55 介入
アイネ達と冒険者達の間に割って入った僕を見て[レッドクロウ]と名乗っていたパーティーは、明らかに動揺しているみたいだった。
どうやら【隠密】と【シャドウ】をうまく使えたみたいだ。
本来、彼らの手に持っている剣を打ち落としておきたかったところだけど、いきなり戦闘になる可能性や、もし剣を打ち落とせなかった場合を考えて止めた。
「な、何者だ貴様?」
先頭にいる冒険者がこちらへ剣を構えてながら威嚇してきたけど、怖さは感じなかった。
「……」
僕も無言で剣を構える。
よく見てみれば、彼らの装備はあまり良い物ではなく、構えもシュナイデルさんやジュリスさんのように、隙がないわけではなかった。
これならアイネ達でも戦えたかもしれないな。
僕がそこまで考えたところで、後ろから声がかかる。
「小さいし、貴方まさか……」
そこまでアイネが呟くと、三人がアイネの口を押さえた。
皆、本当にナイス連携だよ。
ここで僕だってバレたら、少し冒険者ギルドへ行きにくくなってしまうから助かった。
そしてにしても……小さいって言われると、とても悲しくなるよ。
冒険者達が僕を警戒したまま動かないでいるのを確認する。
彼らが落ち着きを取り戻して動き出す前に、まずはアイネ達の後方にいるフォレストウルフを倒すことにした。
理由はもしもの場合に逃げ切る為の退路を確保すること、そしてフォレストウルフを一気に倒すことが出来れば相手への抑止力になると思ったからだ。
僕は身体を反転させて、アイネ達の後方へ盾を構えながら駆け出し、フォレストウルフへと突っ込んでいく。
フォレストウルフ達は、こちらの人数の多さに攻めあぐねているようだったけど、集団から一人出て来た僕に対して直ぐに反応した。
ただ戦闘をするのではなく、ちゃんと戦力差を考えられる魔物達は、やはり侮れないと思いながら、僕はその場で急停止して、最初に飛び掛かって来たフォレストウルフの 横っ面を盾で思いっきり殴りつけた。
そして時間差で噛みつこうと飛び掛かってきた二匹目のフォレストウルフの大口へと剣を突き刺した。
するとすぐにフォレストウルフは魔石に変わった。
そして盾で殴られたフォレストウルフは既に体勢を整えていたけど、こちらへ飛び掛かってくることはせずに、剣を構えた僕ではなく冒険者達の方へと向かっていく。
それを目で追うと[レッドクロウ]の後方から、三匹のフォレストウルフが向かってきていることが分かった。
しかし彼らは後方から迫るフォレストウルフ達のことに気がついていないようだ。
「アイネ、彼らって強いの?」
「やっぱり……たぶん私達よりは強いと思うわ。Eランクの冒険者だけど、レベルも向こうの方が上だと思うし」
何で僕だって分かったのか、後で聞いてみよう。
それよりも今はこの状況をどうするかを考えるべきだし……。
「皆は対人戦の経験ってあるかな?」
「ないわ」
「じゃあ逃げる? それとも彼らが負傷するまで待つ?」
「負傷?」
「ほら」
「!? 危ない!」
こちらから向かっていったフォレストウルフと戦闘しようとして、後方から駆けてきたフォレストウルフ達に気づいていない冒険者達。その彼らにフォレストウルフが噛みつこうとしたところで、アイネがそう叫んだ。
だけど、その声は少しだけ遅かった。
「グワァ」
「う、後ろから奇襲だと」
「チィイイ、敵はフォレストウルフだ。慌てるな」
「痛てぇええ、クソ、クソ、クソ」
冒険者達は自分に噛みついてくるフォレストウルフの攻撃に苦戦していた。
本来であれば勝てそうな魔物でも、連携がうまくいかなければ、個人の力で打開するしかない。
だけどこのままだと……。
「ねぇクリス、助けないの?」
いつも元気なアイネが、不安そうに聞いてくる。
きっとフォレストウルフが相手なら、彼らを助けることは出来ると思う。
それでもアイネ達は彼らと揉めていた。
僕はそんな彼らを助けていいのか、迷っていた。
「……アイネはどうしたい? もしかするとまた襲ってくるかもしれないよ?」
助けることは出来るけど、本当に助けていいのかが分からなかったからだ。
僕が助けないでも、彼らは怪我をするぐらいだろう。
そうなれば安易にアイネ達も襲われないだろう。
「それでも迷宮で死ぬなんて……可哀想だわ」
