剣神-ブレイドマスター-(19/82)PDFで表示縦書き表示RDF


剣神-ブレイドマスター-
作:刹那



18:学園祭とすれ違い


 そして──学園祭が始まった。

 ここでの学園祭は二日間に渡り行われる。そのくせ一日目だとか二日目限定のイベントなどは存在しない。それはあくまで参加者には存在しないだけで──具体的に学校側が催すわけでもないが──達成の余韻に浸りつつ打ち上げをするのが、生徒達の間では儀式のように存在していた。教師達もこの日ばかりは事実上黙認している。飲酒喫煙はもちろん補導されてしまうのだけど。

 校内のボルテージは最高潮。正門から保護者を含む一般参加者が流れこみ、気づけば校庭は見渡すかぎり人の海と貸していた。大量に溢れる黒い海水の中で時たま見え隠れする他色の浮遊物。そんなこと思い浮かべられる光景は、壮観としかいいようがない。
 校舎内も様々な声が飛び交い、祭りの様相をより一層高まらせていた。

 ──ただ、こんな場所にも例外はいるわけで。

     *

 今日はどうしようか、と麻生優希は途方にくれていた。

 優希が店員をやるのは午後からになっていて、今日は一日時間がある。ただ……どこをどう行こうかまったくわからなかった。

 当日は圭に案内してもらうつもりだったのだけど、彼とは二日前の夜に喧嘩してそれっきりだ。優希はあの言葉を許すつもりは毛頭ない。だから圭を殴ったことにもあまり罪悪感はなかった。

 ただ、あれ以来沈んでしまっている圭を学校やSDFTでもトコトン無視するのはどうかと思っている。自分が悪いと思っていない人間は、思わぬ反撃を喰らうと理不尽に憤る。だが圭は沈んでいて、落ち込んでいるのは誰の目からも明らかだった。

 なのに視線さえも一方的にしか投げられない。相手と視線を交わしてしまうかもしれない状況では、気まずくて直視できなかった。

 これはまずい、そう思ってはいるものの、どうしたらいいかわからない。

 どちらかが謝ればすむことなのに。『ごめん、この間は悪かった』『ん、別にいいよ。一緒にカレー食べにいこう』。脳裏に何度目かの妄想を浮かべて、なにも変化しないことに嘆息を吐くと、スカートのポケットに入ったクーポンを握りしめた。

     *

 昨日会った時から、圭くんの様子がおかしい。

 朝倉深雪は愛しの相手の様子を思い浮かべる。異変を感じたのは、優希とすれ違った時だ。身体はあからさまに硬直して、優希は圭の存在など存在しないように──もしくは羽虫が蠢いてるようにしか意識せず、一瞥もくれなかった。

 試しに優希の名前を出してみると、頬を引きつらせながら『なんでもない』とお茶を濁されてしまう。そんな表情で言われてしまえば、何かあると肯定してしまっているも同然だった。

 下手に出るような様子から、彼が優希に何かしたのかとも考えた。ある友人の証言では『夜中にコンビニに二人で出かけてから』挙動が不審になったらしい。なんで二人だけに行かせたか怒鳴り散らしたい気分になったが、友人に罪はないのでそれを表に出しはしなかった。

 でも圭がそうゆうことをするとは長年の経験からは想像できない。一時の感情で襲ってしまうような人間だったなら、深雪がとっくの昔に餌食になってしまっていたはずだ。もっとも、そんな展開は望むべくもないことであるが。

 この状況は深雪にとっては願ってもない。邪魔者が実質消えたようなもので、学園祭では圭とふたりきりで過ごせる。これはこの上なく明るいニュースであった。

 鼻歌でも歌い出しそうな内心を留めて、深雪は山里圭に声をかけた。

     *

 結局謝れなかった、と山里圭はうなだれていた。

 ついに学園祭始まってしまっても、未だに謝れないでいる。あれは一方的にこっちが悪い。自分の事情なんて優希には関係ないのだ。なら早く謝ってしまおう。圭が持ってる分のクーポン券を一緒に渡せば少しは許してくれるかもしれない。

 そんな淡い期待を持ちつつ、同時に叩かれた頬に触れる。彼女の怒った形相を思い出し、幻痛に顔をしかめる。

 あんなに感情高らかに激昂した優希を見るのも、彼女に殴られるのも始めてだった。きっと優希は酷く傷ついた。こんなことでは許してくれるわけがない。事実、自分は無視されているではないか。

