ふたりは見習い主人公〜恋愛小説はじめました〜(3/20)PDFで表示縦書き表示RDF


ふたりは見習い主人公〜恋愛小説はじめました〜
作:TAS



第三話・美幸の休日


 窓から入ってくるすずめの鳴き声であたしは目を覚ました。ゆっくり体を起こすと、目の前には画面が真っ暗になったパソコンがあった。なんであたしここで寝てるんだろ。
 椅子から立ち上がり、腕を伸ばして体をほぐす。おもむろにパソコンの横にある箱型の時計を見た。八時四十七分。
「…………」
 何だ、まだ四十七分か。
「って、えーーーーー!」
 四十七分って遅刻じゃない! どうしよ〜。あたしは取り合えず着ていた水玉のパジャマを急いで脱ぎ、制服に着替えた。紺色のハイソックスを穿き、鞄を背負って部屋を飛び出す。
 階段を駆け下りて、一階のリビングに向かった。そこには朝刊を虫眼鏡で読んでいるお婆ちゃんがいた。あたしに気づいたお婆ちゃんは首を傾げる。
「美幸。あんた何処に行くの?」
 お婆ちゃん遂にボケたか?
「何処って、学校だよ」
 お婆ちゃんは再び首を傾げた。
「おかしいねぇ。今日は土曜日だと思ったんだけど」
「え?」
 あたしは眼鏡の真ん中を人差し指で押し上げ、テーブルに広げた朝刊を見た。日付の所には、はっきりと土曜日と書かれている。……ボケたのはあたしだ。
 あたしは無言のまま二階に戻る事にした。二階に上がるとピンク色の可愛らしい熊の絵が付いたパジャマを着た睦美が目を擦りながら部屋から出てきた。
「お姉ちゃん、おはよ。ってか何で制服着てるの?」
 睦美の純粋で透き通った声を聞くと、自分が如何に馬鹿な事をしたのかがはっきりと分かり、突然顔が熱くなった。恥ずかしいー。
「な……何でもない」
 足早に部屋に閉じこもった。はぁ〜。あたしって馬鹿だなぁ〜。鞄を置き、制服を脱いだ。制服をハンガーにかけ、あたしは下着のままベッドの布団に潜ると自分が何をしていたのかが思い出した。
「……書かないと」
 布団から抜け出し、パジャマを着ながらパソコンを起動させた。マウスを動かし、インターネットを開く。椅子に座り、欠伸をする。「小説家になってまえ!」を開き、自分のページに移動する。するとメッセージが来ていた。クリックして内容を確認する。
 “どうも。何やら李さんと二人で共同作品を作るらしいですね。どんな作品になるか楽しみです。頑張って下さいね。きっとあなたにも素敵なプレゼントがありますよ。”
 又三郎さんさんからのメッセージだった。あたしは見ている様で見ていなかった。駄目だ。やっぱり寝よ。キーボードにあるスリープボタンを押し、布団の中に潜り込んだ。目を瞑るとすぐに眠りについた。

 あたしは夢を見ていた。大好きなバニラアイスにあたしは囲まれている。それを一個ずつ食べていく。五個目でお腹一杯になって一息ついていると、アイスが勝手に動き出した。アイスはあたしめがけて飛んでくる。口が勝手に開く。
「ちょっと! もう食べれないよ〜」
 そう言ったものの、口の中にアイスが大量に詰め込まれていく。誰か助けてぇー!

