表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

優曇華沢時雨さんだから仕方ない。

作者: 愛す珈琲

僕はF県の県立高校に通う高校2年生だ。名前は・・・どうだっていいか、そんなこと。

それより僕のクラスメートについての話を聞いて欲しい。

名前は優曇華沢時雨うどんげざわしぐれ

肩まで伸ばしたきれいなロングヘアと黒目がちな目が印象的な美少女だ。

頭がいい子でテストでは満点しか取ったことはなく、成績は当然学年トップ。運動神経もよくて部活でよく助っ人を頼まれているらしい。

ああ、でも勘違いしないで欲しいのは決してノロケなんかじゃないってことだ。

第一彼女は恋人とかではなく、ただのクラスメートだしね。

それなのに彼女の話をしようと思ったのは彼女がなんだかよく解らない人だからだ。

雲を掴むような話をしてるということは言ってる僕も理解してる。でも聞いてくれ。


「おはよー。優曇華沢時雨さん」


「はよっす!優曇華沢時雨先輩」


「よっ。元気してるかい。優曇華沢時雨」


彼女が苗字だけで呼ばれたり名前だけで呼ばれたりすることは一切無く、常にフルネームで呼ばれる。

かく言う僕も彼女のことはフルネームで呼ぶ。理由は自分でもよく解らない。


それだけじゃなく歴史の教科書には必ずと言って良いほど彼女の名前が出てくるのも謎だ。

世界史ではピラミッドの設計者の名前として出てきたり、チグリス・ユーフラテス川をかんがい工事をした者として出てきたり、中国全土を統一した蜀の将軍として出て来たりと場所も時代もばらばらだったりする。日本史でも暗殺されそうになっていた聖徳太子の一族を守り蘇我氏を滅亡させて日本の国教を神道にしたり、明智光秀を征夷大将軍にした功労者だったり、明治政府を岐阜に置いて日本の首都『東京』とした人物だったりと枚挙に暇が無い。

でもこのことを日本史や世界史の先生に尋ねても「優曇華沢時雨さんなんだから仕方ないだろう」という答えしか返って来ない。なんとなく本来の歴史と違う気がするが気のせいなのだろうか。


その他に特筆すべきことがあるとしたら放課後になると優曇華沢時雨さんはアダムスキー型のUFOに乗って帰るということだ。


「優曇華沢時雨さんは宇宙人なの?」


「何を言ってるの?頭、大丈夫?」


逆に心配されたよ僕。まあ確かにクラスメートを捕まえてそんなことを言えば頭の具合を疑われるのは仕方ないとは思うけど彼女が乗ってるのは「ちょっとUFOの絵を書いてみて」と言われたらほとんどの人がこう書くだろうなというUFOに乗ってるんだからそう聞きたくもなるってもんだ。

でも彼女は気にした風も無く「仕方ないなあ」と言って僕にカード型の保険証を見せてくれた。

でも驚くことにそこに書かれている住所は僕の家の住所と全く同じだったんだ。

こんなことは有り得ない。

僕は優曇華沢時雨さんと一緒に住んでいるなんてことはないと断言できる。

そのことを聞こうとすると彼女の姿はどこにもなかった。


とはいえ僕だけが彼女に疑問を持っているかといえばそうではなくて、とある新聞部の女の子が優曇華沢時雨さんを調べていたけど1週間ほど欠席したあとには彼女に興味を示さなくなったことがあったんだ。

なのに彼女は僕にはあまりにも警戒が無さ過ぎる。というのも僕が彼女の家にあがることになったからだ。

とはいえ別に何かあったとかそういうことはなく、単に期末テストが近かったから勉強を教わることになったんだけどね。

僕としては町の図書館でも良かったけど彼女の家の門限は6時だということなので言葉に甘えることにしたのだ。好奇心があったことも認めるよ。

門限から見て厳しい家っぽいけど僕を連れ込んで大丈夫だろうかと言う不安はあるけど。


「大丈夫。君のことは信用できる」


え?何で?僕と君は教室で世間話をする程度の仲だよね?