「……分かった。でも、また絡まれるかもしれないからね? じゃあちょっとフォレストウルフ達を倒してくるから、後ろをちゃんと警戒しておいてね」
僕はフォレストウルフに噛まれている冒険者達へ、ゆっくり接近する。
冒険者達は奇襲されたことと、噛まれた場所が悪かったのか、徐々に動きが鈍くなってきていた。
しかも一人は、剣の持ち手を噛まれていて、既に武器が持てない状態だった。
フォレストウルフ達は焦ることなく、じっくり冒険者達を倒すつもりだったみたいけど、それもこれでおしまいだ。
僕が近寄ってきたことに気づいて、右腕、右太ももを噛まんでいたフォレストウルフ達が、こちらへと掛かってきた。
盾を持った左腕を伸ばした状態で、フォレストウルフの攻撃を受けるのと同時に剣で首を突き刺してから払う。
同じように二匹目のフォレストウルフもそのまま攻撃を受けて今度は首を斬り落として見せた。
フォレストウルフ二匹は魔石へと変わり、僕は再び剣と盾を構える。
でもそれはフォレストウルフにではなく、三人の冒険者達へだけど。
腕と足を噛まれていた冒険者は、二匹のフォレストウルフをこちらへ任せている間に剣を拾い、仲間の援護をしていたらしく、残り一匹になっていた。
そしてその残り一匹も三人の攻撃でようやく倒せたみたいで、その場にいたフォレストウルフが全て魔石へと変わった。
そしてその直後に僕と手負いの冒険者達は対峙する形になった。
冒険者達の足は、フォレストウルフに噛まれたせいで血が滲んでいて、たぶん全力で動くことは難しいだろう。
ただし油断は出来ない。
「……」
僕は無言のまま剣を構えた状態でゆっくりと彼らへ近づいて行くと、冒険者達は声をあげながら後退りし、足を引きずって上の階層を目指すように逃げて行った。
そこへアイネ達がやってきた。
「クリス、中々やるじゃない」
アイネは悔しそうな顔をしながら褒めてくれたけど……何か悪いことしたかな?
「ありがとう。アイネ達なら問題なさそうだったけど、相手の顔を知っているアイネ達が戦ったら、揉めそうだったから介入させてもらったよ」
「ま、まぁね。それよりクリス、冒険者になってからまだ数日しか経っていないのに、何でもう六階層にいるのよ」
どうやら心配してくれているみたいだった。
普通は一人で迷宮へと潜る事なんてないから、当然かもしれないな。
「た、たまたまだよ。途中でアイネ達を見つけたから、追いかけて来たんだよ。最近アイネ達や僕みたいな見習い冒険者を奴隷のように扱き使う冒険者がいるって聞いていたから、それを教えようと思って……」
これでごまかせるかな。
「……ちょっと遅かったわ。それよりクリスは何であんなに強いの?」
駄目だったみたいだな。
「えっとゴロリーさんや騎士の人に、訓練をつけてもらっているからかな? 僕はゴロリーさん達へまともな攻撃を当てられた事がないから、自分が強いのか分からないけど……」
「ふ~ん……いいわ。ライバルとして、今日の探索は一緒に回ってあげてもいいわ」
「えっと、今日はこのままこの階層を見て回るつもりだけど、それでもいい?」
アイネは三人に相談すると、首を横に振った。
「今日は十階層へ行くって決めていたの」
「四人とも凄いんだね。さすが僕のライバル」
「ライバル……やっぱり同じぐらい強くなるか、一緒の階層まで来たら一緒に冒険することにしましょう」
「そうだね。直ぐに追いつくから、先で待っててね。それとさっき言った冒険者達のことだけど気をつけてね」
僕はアイネの後ろにいる三人へと視線を向けた。
三人ともしっかり頷いてくれたので、この後は大丈夫だろう。
「アイネ、さっきの冒険者達のことはいいの? 虚偽の報告とかされたら不味いんじゃない?」
「あ――!? そうだった。助かったわ。今日は迷宮へ潜るのをやめておくわ。またね」
「クリス、助かった」
「対人戦、回避出来て感謝する」
「クリスも気をつけるんだぞ」
そう言ってアイネ達は、五階層の階段へ向かって行った。
「とりあえず安全エリアを探して、ホーちゃんへ魔力供給しようかな。それにしても……」
対人戦をすることがなくて本当に良かった。
勇気と蛮勇は違う……アイネ達を助けられたのはただ運が良かっただけだ。
もっと皆を守れると断言出来るだけの力が欲しい。
僕はそう思いながら、六階層の安全エリアを探すのだった。
お読みいただきありがとう御座います。