18 もう一つの固有スキル
迷宮に潜って直ぐのところにスライムが一匹でいたので、僕はいつも通りに生ゴミを【排出】してから近寄り、生ゴミを捕食吸収し始めたスライムの無防備となった核へ目掛け、いつも通りに木の棒を振り落とした。
そしていつも通り魔石を落としたスライムの横で、僕は身体に力が漲るのを感じた。
「どういうこと?」
僕は突然のレベルアップに、とても混乱するのだった。
今朝、迷宮を出る前に倒したスライムで僕のレベルは上がった。
だからかなりの数のスライムを倒さないとレベルは上がらないはずなのに……たった一匹倒しただけで簡単に上がってしまった。
これはゴロリーさんが言っていたこととも違っていた。
もし昨日までと違うところがあるとしたら……。
「やっぱりこれのおかげなのかな?」
僕は祝福の首飾りの黒い珠に触れる。
だけどやはりただの首飾りにしか見えない。
「僕以外には見えない専用……か」
どういう理由でレベルが上がりやすくなっているのかは分からないけど、僕はこうしてレベルが十になった。
「あ、もしかしてエクスチェンジも使えるかな?」
僕は意識してエクスチェンジなるものを念じてみたけど、反応は全くなかった。
「やっぱりそう都合よくはいかないよね」
僕はそんな考えを浮かべた自分に笑いながら、いつも通りスライムを倒していく。
だけどスライムを倒していると、どこからか声が聞こえたような気がして、僕は声が聞こえてきたと感じた逆の道の通路に駆け込んだ。
幸いスライムはいなかったので、反転して声が聞こえたと感じた方向の様子を窺う。
すると、それから直ぐに四人の冒険者が姿を現した。
「あれ? 怪我をしているのかな?」
僕は自分以外に怪我をした人を見るのは初めてだったから、知らないうちに手を握りしめていた。
それに気がついたのは、冒険者達が地上へと続く階段を上っていってからだった。
「……皆が怪我をしていたみたいだった。強い魔物と戦ったのかな? それとも僕が戦った巨大スライムのように変異種だったのかな?」
僕は色々と考えてしまって、何処か心がソワソワしていたので、安全エリアで食事をすることにした。
「まだ五十一匹か……まだまだ頑張んないといけないな」
そう思いながらも僕のやる気は全く上がらなかった。
「……もしかしてこれが不安ていうことなのかな。ゴロリーさんやメルルさん、マリアンさんにエリザさん、そしてフェルノート……誰でもいいから話し相手が欲しいな」
するとお腹がいっぱいになったからか、あまり疲れていないはずなのに僕は眠くなってきてしまった。
「少しだけ早く寝て、起きたらあと五十匹倒そう」
僕はそう決めて目を閉じた。
★☆★
僕? は盾を構えていた。
そして角やしっぽが生えている人が空から僕に……僕達へ向けて魔法の攻撃をしてきた。
僕が何か叫ぶと、僕が構えている何倍も大きさの輝く盾が顕れて魔法攻撃を全て食い止める。
怪我を負った人に何か呟くと少しだけ傷が塞がった。
でも、怪我を負った人は僕の力では治すことが出来なかった。
僕の作った盾も徐々に消えていく。
するとそこへ空を切り裂く風が飛んでいる人へと飛んでいく。
視線を向けると、何故かとんがり帽子が似合うローブを着た青年が笑いながら次々に魔法を放っていた。
僕は怪我を負った人に再度治療しようとすると、既に金髪の女性が怪我人を治療していて、僕が使った回復よりも遥かに凄い回復魔法を使っていた。
視線を空を飛ぶ人へと向けると、黒髪の女性が空飛ぶ人を斬ったところだった。
一度暗くなり、明るくなると、金髪の女性に僕は頭を下げていた。
金髪の女性は手から青白い光を放っていた。
また暗くなり、明るくなると、今度はとんがり帽子の人に頭を下げていた。
するととんがり帽子の人はため息を吐いて僕に何かの魔法を掛けると、何か薄い膜が僕の身体を覆った。
そしてまた暗くなり、明るくなると、黒髪の女性にも頭を下げていた。
だけど今度は黒髪の女性が剣で攻撃してくるのを僕は盾で弾き、いなす。そしてたまに剣で攻撃する。
そんなことを続けているとまた暗くなり……僕の目が覚めた。
★☆★
「はぁ~、夢か。前の時より僕は若かった気がするな。それにしても黒髪の人はもの凄く強かったな……あの格好いい動きを少しだけ真似してみようかな」
僕はそう言って一度伸びをしてから、スライムを探す。
そしてスライムを見つけて、いつも通りに倒した途端、僕のレベルがいきなり上がったことを実感した。
「だから何で……この祝福の首飾りって、本当に物凄いものなんじゃ……痛ッ何でこのタイミング? あれ?」
僕が祝福の首飾りのことを考えようとしたら、久しぶりに頭へ鋭い痛みが走った。
痛みが止んだ直後に[固有スキル]であるエクスチェンジの膨大な情報が頭の中に流れ込んできた。
「えっと、レベルを対価として[スキル]を得るスキル……ん? それって凄いのかな?」
