剣神-ブレイドマスター-(66/82)PDFで表示縦書き表示RDF


剣神-ブレイドマスター-
作:刹那



65:一触即『発』


 優希と別れた圭は、走り回る中自然にもっとも爆音の激しい地点に向かって通路を駆け抜けていた。銃声と断続的に地面を轟かせる地響きが大きくなって行くことで、戦場に近付いていることを認識した。腰の精製素材を掴んで、すぐさま剣を創り出せるようにする。

 後ろに消えていく通路の上部に、進行先を示したプレートが貼り付けられていた。予備弾薬庫、と書いてあった気がする。なら、今激しく音を立てている地点はそのさらに奥のブロックにある格納庫辺りだろうか。音のせいで近く感じるが、予想が当たっているなら距離はまだまだ遠い。

 効率を重視するなら、もっと他から聴こえてくる銃声の方へと向かった方がいいかもしれない。格納庫は一番武器弾薬に恵まれている場所であるし、騒ぎが外に洩れないここならば思う存分兵器を扱えるはずだ。この雪崩のような銃声の連鎖もそのことを示している。別に銃で夜魔を倒せないわけではない、と赤瀬から訓練の時に知識として叩き込まれていた。

 しかし余所で各個応戦している兵士の弾薬には限りがある。今からでも向かう戦場を変えるべきか──。そう圭が判断に労していると、現在地から十数メートル前方に見慣れない人影を見つけた。

 圭は特筆して常人より視力が発達しているわけではないが、それでもあの人間がSDFTの者ではないと一目で分かった。ここで私服を着て行動するのは圭達のような正規の軍人でない者だけであるし、なによりその数少ない中には"まるで十字架のような剣"を手にする人間など存在しない。

 あの特徴的な剣には確かな見覚えがある。相羽と呼ばれていたはずだ。そして間違いなくこの場を襲う元凶が一。

 あちらも圭に気づいたのだろう。こちらに背を向けて走り出す。

「オイッ、待て!」

 当たり前に相羽は止まらない。走る速度はほぼ五分五分、長物をまだ作り出していない圭が辛うじて早い程度で、距離は縮まりそうになかった。ここからではナイフも投擲したとして、当たるどころか届かせる自信もない。

 ずっと直進していた相羽が左に曲がり、とある一室に身を滑らせた。遅れて圭が部屋の前までくれば頭上には予備弾薬庫の文字。辺りの造りからしてここに入ったのは間違いない。

 今度こそ剣を創り出す。蒼の発光はすぐに消えて、手には銀の刃が現れる。

 確かな感触を手で握り締め、慎重に部屋の中に足を踏み入れた。染み付いた火薬の匂いが鼻につく。

 予備弾薬庫、と言っても中には大量の弾薬が常備されており、それを収めるここも部屋なんて規模ではないほどに広い。この組織が公には絶対ならないよう、武器弾薬の調達を一度の機会で大量にするためだろう。そのせいで必然的に弾薬庫も広くなるのか。天井の高さと部屋の広さは大体学校の体育館の半分くらいだろう。ライトも付けられていないこの場はさながら迷路。出来るだけ足音を忍ばせて弾薬庫を行った。

 痛いほどの静寂。たった少しの力加減で足音が響くだろう状況による緊張。敵はどこに潜んでいるか分からず、しかも視界は真っ暗。

 ようやく目が暗さに慣れてこようとした時、先に視力を暗闇に馴染ませた相羽が物陰から飛び出した。

「────ッ」

 だが位置は明らかに剣の間合いではない。それを見て圭は冷静に対応しようとする。が、相羽が剣を振るおうとしているのを見て鳥肌がたった。

 その動作(モーション)師匠(あかせ)のそれと似ており、同時に相羽の力を思い出す。

 圭が地面を蹴るのと相羽の剣が(ほむら)を吹いたのは本当に紙一重の差だった。

 先程まで圭が居た場所を、紅き高温の暴力が飲み込む。肌を焼く熱波が圭を襲い、汗が吹き出した。

 地面を転げて物陰を背にして、ぜえぜえと肩を揺らして息を切らす。額には真夏の陽に照らされたように汗が滲みだしていた。

「火薬のある所で火なんて出すかよ普通……!」

 幸い弾薬類はコンテナに入れられているが、この炎がもろに直撃すれば熔解するのは間違いない。

 吐き出された火が燻って残らないのは燃え移るものがないからだろう。その心配がないだけで幾分かやりやすいが、一々心臓に悪い戦場だ。もし爆薬に火が灯れば誘爆に誘爆を重ねて大惨事になりかねない。

