剣神-ブレイドマスター-(14/82)PDFで表示縦書き表示RDF


剣神-ブレイドマスター-
作:刹那



13:ジ・O


 その凛と張った弦のような声で圭の意識は現実へと回帰する。

 夜魔の腕が地面に落下し、苦悶の呻き声が上がった。空気をうねらせ、腹の底を震わせる大太鼓のような怒号。目を憤怒で血走らせ、傷口を抑えるわけでもなく、空いた片手での裏拳を優希に振るう。とっさに身を屈めて拳をやり過ごせば、彼女の艶やかな髪が千切れ鮮血のように闇に溶けて消えた。

 片腕を失い、さらに大振りな一撃を放った夜魔の懐は隙だらけ。それを優希が逃すわけはない。目が狩人のように光り、チャンスを逃すまいと腕を振るった。鞭が空を舞い、夜魔のわき腹を両断する。

 ──かと思われた。

 が、それは夜魔の腕に受け止められていた。

 第三の、腕に。

「ッ!」

 腕の所在は第二の夜魔などではない。正真正銘目の前に聳え立つ夜魔の肩甲骨辺りから生えていた。

 意表ついたことが愉快でたまらないのか、夜魔の顔が愉悦に歪む。自らの失態に舌を打ち、鞭を引き抜こうとするが、新たに生えた第四の腕が優希の身体を殴打し吹き飛ばす。

 完全に傍観する形になっていた圭の脳裏に最悪の想像が思い浮かび、空を舞う身体を前に絶句する。が、心配を余所に優希の身体は宙で一回転すると、新体操選手もかくやという動きで地面に着地した。しかしその手に武器はなく、先程まで武器だった物は夜魔の掌の中で銀色の粘液と化している。

 援護に駆けつけたはずの優希はあっさりと無力化されてしまった。例え並外れた身体能力を持っていても、夜魔の前では剣神能力以外は無力なのだ。

 彼女が駆けつけるまでは停止していた思考が、圭の中で再び起動し始める。まるで今までの休みを挽回するような勢いでそれは回る。

 現状の整理。

 圭は現在武器の生成は不可能。出来たとしても、現状周りにあるものでは強力な物は作れない。戦闘能力は皆無。

 優希にさえ、現在武器はない。彼女が武器を作り出す条件は鉄。しかし砂鉄などはその対象にはならず、よって新しい武器の生成は実質不可能。

 万事休す。

 新たな腕を合わせ、優希が斬ったひとつを除き、隠し腕二本を合わせて現在三つの腕を持つ夜魔は夜空に吼える。

 少ない経験で対処法を探しては却下しを繰り返している圭の身体から冷や汗が吹き出す。今のままでは、ふたりでこの夜魔と戦い、ましてや勝利するなどできはしない。

 ──あくまでふたりならの話ではあるのだけれど。

「セェイリャッ」

 かけ声とともに夜魔の背後上空から、巨大な剣が斬撃を降らせる。頭から真っ二つになるかと思ったが、神がかった速度でそれに反応したかと思うと、三腕の腕すべてで剣を受け止めた。しかし大剣に加えられた力は想像を遥かに絶するものであり、夜魔の足がコンクリートの地面に食い込む。音を立てて地面に亀裂が走って、陥没する。

 大剣を振り下ろした男──荒凪健一が反動を利用して跳び、夜魔の射程から離脱し、ふたりのちょうど中間地点に降り立った。

「荒凪!」

 優希が声を上げてその者の名前を呼ぶ。

「すまん、遅れた!」

 焦ったように返事を返し、大剣を隙なく斜めに構えなおす。荒凪が持っている大剣は約百センチほどのもので、重量も相当なはずなのだが、荒凪の動作からは重みがまったく感じられない。

 夜魔が怒声を張り上げて、荒凪に向かい走り出す。その迫力はトラックが猛スピードで突進してくるのにも似た威圧を発せさせる。

 対して荒凪は大剣を大きく振りかぶる。

「ガァアアアアアッ!」

 三つの腕が荒凪を襲い、

「ォォォラァッ!」

 こちらは大剣をただ乱暴に振り下ろす。

 コードの束を引きちぎるような音とともに、筋肉繊維が両断される不快な音。

 夜魔の身体が袈裟に切り裂かれ、血しぶきが舞う。

 夜魔の腕はギリギリ届くには至っておらず、中空で制止した。

 両手に伝わる確かな手応えと、荒い息を繰り返す夜魔を見て、荒凪は勝利を確信する。そのせいだろう。大剣を乱暴に引き抜いて、トドメを加えるの遅くなり、さらに大きな隙が生まれてしまったのは。

