58 情報収集
集団に対する作戦会議が行われた翌日、僕は迷宮の七階層へと足を運んでいた。
僕の探索に関して、条件付きでゴロリーさん達は継続を許可してくれたからだ。
その条件とは集団に見つからないようにすること、それと集団及び冒険者に近寄らないことだった。
僕はそれを直ぐに了承し、迷宮の探索をしている。
七階層で現れた魔物はスライムとワーム、そしてブラッディーアントだった。
全ての魔物が【索敵】に引っ掛かってくれるため、ウェアウルフがいた六階層よりも楽に戦える気がした。
まぁそれは僕が生ゴミを【排出】出来るからであって、一般的にはスライムがいることで六階層よりも難易度は高くなるとも思えた。
それよりも今までの階層より、少し戦闘回数が多くなっている感覚があった。
ただ迷宮探索は慌てても仕方がないので【索敵】【隠密】【魔力遮断】【気配遮断】をもっと自分の力としてちゃんと使えるように意識しながら行動することにした。
それがうまくいったのか、それとも【集中】してしまっていたのか、六階層を回った時よりも早く七階層の【地図作製】が終わってしまった。
「どうしよう……」
あまりに順調過ぎて、八階層へ下りるかどうか迷うことになった。
僕は一度目を瞑ってから深呼吸をして考える。
お腹も空いていないし、休憩するほど疲れてもいない。
八階層に出てくる魔物の予想はジャイアントバットとゴブリン、それとウェアウルフがでてくるかもしれない。
それでダメージを負わないで勝てるか? いざ戦闘になった時のことを考えて戦略を立てていく。
「まだ武具頼りになってしまうけど、いけると思う」
声に出して気持ちを固めた僕は、八階層へと探索範囲を広げていく。
そして八階層に現れた魔物はジャイアントバットと子鬼だけだった。
ただし三階層と違って子鬼と戦っていると、直ぐにジャイアントバットが襲ってくるという上下からの攻撃だった。
子鬼は短剣を持っていて、少しだけ強くなっているようだったけど【集中】していれば、冷静に対処することが出来た。
ジャイアントバットもよく見れば、上下に揺れて動くだけだったので、そこまで苦戦することはなかった。
「ただほとんどは【隠密】のおかげで気がつかれないからだけどね」
僕は八階層の安全エリアで昼食がてら、ホーちゃんに魔力供給しながら話し掛けていた。
ホーちゃんが大きくなったら、僕と上下の攻撃が出来るかもしれないし、今も少しは飛べるようになったから、今度ホーちゃんの訓練もしてみようかな。
それにしてもどうやらこの階層も、冒険者達には人気がないようで、他の冒険者達と遭遇することはもちろん、索敵にも引っ掛かる様子はない。
そうなると集団は九階層か十階層を拠点にしているのかもしれない。
一応このことは戻ったら、ゴロリーさん達に報告して、少しだけでも力にならないと。
そう思って再度探索を始めた僕は、レベルが上がったおかげか、それとも【集中】しているからか、戦闘中に次はどう動くかを迷わなくなくなっていた。
もしかすると【心眼】を意識し始めたことで、その恩恵を感じられるようになったのかもしれない。
少しだけ鼻歌を歌いたい気分になるけど、流石に迷宮内では危ないので我慢することにした。
「よし。これで八階層も隈なく調べられた。でもどうしよう……」
今日は調子がいいからなのか、どんどん進むことが出来た。
お昼を食べてからもそこまで時間が経っていないから、出来れば次の階層へ進んでしまいたい。
だけど調子にのって失敗する冒険者が多いと、何度もイルムさんやマリエナさんから話を聞かされている。
疲れはない。食料もある。敵の確認をしていけそうなら、安全エリアを探すところまで頑張ろう。
どちらにしろ明日には九階層へと下りることになるのだから、行ってみよう。
そう決断して僕は九階層へと下りて行く。
迷宮自体は変わらないな。
そんなことを思って【索敵】【隠密】【魔力遮断】【気配遮断】を念じたところで、今までと違って人が【索敵】に掛かったことに驚いた。
たぶん冒険者だろうけど、思っているよりも数が多い。七、八パーティーはいるだろう。
それにほとんどが魔物と戦っているようだった。
魔物はフォレストウルフと、ウルフ顔をしたコボルトという魔物だった。
コボルトは犬獣人と違い、顔が人ではなく狼みたいな顔をしているけど、それでも子鬼と違ってとても愛嬌のある顔をしている。
出来れば斬りたくない衝動に駆られながら、それでも仕方なく倒していく。
基本的に子鬼を少し強く速くしたぐらいなので、そこまで苦戦はしない。
それでもコボルトの【特殊技能】なのか、吠えると直ぐにフォレストウルフが集まってくる。
だから最初に倒さなければ、中々大変だったりする。
でもここだったら六階層よりも、集中して戦えそうだな。
もしかすると他のパーティーも同じことを思っているんだろうか?
