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12 不発

 メルルさんに仕事へ行くことを伝えると、着替えてから仕事へ向かうようにと言われてしまった。

 そして今回はメルルさんから受けた仕事と商品を預かっているという理由で、服を一着銅貨一枚という値段で売ってもらえることになった。

 悪いとは思いながらも僕はメルルのさんに甘えることにした。



「じゃあ、また二日後に伺います」

「おう。またな」

 そして二件の生ゴミ回収を終えたのだけど、両方のお店で朝食を進められてしまい、もう僕のお腹は、はち切れそうになっていた。

 特に“イルムの宿”では、今日もしっかりとパンのサービスがあった。


 “イルムの宿”はゴロリーさんよりもお爺ちゃんとお婆ちゃんが経営している宿屋で、新米の冒険者を優先的に泊めている珍しい宿屋らしい。

 だから僕にも“いずれ冒険者になったら、冒険の話を聞かせて欲しい”と笑ってくれる。

 そんな優しい人達だ。


 “イルムの宿”を出ると、もう街の中を行き交う人が増えていた。

「これから帰って本の続きを読みながら、あやふやな文字を直ぐに書けるようにならないと……」

 その時、数名の冒険者が僕の横を通り過ぎていった。


 大きな剣に大きな盾、片手で持てそうな剣や槍を持っていた。

「……まだ冒険者ギルドで冒険者にはなれないんだよね? だったら冒険者ギルドで戦うための基礎を教えてくれないかな?」

 そんなことを思い立った僕は、雑踏に紛れながら冒険者ギルドを目指すことに決めた。



 冒険者ギルド中へと入り、キョロキョロ見渡すが、お目当ての人であるマリアンさんはいないようだった。

 少し残念に思いながら、マリアンさんが座っていたところにいる人に話しかけることにした。

「お姉さん、おはよう御座います」

「子供? 何か用かしら?」

 お化粧が少し派手な印象の人だった。


 少しだけ怖いと感じたけど、マリアンさんが優しかっただけなのかもしれないと思い直し、先程考えたことを伝える。

「僕はまだ冒険者にはなれません。でも剣の握り方や武術の基礎を教えてもらうことが出来ないかと思ってきました」


「はぁ~、あのね、教えを請うには悲しいけど、お金が発生するのよ。君のような子供がお金なんて持ってないでしょう? 君ぐらいなら近所の子供達をそこら辺を走るだけで十分でしょう」

「えっとお金ってどれぐらい必要なんですか?」

「だから……どうしても習いたいなら、一時間で銅板五枚は掛かるわよ?」

 とても高かった。スライム十七匹分。メルルさん売ってくれた服が五十着も買えちゃう。


「えっと、剣と体術と魔法の基礎をちゃんと教えてくれそうな人はいませんか?」

「へぇ~、ちょっと待っていて」

 お姉さんはこちら何度か見てから席から離れていった。


「はぁ~何だかあのお姉さん怖いや。マリアンさんがいる時に来れば良かったかな……あっ」

 僕は慌てて口を両手で押さえた。

 周りを見渡しても僕に注目している冒険者がいないことにホッとため息を吐こう……そう思っていたら、隣の受付をしていた耳が尖った綺麗な女性がこちらを見ていた。


「……あの僕はクリストファーと言います。美人のお姉さんは、僕に何か御用ですか?」

「クリストファー……うむ。クリス君でいいだろうか? 私はエルフ族のクジャリータだ」

「えっ? あ、はい。それでエルフ族のクジャリータさんは僕に御用ですか?」

 エルフって何だろう? と、思いながら僕は再度聞いてみることにした。


「クリス君が強くなりたいのは何故だ?」

 質問したのに質問が帰ってきた。


「えっと僕には尊敬する人達がいます。その人達は僕のような子供でも優しく接してくれます。だからまずは強くなって、いっぱい勉強して、人に頼られるような大人になりたいんです」

「立派だな。君みたいな子供は騎士に憧れると思っていたのだがな」

 優しげな目をされて笑われてしまった。


「僕は騎士に成れたとしても、きっと騎士にはならないと思いますよ」

「おや、何故だい?」

「僕は伝説の騎士みたいに死んでから世界中の皆から認められるよりも、生きているうちに認めてもらいたいから……まだ何が出来るか分からないけれど、その分いっぱい努力しようと思っています」

