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39 焦りと決意

本日2話目

 八歳になった僕は、ゴロリーさんとエリザさんの家の地下訓練場で、ゴロリーさんへ向けて攻撃をしていた。


 今まで以上に強くなる為、シークレットスペースを使った武器交換の戦闘技術の底上げをするためだ。

「クリス、武器交換のタイミングが遅い。それじゃあ攻撃してくる相手に、攻撃してくれと言っているようなものだ」

「はい」

 シークレットスペース【収納】【排出】は、意識するだけ使えるようになってきたけど、使えるようになっただけでうまく活かすことは出来ないでいる。


「その武器交換はうまく使うことが出来れば、とても有能な技能になる。ただし上手く使うことが出来れば、の話だ。今のままだと不意打ちだけでしか使えない」

「それって今まで通りってことですよね」

 僕はがっくりと肩を落とした。


「ああ。その武器交換は武器交換で練習する時間をしっかりと持てばいいが、今はちゃんと速く、強く、正確な攻撃が出来るように集中した方がいい」

「分かりました」

 僕はそれから出来るだけ無駄を省いて、基本となる速く、強く、正確な攻撃を心掛ける。


 どの武器にも共通するのは身体の中心軸をブレさせずに、体重移動で攻撃力を高めるというもの。

 そして無駄を省いていくと速い攻撃にはなる。あとはいかに正確な振りが出来るのかだ。

 体勢が崩れた状態での無理な攻撃は怪我の元らしく、何度も叱られたことで、ようやく無理な体勢にならない戦い方が分かってきた。

 ただゴロリーさんにまともな攻撃を……驚かせるような攻撃も入れたことがないので、いつかは入れたいと密かに思っている。


「うん、だいぶ良くなってきたな。本来であれば防御訓練もしたいところだが……俺は手加減が下手で、それが出来ない」

 ゴロリーさんが手加減しての攻撃練習をしているのは知っている。


 エリザさんが苦手な土属性魔法でゴーレムという土人形を作って、ゴロリーさんが攻撃すると、大抵の場合“爆散してしまうの”とエリザさんが嘆いていたから。

「ははっ。でも孤児院の子供達から逃げることで、攻撃を避ける訓練は出来るんですよね?」


「ああ。相手がどう動くかをしっかりと見ることで、避けることは出来る。ただこれも相手に技量がない場合だけだ」

「それって前に言っていた、正直な攻撃ってことですか?」 

「そうだ。クリスが子供達の攻撃を避けられるのは、相手の視線や姿勢でどう動くかが分かるからだ。これはレベルが上がったことで、相手の動きが良く見えているからだ」

 ゴロリーさんの言葉に僕は納得する。


 今までレベルがリセットされて、レベル四の状態で孤児院へ行くと、最終的には捕まってしまうことが多かった。

 力や素早さは僕が誰よりも高いのに、だ。


「惑わされない為にはどうしたらいいんでしょう?」

「経験を積むしかないな。後は相手の魔力や気配の些細な変化を見逃さないことだな」

 じゃあこのまま訓練を続けても、それが分かることはないのかも知れないな……。


 だったら何かスキルで有効なのがあればいいかもしれない。

「【心眼】のスキルはどうなんですか?」

「う~ん、確かにあれば少しは役立つだろう。不可視の攻撃をも見破れるというものらしいからな。だがそれでも経験を上回ることはないと思っているけどな」

「そうかぁ~。ゴロリーさんはスキルで同じような効果があるスキルを持っていないんですか?」

 僕は質問しながら、人のスキルを聞いたことがなかったことに気づいた。


「ああ。俺はどちらかというとそっちの才能がなくてな。だから今みたいに攻撃を受け切ることに特化したスキルしかない」

 ゴロリーさんは照れくさそうに笑った。


 じゃあゴロリーさんは避けることをしないのかな? それってもの凄く危ないんじゃないのかな?

