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24 予想外

 生ゴミを【回収】した僕は“イルムの宿”で料理を貰って(・・・)から、次のお店へと移動した。


 貰ってから、というのは、料理を持ち運べるようにしてくれていたのだ。

 今までは食べ切っていたけど、いつも生ゴミの【回収】をして料理を食べ切ると苦しそうにしてる僕にイルムさんは気がついていたらしい。


「クリス坊、もしかして他でも料理を食べているのかね?」

「はい。ゴロリーさんのところで……」

「ほっほっほ。奴のところでとは、随分と気に入られているようじゃの」

 僕が正直に伝えると、イルムさんは怒らずに嬉しそうに笑ってくれた。


「はい。ゴロリーさんにもエリザさんにも助けてもらっています」

「双斧の破壊神と雷姫がのぉ……それじゃあ朝食は余計な事になってしまうか……」

 それって、ゴロリーさんとエリザさんのことなのかな? でもそんなことより、食事がなくなることの方が僕にとっては重要だった。


「いえ、美味しいから全部食べれますよ……でも、出来たら持ち運べる用にしてもらえると嬉しいです」

 せっかく用意してくれるのなら、勿体ないことはしたくなかった。


「ほっほっほ。童が大人に気を遣わなくても良い。それなら少し日持ちするものにしてやろう」

「ありがとうございます」

「こっちはお礼をしているだけなのだから気にしなくてよいぞ、フォッフォ」

 こうして食事は包んでおいてくれるようになったのだった。


 これがきっかけで全てのお店が持ち運べる料理にしてくれることになり、黒い霧には少しずつ食べ物が増えていくことになりそうだ。

 ゴロリーさんが教えてくれたように、沢山食べて、沢山寝て、早く身体が大きくなればいいなぁ。

 そんなことを思いながら、周りを見渡し、近くに魔力がないかを確認してから黒い霧に料理を【収納】した。


 生ゴミを【回収】するだけで、お腹いっぱい食べられるようになったことを僕は感謝するのだった。


 それから僕はいつも通り“魔導具専門店メルル”へと戻って、本を読んで過ごし、メルルさんと一緒に食事をしてから、お昼寝して過ごした。

 起きて生ゴミを【回収】する二件のお店を回り、お礼として貰った食事を黒い霧に【収納】して、暗くなるのを待ってから、迷宮へと入り込んだ。


 スライムを倒したところでレベルが上がり、十レベルになった僕は安全エリアへ向かった。

 明日レベルが上がることは分かっているんだから、焦らなくてもいいよね。まずは文字がしっかり書けるか試してみよう。

 それから僕は紙とインク、筆を出した。


「あまり長く置いていたら迷宮の中に吸い込まれちゃうから、気をつけなきゃ……」

 それから僕は何度か文字を書いてみたけど……きれいに掛けた文字は一つもなかった。


 ……これでも分かるかな? メルルさんが言っていたスキルの分かる本を借りてくれば良かったかもしれない。

 そんなこと考えてから、一応文字を書き、なんとか読むことが出来たことにホッとした僕は、魔石を集める為にスライムを倒し始めることにした。


 そして倒しながら五十匹目のスライムを倒したところで、食事休憩を挟むことにして、今日はイルムさんが作ってくれた食事をいただくことにした。


 ウッ……苦いし、あまり美味しくない……でも、せっかく作ってくれたんだし……


 食べ終わる頃には目に涙を浮かべることになったけど、全部食べることは出来た。

 ……今度、苦いのは入れないようにお願いしてみよう。

 僕はそう心に決め、少しだけ気持ち悪くなったので、しっかりと休んでから再びスライムに挑むことにした。


 食事を残さなかったからなのか、それともしっかりと休んだことが良かったのか、九十三匹目のスライムを倒したところで、身体に力が漲った。

「やった。これなら明日慌てて迷宮から出なくてもいいよね」


 僕は直ぐに安全エリアへと向かうと、紙にゴロリーさんから言われた[身体能力補助スキル]と[センススキル]を書き出すことにした。

 レベル十と引き換えに出来るスキルは[身体能力補助スキル]が十四、[センススキル]は少し多くて十七もあった。

 それを紙に一つずつ書いた僕は、全て書き終えてから黒い霧に紙を【収納】した。


 そしてエクスチェンジと念じてた後で、[気配察知]スキルと交換したいと念じると、身体から力が抜けていくあの感覚がやってきた。

「ウウッ」


 やっぱり身体が重くなってきた僕はその場で少しの間蹲ってしまった。

 でも、これで気配察知を覚えたんだよね? 僕は目を閉じて気配を探ってみる……だけど、何も感じることはなかった。

