38 使い勝手
レベル五十と交換出来るスキルは本当に色々あった。
ゴロリーさんのお勧めスキルは、統合スキルの【心眼】【総気操術】特殊スキルの【武人の心】だった。
エリザさんのお勧めスキルは、統合スキルの【総魔操術】身体能力補助スキルの【思考加速】魔法スキルの【多重詠唱】だった。
僕はよくフェルが話してくれていた剣聖が使っていたと云われている武術スキルの【瞬動術】統合スキルの【危険予知】【超回復】だった。
色々と相談した結果、まだ身体が出来ていない状態で【瞬動術】を使うと、小さい身体に負担を掛けることになると却下される。
それと【瞬動術】は、レベル四十と交換出来るスキルだったから、外されることになった。
エリザさんの選んだ【思考加速】もまた負担がかかるからという理由で外れ、【多重詠唱】はまだ基礎を学ぶ段階だからと却下された。
ゴロリーさんの【心眼】は僕もいいと思ったけれど、僕には索敵があるし【集中】した時の癖を直すまでは危ないとの理由で却下された。
結局【総気操術】【武人の心】【総魔操術】【危険予知】【超回復】の中から選ぶことになった。
「この【超回復】はまだそこまで回復を必要としないから、却下でいいか?」
「それなら【危険予知】も数秒後に起きる危険を察知出来るように【索敵】を磨けば必要ないわ」
こうして僕の選ぼうとしていたスキルは、今回お預けが決まった。
ただ別に落ち込んだりはしていない。
ゴロリーさんとエリザさんが真剣に僕のスキルについて考えてくれているのが分かっているからだ。
「……考えてみれば、まだ【闘気】系統のスキルは、身体が出来ていないから一度も教えてないしな、【総気操術】も却下だ」
【闘気】は【身体強化】などと違って魔力を使わずに、自分の本来持っている力を最大限に発揮させるものらしい。けれど、その反動が凄いみたいで、少しの使用でも身体を動かすのが痛くなるものらしい。
ただ子供の僕が使うと、身長が伸びなくなる可能性が高いと教えてくれた。
いったい幾つ身長が伸びなくなってしまうことがあるんだろう。
僕は肩を落としながら【総気操術】の交換を断るのだった。
「じゃあ【【総魔操術】】でいいのね?」
「ああ。統合スキルで何のスキルがくっつくのかは分からないが、魔法なら大丈夫だろ」
「……そうね、この冬は魔法の練習を頑張ってきたのだから、ご褒美みたいなものよね。じゃあクリス君、統合スキルの【総魔操術】と交換しましょうね」
確かにこの冬は沢山魔法の練習したなぁ。
でも、武術訓練やグランさんのところでも色々と頑張ってきたけどね。
スキルがご褒美か……エリザさんからのご褒美だと思えばいいのかな? うん、それならいいかも。
「分かりました。じゃあ今夜【総魔操術】と交換してきますね」
エリザさんは嬉しそうにしていたけど、ゴロリーさんは少しだけ残念がっているようだった。
そしてこの日もいつも通りの日常を過ごした僕は、日の暮れた頃に迷宮へとやってきた。
周辺を確認してから【索敵】【気配遮断】【魔力遮断】【隠密】を発動させ迷宮内を歩き回る。
そしてスライムを見つけたところで、いつもより多くの生ゴミを【排出】させると、エクスチェンジを発動させレベルとスキル【総魔操術】の交換を選択する。
一気に身体から体力が奪われていき、立っていられなくなりそうになったけど、【虚弱耐性】が効いてくれたみたいで、何とか踏みとどまることが出来た。
スライムが生ゴミを吸収し始めたのを確認してから止めを刺すと、身体に力が漲る。
そしてようやく身体が重くなった状態から解放されるのだった。
「ふぅ~、いつも思うけど、結構辛いな〜」
そんな本音が思わず口から零れてしまったけど、僕はそのまま安全エリアまで歩いて行った。なんのスキルと統合されたのかが気になっていたからだ。
すると頭の中で【体内魔力感知】【魔力操作】【魔力循環】【魔力制御】【魔力纏】が【総魔操術】スキルに統合されたことが分かった。
「えっと……【魔力纏】は朝晩の短い時間に一回ずつしか使ってこなかったのに、スキルレベルが上がっていたってこと?」