でも問題ないらしい。人となりが悪い人はこの家に入ることすら出来ないそうだ。本当に理解が着いてこない。

家はよくある一軒家って感じで変わったセキュリティも見当たらないんだけど。


「クッキー焼いたけれど食べる?」


「いただきます」


クッキーをつまみながら勉強を教わる。

時に解らないところを質問するんだけど横に座るといい匂いがする。あと意外と胸が大きい。


「一つ聞きたいんだけど優曇華沢時雨さんは男を家にこんな風に簡単に上げたりするの?」


自分でもぶしつけな質問だとは思う。でも気になるんだ。


「どうして?男の子を家に上げるのは生まれて初めてよ?」


すごく不思議そうに返された。

そうなんだ。ちょっと嬉しいかも。

あー、駄目だ駄目だ。頭を振って勉強に集中する。

僕は勉強を教わりに来ているんだと意識を切り替え、真面目に勉強を再開するといつの間にか窓の外が暗くなっていた。

時計の針は夜の7時を差そうとしている。


「うわっ。もうこんな時間!?帰らないと・・・」


「じゃあお夕飯はウチで食べていって」


いつの間にか部屋に入っていた10歳くらいの女の子がそう言った。


「あれ?妹さん?」


「母よ」


「うそお!?」


どう見ても小学校の低学年ぐらいの子にしか見えないけど優曇華沢時雨さんによると40代半ばらしい。もう一度言うけど全くそうは見えない。


「もう。何言ってるの時雨」


そうだよね。さすがにそれはないよね。


「私は永遠の17歳よ」


17歳教かよ。久々に聞いたぞ。


「おいおい」


テンプレで返した!?

教室ではクールな子なのに家族には違うのか。


ウチにはどうやってかは知らないが連絡をしたということなので夕飯をいただくことにした。

食卓についているのは僕と優曇華沢時雨さん。それとさっきのお母さんとショートカットの女の人だ。


「時雨の父です。初めまして」


ああ、彼女のお父さんか。僕も自分の名前を名乗って頭を下げた。女装?性転換?内縁の妻?


「どれも外れ。私はこの人の遺伝子を自分の卵子に組み込んで時雨を産んだの」


「す、すいません・・・て今、声に出てました?」


「出てないけど顔に出てたよ」


そうですか。・・・あれ?ちょっと待って。

確か女同士で子供を作るのって今はまだマウスでの成功例しかなかったはず。

いや、それならばだいぶ先の未来・・・30世紀とかから来たとかならどうだろう。

それならあり得る気がする。優曇華沢時雨さんだし未来から来るのは仕方ないはずだ。

そうだよそれだよ。そう考えてみれば納得できる。大体UFOなんかに宇宙を航行できるわけが無い。

だって推進力があるフォルムでは断じてないよね。

でも未来なら4次元を経由すれば何とかなるんじゃないのか?


「なるほどね。するとリトルグレイは次元嵐を越えるための宇宙服みたいなものってことかしら?」


「今度は口に出てたよ。そうだよそれだよの辺りから」


「・・・・・・失礼しました」


でも優曇華沢家の人たちは気にした様子も無く、食事を済ませると話題は違うものになった。


「それじゃあ。この中に入ってね」


そこは彼女の部屋の向かいにある部屋の扉。泊まっていけということだろうか。


「えと・・・じゃあお邪魔します」


「ふふ・・・また明日ね」


中に入るとそこは見慣れた僕の部屋だった。

なんでだよ。

部屋のドアを開けるとやっぱりウチの見慣れた廊下で視界の先にあるのは外を映す窓があるだけだ。

全く、未来人ってだけで説明のつかないことをするのはやめて欲しい。さらにわけが解らなくなったじゃないか。

しかも朝食だと告げる母の声がするのもそれに更に拍車をかける。

俺いつ寝た?しかも眠くねえ。時計を見ると朝の7時半だった。


食卓に行き、僕はいつ帰ってきたのか聞くと夜の9時くらいだという。

普通に玄関から「ただいまー」と言ったし母も「お帰り」と顔を出したそうだがそんな記憶は無い。

未来人・・・なんだよな。それすらも怪しくなってきたんだけど。






10年後。僕は優曇華沢時雨さんと結婚した。

出版会社で同僚になり職場結婚したのだ。

でも彼女は当然のように夫婦別姓を申告し、僕もそれを受け入れた。

彼女は何故だか解らないけど優曇華沢時雨でなければならないという考えが僕の中にあったからだ。

僕は彼女を時雨と呼び、彼女は僕を名前で呼ぶ。

でも高校時代の旧友や会社の同僚や上司は彼女を優曇華沢時雨と呼んでいる。

何故フルネームで呼び続けるのか本人達でもきっと解っていないだろう。

かつての僕がそうだったように。

きっと、優曇華沢時雨さんだから仕方ないんだ。


「ふふ。実はね。あなたは私と結婚するって解ってたから家に上げたんだよ」


・・・・・・マジですか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 不思議感は出ていました。 ゆるい感じ [気になる点] あえて挙げると、一人称で設定の説明をするのは少々難アリなのでは(ゆるい語り語り口調なので許せますが) [一言] はじめまして 読ませ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