そう思っていると、レベルは十単位で[スキル]と交換出来るみたいで、レベル十と交換出来る[スキル]が頭の中に浮かんだ。
「あ、気持ち悪い」
いきなり頭の中に文字が浮かぶのは、とても気持ちが悪いものだった。
それから少し落ち着くまで僕は目を閉じた。
そして落ち着いたところで試しにエクスチェンジと念じてみることにした。
すると頭の中に……
[身体能力補助スキル]
[武術スキル]
[魔法スキル]
[技能スキル]
[耐状態異常スキル]
[センススキル]
[特殊スキル]という言葉が浮かび上がった。
「なにこれ?」
悩みながらも[身体能力補助スキル]と念じてみるとレベル十と交換できる[スキル]が頭に浮かぶ。
「うわぁ~、このスキルのどれかとレベルを交換出来るってことなのか」
頭に浮かんだスキルは……
[体力量上昇率増加]
[魔力量上昇率増加]
[力上昇率増加]
[耐久力上昇率増加]
[器用力上昇率増加]
[敏捷力上昇率増加]
[知力上昇率増加]
[魔法力上昇率増加]
[対魔法耐久力上昇率増加]
「えっと、戻れるかな?」
自分のスキルに聞いてみると、最初の[スキル]を選ぶ項目に変わった。
「ありがとう。じゃあ今度は[武術スキル]」
すると今度は先程とは違う[スキル]が浮かび上がってきた。
[格闘術][剣術][短剣術][弓術][槍術][棒術][斧術][盾術]……その他にも色々なスキルと交換出来るみたいだった。
「う~ん、これでこのスキルと交換したら剣がきれいに振れるようになるのかな? ……でも、僕は剣を持っていないから、スキルがあってもしょうがないよね」
僕はそう判断した。
それからも
[魔法スキル]
[技能スキル]
[耐状態異常スキル]
[センススキル]
[特殊スキル]を見ていった。
[魔法スキル]には魔力感知という[スキル]があって取りたくなったけど、僕は何とか我慢して、ゴロリーさんが言っていた感覚を鋭くする[スキル]がある[センススキル]を選択した。
本当は[特殊スキル]が凄そうだから楽しみにしていたのだけど、十レベルと交換出来る[スキル]が一つもなかったのだ。
[センススキル]には視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、直感の感覚を鋭くする[スキル]があって、ここでも凄く興味があったけど、僕は最終的に二つの[スキル]のどちらと交換するかで迷っていた。
[気配察知]と[魔力察知]、人や魔物が近づいてくるのが分かるスキルだと思うんだけど、これがあればスラムの人やスライムを必要以上に警戒しなくて済むと思ったからだ。
そして僕は結局[魔力察知]のスキルと交換することにした。もしかすると、自分の魔力がこれで分かれば、僕にも【クリーン】の魔導具が使えると思ったから。
僕は念の為、安全エリアに入ってから[魔力察知]と交換するように念じた。
その直後、僕の身体から全ての力が消えていくような感覚になって、僕は立っていることが出来ずに膝を突いた。
どれぐらい経っただろう? 僕は何とか動けるようにはなったけど、とても身体が重く感じる……いや、重いのだ。
その感じはまるでレベルアップの反動で無理をしたあの日の朝に似ていた。
「これで僕はレベルが一になっちゃったんだね……何とかスライムを倒さなきゃ」
僕は重い身体を引きずるように安全エリアから顔を出してスライムを探していると、何となく気になった方へ顔を向けた。するとそこには二匹のスライムがいた。
「……今のが魔力? 良く分からないや……こんなことなら「気配察知」と交換すれば良かったな」
僕はいつも通りの手順で何とかスライム達を倒すと、またレベルが上がり、身体に感じていた重さがなくなった。
「ふぅ~もしも君を装備していなかったら、大変なことになっていたよ。ありがとう」
祝福の首飾りを撫でてから、僕はさらに新たなスライムを探すのだった。
次のレベルアップは五匹倒しただけで上がり、またその次のレベルアップも七匹だった。
……どういうことなんだろう? そう思いながらも目標の百個に届くようにスライムを探していたけど、途中から凄くお腹が空いてきてしまった。
このままだと目標の百個には届かないと思ったけど、無理をしてはいけないと言っていたゴロリーさんの顔が浮かび、お腹がグゥルルルルウとなったので、僕はもう一度レベルが上がってから迷宮を出ることにした。
そして前のレベルが上がってから十二匹目のスライムを倒すと、ようやくレベルが上がったので、僕は美味しい料理が待っている“ゴロリー食堂”を目指して迷宮から出るのだった。
お読みいただきありがとう御座います。
ようやく本作のタイトルであるレベルリセットをする者、レベルリセッターが生まれた話となりました。
これからも読者の皆様にはお付き合いいただければ幸いです。
もしよろしければブックマーク、評価点、ご意見、ご感想、ご指摘、ご提案の程、よろしくお願いします。