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11 パラスティア大陸旅行日記Ⅰ

 “ゴロリー食堂”にやってきた僕は、お店のスイングドアを開くと、いつもよりも美味しそうな匂いがしていることに気がついた。

「ゴロリーさん、クリスです。おはよう御座います」

 すると厨房から声が掛かった。


「クリス、来たか。ちょうどいいカウンターに座れ」

「とても美味しそうな香りがします」

 鼻をヒクヒクさせながら、僕専用となりつつある子供席へと座る。


「それで今回はどうだった?」

「同じようにスライムを倒しましたけど、無理はしていませんよ。今回は百二個です」

「ほぅ。やっぱりそれだけ狩ってくるんだな。それならレベルも上がったか?」

 ゴロリーさんは僕が無茶をしていないことが分かると、笑顔になって迷宮での出来事を聞いてくれた。

 僕は気になったことを聞いてみることにした。


「一度だけ上がったと思います。でもあまり上がらなくなってきた気がします」

「それは器が大きくなった証拠だ。これからそう簡単には上がらなくなっていくが、焦る必要はない。ちゃんと目標に向かって継続することが大事だ。俺の料理のようにな」

 レベルが上がらないのが普通なら、無理する必要はないもんね。

 それよりもゴロリーさんはカウンターの上に出来たての料理を置いた……といってもそれは、高温に暖められた鉄板の上に一度焼かれているお肉が乗せられているだけのものだった。

 ただジュッゥウウっと、いい音を立てながら、とてもお腹の空く匂いがする。


「本当ならこれは自分で掛けてもらうんだが……」

 そう言いながら、お肉に何か黒っぽい液体を掛けると、液体は鉄板まで流れたのか、さらにジュウウと美味しい匂いが倍増していく。

 少しだけ液体が跳ねていたけど、その液体がこの料理は美味しいって歌いながら踊っているように見えた。


「えっと、これって?」

 もしかしてタダで食べていいのかな?


