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17 幸福の首飾り

 “ゴロリー食堂”を出る時に、ゴロリーさんが持たせてくれた食事は、直ぐに黒い霧にしまってしまったから分からなかったけど、しっかりとした器に蓋がしてあるものだった。

 その中には野菜とお肉のたっぷり入ったスープがあり、いいニオイをさせている。その他にもパンが二つとスプーンが入っていた。


「わぁ~美味しそうだ」

 スープをスプーンで掬って口に入れた瞬間に広がる甘味と暖かさに僕は、ホッと息を吐き出した。

 すると自分の身体が今まで硬くなっていたことに気づき、その硬さが取れていくのを感じた。


「怖かったから、まだ力が入っていたのかも……」

 レベルが上がったことで、身体に力が漲っていたからか、僕はそのことに気が付いていなかった。

 本当にゴロリーさんには感謝してもしきれないな。


 それからゆっくりと優しい味のスープにパンを浸しながら食べていった。


「う~ん。さすがにこの格好だと不味いよね。着替えようかな」

 僕はメルルさんから最初に貰った服に着替えた。


 それから穴が開いてしまったブーツから、前に僕が履いていた靴へ履き替えた。

「服はともかく靴は汚いな……よし、今日はこれをきれいに出来るよう頑張ろう」

 僕は【クリーン】の杖を黒い霧から取り出して、疲れて眠くなるまで必死に振り続けるのだった。

 でも、結局この日も【クリーン】は使えなかった。


「早く僕にも使えればいいのにな……あ、そういえば」

 僕は魔導具の杖を黒い霧にしまいながら、黒い霧に触れて、あの巨大スライムが落とした物が何なのか確認してみることにした。


「あ、また黒い霧が進化してる」

 ・魔石(最上級)×一個:スライムの変異種でスライムの最高位でもあるグランドスライムの魔石。

 グランドスライムはとても臆病で強い者は出会うことが出来ない為、魔石価値は希少。

 莫大な魔力が秘められている石。

 ・祝福の首飾り×一本:大気中の魔力を吸い込み、装着している者に祝福として還元する首飾り。

 一度装着するとそれを装着した者の固有装備となる。グランドスライムが極稀に落とすと云われている。


「……これって凄い物なのかな? お世話になっているし、メルルさんには魔石を上げて、ゴロリーさんには首飾りをあげた方がいいかな?」


 念の為に魔石と首飾りを出してみると、魔石は透き通って綺麗だったけど、首飾りは……黒い紐に黒い珠がついているものだった。


「この首飾り……思っている以上に紐が短いな。僕でギリギリ入るぐらいだよ。ゴロリーさんだと頭で止まって首まで下げられないか……。う~ん、これは僕が使って、また今度何か別の物を手に入れたらゴロリーさんに上げることにしよう」

 僕は先ず魔石を黒い霧で【回収】してから、首飾りをしてみた。


 すると身体から何かが首飾りに流れていくのを感じた。

 一瞬だけ黒珠が光った気がしたけど、触ってみても何も変化はなかった。


「う~ん、祝福って幸せってことだよね? だったら幸せになれるといいな」

 僕は巨大スライムと戦ったことで、疲れていたのか、横になるとすぐに瞼が重くなってきて、眠りについた。


 もう何日も同じ迷宮の床で寝ているから、僕は迷宮で眠るのに慣れて来ていた。

 目が覚めてから、一度伸びをして身体を起こす。

「今日もお腹が空いたなぁ」

 いつも通りお腹も空いている。


「今日は昨日のでっかいスライムとは会いたくないな」

 そんなことを思いながら、地上への階段を目指すとそこにはスライムが一匹ゆらゆら揺れていた。


「まだ生ゴミあるよね」

 僕はスライムに近づきながら生ゴミを【排出】すると、スライムが近寄って来て生ゴミを吸収しだした。

 僕は木の棒を取り出して、真っ直ぐ核に向けて木の棒を落とすとスライムは魔石を残して消えた。


「えっ!?」

 すると突然僕に力が漲った。


 昨日も巨大スライムを倒したあとにレベルが上がったけど、どういう訳なのか、スライムを一匹倒しただけでレベルが上がった。

 身体に力が漲っているから、それは間違いない。


「えっと、どういうこと?」

 何でレベルが上がったのか分からない僕はもう一匹スライムを探して倒したけど、レベルは上がらなかった。


「う~ん。これはゴロリーさんに聞いてみよう」

 こうして僕は夜が明けるのを待ってから迷宮を出て“ゴロリー食堂”へとやってきた。


「おはようございます」

「いらっしゃい、クリス君」

 出迎えてくれたのはゴロリーさんじゃなく、エリザさんだった。


「エリザさん、おはようございます」

「おはよう……ねぇクリス君、何で昨日と服装が変わっているのかしら?」

 エリザさんは真剣な顔で、少し怒っているように感じた。


「えっと、とても大きなスライムがいて、逃げようとしたら追ってきて、生ゴミを全部【排出】したら、生ゴミを食べていたんだけど、そのスライムが水みたいのをこちらに飛ばしてきたの。当たらなかったけど、床から跳ねたその水に服や靴が当たったら溶けちゃって」