「フフッ、いいな。もしクリス君が大きくなった時にもう一度会うことがあったら、その時は君の話を聞かせてもらおう」

「えっと、はい」


 するとフロアに女性の声が響く。

「お待たせいたしましたクジャリータ様、ギルドマスター室へご案内致します」

「どうやら呼ばれたみたいだ。それじゃクリス君、君に精霊の加護があらんことを」

 クジャリータさんはそう言って僕の頭を撫でると、クジャリータさんを呼んだ女性の後についていった。

「不思議な人だったな。ところでエルフ族って何だろう? あとでメルルさんに聞いてみようかな」

 それからちょっとして、女性が戻ってきた。


「君、銀貨一枚で一時間、Cランク冒険者のナルシス様が教えてもいいと言ってくれたんだけどどうする?」

 さっきよりも、とても高かった。

「さっき言っていたよりも高いです……」

「でも強くなりたいんでしょ? Cランクは中堅冒険者よ。こんな機会は滅多にないわ」

 ……マリアンさんがそう言ってくれたのなら分かるけど……。

 でも冒険者ギルドで働いている人の提案だから、受けた方がいいのかな?


「分かりました。僕はこのぐらいの時間で習いたいのですけど?」

「昼休みの時間を使って教えるって言っていたから、もう少し遅くじゃない?」

 あれ? こっちに合わせてくれるわけじゃないのかな? まぁしょうがないか。


「じゃあ早速明日からお願いしてもいいですか?」

「いいわ。じゃあ先に銀貨一枚を払ってもらえるかしら?」

「えっと、それってあとで払ってもいいんですよね? 今は持ってきていないので、もしどうしても前払いなら、明日の訓練前でもいいですよね?」

 人のいないところでしか黒い霧は使わないって決めた僕はそれを断りながら、提案をしてみた。

「いいだろう。それで明日から鍛えてやろう」

 すると突然後ろから声がして振り返ると、そこには傷だらけの鎧を着ている男の人が立っていた。


「クリストファーと言います。明日から宜しくお願いします」

 僕は頭を下げた。


「小さいのに挨拶が出来るのは良い事だ。俺の名ナルシスだ。厳しくても泣くなよ」

「はい。それでは明日からお願いします」

「ああ。でもちゃんと金は持って来いよ」

「はい」

 僕はお姉さんやナルサスさんが少し苦手だけど、色々な人と知り合って、強くなれればいいと思い、再度挨拶をしてギルドを後にした。

 それからまた“魔道具専門店メルル”へと戻り、お昼はイルムの宿で貰ったパンを食べて過ごした。


 メルルさんは魔導コンロをバラバラに分解しなくて良くなったことで、工房で魔導コンロを組み立ててしまい、最終調整もそのままするということで、今日のお昼は一人で食べることになった。

 前回はフェルノート達にあげたパンを今度はしっかり自分で食べた……だけど正直あまり美味しくはなかった。

 それでもそこまで硬いパンではなかったので噛んでいると、ほのかに甘みを感じるようになる不思議なパンだった。

「このパン……面白いなぁ。ゴロリーさんもだけど、料理が出来るってどんな気分なんだろう?」

 そんなことを考えてながら、貰ったパンを食べ終わると、昼寝と伝説の騎士の物語を読んで過ごし、生ゴミの【回収】をして、迷宮の側で待機をしておくことにした。


 それから暫らくすると、何やら路地裏で騒ぎ声が聞こえてきた。

 僕は直ぐに物陰に隠れて、その様子を探ろうかと思ったけど、迷宮の入口に人がいなくなったことや、周りに人がいないことと分かったので、少し早めだったけど迷宮の中へと進んだ。

 迷宮に一歩足を踏み入れたら、気持ちを切り替えないといけない。


 僕はそう自分に言い聞かせて、今日もスライム退治に全力を注ぐことにした。

 スライムを倒し続けて、今日はレベルアップしないのかな? それでもゴロリーさんの言葉を信じて焦らないで戦っていたら、九十匹ぐらいのスライムを倒した時に身体に力が漲った。

「せっかくレベルが上がったけど、無理はしないって約束しているし……やっぱり百匹倒したら今日も終わりにしよう」


 そして昨日と同じく迷宮に潜り百匹のスライムを倒してから、僕は安全エリアに移動して、初めての魔法に挑戦してみることにした。


 メルルさんから貰った【クリーン】の魔法が使える杖の魔導具を握り締め、きれいになることをイメージして何度も杖を振るったけど、結局この日には【クリーン】が使えるようにはならなかった。

「魔力が分かる魔導具があれば、僕にも使えるかもしれないな。明日は冒険者ギルドだから早めに寝よう」

 こうして僕は明日の冒険者ギルドでの訓練を楽しみにしながら、眠りに就いた。


 この時には既に僕の頭の中からは、すっかり路地裏のことなんて頭の中から消えていた。

 だけどこの路地裏の騒動に、僕が少しだけ関わっていたなんて、知る由もなかったんだ。


お読みいただきありがとうございます。


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