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レベルリセッター ~クリスと迷宮の秘密~  作者: ブロッコリーライオン
3章 飛躍 十歳冒険者見習い編
56/70

56 犯罪の有無

 六階層の安全エリアを見つけて入ると、スゥーと身体から力が抜けていくのが分かった。

 どうやら思っていた以上に緊張していたみたいだ。


 シュナイデルさんやジュリスさんのおかげで対人戦に慣れているとはいえ、本当に剣を人へ向けたり、向けられたりするのでは少し勝手が違うみたいだ。


「ねぇホーちゃん、僕はあれでアイネ達を本当に守れたことになるのかな?」

 ホーちゃんは魔力吸収することを止めて僕の肩に乗ると、頬にすり寄って来てくれた。

 最初はまるで慰められているような気がしたけど、徐々に“守れていたよ”とそう言われているように思えて、僕の気持ちは徐々に晴れていく。


「ありがとう、ホーちゃん」

 お礼を言って再びホーちゃんへ魔力供給してから【収容】し終えると僕は六階層の探索を続けることにした。


 途中で何度もフォレストウルフに囲まれることはあったけど、何とか対処することは出来ていた。

 だけど前後左右からの攻撃は、結局グランさんの作ってくれた武具でなければ怪我をしていたと思う。

 それは武具に頼っているということで、僕の実力ではないということだ。


 そして【心眼】も気持ちを落ち着けていなければ慌てる要素にしかならないという事実にも気づいた。

 相手がどのタイミングでどのように動いてくるのかが分かるからこそ、その状況を冷静に判断しなければならない。

 その判断を誤れば攻撃を受けてしまうし、ジュリスさん達との訓練と違って、その失敗は死に繋がる可能性もある。


 そう考えると純粋に仲間はいた方が……僕はそこまで考えて、一度深呼吸することにした。


「すぅ~はぁ~、確かに囲まれると一人じゃ厳しいのは事実……でも夢の中の僕は、さらに空から襲ってくる魔物の攻撃も躱して、敵を殲滅していた」

 きっと何かレベルやスキル以外に頼らない、力の使い方があるはずだ。

 それをどうしても手に入れたい。


 騎士隊の訓練に一度参加させてもらった方がいいかなぁ。

 僕は人が戦っているところなんてあまり見たことがないし、きっと勉強になるはずだよね。


 僕はそんなことを考えながら、六階層をくまなく探索し終えて、再び安全エリアまで戻り昼食を済ませた。


 ホーちゃんが戦力になってくれれば嬉しいけど、フォレストウルフに噛みつかれたら、ホーちゃんは一撃で消えてしまいそうで、僕はその考えを振り切ってから、六階層のフォレストウルフを集めながら戦うことにした。


 フォレストウルフは基本的に一匹で出てくることはなく、必ず二匹から四匹のグループで行動している。

 一匹なら弱くても、連携がしっかりしているから、手強く感じるのかもしれないな。


 僕はパーティーを組んだ時のヒントになるかもしれないと思いながら、結局この日の迷宮探索は、フォレストウルフの連携を観察しながら戦うことに終始してしまうことになった。


