6:回想拒否
あれから七、八分ほど歩くと、繁華街に出た。そこはさっきまでの静寂が嘘のように、人々の喧騒に包まれていた。
しかし、ここに来たはいいのだが、どこに行けばいいかが問題だった。なにせ圭は深雪以外の女性経験は皆無。しかもその深雪とさえ、まともに繁華街を歩き回ったことはない。一応優希は女の子なわけで、気の利いた場所にでも連れていくべきなのだろうからして。
そして圭なりに頭をひねって、
「………」
ここにいる。
ふたりは店内の二階にある開いていた四角いテーブルを挟んで腰をかけていた。若者や多数の人々が押し込む声を上げていて、店内に流れる滑らかなメロディと合わさり、店内は休日なだけあって賑わいみせていた。
ふたりのテーブルの上には、ハンバーグ製造の行程をプリントしたプラスチックのお盆。その上には紙袋にくるまれたハンバーガーが数個と、ポテトのLサイズがひとつ、熱いコーヒーがふたつ乗せられていた。
(いくらなんでもこれはないだろ俺ぇっ!)
考えに考えぬいたすえに、ファーストフード店に行き着いてしまった自分に自己嫌悪の波に襲われていた。今の今まで自分のポキャブラリーの無さをここまで恨んだことはない。
そんな圭の心情を知ってか知らずか、優希の視線はハンバーガーに注がれていた。流石に呆れているのか……。
ハンバーガーを指差して一言、
「……これって、なに?」
…………はい?
「いや、なにってハンバーガーだけど……」
現状に呆れかえってこんなことを言っているのだろうか。もしかしてハンバーガーを知らない、なんて考えが浮かぶが、いくらなんでもそれはないだろう。
だが、嫌な予感と言うものはかなりの確率で当たるものらしい。
「ハンバーガー……ハンバーグの派生系かなにか?」
優希は可愛らしく首を傾げる。しかも間違ってはいないのだけど、的外れな意見なのがなんとも。
「ま、まあ食べてみればわかるよ」
訝しげに眉をひそめながら、得体の知れないものを触るように、恐る恐るハンバーガーを掴みあげる。暖かいハンバーガーの熱を包み紙越しに感じながら、包み紙を剥がす。パンズに挟まれたハンバーガーが半分だけ顔を覗かせる。
少しの間ハンバーガーを見つめ、意を決したようにハンバーガーにかぶりついた。
口を離して、一口一口じっくりと咀嚼する。かみ砕かれたハンバーガーが優希の喉を落ちていった。あ、と短く息をもらす。
「……美味しい」
瞳を輝かせて告げる優希に、肩の荷が無くなるような安堵を覚えて、ほっと息をついた。
「ほら、ポテトも食えよ」
「うん」
ポテトを手に取り、口に放り込むと、またもや優希の目が輝いた。そんな優希の反応を微笑ましげに眺めながら、圭は温まった黒い液体を嚥下する。程よい苦味が口の中に広がり、身体をほんのりと暖める。
身を細めて優希を見て、これが父親の気分なのだろうか、と思ったところで、冷たいものが圭の中に落ちた。
──なにが父親だ。
ギリッと音を立てるほど奥歯を噛み締める。
そんな圭の様子には気づかず、優希は美味しそうにハンバーガーを頬張っていた。 |