34 かくれんぼ
日課となりつつあるゴロリーさんとの早朝訓練は、相変わらず僕が一方的に攻撃をするだけなのに、いつも疲れてしまうのは僕の方だった。
「レベルが上がっているから、力とスピードは上がっているな。ただその分、技術は伸び悩んでいる印象だな」
息を切らした僕にゴロリーさんは今日の訓練で感じたことを口にしてくれた。
「はぁ、はぁ。う~ん、グランさんから色々な武器を作ってもらいましたけど、まだどうしても、どの武器もうまく振ることが出来ないんです。やっぱり一つの武器に絞った方がいいんでしょうか?」
僕の思い描く理想は、たくさんの武器を振るう夢の中の僕と、あの黒髪の女性だ。
二年前、夢で一度ずつ見ただけだけど、僕はあの夢を今でも鮮明に覚えていた。
たくさんの武器で素振りをしていた僕の動きを真似をして、黒髪の女性のように無駄な動きが少しもないようにしているつもりでも、あんなに滑らかに武器が振れたことは一度もない。
「クリス、うまくは伝えられないかもしれないが、構えと一撃目を入れるまでは、どの武器も綺麗に振れている。だが、問題はその後だ」
「その後ですか?」
「ああ。俺と対峙しているのに俺を見ていないような感じだ。素振りは上手いけど、何のために一撃一撃を振るっているのかが分からない、そんな風に感じる。あれでは実戦で役には立たないぞ」
「……あ、そうか。だから……」
僕はゴロリーさんに言われて、ようやく気付いた。
「何かに気付いたのか?」
「はい。僕はゴロリーさんを見ているようで、見ていなかったんです」
綺麗に振ることや、頭にある夢の中の僕や黒髪の女性の動きを意識し過ぎて、一番【集中】しないといけなかった、ゴロリーさんを見ていなかったんだ。
「……よく分からないが、じゃあそれを踏まえて、掛かって来い」
「は「朝食の時間よ」い」
ちょうどいいところで、エリザさんが朝食だと呼びに来てくれた。
「……クリス、明日までしっかりと考えておくんだぞ」
「はい」
僕とゴロリーさんはエリザさんを怒らせないように、直ぐに訓練を終了して、朝食を食べるために“ゴロリー食堂”の中へと入るのだった。
カラーエッグに魔力を与えてから、僕もお腹が膨れるまでエリザさんが作ってくれた料理を食べた。
そして昨日のスラムの三人について、話していた。
「なるほど。暗殺者がスラムにいるのか……騎士隊は何をしているんだかな」
ゴロリーさんは難しい顔をして腕を組んだ。
「ワーズって聞かない名前だけど、スラムもだいぶ変わったってことかしら?」
「そうだな。だが、本来の目的であったそのスラムの三人は、見習い冒険者になれただろう」
二人はスラムのことも少し知っているみたいだった。
「あ、そうだ。悪さをしていると、罰を受けないとって言っていたけど、あれは本当なんですか?」
「嘘だ……いや、殺人や放火をしていると冒険者になる時にバレるから、あながち嘘でもないか」
「悪いことしたら分かるって凄いですね。どういう仕組みなんですか?」
「……」
「冒険者ギルドに所属する時に冒険者カードを作るんだけど、そのカードを作るのが魔導具なのよ。だからその魔導具で悪事を働いているとバレる仕組みになっているのよ」
僕の質問にはエリザさんが教えてくれた。
「へぇ~、そうなんですね。エリザさんは魔法や魔導具のことに詳しいんですね」
「ふふっ、それが元々本職だったからね」
「……そのスラムの三人組がちゃんとした冒険者となって更生するといいがな。さっきの話の続きだが、見習い期間は雑用みたいな仕事を受けないといけないんだ。だから罰だと思ってやった方がいいと判断したんだ」
「とっても仲が良さそうだったから、きっと助け合う冒険者になると思うな」
きっとそんな感じになると僕は思う。
「クリス君がそう思ったのなら、そうなってくれるといいわね」
「クリス、三年後はクリスの番だぞ」
「はい」
僕もあと三年で出来るだけのことをしないといけない。
皆と約束をしているから……。
「あ~ところで、今日の孤児院の炊き出しには一緒について来るか? 何ならグランのところに行ってもいいんだぞ?」
ゴロリーさんは遠慮しながら聞いてくれたけど、僕は孤児院の子達を思い浮かべると、少しだけ心が重くなった。
前に孤児院の炊き出しに行った時に、僕と同じ年くらいの子達と成り行きで、かくれんぼの勝負をすることになった。
正確にはフェルと仲良くなるきっかけを作った赤髪と青髪の女の子達、レベッカとマリンがかくれんぼの鬼をすることになっていて、いつも皆を見つけられないから手伝って欲しいとお願いされてのかくれんぼだった。
僕はどちらでも良かったけど、孤児院の子供達は僕がフェルの友達だって知っていたみたいで、僕も鬼として混ざれることになった。
勝負だから【索敵】スキルを使って皆を見つけたんだけど、直ぐに見つけたことで、ズルをしていると言われて、同じことを全部で三回繰り返したら、最後には泣かれてしまったのだ。
僕はどうしていいのか分からないでいたら、その日は結局レベッカとマリン以外近づいて来なくなってしまったのだった。
だから孤児院に行って、今度はちゃんと仲良く出来るのか不安だった。
「う~ん、ついて行きます」
きっと逃げちゃ駄目だと思うから。
するとエリザさんが僕のことじっと見つめて言った。
「クリス君、もし今度かくれんぼすることがあっても、手は抜いちゃ駄目よ」
「どうしてですか?」
「難しい問題なんだけど、手加減するってことは相手を下に見ることになるの。もしクリス君がフェル君に手加減されたらどう思う?」
「……嫌です」
「そうよね。だから孤児院の子達がクリス君には勝てないと思わせるか、味方にした方がいいと思わせるのがいいと思うわ」
でもそれじゃあ、あの時みたいに泣かれたり、睨まれたりするんじゃないかな……。
「クリスは孤児院の子供じゃないから、共通の敵みたいなものだな」
「……敵ですか?」
ゴロリーさんの一言で僕は悲しくなってしまう。
「クリス、そう落ち込むことはない。それはかくれんぼの時だけの話だ。それ以外の時にいつも通りのクリスでみんなに話し掛ければ、いつの間にか友達になっているさ」
「……本当ですか?」
「ああ、あのフェルノートみたいにクリスも小さな子供達の面倒を見てあげればきっとな」
「僕、頑張ってみます」
「ああ」
こうして今日はゴロリーさんとエリザさんと一緒に僕は孤児院へ行くことになった。
そして孤児院に着いて直ぐに、僕は勝負を挑まれることになった。
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