35 認め合う心
ゴロリーさん、エリザさんと一緒に孤児院へとやってきた僕は、孤児院を訪れたところで、声を掛けられた。
「おい、クリストファー」
声を掛けられた方へ視線を向けると、そこにはレベッカとマリンを含めた十人の子供達が立っていた。
「クリス、俺達は院長と話をして来るから、遊んでいていいぞ」
「はい」
「クリス君のことよろしくね」
「「はい」」
エリザさんの声にレベッカとマリンが答えたところで、ゴロリーさんとエリザさんは楽しそうに笑って、孤児院の中へと入っていった。
僕はその姿を見送って、前に泣かしてしまったことを謝ることにした。
ゴロリーさんやエリザさんは“別に悪いことをしていないのに謝る必要はない”と笑って言ってくれたけど、最後には僕のしたいようにするのが一番だと言ってくれたから。
「この前はごめんね。僕、駆けっことか、かくれんぼとか、いつもスラムの人達から逃げているから得意なんだ」
すると一番前の男の子は、面倒臭そうな顔をして言った。
「謝るなよ。お前が謝ると、院長先生やシスターに怒られるんだよ」
「どうして?」
「正々堂々と戦った相手を認めないのは……何だっけ?」
「心が汚くなるって、言ってたわ」
「そうなるといつまでも子供のままだって言っていたの」
男の子が考えるように腕を組むとレベッカとマリンが教えてあげていた。
「そうだ。呪いを掛けられて、一生子供のままになるんだ」
「えっ!? それ本当? 魔力切れを起こしたら身長が伸びなくなることなら知っているけど……」
まさかそんな呪いがあるなんて……僕は正々堂々と戦う相手を認められる心を持とうと思った。
だだでさえ魔力切れを起こしていて、レベッカやマリンよりも身長が低いのに、これ以上伸びなかったら悲しいもん。
「はぁ? 魔力切れって、魔法使うってことか? シスターも魔法を使っているけど……あ、そういえば胸は大きいのに身長は低かったような?」
「「「シィー」」」
男の子の周りにいる子が一斉に、鼻の前で人差し指を立てて男の子に口を揃えた。
「アイネ姉、それを言ったら食事を減らされちゃうじゃない」
「そうよ。シスターは地獄耳なんだか、絶対にいっちゃ駄目よ」
アイネ? 何だか女の子の名前みたいだけど……一応聞いておいた方がいいかな~?
「アイネ? は女の子?」
「はぁ? 何当たり前のこと聞いているんだよ」
何故か笑顔になったアイネを見て、先に聞いておいて良かったと思う。
嬉しそうだし、今まで男の子と思っていたことは秘密にしておこう。
「クリス君、凄~い」
「今までアイネ姉のことを見た人は皆、男の子だって思っていたのに」
レベッカやマリンだけじゃなくて、他の子供達からも知らないうちに凄いと思われてる? そんな風に見れているようで、少しだけ恥ずかしくなってしまう。
「って、和んでいる場合じゃない。今日も勝負だ」
「かくれんぼと駆けっこは得意だからね」
それ以外の勝負にしてくれるといいな。
あ、でもレベルが高くなっている今は、力比べとかは危ないからしちゃ駄目って、ゴロリーさんに言われているんだよね。
「今日の勝負はかくれんぼだ。でも、今日は私達が鬼だ。レベッカとマリンもこっちのチームだぞ」
アイネが選択した勝負はまたかくれんぼだった。
しかもゴロリーさんが教えてくれたみたいに、僕だけのチームだった。
「う~ん。いいけど、僕は隠れるのも上手いから、どれぐらい隠れていたら勝ちなのか決めてもらってもいい?」
今度は泣かせないように頑張ろう。
「ふっふっふ。凄い自信だな。よし、じゃあクリストファーが負けたら、クリストファーは私達の子分だ」
「じゃあ僕が勝ったら、僕が親分?」
それってフェルみたいな、ここにいる子達のお兄さんになるっていうことかな? 僕より背が高いけど大丈夫かな?