僕はフードを深く被り【索敵】に引っ掛かる反応を警戒しながら、探索を継続していく。
ローブを深く被っていても【心眼】があるため、ちゃんと戦うことが出来るから、周りを警戒することは可能だ。
「だけどこれだけ冒険者がいるのに、何で先へ進まないのかな? もしかすると……」
集団との関係が気になった僕は、反応を確認しながら他の冒険者パーティーの行動の様子を窺うことにした。
どのパーティーも戦闘が終わって直ぐに動くことはなく、どうやら魔物が現れるのを待っているようだった。
「アイラ達は今度十階層へ行くって言っていたから、聞いてみようかな」
コボルトとフォレストウルフは嗅覚が優れているため【隠密】で姿を隠していても、こちらに気づいてしまうので、他のパーティーに近づいて情報収集するのは難しいかもしれないな。
そう考えていた矢先、三方向あるうち二方向から、別々のパーティーがこちらを挟むように移動してきたことに気づく。
もう一方にはコボルトとフォレストウルフがいるけど、その奥では戦っている冒険者パーティーがいる。
……生ゴミのニオイで向こうの冒険者へ移動してくれないかな。
そんな期待を込めて生ゴミを【排出】することにした。
「失敗だった」
【排出】された生ゴミ目掛けて、近くのコボルトやフォレストウルフがこちらへと近寄ってきてしまったのだった。
直ぐに生ゴミを【回収】させて直ぐに【闇よ我の姿を隠せ シャドウ】と魔法を唱えた。
そしてあまり使いたくなかったけれど、【総魔操術】の【魔力纏】を発動させると、近寄ってきた魔物に斬りかかる。
【魔力纏】は身体強化と違って魔力消費が大きい分、身体強化よりも強力な力を纏うことが出来る上に、属性魔法として放つことが出来る。
ただ今は放つと大きな音が鳴りそうなので、斬り捨てるだけだった。
レベルが上がっていて良かったよとそう思いながら、息をひそめることにした。
すると上層階へ戻る冒険者だったのか、声が聞こえた来た。
「これだけ見張って来ないなら、あいつらの話は嘘かもな」
「確かにね。そもそもあの三人はフォレストウルフを倒すのがやっとだし、装備も満足に整えられないんだから、言い訳なのは十分ありえるわ」
「まぁな。でもそれは俺達だって変わらないだろう。迷宮で稼ぐっていっても、いつまでもこんな生活をしている訳にはいかないんだぞ」
「確かにな。高位の冒険者がいない時にぐらいしか出来ないからな」
「そういえば最近、騎士団がまた動き出すみたいな噂があるらしいぜ」
「まじか。それだったらあまり十二階層には行かない方がいいか」
「そろそろ潮時かもね」
そんな会話をして僕のことには気づかずに、冒険者達は階段のある方向へと進んでいった。
間違いなく探しているのは僕のことなんだろうな。
それにしてもまさかこの階層にいるパーティーが、全て僕のことを探ろうとしているのかな。
そう考えると街中でも油断は出来ないな。
それにしても十二階層に近寄らないって言ってたけど、十二階層にスラム街の暗殺者がいるのかもしれないな。
それから直ぐに帰ろうと思ったけど、他のパーティーも上の階や下の階へ移動するように動き出した為、少し帰りが遅くなる事を覚悟して九階層の探索を続けることにした。
お読みいただきありがとう御座います。