「えっと、スライムがいないってこと?」

 僕は何とか身体を起こして安全エリアから外へ顔を出すと、本当にスライムがいなかった。


「そんな……」

[気配察知]は正しかったけど、それからスライムが出てくるまで、僕はとても身体が重くて大変な思いをすることになるのだった。

 スライムをようやく一匹倒した僕は、レベルが上がり身体に力が漲っても、今日はもう動きたくなくて、直ぐに寝ることを決めた。


 それでも眠る頃には、エクスチェンジで二つ目スキル[気配察知]と交換することが出来て良かったと思えた。




 翌朝“ゴロリー食堂”でスキルを書いた紙を見せると、ゴロリーさんとエリザさんは少し困った笑顔で、僕が書いた文字を確認していた。

[気配察知]と交換したことはとても褒めてくれたけど、スキルを交換した後のことや、祝福の首飾りの話になるととても真剣な表情で相談に乗ってくれた。


 こうして朝食の時間は終わったのだけど、いつもはスープをもらいに来るついでに迎えに来てくれるメルルさんが、一向に姿を見せなかった。


「メルルお姉ちゃん、遅いね」

「そうね。いつもは来るし……」

 エリザさんも心配しているみたいだった。


「また朝まで魔導具でも作っているのかもなぁ……クリス、スープを持って行ってくれるか?」

「うん、分かった」

「最近はクリス君がいるからなかったのに……メルルに無茶しちゃ駄目って、伝えてくれるかしら」

「はい」


 僕はゴロリーさんからスープが入った鍋を受け取り、黒い霧で【回収】すると、“魔導具専門店メルル”へ向かった。



 “魔導具専門店メルル”に着くまでメルルさんと会うことはなかったので、もしお店が閉まっていたら、“ゴロリー食堂”へ戻ることも考えていた。

 だけどお店の扉は開いていた。


「メルルお姉さ~ん、いますか?」

 僕は声を掛けてお店の中へと入っていくと、メルルさんが迎えに来なかった理由が分かった。

 “魔導具専門店メルル”に珍しくお客さんがいたからだ。


「あ、クリス君、おはよう。いいところに帰ってきてくれたわ」

「おはよう御座います。あれ、カリフお兄さん?」

 お客さんの正体はカリフさんだった。


「やぁクリストファー君、おはよう」

「おはよう御座います。でも、何でカリフお兄さんが?」

 僕はまだカリフさんにメルルさんの事を伝えていないのに……。


「ゴロリーさんの差し金よ……はぁ~」

 困ったようにメルルさんはため息を吐いた。


「差し金とは人聞きが悪いよ。クリス君が私をいい人だと信じてくれたから、ゴロリーさんもこのお店の状況を教えてくれたんだし……」

「???」

 何で僕の名前が出るんだろう?


「昨日の夜に親方と“ゴロリー食堂”へ夕食を食べに行ったんだけど、その時にメルルの話が出てね」

「せっかくクリス君が気を利かせてくれたのに、ゴロリーさんのせいで……あとでエリザさんに叱ってもらうわ」

 う~ん、どうやらカリフさんは歓迎されていないみたいだ。


「メルル、僕は商人として適正にこの店の商品を売ってみせるから、任せてくれないか? もちろん給料は少しだけ欲しいけど、それ以上に商人としての勉強がしたいんだ」

「……クリス君はどう思う?」

 メルルさんは悩んで僕に聞いてきた。

 大事なことなのに僕が決めてもいいのかな?


「う~ん、カリフお兄さんは嫌な感じはしないし、僕はいいと思うよ。メルルお姉さんが悩んでいるなら、前に僕とした契約の書? で契約すればいいと思うし……」

「あっ、その手があったわね。がちがちの契約内容にするけど、それでもいいの?」

「……内容次第かな」

 強気に出たメルルさんに、カリフさんは苦笑いを浮かべていたけど、結局契約することを選んだ。


 そしてその契約には、僕の能力を誰にも言わないことが密かに追加されていた。

 もし破ったら、声を失うというとても重いものだったけど、カリフさんは迷うことなく受け入れたことにメルルさんはとても驚いていた。

 こうして僕の能力をカリフさんが知ることになっても、僕の日常が大きく変わることはなく……。


 瞬く間に二年という歳月が過ぎていった……。


 そして七歳になった僕はゴロリーさんから武術の基礎、エリザさんから魔法の基礎を教わり始めることになり、十歳になったフェルノートは騎士になる為、この街から出て行くことになった。


お読みいただきありがとう御座います。

最後は駆け足になりましたが、一章はこれにて完結です。


二章は七歳から十歳になっていくクリスを描いていく予定となっております。

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