「うっ……仲間にしてやるだけだ」
残念ながら違ったみたいだ。でも仲間になれるなら、本当に頑張らなきゃね。
「う~ん……じゃあ、僕を見つけてタッチ出来たらにしてくれればいいよ」
「いいぞ。よし、それじゃあ場所は孤児院の敷地の中で、大人達が来るか、お昼までだ」
「えっ!? 長くない? そんなに僕を子分にしたいの?」
「したい」
アイネは目をキラキラさせなから、そう言い切った。
僕はその姿に笑うしか出来ない。
「アイネ姉、それはさすがにクリス君が可哀想だよ」
「クリス君にタッチ出来た人の子分だけにしてあげようよ」
「う~ん、どうせ私が捕まえるし、それでいいぞ」
レベッカとマリンのおかげで、ずっと楽になった。
後でお礼をすることして、僕はこの一か月磨いてきた【隠密】【気配遮断】【魔力遮断】を使って隠れることにした。
もし見つかったら、全力で逃げるぞ。
「えっと、じゃあ隠れるよ?」
「ああ」
アイネや子供達は僕が逃げ切れないと思っているのか、笑っていた。
これは絶対に負けられない。
僕はそう決意して、皆が十数えているうちに、建物の中へ入ることにした。
孤児院と教会の中は繋がっているけど、孤児院側から教会への入室は認められていない。
教会へ行くには一度孤児院を出て、教会の入り口から入るというルールがあるらしい。
僕は昔フェルから聞いたことを思い出した。
でも、さすがにルールを知っていて、それをするのは駄目だよね。
僕は歩き回るのを止めて意識を【集中】していくと、子供達が動き始めたのが分かった。
う~ん……あ、あそこならいいかも。
僕は【隠密】【気配遮断】【魔力遮断】を使ってから、開いた扉の内側に隠れた。
すると子供達が一斉に孤児院の中へなだれ込んて来た。
「教会には行ってないみたいだから、孤児院の中にいるぞ」
アイネの声が聞こえて、皆が中へと探しにいった。
僕は全員の位置を把握してみると、レベッカとマリンは食堂の方へ向かって行き、他の子供達は奥の部屋へと探しに行ったみたいだった。
「じゃあ、逃げようかな」
僕は外へ出て、隠れやすそうな木の上で【隠密】【気配遮断】【魔力遮断】をしたまま、皆の動きを【索敵】してみることにした。
【集中】することで、皆が色々と探しているのが分かる。
それから暫くして、アイネは僕が最初に居たところで止まっていたけど、また建物の奥に向かっていった。
「これって楽しくないな……でも負ける訳にはいかないし……」
僕はただ隠れているのにだんだんと飽きてきてしまう。
孤児院の子供達も最初はあっちこっちを駆け回っていたのに、疲れたのか徐々に動かなくなっていた。
動いているのはアイネと、以外にもレベッカとマリンだった。
でもレベッカとマリンは、食堂と調理場を行ったり来たりしているだけだったから、僕を探すことよりも、ゴロリーさんの料理に夢中になっているみたいだった。
「あの二人らしいね……。ずっと隠れているのもつまらないし、追いかけっこでも捕まらなければいいだもんね」
僕はそう自分に言い聞かせると、木から降りて孤児院の庭の真ん中に立った。
それから少しして、僕を見つけたのは、泣きそうな……泣いた? アイネだった。
「あ~クリストファー!!」
アイネの大きな声で、疲れて動かなくなっていた子供達も一斉に庭へと出てきた。
「皆来ないし、アイネも泣……きそうだったから、出て来たよ」
「なんだと、手を抜くのか!?」
アイネは怒り始めた。
「ううん。一人で隠れているのに飽きちゃったから、今度は皆から逃げる子鬼ごっこをしようと思って。もちろん負ける気はないよ」
僕が笑うとアイネも面白そうに笑った。
「クリストファー、後で謝っても子分だからな」
「それは捕まえられたらだね」
「く~、者ども掛かれ」
こうして僕は八人の子から逃げることになった。
飛び掛かってくる子、左右から捕まえに来る子達、徐々に近づいて逃げる場所を誘導する子達ととても面白い。
僕は飛び掛かって来たアイネを避けて、挟み込んでくる子供達を前転で躱し、あえて通れなそうなところを走って抜ける。
アイネは同じように掛かってくるけど、何となく動き方が分かる。
でもここで、頭と頭をごっつんこする子や転んでしまって、膝を擦りむいて泣いてしまう子が出来てきてしまう。
「ねぇアイネ、今日はもう終わりにしようよ。怪我をした子達が泣いているし」
「スン、スン、ズズゥ勝ち逃げするのか」
「えっと、子分じゃなくてもいいなら、またいつでも勝負はするけど、それじゃあ駄目なの?」
「……シスターに怒られるから、それでいい」
アイネは皆のことを見てからそう言った。
その目からは涙が溢れていた。
「ごめんね」
「男が簡単に謝るな……次は勝つ」
「次も負けないけどね」
「んっ」
アイネは僕に向かって手を差し出した。
「握手?」
「仲間になるんだろ? 仲間とは握手するのが孤児院の決まりなんだよ」
アイネはそっぽを向きながら教えてくれた。
「うん、よろしくねアイネ。僕のことはクリスでいいよ」
「お前は私のライバルだ」
「ライバル?」
女の子のライバルって、どうなんだろう?
「次は負けないからな」
「ははっ、分かったよ」
「ほら、皆もクリスと握手してやりな」
その一言で、僕はアイネを含む八人の子供達と握手をした。
そこへ――
「皆、お昼だよ」
「今日はご馳走なの」
レベッカとマリンがお昼の告げに来てくれたのだった。
こうして僕は何とか、孤児院の子供達と遊べるようになり、孤児院へと行く度、子供達とかくれんぼと子鬼ごっこをするようになるのだった。
お読みいただきありがとう御座います。
友達の仲間の境界線って、難しいですよねw