 圭を休ませてくれる気はないのか、相羽は素早く移動して圭を視界に認めると剣を振るい炎を放った。

「うおっ」

 前に飛び出して炎を躱せば、背後で暴風を思わせる轟音が鳴り響く。いや、確かにこれは炎の暴風だ。巻き込まれればミディアムどころか数分で消し炭となること間違いない。

 矢継ぎ早に生み出される炎に肝を冷やしながら間一髪で避け続ける。圭の圧倒的な不利による防戦一方の戦い。

 こんな状況の中、圭は荒凪の言葉を思い出す。相羽は自分達と同質の人間なのではないか、と。今まで半信半疑だったそれが、圭の内で現実味を帯びてくる。

 圭等の肉体には人外達の規格外能力(アウター)はほぼ通用しない、特に身体が直接的に傷つく物は総て無効化されていた。間接的な干渉でも排除しようと思えば消し去る事が出来た。だが相羽の炎は、熱さもそれから伴う痛みもなくなりはしない。

 つまり、こいつは──。

 結論に至る圭に、紅蓮は容赦をすることはない。これも際どいタイミングで回避した。圭から逸れた炎はコンクリートの地面に激突し、そこを紅く赤熱させる。

 相羽の正体を自分と同じ異能の主と知って、圭は息が上がり少しやけくそ気味に声を張り上げた。

「待てよッ、あんたも俺達と同じ異能者なんじゃないのか──ッ!?」

 途中飛んできた紅を物陰に飛び込んでギリギリながらもやり過ごす。まったくもって手加減がない。自分の考えがまったくの見当違いなのではないかと思ってしまうほどに。

 訊くにしても戦うにしても一度接近しなければ一向に埒があかないと、圭は生唾を飲み込み揺れそうな心を鎮めて物陰から飛び出した。一転攻めへ移った圭に意表を突かれ、相羽は炎を放てない。その僅かな隙を付いて圭は生み出した二本のナイフをガンマンのような動作で投げつける。

 飛んでくるナイフはどちらも直撃コース。相羽はやむを得ず剣で宙を裂くナイフを打ち落とす。推進力のベクトルを変えられたナイフが地面に叩きつけられる時、圭は相羽へと肉薄していた。

 気合一拍、剣が振り抜かれる。

 その刃は相羽の剣で妨げられ火花を散らし、鍔迫り合う。

「人の話に答えろよ……っ!」

「分かっているのに確認するな──」

 瞬間、相羽の剣が紅蓮に燃え上がる。

 眼前の高熱に堪らず相羽から距離を取った。せっかく詰めた間合いが開き、相羽は圭の射程外に。

「それはつまり、」

「そういうことだ」

 本人の口が肯定する。自分は人間であると。ただ異能を扱えるだけの人間であると。それはひとつの疑問を氷解させ、入れ替わりに新たな問題を浮かび上がらせる。

「なら、何故あんなのと一緒にいるんだッ」

「……なんで、と?」

 喜怒哀楽を感じさせず、淡々としていた相羽が片方の眉を吊り上げた。

「なんで? 何故俺が奴らの下にいてはならない? それこそ意味がわからん」

 相羽の答えに、圭はこんな状況にも関わらず一瞬呆けた。

「意味が分からないって……あんたも奴らに殺されかけたはずだろ? それ以外に最悪なこともされたかも知れない。それで何故協力できるんだッ!?」

 こいつが人外(コンダクター)と一緒にいたならば、その実態は分かっているはずだ。夜魔を世に放ち人を惨殺し、圧死させ、滅殺する。その行為の対象に見境はなく、夜魔を作り出す行為も非道──少なくとも圭は幼い少女の姿を見た。

 そんな事を行う連中と共にいることに対して何故?

 圭は正義を振りかざし批判しているわけではない。そこまで一方的に自らの価値観を押し付ける自己満足をするつもりではなかった。例えば不良連中相手に何故連んで迷惑なことをするのか──、なんて集団で暴力を働いていたりするのを止めることや、不快に思うことは多々あれど、わざわざ説教をするつもりは更々ない。

 しかしこれは、異能者の立場からしてSDFTに非干渉──かつての圭がそれ──ならともかく、コンダクターに味方し人類の敵になるとは如何なることか。例のこととはスケールが違いすぎる。

 そして個人的な倫理観と言うより、異能者として相羽はおかしいと感じた。異能を扱える者は皆総じて夜魔と接近遭遇をしている。夜魔は狩り以外で人前には現れず、つまりイコールで夜魔遭遇と死はリンクしている。故に異能者は一度夜魔に死を喉元に突きつけられた人間であり、恨みこそあれ好意的な感情は一切持ち合わせることはない。そういう状況下でなければ異能者は生まれないから。

 だから圭は問うた。そのような体験をしただろうに、コンダクターに付き従うのか。

「お前は根底から間違えている」

 そう答えた。

「確かに俺は死を突きつけられはしたが致命的な傷を受けてはいないし、それを与えられたのは一緒にいた友人だ。俺が力を発現させたら発狂して出血多量で死んだよ」

 ぽんぽんと相羽は自分の左胸を叩く。

「それっきり人間不信。まともに生きられなくてね。何度かストレス解消に夜魔を殺してそこで人外の登場。大人しく軍門に下ったんだよ。奴らは人間じゃないからな」

「そんな……ッ」

 今まで無口とは打って変わっての流暢な言葉に、圭は二の句を続けることができなかった。

「──さあ、戯れはもう終わりだ」

 ゴウォッ、と相羽の剣が紅蓮の火化粧を纏う。剣を中心に熱で辺りの空間が歪んだ。

 炎が圭を狙って解き放たれる。横に飛びだして躱すと圭の頭上を炎蛇が通過し、熱が肌をちりちりと舐めた。

 とっさにナイフを投擲しようとして、躊躇する。一度は戦況を変えようと焦っていたために投げてしまったが、例え敵であれ、相羽は人間だ。夜魔のように殺すつもりでナイフを投げようとする事を躊躇ってしまった。

