27 魔力枯渇の危険性
意識が戻った僕は何も見えないし、何も聞こえない、ただとても気持ち悪いそんな状態だった。
身体を動かそうとしても動かせないし、無理に動かそうとすれば、身体全体に鈍い痛みが走った。
それならばと声を上げてみようと思ったけど、残念なことに声の出し方を忘れてしまったかのように、声を出すこと出来なかった。
こんなにも意識ははっきりしているのに、どうしてなんだろう? そんな時だった。
誰かが僕の頭を優しく撫でてくれた。僕はこの優しく撫でてくれているのが誰か直ぐに分かった。
エリザさんだ。
何とかエリザさんに意識があることを伝えようとするけど、上手くいかない。
せっかく【意思疎通】のスキルがあるのに、役に立ってはくれないみたいだ。
それからどうやって意識があることを伝えようか考えていると、口の中に冷たくて甘いアップルの味が広がり、その次には甘い香りがしてきた。
それがきっかけで、今まで何をしても駄目だった目が、徐々に開いていく。
するとゴロリーさんの顔が目の前にあって吃驚した。
だけど、身体は相変わらずで動かそうとすると痛くて、起き上がれなかった。
「気持ち……悪い……」
ようやく喋れたけど、目を開けるとさっきよりも気持ち悪くなってしまう。
別にゴロリーさんの顔が気持ち悪い訳じゃないけど、目を瞑っていた方が楽だ。
「おっ、やっと起きたかクリス」
「ゴロリーさん、ここ……やっぱり気持ち悪いです」
「ああ、無理はするな。それとここは俺とエリザの家だ。とりあえずアップルを細かく潰してジュースにしたから飲め」
気持ち悪いから何も飲みたくないはずなのに、アップルジュースをすんなり飲むことが出来た。
「一応簡単に説明すると、クリスは魔力を使い過ぎて倒れた。つまり魔力枯渇の状態になったんだ」
僕は口を開くのもしんどかったので、頷くだけになった。
「エリザがクリスの【魔力纏】を発動するように言ったのが、枯渇の原因だと聞いた。すまなかったな」
僕は首を振った。
エリザさんの止める声は僕の耳に届いていたけど、僕が光に見とれていて魔力纏を続けたせいで魔力が枯渇しちゃったんだし、エリザさんは悪くない。
「そうか。じゃあ許してやってくれるか?」
僕は頷いた。
「今日はゆっくりと休め」
ゴロリーさんはそう言ってから部屋を出て行った。
部屋の中は日差しが入っていて、まだ明るそうだったけど、僕は起きることを諦めた。
気持ち悪い状態が続いていたし、身体を動かそうとすると節々が痛むので、僕は再び目を閉じるといつの間にか寝てしまった。
次に起きた時、部屋はすっかりと暗くなっていた。
「ふぁ~良く寝たな……うん、気持ち悪いのも治ったみたいだな。でも、身体を動かすとまだ少しだけ痛いかな」
そう思って寝ていたベッドから起きると、暖かい魔力が近づいて来るのが分かった。
静かに扉が開くと、エリザさんがランプを持って部屋に入ってきた。
「エリザさん、おはよう御座います」
「クリス君、体調はどう?」
エリザさんはとても心配してくれていたのか、今にも泣きそうな顔をしていた。
「大丈夫です。気持ち悪いのは治りましたよ。でも身体の節々はまだ少し痛いですけど……」
「ごめんなさいね。私が【魔力纏】を使わせたせいで」
「エリザさんは悪くないですよ。エリザさんの止める声は耳に届いていましたから。ただ【集中】してしまって、【魔力纏】を解けなかった僕が悪いんです」
「それでも止めるのが師の役目なの。だからごめんなさい」
「僕もごめんなさい」
この後、何度か謝り合戦が続いた。
「それにしても、まさかクリス君の魔力属性が光だったなんてね」
「光属性ですか?」
「そう。魔法の属性には、基本属性と呼ばれる火、水、風、土の四属性と、上位属性と呼ばれる光、闇の二属性の計六属性あるのよ」
エリザさんは説明してくれたけど、これは僕も知っていた。
メルルさんから貸してもらった魔法の手引書に載っていたからだ。
それよりも光属性について知りたい事があった。
何故なら本にその適性は珍しいと書いてあったからだ。
「もしかして光属性を持っていることも秘密だったりしますか?」
「ううん、問題はないわ。少しだけ珍しいけど、いないわけじゃないから大丈夫よ。それよりも上位属性は魔力の消費も激しいから魔力が枯渇してしまったの」
僕は秘密ではなかったことにホッと胸を撫で下ろす。これ以上、秘密があるような感じにはなりたくなかったからだ。
それにしても光属性って、魔力の少なそうな僕にはあまり向いていない属性だったかもね。
まぁ何にせよ秘密にしなくていいことに安心したところで、一つ疑問が浮かんできた。
「エリザさん、僕は【魔力纏】を使って魔力枯渇したんですよね? それなのにどうして身体が痛くなったのでしょうか?」
「普通は魔力枯渇すると魔法とかは使えないんだけど、魔力が無くなってもクリス君みたいに魔力を消費することを選択すると、魔力の代わりに体力を奪うの」
魔力を体力で補うって……もしかして!?
「えっと、それって身長が伸びないって言ってた……」
「そう。だから小さなうちから魔力枯渇させるようなことはしない方がいいのよ」
「じゃあ僕、いっぱい食べたいです」
「ふふっ、用意してあるわよ」
こうして僕はエリザさんと一緒に夕食を食べた。
そして今日は風邪を引いた日以外だと、初めて迷宮へ潜らない日となった。
翌日早朝、僕はグランさんから作ってもらった武器で、ゴロリーさんを本気で倒すつもりで攻撃を仕掛けていた。
しかし両手に大きな斧を持ったゴロリーさんに、僕の攻撃はことごとく弾かれていた。
「クリス、無駄を省くには、反復して身体に教え込ませるしかない。【集中】して掛かって来い」
「はい」
僕はゴロリーさんへと向かっていく。
ゴロリーさんの武術訓練は人の急所や武器の持ち方だけだった。
それ以外のことは〝教えたくても教えられない”と、言われてしまったのだ。
理由を聞くと、ゴロリーさんは両手に一つずつ大斧を持ち、戦闘するスタイルで、それ以外の武器を装備したことがなかったのだ。
だから最初に言われたのは〝戦いの基本は間合いと呼吸だ。俺に教えられるのはそれだけだ。それ以外は武器を振って、無駄を省いていき、実践と考察を繰り返して自分のものにするしかない”だった。
こうして僕はゴロリーさんの呼吸と、武器の届く距離を確かめながら武器を振るうのだった。
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