表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/70

46 未来の為に……

 勢いよく“エドガー食堂”へ入って来た騎士達は、声を上げようとしたところで、食事をしていたこちらを見て固まった。


 それを確認してシュナイデルさんが口を開いた。

「貴様ら、民間の食堂に押し入ってくるとは何事だ! 所属と目的を言え。場合によっては軍法会議に掛けるぞ」

「ティアリス・ソレイユ様の食事を妨げる程、重要なことならまだしも、それ以外だった場合は覚悟しなさい」

 アニタさんも笑顔だった先程とは違い、無表情で入って来た騎士達を見てそう声を上げた。


 だけど僕はその二人のことよりも、ゴロリーさんとエリザさんのことが気になっていた。


 元々は騎士の人達を好きではなく、シュナイデルさん達と話すようになったのも僕の訓練がきっかけだった。

 先程の騒動で、エドガーさんを傷つけた相手が“もしかすると騎士の中にいるかもしれない”と、聞いた時のゴロリーさんはとても怒っているように見えた。


 そしてそれから直ぐ乱暴にお店へ入ってきた騎士達に対して、ゴロリーさんとエリザさんが怒らない訳がなかった。

 二人が一緒に怒ることは今まで一度もなかったから、何か大変なことが起こりそうで、僕の心は落ち着かなくなる。


 そんな僕の気持ちを無視するかのように、騎士達が固まっていた後ろから声が聞こえきた。

「貴様達、何を固まっている。魔力枯渇しているティアリス・ソレイユ様の身柄を速やかに確保しろ。抵抗する者がいるなら斬っても構わん」

 しかし動く騎士達はいない。


 その反応を見て、ゴロリーさんが静かに口を開く。

「シュナイデル、こいつら潰してもいいよな? とりあえず命令している奴は念入りに」

「まさかお店に押し入って来て、生殺与奪の権利を自分達が持っているとでも思っているのかしら? どんな状況でも騎士が偉いなんて妄想を持っているなんてね」

 ゴロリーさんからはうっすらと何かの膜が身体から出ているし、エリザさんからは雷がバチバチと出ていた。


「いえ、それには及びません。騎士団のことですからこちらで対応させていただきます。もちろん後日お詫びもさせていただきます」

「ならば、この場を納得のいくように仕切ってみてくれ」

「ありがとう御座います。貴様ら、剣を鞘に納めよ。それが出来なければ騎士権の剥奪(はくだつ)及び犯罪者として投獄もしくはこの場で斬り捨てる」

 シュナイデルさんはゴロリーさん達の言葉に首を振り 固まっていた騎士達にそう声を掛けると、騎士達は直ぐに剣を鞘へとしまった。


 それを見たシュナイデルさんとジュリスさんが、騎士達の元へゆっくりと歩いていくと、騎士達を店の外へと投げ飛ばしていった。

 ゴロリーさんは少しつまらなそうにしながら、シュナイデルさん達の後を追い、エリザさんはお店へ残ることにしたらしい。


「クリストファー君、ここでティア様と食事を続けておいてもらえますか? 直ぐに戻りますので」

 アニタさんもどうやら外へと行くみたいだ。


 騎士達のことだから、本部から来たアニタさんも行かないといけないんだろう。

 そう思った僕はティアに声を掛ける。

「……はい。ティアもそれでいいよね?」

「直ぐに戻って来てくれる?」

 ティアは心配そうにアニタさんを見つめる。

「ええ。約束致します」

 アニタさんが微笑んで頷いたことで、ティアは安心したみたいだ。


「じゃあクリス君と一緒に食事をしながら待っているわ」

「それでは」

 そしてアニタさんが外へ出て行ったところで、僕は料理へと手を伸ばしながら、ティアへ質問することにした。


「ティアの周りでは、今日みたいなことがよく起こるの?」

「……どうして、そう思うの?」

 少し悲しそうな顔をしたことで、僕の言ったことが正しいのだと確信する。


「何だか落ち着いている気がするからかな。それはアニタさんにも言えることだけど……」

「クリス君はよく見ているんだね。前にこの街へ来た時は、まだ聖女の再来なんて言われていなかったの。でも最近そう言われるようになってから、色々な人が近づいてくるようになって……」

 今にも泣き出しそうなティアを見て、僕が悲しい時に嬉しくなることを考えて、実践してみることにした。


「そうなんだ。あ、これも美味しいから食べてみてよ。僕はこれが好きなんだ」

「……クリス君は気にしないの?」

 ティアはとても不安そうにこちらを見ていた。


 僕はふと“小さい子や友達が不安な時は、笑顔で接するのが一番だぜ”と、教えてくれたフェルの言葉を実践することを決め、笑顔で僕の考えをティアに伝えていくことにした。

「僕達はまだ子供だから、出来ることは限られているよ。だから自分では解決出来ないことの方が多いでしょ?」


 僕も出来ないことの方が多くて、その度にゴロリーさん達を頼ることしか出来ない。それに迷惑だってたくさん掛けてしまっている。

 今の僕に出来るのは頑張ることだけしか出来ない。


「でも迷惑を掛けているんだよ?」

「その迷惑を掛けてしまったと思える気持ちが大事なんだと思うよ。あ、これも美味しいよ」

「……」

 僕が料理を勧めても、ティアは僕をじっと見つめて、何かを言おうとして、でも言葉が口から出ないような感じだった。


「僕もティアと変わらないよ。いつも皆に助けてもらってばかりで、迷惑ばかり掛けてしまっている。だからこそ今は沢山努力して、いつかは迷惑を掛けてしまった分、皆の力になりたいと思うんだ。ティアはそれじゃあ駄目だと思う? 僕はティアが凄く頑張ったんだって、褒めてくれる人がたくさんいると思うよ」

