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13 きっかけ

 迷宮で寝るのにも慣れてきたかなぁ。そんなことを考えて安全エリアから出ると、そこには珍しくスライムがいた。

「ここまで接近していると少し不安になるけどゴロリーさんも、安全エリアに魔物は入って来れないって言っていたし、まぁいいか」


 生ゴミを【排出】して、スライムに吸収させ始め、僕は両手を上に構えると、黒い霧から【排出】した木の棒を握り、一気にスライムの核に叩きつけた。

「スライムって迷宮が宝物を守るために迷宮から生まれるのかな?」

 そんな疑問が頭に浮かんだけど、迷宮のことをなら冒険者ギルドへ行って聞いたら分かるか。

 そう思って迷宮の外へ出ると、いつも通りの日常……ということにはならなかった。


 まだ薄暗い中を、揃った鎧を着ている兵隊さん達が見回っているようだった。

「一体、何だろう?」

 そう呟きながら見ていると、その人達はこちらの姿を見ると近寄って言った。


「坊や、こんなに朝早くにどうしたんだね?」

 何故だか分からないけど、言葉は穏やかなのにこちらを見てくる目に怖さを感じる。


 僕は精一杯の笑顔を作りながら元気な挨拶をして、兵隊さんが何をしているのか聞いていてみることにした。

「おはようございます。今からメルルお姉さんのお使いで“ゴロリー食堂”に行くの。兵隊さん? 達は何をしているの?」


「……スラムの子供ではないのか?」

「うん。“ゴロリー食堂”まで一緒に来てくれれば、分かると思うよ」

 何処か詰まったような言葉に僕は首を傾げながら目的地を告げると、兵隊達さんは僕を下から上まで見て頷いた。

 すると先程までの怖さが無くなった。


「……それならばいい。昨日からスラムにいる連中が縄張り争いをしていて、一般人を襲う者まで現れたのだ」

「えっ!? 知らなかった。じゃああまり外に出ない方が良かったの?」

 スラムの人達も路地裏から出てくるの? 僕は辺りを見回す。


「いや、今はだいぶ落ち着いたから、路地裏に行かなければ大丈夫だとは思うが……念のため、その“ゴロリー食堂”とやらに同行してもいいか?」

 どうしよう……僕は別に悪いことはしていなからいいけど、ゴロリーさんは迷惑じゃないかな? でもさすがに人がいないところを一人で歩くのはこわくなっちゃったから、同行してもらおうかな。 


「えっと、はい。僕一人だと不安なのでお願いします」

「うむ。おい、私はこの子を送っていくから、周辺の見回りを頼む」

「「はっ」」

 こうして僕は代表して話し掛けてくれた兵隊のおじさんと一緒に“ゴロリー食堂”を目指すことになった。



「坊やはまだ小さいみたいだけど、幾つなんだい?」

「五歳です」

「ほぅ~。五歳なのにしっかり受け答えが出来るのだな。私にも娘がいるが、娘の五歳だった頃よりもしっかりしている」

 おじさんはさっきまでと違って、何処か優しさを感じる者になった。


「えへへ。娘さんは幾つなの?」

「坊やよりも年上だよ。もう八歳になるよ」

「そうなんだ……あ、このお店だよ」

「案外近いのだな……」

「うん」

 僕は躊躇わずに“ゴロリー食堂”の扉を押し開いた。


「ゴロリーさん、おはよう御座います」

「おう、クリス無事に来られた……騎士? 騎士が一体この店に何の用だ?」

 店の扉が開いて、いつも通り僕が挨拶をしたから、ゴロリーさんが奥の部屋から顔を出してきた。

 そこに兵隊さんがいたので、少し警戒した素振りをゴロリーさんが見せた。


 それより騎士って、あの騎士だよね? 伝説の騎士の物語に出てくる騎士はもっと平民の人を見下していたみたいだけど、本当はそんなことはないのかな?


「あ、何だか昨日からスラムの人達が縄張り争いをしているらしくて、見回りしているんだって。それで危ないから送ってもらったんです」

 このままではいけないと感じた僕は、誤解がないように説明すると、ゴロリーさんは警戒を解きながら言った。


「……クリスが世話になった」

「いえ、これも騎士の務めでもありますから……ところで、もしや貴方は“双竜の咢”のゴロリー殿では?」

 “双竜の咢”?