 すぐに目を覚ました。体中汗塗れになっていた。額に乗った汗を拭い布団から抜け出す。パジャマを脱ぎ、たんすから下着を出し、着替えた。Tシャツを被り、横に黒のラインが入った黄色のジャージを上下を着た。このジャージお気に入りなんだぁ〜。
「……顔洗お」
 変な夢ですっかり疲れてしまったあたしは脱いだ衣類を持ってゆっくりと階段を下りた。階段を下りて奥にある洗濯機の中に衣類を放り込み、洗面台で冷たい水を顔にかけた。気持ちいぃ。
 横にあるタオルで顔を拭き、リビングに向かった。お婆ちゃんの姿はなく、代わりにソファーに何故か起きた筈の睦美が寝ていた。
「美幸。ご飯出来たよ」
 声がした方を見ると、まさるお兄ちゃんが手に目玉焼きが乗った皿を持って立っていた。
「あ、うん」
 あたしは皿を受け取り、既に朝食が整ったテーブルの上に皿を置いた。勝お兄ちゃんは睦美の体を揺らす。
「睦美、朝ご飯だぞ」
 睦美は薄らと目を開けて、
「あ、お兄ちゃん。おはよ」
 勝お兄ちゃんは情報系の専門学校に通っている。黒い縁眼鏡をかけ、背が高い。あたしより二つ離れた優しいお兄ちゃんだ。
 勝お兄ちゃんは優しいだけじゃない。勉強も出来るし、この通り料理だって出来る。でもお兄ちゃんは彼女を作ろうとはしなかった。なんでかは分からないけど。
 勝お兄ちゃんは微笑みながら席に着いた。睦美ものたのたと起き上がり、席に着く。
「頂きます」
 勝お兄ちゃんがそう言うと、あたしも睦美も続いて、
「頂きます」
「頂きま〜す」
 と言ってわかめが入った味噌汁を啜った。美味しいなぁ〜。やっぱり味噌汁っといえばわかめだよねぇ〜。特にお兄ちゃんの作るわかめの味噌汁が一番美味しいと思う。
 あっと言う間に朝食を食べ終え、食器をシンクの中に入れて二階に上がろうと階段の所に行くと、
「にゃー」
 ポン太が足を引っ張っていた。
「ごめんごめん。今持ってくるね」
 そう言って台所から餌を持って、ポン太の所に戻った。
「はい、ご飯だよ」
 餌を皿に移し、ポン太の前に置く。余程お腹が減っていたのだろう。あっと言う間に平らげてしまった。あたしは皿を台所のシンクの中に入れ、ようやく二階に上がった。
 部屋に戻り、椅子に座った。書かないとなぁ〜。腕を伸ばし、体を解す。パソコンを起こし、執筆ページを開く。
「さて、ヒロインどうしょうかな」
 あたしは頭の中でいろんなヒロインを思い浮かべた。もの静かな子、明るく高飛車な子、ドジな子、純粋な心を持った子、様々だ。……あー! 思い浮かばないよー!
 突然、銃声が部屋に響いた。
「ひゃーーー!」
 頭を腕で隠し、机に突っ伏する。…………あたしってやっぱり馬鹿なのかな? あたしは枕元に置いておいた携帯を取った。何でこの着メロにしたんだろ。そもそも銃声した後に伏せても遅いよね。
 などとあたし自身に駄目だしをしながら携帯の画面を見てみる。えみかからだった。内容はと言うと、
「今から例の場所に集合」
 あたしはほんの少し溜め息をつき、着替えた。この溜め息は嫌だなとかそういう溜め息じゃないよ。えみかの言う事は絶対なのだ。どんなに用事があっても必ず行かないといけない。そこがえみかの可愛い所でもある。ようするに寂しがり屋なのだ。
「率直に遊ぼとかで良いと思うんだけどな」
 独り言を呟きながら紺色のジーンズを穿き、水色のアンサンブルのカットソーを被り、その上に青色のカーディガンを着た。何で青ばかりなのかって言ったら、特にはないけど好きだから。
 鏡の前に座った。一度溜め息をついた。嫌だなぁ〜。化粧って苦手なんだよなぁ〜。そう言いながら眼鏡を外しアイメイクとファンデーションを軽く済ませ、薄いピンク色の口紅を塗った。
 もう一度溜め息をついた。化粧なんてしたくないんだけど、やらないとえみかに何されるか分からないからなぁ〜。パソコンの電源を落とし、携帯をバイブにして部屋を出た。
 階段を下りるとパジャマ姿のお母さんの姿があった。
「おはよう」
 お母さんは虚ろな目を擦りながら振り返ると、
「あら、美幸。こんな遅くに何処に行くの?」
 と言った。完全に寝ぼけてる。お母さんはよく寝ぼける。この前もパジャマのまま仕事に行く所だった。その時は勝お兄ちゃんが止めたみたいだけど、誰も気づかなかったら大変な事になっていただろう。あたしが言えた事じゃないけど。
「お母さん。もう朝だよ」
 あたしは溜め息を混じらせながら言った。お母さんは分かったのか分からないけど黙って、手を振ってあたしを見送った。
 えみかが言う例の場所とはここからバスで都心に向かい、そこにある少し洒落た喫茶店の事を言っている。そこの店長とも仲が良く、何かある度に店を使わせてもらっていた。ちょっと迷惑になってるかも。
