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02 出会い

二話目です。

  ”ゴロリー食堂”と書かれている定食屋さんの扉は両開きのスイングドアになっていて、僕の力でも中に入ることが出来た。

 すると、中から声が掛けられた。

「お客さんか? 悪いがまだ仕込みの途中だから、もう少し経ってから来店してくれると……」

 そして中から出て来たのは、巨人のような体躯にドワーフのような鋭い眼光と顎に立派な髭を蓄えた初老の男性だった。

 男性はこちらを見て言葉を詰まらせた。


 一見スラムの子供にしか見えないはずなのに”出ていけ”とは言わない男性に、僕は出来るだけ速やかな交渉をすることにした。

「お忙しいところ申し訳ありません。僕の名前はクリストファー、クリスとお呼びください。僕はお店で出る生ゴミなどを回収する仕事をしようと考えています」

 そう、まだ何も始めていないから嘘は良くないからね。

「……物乞いではないと?」

 男性は鋭い眼光で僕を見ながら、そう訊ねてくれた。


「はい。もしお気に召して下さったら、対価として一食提供してください。もしお気に召さない場合は残念ながら二度とお店に近寄らないことを約束します」

 男性は僕の言葉を聞きながら、その逞しい髭を撫でて暫し考えてから口を開いた。

「いいだろう。小僧、約束は守れよ」

「ありがとう御座います」

 どうやら交渉は大目に見てくれた男性のおかげで成功したみたいだ。


「それで生ゴミって言っていたよな?」

「はい。でもゴミなら何でも【回収】出来ると思います」

「ほぅ。まぁいい。それならついて来てくれ」

 そう言われて向かったのは、店の外だった。


 あれ、もしかしてお帰りはこちらです的な感じになるのだろうか? そう思っていると、男性が先を歩いて行くので、黙って追って行くことにした。

 そして着いた先は店の裏側にある小さな庭のような場所だった。

「この中に野菜クズや廃棄した料理が入っている」

 男性は存在感のある大きな箱を叩いた。


 中々手強そうだけど、僕が生きるためには絶対に負けられない戦いだ。

 気合を入れて頑張ることにした。


「分かりました。それでは終わったら声を掛けさせてもらいます」

「……ああ、終わったら、そこの扉を叩いてくれ」

「分かりました」

 男性は何か言いたげだったが、店の中へと消えていった。


「さて、やるか……あ」

 僕は箱を開けようとして、箱を開けられるだけの身長がないことを知った。


「あれだけ自信満々だったから、仲間がいると思われたのかもしれないな。それでも諦める訳にはいかないし……」

 僕は周りに身長を補助してくれそうなものがないか探すと、男性が座るために置いたのか、大きな切り株があった。


「あ、ちょうど良さそうだし、これを使わせてもらおう」

 僕は黒い霧で切り株を【収納】と念じて黒い霧の中へと切り株をしまい、箱の前で切り株を頭に思い描き【排出】と口にした。

 すると見事足場となる切り株が現れたのだった。


「これでいける」

 僕は満を持して箱の蓋を開けた。

 そして僕は自分の失敗を悟る。


 ムワッと生暖かい空気が僕の鼻腔を通り、そのあまりの悪臭に鼻が曲がりそうになったのだ。

「……もうイヤ……」

 涙が溢れ出そうになるのを必死で我慢する。

 ここで不平を嘆いて、泣いたとしても誰も助けてくれない。


 僕はそう心に言い聞かせて、涙を汗だと思って生ゴミを【回収】を始めた。

 作業自体はとても順調で、箱一杯に入っていた生ゴミは直ぐに全てを【回収】出来た。

「これでよし。あ、切り株は元に戻しておかなくちゃ……」

 切り株を【回収】しようとしたところで、バッチリ食堂の男性に見られていることに気がつき、男性も何とも言えないような顔をしていた。



 そして僕は現在、ゴロリー食堂のゴロリーさんと賄い料理を頂いていた。

 あの後、不思議な力について言及されることなく、ゴロリーさんは仕事の確認をして頷いて言った。

「とても早くてきれいだな。約束通り食事を提供しよう。さすがにキッチンに入れる訳にはいかないから表からな」

 見た目と違って凄く優しい人だということが分かった。


 こうして僕は賄いの食事にありつけたのだけど、ゴロリーさんはとてもいい人みたいなので、相談してみることにした。

「あのゴロリーさん。僕のあれって珍しいですか?」

「ん? ああ。とても珍しい。あれは間違いなく[固有スキル]だろう。絶対に人前では使わないようにしなくちゃいけないぞ」

 どうやら珍しい力であることは間違いなさそうだった。


「すみません、[スキル]って何ですか?」