「……俺は“ゴロリー食堂”のゴロリーだ。それ以外のことは知らない」

「……そうですか、それは失礼しました。念の為ですが、昨日からスラムの動きがおかしくなっていますので、路地裏を通られる場合は気をつけてください」

 どうやら人違いだったみたいだ。


「ああ、分かった」

「坊やも路地裏には当分近づかないようにな」

「はい。送ってくれてありがとうございました」

 最初に会った時の印象とはもう変わっていた。

「それでは失礼します」

 騎士のおじさんはそう言って“ゴロリー食堂”から出ていた。


 ゴロリーさんは騎士のおじさんが出て行ってからも、暫くの間、騎士のおじさんが出て行った扉を見つめていた。

「えっとゴロリーさん、騎士の人に送ってもらったのは、駄目でしたか?」

「いや、問題ない。さてクリス、今日は生ゴミの【回収】だったな」

「はい」

「俺も行こう」

「えっと汚れ……あ、ゴロリーさんはこれ使えますか?」

 そう言ってメルルさんから貰った【クリーン】が使用出来る杖の魔導具を黒い霧から【排出】させた。


「これは?」

「メルルさんが作った魔導具で、魔力を込めると【クリーン】の魔法が使えるものです」

「ほぅ~中々いい物を貰ったな。どれ」

 ゴロリーさんは杖を受け取ると【クリーン】を発動させた。


「……これは便利だな。魔法が使えない俺が使えるんだから、かなり売れるだろうな」

「えっと、あまり魔導具屋さんには置いていない物なんですか?」

「ああ。売っていないわけではないが【クリーン】は混合属性を使った魔法だから、調整も難しく普通は魔法に長けている者が補助として使うんだが……さすがメルルだな」

 ……どうやら貰った魔導具は、普通の物ではなかったらしい。

「えっと、これって返した方がいいですよね?」

「いや、貰っておいていいだろう。どうせまた直ぐに新しいのを作るだろうしな。さて、裏庭に行くか」

「はい」


 そして裏庭にやってきたところで僕は固まった。

 ゴロリーさんの裏庭がかなり大変なことになっていたのだ。

 生ゴミがそこらかしこに散らばっていて、とても酷い臭いになっていたのだ。


「……これはスラムの奴らだな。ここ最近は姿を見せていなかったが……」

「えっとゴロリーさん、まず地面に散らかっているカスも黒い霧の中へ【収納】してしまうので、周りを見てもらってもいいですか?」

「そんなことも出来るのか? 助かる」


 こうして僕がまず地面に散らかった生ゴミを【回収】し、その後にゴロリーさんが【クリーン】を発動してあっという間に綺麗になった。


「本当に今回はクリスの能力とメルルが作った魔導具のおかげで助かった。そろそろメルルもスープを取りに来るだろうから、今回は二人に何でも朝食として奢らせてもらおう」

「本当ですか? やった」

「それにしてもスラムの奴らがこれだけ悪さをしていくのは珍しいことだが……」

「そうなんですか?」

「ああ……待てよ……。クリスは生ゴミの【回収】をしているんだったな? どこの店に行っているんだ?」

 僕は“イルムの宿”を始めとした四軒を伝えると、ゴロリーさんは何処か納得したような顔になった。


「スラムの奴らは、まとまっている訳じゃない。だからクリスが生ゴミとして【回収】した残飯を食べていた奴らは食料がなくなって、縄張り争いが発生したんだろうな」

「えっ!? じゃあ僕が争わせたんですか?」

 昨日の騒動のきっかけは僕が引き起こしてしまったものだったのか……。


「いや、今回のこともただのきっかけに過ぎない。今までも同じようなことは何度も起こっているんだ。スラムに住む子供がそうなるのは忍びないが、スラムには成人を超えた者達が大勢いる。そんな奴らが冒険者になって、クリスみたいにスライムや二階のワームを倒したら十分暮らせるものだ。大人であれば一日暮らせるだけの食事にはありつけるはずだ。それをせずに人から奪うことしか考えられない奴らのことを、クリスが気に掛ける必要はない」

「でも……」

「俺はクリスが生ゴミを【回収】してくれて嬉しい。きっと他の食堂も同じ気持ちだ。今回のことで一時的に治安が悪くなる可能性はあるが、悪さをした者は先程の騎士が捕まえるから、結果的には治安が良くなるんだ」

「……僕は生ゴミの【回収】を続けてもいいの?」

「ああ、そうでないと困る。だがスラムの奴らがどこで見ているか分からないから、十分に警戒するんだぞ」

「はい」

 ゴロリーさん笑いながら僕の頭を撫でて【クリーン】を僕とゴロリーさんに掛けるとお店の中に入って、メルルさんが来るのを待った。



 その後、メルルさんがやって来て、そのメルルさんに【クリーン】が使える魔導具をゴロリーさんが注文すると、メルルさんの機嫌が良くなって僕も嬉しくなった。

 そしてゴロリーさんのからのお礼として、朝食以外にも、お昼に食べることが出来るパンにお肉を挟んだサンドイッチを作ってくれた。

 僕とメルルさんは笑顔で“ゴロリー食堂”を出ると“魔導具専門店メルル”へ向けて歩き出した。


お読みいただきありがとう御座います。

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