 家からバス停までは五分もかからない。しかもバスはここから出発するので時間を間違わない限り乗れない事はない。
 バス停に着くと既に白いバスが止まっていた。あたしはバスに乗り込み、適当な場所を見つけて座席に座った。バスの中は差ほど混んではいなかった。子供連れの親子やあたしと同じ歳くらいの人がいるくらいだ。
 携帯が震える。思わず体をびくつかせてしまった。急いで出すとえみかからのメールが届いていた。嫌な予感するなぁ〜。そう思いながらメールの内容を見る。
 『遅い!』
 たった一言だった。だけどえみかの状況を理解するには十分だ。あたしはもう少し待ってと文字を打ち、返信する。丁度バスも動き出した。
 あたしはこのあとの事を想像してみた。どれも酷い事ばかり。お願いだから殴られません様に。そう願った。
 バスを十分程乗っているとバスを降り、そこから走って喫茶店まで向かう。普段あまり運動してないあたしはすぐに息が上がってしまったが、止まって歩く訳にはいかない。それこそえみかに何される分からない。……考えただけでも怖いよ。
 ようやく喫茶店に着くと、中から久美が出てきた。
「お疲れ〜」
 久美がお絞りを差し出してきた。あたしはありがたく受け取り、汗を拭う。お絞りは冷たく、とても気持ちよかった。急に暗くなったので前を見ると仁王立ちしたえみかがいた。
「遅い」
「ご……ごめん」
「分かれば良いのだ」
 そう言うとあたしを店の中に招いた。あたしは黙って従い、店の中に入った。店の中は静かで、とても涼しい。あたしたちはいつもの席、窓際の一番端に座る。すぐに小太りのおじさんが来た。
「いつもので良いかい?」
 おじさんはこの店長で小林さん。高校に入った時にえみかと久美でたまたま来た事がきっかけだった。小林さんはとても優しく、面白い人だった。その日を境によく行くようになったのだ。
「はい」
 えみかが答えると笑顔で奥に行ってしまった。
「えみか。今日は何かあったの?」
「別に。ただ暇だったから」
 えみかはそれが当然の様な口調で言った。本当は寂しかったのだろうな。そう思っただけで、言葉にはしない。多分殴られるから。
「そういえばさ、美幸って何で青い服ばかり着るの?」
 いつの間にか飴を舐めていた久美が突然そう言い出した。
「そういえばそうね」
 えみかもあたしの服装を見ながらそう言った。
「好きだから……かな?」
「えー、つまんないなー」
 えみかは腕を組み、面白い答えをしろよという様な目を向けてきた。聞いてきた久美は窓から外を見ながら飴を舐めている。聞いときながらそれはないでしょ〜。
「お待たせ」
 小林さんがお盆を持って来た。お盆の上にはアイスコーヒー二つとオレンジジュースが乗っている。オレンジジュースはあたしの前に置かれ、アイスコーヒーはえみかと久美の前に置かれた。
「ゆっくりしていってね」
 そう言うと小林さんは再び奥に行ってしまった。あたしは早速グラスに入ったオレンジジュースをストローで一口飲む。冷たく美味しいなぁ〜。
「沢村君、風邪治ったの?」
 あたしはさっきの嫌な空気を変える様にえみかに話しかけた。
「熱は下がったみたい」
「馬鹿でも風邪ひくんだね」
 それを聞いたえみかは久美に一発。久美は頭を抱えて丸くなった。
「……お見舞いに行かなくていいの?」
 えみかはアイスコーヒーを一口飲んでから口を開いた。
「たーくんに風邪移るから来なくていいって言われた」
 えみかは何処か、悲しそうに言った。何度も言うけどえみかは寂しがり屋なのだ。多分そう言われたから今日こうやって召集をかけたのだろう。…………これだよ!
 あたしは携帯を取り出し、メモ帳代わりに文字を打った。
「何やってるの?」
 頭を摩りながら久美が言った。それを聞いたえみかも覗き込む。
「ヒロインの人物像が出来たんだ」
「へぇー。どんなの?」
 えみかは興味津々になって聞く。
「ヒロインは病気持ちなの。学校にも行けず、ずっと病院にいるの。生きる気力がなく親や友達の前では強気でいるんだけど、本当は寂しがり屋なんだ」
 あたしは大雑把な説明を終えると、えみかがそれ良いよ! と言ってくれた。久美は聞いてるのか分からないけど、頷いていた。
 李さん。この勝負貰った!


どうも、TASです。今回からコメディ要素が出てくると思いますので、皆さん飽きずに読んでみて下さい。(by李仁古)











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