そう考えてると、最初から【闘気】を発展させるような【総気操術】はエクスチェンジ出来なかったことになるよね? どういうことなんだろう? これは報告しなくちゃダメだね。
今日はいつも通りにスライムを倒してレベルを上げることにしよう。僕はそう決断した。
きっと【総魔操術】は凄いスキルだと思うけど、レベルの低い僕が使えばどうなるか分からないから。
【魔力纏】の時みたいに、もしもがあったら困るし……。
それからエリザさんが迎えに来てくれるまで、僕は一度も【総魔操術】を発動させることはなかった。
そして翌日の魔法訓練の時間に【総魔操術】を初めて使ってみた。
結論から言うと【総魔操術】は便利なスキルではあった。
意識するだけで【魔力操作】【魔力循環】【魔力制御】がスムーズに実行出来るようになったからだ。
それは【魔力纏】も同様で、使う時と使わない時を瞬時に切り替えることが出来たのだ。
しかし、今までよりも多くの魔力を使ってしまうみたいで、【魔力纏】を試したのは少しだけだったのに、もう少しで意識が飛びそうになってしまった。
【魔呼吸】を意識して、呼吸していると徐々に目の前のチカチカが治ってきたけど、エリザさんがとても心配して、この日の魔法訓練は終了となった。
そして魔法訓練は最低でも、レベル十以上の時以外は禁止となってしまった。
少し残念だったけど、僕は素直に受け入れることにした。
「ちょっと残念だけど、いい機会だからクリス君には[固有スキル]じゃなくて、自力でスキルを身につけてみましょうか」
「えっと、どんなスキルですか?」
いきなりスキルが身につけられると聞いて、僕の心は高鳴りを出した。
「【瞑想】【祈祷】というスキルよ」
「あれ? この間【瞑想】スキルは失敗しちゃったし【祈祷】は神様に祈るから教会じゃないといけないって、誰かから聞いたことがあったような……?」
「この間の【瞑想】はお昼を食べた後だったからクリス君が寝てしまったし、【祈祷】は神様にちゃんとお祈りするのであれば、場所は選ばないのよ」
そう言えば寝てしまったから失敗していたんだった。
目を瞑ってゆっくり呼吸するだけで、眠くなっていったんだっけ。
あ、そういえばカリフさんとメルルさんが教会に行き始めてから、一緒に教会へ祈りに行こうと誘われたことがあったけど、その時に【祈祷】のことを聞いていた気がする。
「たしかメルルさんとカリフさんに教わったんですよ」
「あ~最近教会へ行くようになったから、シスターから聞いたのかも……でもそれは間違いよ。後でちゃんと教えてあげなきゃね」
それからエリザさんは【瞑想】と【祈祷】について教えてくれた。
まずは【瞑想】だ。
僕は楽な姿勢で座ると、目を瞑ってゆっくりと呼吸をしていく。
そして徐々に周りから音が消え、自分の心の音を聞いていく。
何も考えないで全てを受け入れるように、ゆっくりと呼吸する。
そして僕は意識が奥へ奥へと吸い込まれていった。
☆★☆
僕は何かに向かって魔法を放ったけど、その全てを弾き返されてしまう。
だけどその弾き返されてきた魔法を、僕は楽しそうに剣で斬っていた。
場面が切り替わる。
僕は何かの背に乗り、空を飛んでいた。
だけど空を飛んでいるのに、楽しそうではなく、とても焦っているようだった。
また場面が切り替わる。
たくさんの人が倒れている場所で、僕は膝を突いて泣いていた。
そんな僕を慰めるように、顔を舐めて来る何かの優しさに心が救われた。
更に場面が切り替わる。
僕は大きな声を上げて、角や尻尾が生えている巨大な人? へと斬りかかった。
だけど怒っている僕は冷静じゃなかったから、死角から放たれた攻撃に気が付けなかった。
でもそんな僕の代わりに、死角からの攻撃を受け止めてくれた何かがいた。
そして場面が切り替わった。
血だらけの僕に駆け寄ってくる仲間達の声が聞こえた。
☆★☆
僕は胸が苦しくなって目を開けると、側にはエリザさんの姿があった。
「クリス君? また眠っちゃってたの? って、何でそんなに泣いているの?」
エリザさんはびっくりしていたけど、僕もなんでこんなにも涙が溢れてくるのかが分からなかった。
ただ僕は頑張って強くならなければいけない。
そんな気持ちが強く心に残る夢だった。
お読みいただきありがとう御座います。