「うしろッ!」

 優希の絶叫。

 いきなりのことで何のことだか分からず、背後を振り返ろうとした時、すでに荒凪の身体は宙を舞っていた。

「ガハッ」

 地面に背中を打ちつけ三回転。衝撃に肺に溜まった酸素を吐き出す。

 先程まで荒凪立っていたうしろには、漆黒の体躯を持った人外の獣。隠し腕の夜魔と比べて少々小さいが、そこには第二の夜魔が存在した。

 あの死体は隠し腕を持った夜魔に複数方向から切り裂かれたのではなく、やはり二体の夜魔に八つ裂きにされていたのだと優希は確信したが、他のふたりには分かるわけもない。

 隠し腕の夜魔も虫の息でありながら、まだ活動は止まらない。苦渋を舐めさせられたからだろうか、獣面と人面が同じような表情で嗤っていた。

 荒凪はよろよろと立ち上がるが、無防備な部分に打ち込まれたからか、足がふらついている。一体ならともかく二体を同時で相手にするのはもはや不可能。

 まだ到着していない武装員が来たとしても、マシンガンや手榴弾などの対人間兵器では対処のしようがない。さきほどの二の舞になるのは目に見えている。戦車咆などがあれば話は別だろうが、そんな物は現在持ち得ていない。

 完全に詰んだ。そう思われた時、

「──加勢する」

 機械的な合成音声が暗闇に響いた。

 そして機械音の発信源は暗闇から染み出たように、悠然と夜魔のそばに立っていた。

 少年とも少女ともつかぬ彼はパーカーを羽織い、目深にフードを被っていて表情さえも伺えない。暗闇に浮かぶぼやけた輪郭から見える姿は華奢でどこか頼りなく、それなのに異常な存在感を振り撒いていた。

「絢、人……ッ」

 大剣を杖のようにしている荒凪が辛うじて声を上げる。絢人と呼ばれた彼──もしくは彼女が今にも倒れそうな荒凪に視線を向け、ため息に似た物を吐き出した。

「……調子に乗るからそうなるんだ」

 少し不機嫌そうな音声。本当に機嫌が悪いのかは機会音声からでは読み取れない。

 目の前にいるのに無視されたことに苛立ったのか、声を上げて隠し腕の夜魔が腕を振るう。

 対して絢人は微塵も慌てない。チラリと視線を向けて片手をかざす。

 夜魔が振りかぶり加えた一撃は、細い腕一本に軽々と受け止められていた。夜魔と絢人の力を知らない圭が驚愕に目を見開く。

 夜魔が慌てて腕を引くと絢人は何もせずに解放する。追い討ちや、一瞬動きを止めた夜魔への追撃もしない。自分の一撃がいとも簡単に防がれたことに対しての焦りか、夜魔は三本の腕を総て使っての猛攻を開始する。。

 殴り、殴り、殴り、爪で薙ぎ、いつの間にか加わったもう一体の夜魔の攻撃を持ってしても、絢人は爪による攻撃だけを回避して、それ以外は微動だにしない。

 焦り、余りの無力さに絶望し、自分の愚かさを嘆き、情けない気持ちを鼓舞するように吼えて、殴る。

 それでも総ての感情を冒涜するように絢人は健在する。

 僅かに息が絢人から漏れ、

「……トドメ」

 身体を捻って拳を振りかぶり、力を集中するように脳内でイメージし、放つ。

 拳が獲物にしたのは血液を撒き散らしながらも必死に攻撃を続ける夜魔。そして拳は夜魔の瞳に残像が辛うじて写る速さで飛来し、人面を打ち抜いた。

 血が吹き出す死骸には一瞥もくれずに、絢人は攻撃を加えようとしていたもう一体の夜魔に向かう。足の裏が地面と反発するように、前に飛び出しまたもや拳を構える。

 夜魔は絢人が接近するのを感じるが、迎撃はしない。できない。瞳に写るのがやっとな速度で迫る物体を何とかするなど人外を持ってしても不可能であった。

「ハッ」

 吐き出された息と、拳が夜魔が粉砕するのは台本通りに進む劇の幕閉じのように、まったく同時だった。


もうね、いろいろとすいません。
スランプで全然更新出来ませんでした。ホント文章がまったく浮かばなかっんですよ。こう言っても伝わりにくいと思いますけど。小説書きたいのに書けない……これほどの恐怖はありませんよ!?(泣)

未だにスランプが抜けきらないので結構書いたつもりが大した文字数じゃなくて落ち込みそう……。

で、今回一番のツッコミ所はタイトルですね。ジ・Oって。いくら隠し腕だからジ・Oって。このネタ分かる人はいるんでしょうか。

さて、今度はいつ小説更新できるかι
それでは批評、感想待ってます。











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