 僕とティアの立場は違うと思うけど、きっとティアだって頑張ったから、凄い回復魔法が使えるようになったのだと思う。


 するとずっと黙っていたエドガーさんが口を開いた。

「クリスの言う通りだ。子供では対処出来ないことなんて山のようにある。俺はお嬢さんがいなければ死んでいた。そうしたら愛する奥さんや産まれたばかりの子供にも会えなくなるところだった。本当に感謝しているよ。助けてくれてありがとう」


 その言葉を聞いたティアはホッとした様子を見せた。

 もしかするとエドガーさんの怪我を自分の責任だと思っていたのかもしれない。


 そこでエリザさんがティアに問いかけた。

「ティアリスさんは既に利権を争う道具にされていることを自分で気づいているのね?」

「……はい」

「ティアリスさんは何歳なの?」

「十歳になりました。ですから、今回の作戦に同行する許可をいただけました」

 アイネ達と一緒の歳だ……。


「そう。もし聖女様になるのが嫌なら、冒険者になる手だってあるわよ」

「ちょっと母さん、何を言っているんだよ」

 エリザさんの驚く発言に、エドガーさんは驚きの声を上げる。


「確かに冒険者は危ないけど、信頼出来る人達となら、それはとても楽しい世界が待っているわ。貴族のしがらみもないしね」

「そうなんですか?」

「ええ、経験者は語れるものなのよ」

「それでは、貴族の出でいらっしゃるのですか?」

「もう数十年も前のことだけどね」

 驚くことにエリザさんは元貴族だったらしい。


「冒険者……考えたこともなかったです」

 微笑むエリザさんに対して、ティアは呆然とした様子で言葉を零した。


「もし今の立場がどうしても嫌になったのなら、アニエスタ・ブライバルさんと相談して、またこのお店を訪れるといいわ」

「ありがとうございます」

 ティアは微笑むエリザさんを見て、徐々に目に涙を溜めると自然に涙が零れ落ちた。


 その後、泣き止んだティアは泣いてしまった理由を恥ずかしそうに教えてくれた。

 何でも聖女の再来と呼ばれるようになってから、本当にティア自身を見て優しい言葉を掛けてくれる人がいなかったらしい。

 僕にはその意味がよく分からなかったけど、エリザさんはティアを優しく抱きしめていた。

 二人のそんな姿を見つめながら、自分がいかに恵まれているのかを再認識することになった。


 それから暫くしてゴロリーさん達が帰って来たのだけど、スッキリとした表情のゴロリーさんに比べ、シュナイデルさんはお腹を押さえて、ジュリスさんとアニタさんは終始苦笑いを浮かべていた。


「クリス君は、伝説の騎士みたいにはならないの?」

「今は冒険者になって、世界各地を巡ってみたいって思っているよ」

「少し羨ましいかも」

「僕が凄い冒険者になって、ティアも一緒に連れていってあげるよ」

「楽しみにして待っててもいいかな?」

「うん。その為に、一生懸命頑張るよ」

「うん」

 僕達は笑い合って握手する。


「じゃあティア、またどこかで会おうね」

「ええクリス君、またどこかで会いましょう」

 こうしてティア達は“エヴァンス高級宿”へと帰って行った。

 僕が僕と同じぐらいの身長だったティアを見送りながら、魔力枯渇だけは気をつけようと密かに決めた。


「二十人もの騎士が護衛なんて、考えただけでも疲れるわ」

 エリザさんは去っていった騎士達を見てそう口にした。


「そういえばエリザさん、どこの国の貴族だったんですか?」

「気になるの? クロスフォード王国よ。だけど私は冒険者になって正解だったと思っているわ」

 エリザさんそう言って笑った。


「ゴロリーさん達と会えたからですか?」

「う~ん、ゴロリー達とは小さい頃から知っている仲だったからそれは少し違うけど、色々場所で色々な経験をして、今の生活に満足しているからかしらね」

 ゴロリーさんやエリザさんの昔話には、驚くことがいっぱいあるから、僕もそんな経験がしてみたかった。

 

「僕もそんな冒険者になりたいです」

「そうね。でも出来ることなら、誰かを守れるぐらい強い冒険者になってほしいわ」

「はい」

 でもそれは誰かではなく、お世話になった人達全員の力になれるように、そして僕の為にもこれからも頑張り続けることを決めたのだった。

 

 そしてめまぐるしく月日が流れていく。




お読みいただきありがとう御座います。


本当はあと一つか、二つエピソードを追加する予定でしたが、これにて七~九歳編を終わりにします。

いずれ加筆するかもしれません。

次回から冒険者編になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i306823
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