「それはうちの店で今度出す新作料理だ。家族にはまぁまぁ好評だったが、子供であるクリスの意見も聞いて置こうと思ってな」

「食べてもいいんですか?」

「ああ」

 僕は念のために確認すると、ゴロリーさんは笑顔で頷いてくれた。

 直ぐに出来たてのお肉にフォークを刺して食べようとした……でも、熱過ぎて直ぐには食べることが出来なかった。


 美味しい罠に引っかかって、少しだけ舌が熱くなったけど、直ぐに匂いの誘惑に負けて今度は息を吹きかけてから、口に入れた。


 口に入れた瞬間に美味しいと分かる味、鼻から溢れ出る優しい甘みと液体の香ばしさ、噛めば噛むほど旨味が押し寄せてくる。

 ……ただ残念なことに中々お肉を噛み切ることが出来なかった。


「味は凄く美味しいです。匂いもとても美味しい匂いがして、早く食べたい気持ちになります。だけど……僕には噛み切れないので、薄いお肉なら、もっと良かったです」

 食べるには少しだけ顎を鍛えないと駄目なんだろう。


「そうか……さすがにまだ早かったか」

 僕が大人だったら噛み切れて美味しいんだろうな。

 それを残念に思いながら、味は美味しいから食べ進めていく。


「これを薄く切ってパンに挟んでもらうと高いですか?」

「パンにか? いや、他の料理とたいして変わらないが……」

「迷宮でお腹が空いた時に黒い霧から取り出すと、まだ温かいままなんです。だから迷宮でもいつか食べたいと思って」

 他のお店の料理より、やっぱり僕はゴロリーさんの料理が一番美味しい。

 もし迷宮で疲れても、ゴロリーさんの料理があれば頑張れると思う。


「……その[スキル]は【収納】出来るだけじゃなくて、時間も停止しているのか?」

「えっと、確かめたことがないから分からないです」

 確かめたこともないし、確かめる方法も僕には分からない。


「……まぁそうか。それが分かったら、また教えてくれ」

「分かりました」

「この後はメルルのところか?」

「はい。少しだけ顔を出したら、また二件の食堂でお仕事をして、またメルルさんのところで、本を読みます」

「そうか。でも本ばかり読んでいないで、身体もちゃんと動かしておくんだぞ?」

「分かりました」

 僕はゴロリーさんが作ってくれた食事を最後まで食べ切り、“魔道具専門店メルル”へ向かおうとして止められてた。


「あ、クリス、仕事があるんだが……」

「生ゴミですか?」

 新作料理を作っていたから、もう生ゴミがいっぱいになったのかな? でもゴロリーさんは首を横に振ったから違うみたいだ。


「クリスのその黒い霧は、大きな物でも【収納】することは可能なのか?」

 質問されたけど、やっぱり黒い霧については分からない。


「生物以外ならたぶん?」

 メルルさんのお店の商品は沢山入ったから大丈夫だと思う。

 僕は自信なさげに答えた。


「そうか。実はうちで使っている魔導コンロをオーブンがついている新しい魔導コンロと交換しようと思っているんだ」

「それってメルルさんのところで買うんですか?」

「ああ。ただこの魔導コンロは魔導具だからそこらに捨てる訳にはいかないし、引き取ってもらうにもこの大きさだから、時間も費用も掛かる。それならクリスにと思ったんだ」

 腕を組みながら顎鬚を撫でながら、ゴロリーさんはそう告げた。


「う~ん。たぶん大丈夫だと思います。だけど試してもいいですか?」

「ああ。じゃあちょっと中に入ってくるか」

 そう言って僕は初めてカウンター奥に入ることになった。


「うわぁ~広い」

 今まで店の奥には入ったことがなかったけど、そこには台所があった。


「クリス、これだ」

 そう言って見せてくれたのは、メルルさんのお店で見た魔導コンロと同じ大きさのものだった。


「じゃあ今メルルさんが作っていた魔導コンロは、ゴロリーさんのところで使うものだったのか」

 僕は一人で納得しながら、魔導コンロを【回収】出来るか試すことにした。


 黒い霧はゆっくりと魔導コンロを包んでいくと、黒い霧は更に濃くなっていき、魔導コンロを完全に隠した。

 そして黒い霧が晴れると、魔導コンロは消えてなくなっていた。


「……本当に凄いな。じゃあ取り出せるのか?」

「やってみます」

 元にあった場所へ魔導コンロをイメージして【排出】すると、魔導コンロは本当に元通りの場所へと姿を現した。


「……三日後が定休日だから、まずはメルルのところで新しい魔導コンロを【回収】して、これと交換してもらいたい。報酬はそうだな……クリスが十歳になるまでの朝食代でどうだ?」

「やります。やらせてください。そのお仕事任されました」

「ああ、それじゃあ頼んだぞ」

「はい」


 その後に魔道コンロをどうやって使っているのかを教えてもらってから、“魔道具専門店メルル”へとやってきた。

 そしてメルルさんにもゴロリーさんから受けた仕事を伝えた。


「それなら私も助かるわ。工房にはあまり人を入れたくないし、工房から出す時には一度分解しないと出すことが出来なかったから、設置するのに時間も掛かるし、いいこと尽くめだわ」

 どうやらメルルさんは喜んでくれたみたいだ。


「それなら良かったです。じゃあ今日のスライムの魔石です」

「今回も順調だったみたいね」

「はい」

「じゃあクリス君、私もお礼を上げる」

 そう言って渡されたのは杖だった。


「これってあの時の?」

「そう。クリーンの魔法が使える杖だよ。ただ魔力がないと使えないから、迷宮で寝る前にでも試してみるといいよ。何かきっかけがあれば使えるだろうし」

「メルルお姉さんありがとう。僕も魔法が使えるように頑張ります」

「頑張ってね」

 メルルさんは笑顔で僕の頭を撫でてくれた。

 ゴロリーさんやメルルさんがくれた仕事は、きっととても大きな仕事なのだと思う。

 僕は二人に感謝しながら、絶対に仕事を成功させようと、心に誓った。


 そして生ゴミ回収の仕事にはちょっと早そうだったので、パラスティア大陸旅行日記Ⅰを読むことにした。


 それによるとパラスティアには三大陸あって、アルスタ大陸、ペリノッツ大陸、グランバル大陸があるらしい。本来はもう一大陸あったらしいけど、それは魔王の住んでいた魔大陸ロコンギアという大陸だったらしい。

 今は封印されているみたいで、行き来することは出来ないらしい。


 三大陸はいずれも海を挟んでいて、別の大陸に渡るには飛行生物か、船での航海が必要になるらしい。


 国は全部で四つあってアルスタ大陸の覇者とも呼ばれている、小国を一つに統一した帝国ヤ-ザン。


 アルスタの一部とベルリッツの三分の一を占めるクロスフォード王国


 ベルリッツ大陸の半分を有する勇者を召喚したメルリア王国


 グランバル大陸とベルリッツ大陸をまたにかける迷宮が最も多いとされているプレッシモ連邦国。


 他にもパラスティアにはどこの国でもない街もあるらしい。


 パラスティア大陸旅行日記Ⅰには大陸や大きな街の紹介がしてあって、その後にはアルスタ大陸の街や村、魔物や特産について書かれているものだった。

 でも僕にはまだこの本に書いてある内容が面白いとは思えなくて、結局伝説の騎士の物語をまた読むことにした。少し読んだところで生ゴミの【回収】へと向かうのだった。


お読みいただきありがとうございます。

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