 周りの騒がしさが自分の失態を責めたてているようで気が滅入る。

 そしてちょうどため息を吐いた時に肩をたたかれた。

「けーいくん! 一緒に学園祭見て回ろうよ」

 ひょこりと朝倉深雪が圭の肩から顔を出した。

「ああ、深雪か……」

「もう、せっかくの学園祭なんだから沈んだ顔してない。ね、見て回ろうよ」

 深雪が繊細な指先で圭の手をとって、圭の瞳を覗きこむ。

「いや、今はそんな気分じゃ……」

「気分もなにも学園祭なんだから楽しまないと損だよ。ほら、早く行こっ」

「あ──ちょっ、引っ張るなって!」

 圭の制止の言葉など気にも止めず、強引に腕を引いて歩き出した。

 いくらか抵抗してみるものの、深雪相手にあまり力を入れることも出来ずに為されるがままに引きずられていく。まあ、ちょっと沈んだ心も学園祭を回っているうちに少しはマシになるかもしれない。心が落ち着けば優希にだって謝ることができるかもしれない。深雪からの誘いを無碍に断るのも悪いだろう。もしかしたら彼女なりに励まそうとしているのかもしれない。

 そう思って歩調を速め、深雪と並べて教室を横切った時、

「──ッ」

 中からこちらを見ていた優希と視線が交わる。何か言おうと圭が口を開きかけた時には、すでに優希は目を外して廊下の方へ消えてしまっていた。

 ……しばらく、立ち直れそうにない。

 胸中でそう密かにつぶやいた。

     *

 どこへ行くでもなく廊下を早足に進んでいたら、すぐに壁に突き当たり、圭がいないことを確認してからそっと息を吐いた。

「……何してるんだろう」

 さっきなんで逃げちゃったんだろう、とつぶやいて壁に背を預ける。

 あのときせっかく圭が何か言おうとしてくれたのに。あの言葉に一回でも答えて会話を成立させれば、後は簡単に進められたかもしれないのに。

 でも、圭と深雪が仲が良さそうに手を繋いでるのを見た瞬間、頭の芯がカッと熱くなってしまったのだ。

「──ッ!」

 途端、頬にうっすらと朱色が混じる。

 なんだ、自分は深雪に嫉妬しているのか? そんな考えが脳裏に浮かんで慌てて打ち消した。仲が良いことに怒りを覚えるなんて、馬鹿なこと考えるだけでふたりに失礼だ。

 そう思ってはいても、深層ではあのふたりを見た時の変な気持ちを打ち消せない。

「……なんなんだろう……」

 この気持ち、と口の中でぼやかれる。いったい自分が何をしているといるだろう。言葉では形容しがたい何か。それに嫉妬なんて、どうして感じてしまったのか。確か妬みや嫉みという感情は、自分と異なるものや、良く見えるもの、自分が欲しいものとかを所持している相手に向けるもののはずなのに。それを何故深雪に……。

 はあ、と何度目かのため息をついて、熱する頭を冷ますためにふたりに対する思考を中断する。

 流れて早足に消えていく様々な人達を眺めながら、ぼんやりと別のことを浮かべる。

 そういえば、最近SDFTのみんなが忙しそうだったな。たまに現場に赴く溝呂木も昼夜書類整理に追われていたし。あの真由美までも目の下に隈を作っていた。

 そのくせ手伝おうとしたら、やんわりと断られる。そんなに私は頼りないのかな。書類整理くらいできるのに。

 スカートのポケットに手を入れると、少ししわがれた紙の感触が帰ってきた。

 ……カレーでも、食べにいこう。


今回はいつにも増して推敲をしてないので文章が見苦しいかもです。……いや推敲をまともにやったことは、片手で数えるほどだけどね。

それにしてもメール執筆は楽だなぁ。俺はメーラーで小説を書いて、コピーで貼り付けてたんだけど、これは送信するだけ。便利になったもんです。

そして二日前は初登校日、明日に入学式で次の日から俺の高校生活開幕です。高校生になってない人間が高校生を書くのは今更ながら、如何なものかなぁ……と。

それでは感想、批評待ってます。











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