「それはどんなスキルなんですか?」

「ああ【鉄壁】【不動】【金剛力】【不退転】だな。昔はこれらのスキルを使って仲間と一緒に戦ったものだ」

 何だか凄そうなスキルばかりだった。


「それって、エクスチェンジにはなかった気がします」

「全て統合スキルだからな。それにクリスが覚えても身体が軽すぎるから、今はまだ必要ないさ」

 ゴロリーさんは笑って僕の頭を撫でてくれた。

 僕は撫でられながら、不安な気持ちになっていた。


 こんなに凄いゴロリーさんでも、迷宮を踏破出来なかったってことが僕には少しショックだったのだ。

 イルムさんは迷宮が未だに未踏破だと教えてくれていたから間違いない。

 そう考えていると、今のままの僕では絶対に迷宮を踏破することが不可能だと言われているみたいな気がしていた。


「ゴロリーさん、僕が迷宮で寝泊りするのはまだ駄目ですか?」

 それなら少しは早くスキルを覚えられるはず。


「駄目だな。クリスのやることはまず沢山の食事と睡眠だ。しっかりと身体を作らないといけないことは話したが、分かってもらえなかったか?」

「ううん。でも沢山レベルを上げて、沢山のスキルを取って、統合していった方がいいと思って……」

 約束を守ってきたから、今の幸せな毎日がある。

 それにゴロリーさんやエリザさんと約束させられたことは、全て正しいものだ。


「クリスは今大事な成長期に入ったんだ。これは十二歳まで続く。もしこの期間を無駄に過ごしたら、一生後悔することになる。だから焦らないでくれないか」

 その言葉で、さっきの不安よりも強い不安を感じる。


「その成長期って、身長が伸びるための期間じゃなかったんですか? それと十歳から冒険者になれるけど、それも駄目ですか?」

「もちろん十歳になれば迷宮に潜ることは止めない。だが期間中は本当に色々なことを覚えやすくなる大事な時期なんだ。だからこそしっかりと技術を磨いて欲しい」

 冒険者登録もしていいみたいだし、そこはホッとした。

 色々な技術を自分のものに出来るのであれば、きっと僕の為なのだと思うと、少しずつ不安が消えてくのが分かる。


「スキルを持っていても、それを使いこなせていないなら、持っていないのと同じだってことは分かっているから……分かりました」

「後悔はさせないからな。しかしそうか……レベルを上げることが気になるなら、早朝に迷宮へ寄っていくか?」

 それは思い掛けない言葉だった。


「えっ、いいんですか?」

「時間はそれほど掛からないんだろ?」

「はい」

 スライム一匹だけなら、直ぐに終わる。


「クリスがそれで迷宮に寝泊りしないなら、その方がいいからな」

「ありがとう御座います、ゴロリーさん」

「よし。じゃあもう一度武器を変えて打ち込んで来い」

「はい。いきます」

 こうして僕はゴロリーさんに感謝して、武術訓練に【集中】していくのだった。



 それから同じように訓練をする日が暫らく続いたある日。

 エリザさんの魔法訓練が急遽中止になる出来事が発生し、その理由は驚くべき内容でとてもびっくりするものだった。


 なんとメルルさんが赤ちゃんを産んだのでした。

 親代わりの師匠みたいなエリザさんが魔法を掛けながら、出産に立ち合い、無事に男の子が産まれてたのでした。


 男の子はニール君と名付けられたみたいだけど、僕やゴロリーさんがニール君を見ることが出来たのは、それから二か月経ってからのことだった。


「クリス君、この子がもう少し大きくなったら、一緒に遊んであげてね」

 ニール君を僕に見せてくれた時、メルルさんに笑顔でお願いされた。


 その言葉はずっと守られてきた僕が初めて守る側になったことを感じさせてくれた出来事だった。

「もちろんです」

「ありがとう」

 メルルさんは本当に嬉しそうに、そしてその隣にいるカリフさんも笑顔だった。


 僕はそんなメルルさんやカリフさんを見て、お父さんとお母さんのことを思い出していた。


 お兄が家を出たのなら、僕はお父さんとお母さんに会いに行ってもいいと思って、ゴロリーさんとエリザさんにそれを告げると、直ぐに僕の家まで一緒に行ってくれた。

 だけどそこに住んでいたのは、お父さんとお母さんではない人だった。

 少し前にお母さんの実家がある隣町へと引っ越しをしたと教えてもらった。


 お父さんの怪我はすっかりと良くなっていることも教えてくれたけど、どうやら引っ越したことにはお兄のことが絡んでいるらしかった。

 ゴロリーさん達が僕が会いたい時に会いに行けるように、住んでいる場所なども調べてくれたので、いつでも会いに行ける。

 だけど僕は直ぐには会いにいかず、一人前になってからお父さんとお母さんに会いに行くと決めた。


 そうじゃないと、きっと僕は今の目標を失ってしまう気がしていたから。

 そうゴロリーさん達に告げた僕は、たくさん泣いてしまったけど、二人は僕が泣き止むまで側に居てくれた。

 

 僕は二人のように、僕を守ってくれる皆のように優しく強くなれるように、これからも必死で頑張ることを心に決めた。

 

お読みいただきありがとう御座います。

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