていた。


 犯人の身元も依然として判明せず、居所も情報も一切出てこないため、捜査は打ち切り。



「なんて書いてある?」

「捜査は打ち切りって・・・」

「迷宮入りか。なら、再捜査されるかはわかんねぇな」

「てことは、このまま後9年経ったら時効成立! 日本へ帰れる!」



 やったー! とバンザイして喜ぶ私にアンジェロは不思議そうに目を向けた。



「もしかして、犯人お前?」

「・・・そうなんですよ」

「んん? 北都の為に無差別殺人?」

「違うわよ! 逆!」

「は? 逆って?」



 あらぬ疑いをかけられてしまったので、6年前の事件を話すことにした。目の前で北都が殺されたこと、北都を吸血したこと、錯乱して犯人の男をその場で殺したこと、両親に嘘を吐いて、日本から逃げてきたこと。



「私はあの時憎しみに囚われて、その場であの男に復讐を果たした。その事を後になってとても後悔した。あの男は生きる価値のある人間じゃなかった。私の復讐には正当性があった。でも、それでも私が手を下すべきじゃなかった。私はあの時、あの男と同じただの化け物で、ただの身勝手な人殺しだった。まぁ、今は正真正銘の人殺しだけど」



 私の話を聞いたアンジェロは、真顔で表情一つ変えない。何を考えているかわからないけど、こういう顔をするときは、大概ちゃんと話を聞いて考えてくれている証拠だ。



「確かにお前のやったことはただの人殺しだ。勝手に他人の人生を終わらせた。まぁ俺も言えた義理じゃねぇけど。でも、お前はちゃんとそれを背負ってるだろ。復讐したことを後悔して、反省してる。それでいいんじゃねぇか」

「いい、のかな」

「少なくともお前は憎しみに囚われて人を殺すことが正義じゃないとわかったはずだ。それでより罪悪を感じてるんだろ。お前はちゃんと逃げないでそれを受け止めてるじゃねぇか」

「・・・うん、せめてそのくらいはしなきゃいけないと思うから」

「ソイツの為にちゃんとお前は悩んで苦しんだ。それでも自分が許せないと思うなら、そうだな、日本に帰った時にソイツの墓参りでもしてやれ」

「そうだね。そうしようかな」

「弔って、同じことを繰り返さなきゃ、それでいいんじゃねぇか」

「うん、ありがとう」




 私は今でも、いや、今は既に立派と言えるほどの人殺しだ。理由があれば人殺しをしていいわけじゃない。殺意がないから許されるわけじゃない。異教徒だから死んでいいはずがない。結果としては同じこと。人を殺している事実に変わりはない。


 今私が手にかけている人たちはみんな私の血肉になっている。私の体の中で、私を呪っているのだろう。私はその呪いを受け入れて、背負って生きる義務がある。



 でも、憎悪に囚われて復讐で人を殺すのはよくない。何も生まれない、憎悪は憎悪しか生み出さない。憎しみの果てに私は酷い殺し方をした。憎しみに囚われたら回りなんて見えなくなる。きっと誰を何を犠牲にしてもかまわない、そう思ってしまうんだろう。



 ちゃんと背負ってる。復讐したことを後悔して反省してる。それでいい、アンジェロはそう言ってくれた。それができただけ、まだ私はよかったのかもしれない。




 アンジェロの言葉を聞きながら、涙が零れた。その涙と一緒に少しだけ、ほんの少しだけ自分の罪が洗い流されたような気がした。本当はちっともそんなことはないと思うけど、少しだけ。





 泣いてしまった私の頭を撫でていたアンジェロが、お前でもたまにはまともに考え事するんだな、というので思わず笑ってしまった。



 やっぱりアンジェロに話してよかったと思える。アンジェロが友達でよかった。私の気持ちを汲んで、さりげなく励ましてくれる。アンジェロのこういう優しさが、大好きだ。




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