 僕は何とかちゃんと伝えようとしたけど、自分で何を話しているか、分からないぐらい緊張していた。


「あ~ごめんね。怒っているわけじゃないの。ただ気になったから聞きたかっただけよ。それにしてもそんなスライムが一階層に……」

 困ったように微笑んだエリザさんは、また直ぐ真剣な顔になったけど、怖くなくなった。


「何だか急に光が集まったところで、そのスライムが現れたんです。安全エリアの前だったから戦えないと思ったら追って来たんです」

「そう。それってどれぐらい大きかったの?」

「えっとグランドスライムっていう魔物で、これを落としました」

 僕は魔石を【排出】して見せると、エリザさんが固まったように動かなくなってしまった。


「エリザさん?」

「……直ぐに黒い霧で【回収】して」

 ハッと僕の顔を見たエリザさんがそう言ったので、黒い霧を出して直ぐに魔石を【回収】した。

「……クリス君、その魔石は誰にも見せない方がいいわ」

 どうしてだろう? 魔石だから喜んでもらえると思ったんだけど……。


「えっとお世話になっているからメルルさんにあげようと思っているんだ。もしかしてエリザさんも欲しいの?」

「……私は魔法を使えるけど、魔石を加工したりは出来ないから必要ないわ。それにメルルもきっと受け取らないと思うわよ」

「えっ!? どうしてですか?」

「それ一つの値段が白銀貨一枚ぐらいするからよ」

「……銅貨百万枚!?」

「ふふっ、何で銅貨なの? でも、そうよ。クリス君がお世話になっているからって、その魔石を渡されたらどうする?」

「……受け取らないです」

 エリザさんは笑っているけど、僕は笑えなかった。

 あれ?でもたくさんの魔石を一つにすることが出来る魔導具があるって言っていたような? この件は後でメルルさんに聞いてみよう。


「そうね。だからそれはクリス君が大人になるまで、ずっと黒い霧の中にしまっておくのよ」

「はい、分かりました。あ、でもメルルさんにも一度見せてもいいですか?」

「ええ、メルルちゃんならいいわよ」

 僕はホッと息を吐く。


「あ、それでゴロリーさんはいますか? 昨日用意してくれた料理の器を返したいんですけど……」

「私が預かるわ。今はクリス君のために朝食を作っているから、昨日と同じ席で待っていてもらえるかしら?」

「はい」 

 それから少ししてゴロリーさんが料理を持って来てくれて、三人で一緒に朝食を食べた。

 そして大きなスライムを倒したことを告げた後に、僕に起こった不思議なことを聞いてみた。



「それで昨日レベルが上がったのに、また今朝スライムを一匹倒しただけでレベルが上がったの」

「……クリスのレベルは幾つか覚えているか?」

「えっと今日で九になったと思う」

「もしかすると器から漏れる水が新しい器になってから入ったのかもしれないぞ」

「そういうこともあるんだ」

「いや、普通は自分より強い敵とは極力戦わないから、そんなことが起きるのは珍しいことだ」

 どうやらゴロリーさんも良くは知らないみたいだ。

 まぁあの巨大スライムを見ていないから分からないだろうしね。


「そうなんだ。そういえばこの首飾り、本当はゴロリーさんにあげるつもりだったんだけど、ゴロリーさんに入らなそうだから自分のにしたんだ」

「……首飾りってどこにあるんだ?」

「クリス君、私にも見えないわよ?」

「えっ? でも僕してるよ。祝福の首飾りっていう首飾りで、僕専用になっちゃったけど……」 

 意地悪をしている訳じゃなくて、ゴロリーさんもエリザさんも本当に見えていないみたいだった。

 だから黒い霧に触った時の説明をしてみた。


「あ~なるほどな。[専用装備]ならありえることか」

「まさかその歳で[固有スキル]に[専用装備]持ちになるなんて、クリス君の将来は一体どうなっていくのかしら……。心配のような、楽しみのような」

「クリス、その装備についても口外はしちゃいけない。いいな?」

「……はい」

 信じてはもらえたけど、僕には人に言えない秘密がいっぱいになってきた。

 僕は少し肩を落としながら、残りの朝食を食べた。



 心配していたスラムの人達と会うこともなく“魔法専門店メルル”へ移動した僕は迷宮で巨大スライムに襲われたことをメルルさんに伝えて、魔石も出したけど、エリザさんと同じで、直ぐにしまうように言われた。

「それでゴロリーさんのところで使っていた魔導コンロなんだけど……」

 壊れてはいないけど、乱暴に扱ったことを謝ろうと思っていた。


「あ、それはクリス君が将来必要になるかもしれないから持っていていいわよ。邪魔なら迷宮に吸収させてもいいし……」

 でも、いつの間にか魔導コンロは僕の物になっていた。


「えっと、高いんですよね?」

「ええ。でも魔導コンロは大きいし、重いから、本当に必要な人以外は不要な物なのよ」

「バラバラにしたら、使えるところもあると思うけどな……」

「いいこと言うわね。確かにそうなの。でも魔導具は魔導具を作る魔導技師の結晶なの。それを違う魔導技師が分解出来ないように契約をしているのよ」

「それって前に僕としたのと同じの?」

「そう。だからそういうことは出来ないの」

 僕にはよく分からないけど、メルルさんは納得しているようだった。


 だったら僕は僕とメルルさんの為になることを少しずつでもしていくことにした。

「そうなんだ。じゃあ、その分、僕がメルルさんのお店で服をいっぱい買うね」

「えっ?」


 それから僕は今回の巨大スライムとの戦闘でボロボロになった服やブーツを全て新調することにした。

 新しい服とブーツを銀貨一枚分だけ購入した僕は、渋るメルルさんにようやくお金を渡すことが出来て、嬉しい日になった。


 この日はいつも通りに文字の勉強とゴミの【回収】をして過ごした僕は、再び夜の迷宮を訪れた。


 そしてこの日、僕の中にあるもう一つの[固有スキル]エクスチェンジが、どんなスキルなのかを僕は知ることになる。


お読みいただきありがとう御座います。


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