 炎の奔流を避けたばかりの圭に、それは戦いにおいて決定的な隙だった。相羽が隙を見逃すことはなく、隠し持っていた楕円形の物体を圭に放り投げた。

 地面を転がる物体は、ピンを抜かれたパイナップル型手榴弾。相羽の手にある爆薬が詰まったケースを見て、圭はコンテナからくすねたのだと分かった。

 炎を躱した大勢では回避運動をとることは不可能で──

 直後、炸裂。

     *

「潮時、か」

 そう呟くと、ゼパルは構えていた剣を亜空へとしまい込んだ。現れた時と同じく消えるのに要する時間は刹那。映画の一シーンなら、あまりの早さにフィルムが欠けているのかとほどだった。

 向かいには、目立った傷のない赤瀬が刀を構えている。ゼパルも大した傷があるわけではない。一見するとふたりは戦ってなんていないように見える。が、辺りに転がる細切れになった夜魔の死体が戦いの壮絶を物語っていた。床は赤い絨毯を敷き詰めているのかと思うほど肉片と血液が散乱している。

「逃げるのか?」

 眉を顰める武人に、ああ、とゼパルはなんでもなく応える。

「逃げる。送り込んだ夜魔もほとんど壊滅したらしい。残っているのも時間の問題だろう? 目的は達成したからね」

「陰湿な目的もあったものだな」

 これは、報復。自分達の要求を断り、最後通告を無視した人間組織への粛正であった。結果SDFTは大打撃を受けた。恐らく、現在生存している隊員は全体の三割も生き残ってはいないだろう。下手をすれば二割、一割かもしれない。夜魔の襲撃はそれほどまでに驚異であり、圧倒的。

 もう各地に散ったメンバーを集めてもまともな組織として機能はしないだろう。少なくとも異能者は恩恵をほとんど受けられず、前のように夜魔を狩ることはできない。それはSDFTが抑止していた夜魔が大量に跳梁跋扈するということだ。

 いくら国家組織とはいえ建て直すのも容易ではない。これは事実上のSDFTの崩壊だった。

「陰湿とは失礼な。歩行に邪魔な杭を叩き折っただけだ」

 冗談めかしに鼻を鳴らして、ゼパルは薄く笑う。

「ではお別れだ赤瀬洋司。お互いに生きていても二度と会うことはないだろう。数百年振りに人間との戦いで血湧き肉踊らせたよ」

「……では報奨としてお前の首を寄越してくれないか。俺も少々怒っていたんだ」

「それは気づかなかった。だがその願いはきけないな。──ああ、それと夜魔はまだ残っているのを忘れるなよ。これ以上被害を広めたくはないだろう?」

 最後に言葉を言い残し、ゼパルは闇に包まれた。消えるまでのラグで切りかかることは出来たが、そうすることを赤瀬の理性が許さない。ここでゼパルを引き止めれば生き残りの夜魔を止める人間が少なくなるうえ、また何を仕掛けられるかわからなかった。これ以上被害を広めては絶対にいけないのだ。

 戦闘を繰り広げる爆音の数は少なくなっていた。赤瀬は耳を澄ませると、近くで壁が砕ける轟音が鼓膜に届く。収まることなく何度も何度も。激しい戦闘が未だに行われているのか。赤瀬はそちらを目的地として通路を行きだした。


絶望した!結構苦労したのにそれなりで絶望した!刹那です。

毎回あとがきが愚痴愚痴になってきてますが、それなりにご了承くださいすいませんごめんなさい。後悔するなら書き直せとか言わないでくださいな、これが俺の限界OTL

とりあえず今回は難産。疲れた。いろいろとパニクりました。これからの話を整理してたら問題点がぽろぽろと見つかりだして『こいつはヤバい!早く何とかしなければ……っ』と今回の話を弄くったりこれ以降どうするか考えたり。伏線処理が本格的に大変に。

それはともかく最近麻雀始めました。ロンする時の優越感はたまりませんね。

「(こいつは、通る!)」
「ロン……七対子」
「なん、だと……?」

あとがきで若干ネタバレしますが絢人VSシトリは描写せずに終了する可能性があります。どうやらシトリが逃げた後絢人が〜、など。文章削減のために。予め謝っておきます。

なんか最近またグダグダタイムに入ってないかな、と自己作品に感覚が麻痺してる自分に心配しつつ終了。感想評価ランクリ、待ってます。











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