 ただその成果なのか、最後には慌てないでしっかり倒しきることが出来るようになったので、無駄ではなかったと思う。


 僕は念の為、迷宮を出る前にローブとミスリルの剣をシークレットスペースに【収納】してから、外へ出ることにした。

 なんとなく[レッドクロウ]と名乗っていたパーティーや、その仲間に見られる可能性があると思ったからだ。


 迷宮の外へ出ると既に夕日が沈み始めていた。僕は“エドガー食堂”へと向かって歩き出す。

「それにしても本当にいるとは思わなかったな……」


 本来であれば見張りの騎士さんが声を掛けてくるのに、今日はそうならなかった。

何故なら[レッドクロウ]の関係者なのか、見習いの冒険者達が迷宮の入り口をジッと見つめていた為、見張りの騎士さんを二人に増やして警戒しているようだった。


 二階層にいつもいる冒険者達が一グループしかいなかったから、まさかとは思っていたけれど、既にかなりの数の見習い冒険者達が巻き込まれているみたいに思える。


 “エドガー食堂”へ向かう僕の後を追ってくる者達が何人かいたけど、襲撃されることはなかった。

 そして店に入った時点で、彼らが引き返していくのが分かった。


「クリス、戻ったか」

 外を警戒していた僕は、エドガーさんに挨拶するのを忘れていたことに気がつき反省しながら、カウンターへ向かう。


「エドガーさん戻りました。それで……」

「父さんなら“イルムの宿”へ行ってるよ」

 僕の聞きたいことを読むなんて、エドガーさんは凄いな。


「それって……」

「その件だ。それよりお客さんが来てるぞ」」

「お客さん?」

 視線で合図されて先にいたのはマリアンさんだった。


「あ、マリアンさん、いらっしゃいませ」

「クリス君、無事だったみたいね」

 どこかホッとして表情を見せるマリアンさんだったけど、どうやらアイネ達のことは聞いているみたいだ。


「はい。僕は全然問題ないですよ。それより無事ってことはアイネ達の件を聞いたんですよね?」

「ええ、アイネちゃん達の報告を聞いて、私の就業時間が終わったから、ゴロリーさんとエリザさんへ相談させてもらおうと思っていたのだけど、ここで待っているように言われたの」

 そうか。でもあの冒険者パーティーも報告に行っているはずだから、どうなったんだろう?


「そうだったんですね。それでギルド側は何か対応したりするんですか?」

「……その前に、本当に[レッドクロウ]がアイネちゃん達を襲ったのね?」

 良かった。どうやらアイネ達は無事に報告は出来たみたいだ。


「う~ん、厳密言えばアイネ達を脅していました。最初は指導しているようにも見えましたけど、剣を向けて仲間……小間使いにしようとしていましたから」

「……やっぱりアイネちゃん達が隠して[レッドクロウ]が魔物を呼び寄せたという乱入者はクリス君だったのね」

「……もしかして、僕の名前は出なかったんですか?」

 てっきりアイネが喋っていると思ったのに……。


「そんな顔しないで……確信が欲しかっただけだから」

「それで僕が介入したことで何か問題があったりしますか?」

「ないわ。ただフォレストウルフを簡単にあしらうことの出来る冒険者がクリス君なのか、個人的に聞いておきたかったの」

「そう……ですか」

 良かった。僕が何かすれば、ゴロリーさん達に迷惑が掛かってしまう。

 それだけは避けたかったから、そうでなければ問題ない。


「アイネちゃんはとても慎重な子なの。だからクリス君のことは一言も話さなかったわ。それは信じてあげて」

 僕がいる時は、アイネ以外がしっかりしているからそうは思わなかったけど、そういう一面もあるんだな。

「はい。それで今回のギルド側の対応はどうなるんでしょうか? 今回のことで対策はあるんですか?」


 でもこのままじゃ、また同じようなことが起きてしまうかもしれない。

 そうなったら、いつも誰かの助けがある訳じゃない。


「アイネちゃん達の言い分は本当だと思うわ。でもギルドとしては、迷宮内でのいざこざは……」

「冒険者ギルドは介入しないでしたか……」

「ええ」

 そうなると、やっぱり最低限の力が必要になる。


「例えば攻撃を受けてそれを撃退したとしても、こちらが犯罪者になる場合もありますか?」

「仮に相手が襲ってきて返り討ちにして無傷だったとしてもならないわ」

 どういう基準なんだろう? そういえば騎士の人達も浄化作戦で傷を負ったし、スラムの住人で亡くなった人もいたけど犯罪者になった話は聞いたことないや。


「それは何でですか?」

「冒険者ギルドや騎士訓練場には審判の宝玉という魔導具があるの。それに触って犯罪者かどうかが分かるようになっているの」

 それは神様が決めているのかな? 


「でも、それが絶対っていう保証はあるんですか?」

「ええ。例えば今回のケースで返り討ちにした場合、犯罪者にならなかったわ。でも仮に攻撃をされていた場合は[レッドクロウ]は犯罪者になっていたわ」

「それってどういう仕組みなんでしょう?」

「そこまで詳しいことはわからないの。でも私はクリス君やアイネちゃん達の味方でいるからね」

 今度メルルさんに聞いてみよう。


 そんな話をしていると、エドガーさんが料理を運んで来てくれた。

 折角なので用意してくれた料理をマリアンさんと一緒に食べていると、ゴロリーさんがようやくお店に戻ってきた。


 ゴロリーさんにマリアンさんを紹介しようと思って席を立ったところで、ゴロリーさんに続いて、シュナイデルさんやジュリスさん、その他の騎士さん達が一緒に入ってくるのだった。

お読みいただきありがとう御座います。


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i306823
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