「[スキル]っていうのは、開花した才能みたいなものだな。[スキル]は自分の行動次第で習得することが可能なもので、覚えれば今までよりも出来る幅が広がる」

 抽象的過ぎて僕にはうまく理解することが出来なかった。


「えっと、もう少し分かりやすくでもいいですか?」

「う~ん。俺は料理をする。これを繰り返して[スキル]を覚えた。それから同じように作った料理でも前より美味しく作ることが出来るようになっているんだ」

 やはりゴロリーさんはいい人で、さらにかみ砕いた説明をしてくれて、僕はやっと理解出来た。


「[スキル]って凄いんですね」

「ああ。それに努力を重ねれば[スキル]レベルが上がって、さらに美味しい料理が作れるようになるんだ」

 また知らない言葉が出て来た。


「……[レベル]って何ですか?」

「[レベル]か……[レベル]は努力の結晶みたいなものだな」

「努力の結晶?」

「例えば[料理スキル]を持つ俺が、料理を作る経験を重ねていくと、[スキル]を習得した時と同様でさらに美味しい料理が作れるようになる。それは[料理スキル]の恩恵をさらに受けられるようになったということだ」

「それが[レベル]ですか?」

「ああ[スキル]は十段階で、Ⅹレベルが最高になる」

 十段階も美味しい料理がパワーアップしたら、頬っぺたが地面についちゃう気がする。


「へぇ~じゃあ、僕もこのスキルをたくさん使ったら、いろいろ出来るようになりますか?」

「……いや、たぶんならない。さっきも言ったが、小僧の[スキル]は[固有スキル]だ。[固有スキル]は成長や進化をしないと言われている」


どうやら黒い霧はこれ以上凄くはならないらしい。

「そうなんですね。ちょっと残念……」

「ああ、落ち込むな。それはとても珍しい[スキル]で、有能なのは間違いないよね」

 少ししょんぼりしたポーズと雰囲気を纏うと、慌ててゴロリーさんはフォローを入れてくれた。


 確かにこの[スキル]は有能だ。

 今の僕には料理とかの[スキル]よりも、とても大切な[スキル]なのは間違いない。

 色々なことを教えてもらいながら、僕は賄いの食事をお腹一杯ご馳走になった。


 本来だったら優しいゴロリーさんのところで働きながら、今後のことをじっくり考えたかったのだが、僕が出来る仕事は本当に生ゴミを【回収】するだけだ。

 きっとゴロリーさんは裏庭を貸してほしいと言えば、住まわせてくれるかも知れない……。

 だけどそれは、もう少し頑張ってみてから相談することに決めた。

 頼りっ放しになるのは関係を拗らせる元になるからね。


「痛ッ」

「どうした?」

 ゴロリーさんはこちらを心配そうに覗き込んでくる。


「あ、何でもないですよ。ゴロリーさんありがとう御座いました。食事、今まで食べた食事で一番美味しかったです。もし良かったら、また仕事させてくださいね」

 改めて見た目とのギャップが凄いと思いながら、僕は席から立った。


「小僧、クリストファーだったか。良ければ二日に一度、今日よりも早い時間に来てくれ」

「えっ、それって」

「ああ。お前さんの能力は便利だから雇うことにする。それと腹が減ったのなら賄いは出すから、街で悪さはするなよ」

「本当にありがとう御座います」

 どうやら嬉しくても涙は出るみたいで、もう少しで零れ落ちそうになった。


 ただゴロリーさんが慌てそうだったから何とか堪えてお礼を言って”ゴロリー食堂”から出ようとしたところで「迷宮には潜るなよ」とゴロリーさんの声が聞こえた。

 迷宮? 迷宮って何だろう? 僕は再度”ゴロリー食堂”に入り、ゴロリーさんに迷宮のことを軽く聞いて、今度こそ”ゴロリー食堂”を後にするのだった。


 話に聞いたところ迷宮とは、魔力溜まりという世界の魔力が渦巻く場所があるみたいで、そこに人々の欲が注がれることによって出現する神々の試練らしい……。

 迷宮は宝物を生み出すらしいけど、その宝物を守るために魔物がたくさん生まれるところでもあるらしくて、昔の人達が迷宮のことを神々の試練だというようにもなったんだって。


 魔物は迷宮から出ることが出来ないため、昔から人々は迷宮のあるところに街を作って暮らし始めたらしい……。

 だから実はこの街にもその迷宮が存在しているらしいのだ。


 先程ゴロリーさんが僕に伝えたかったのは、僕ぐらいの子供が間違えて迷宮に入ってしまったら確実に死ぬから、絶対に入るなということだった。

「そんな危ないところに入る気はさすがにないけどね」

 色々な知識を得られたことに感謝して、僕は再び街を歩きだした。


お読みいただきありがとうございます。

ヒロインではなく申し訳ありません。

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