§九 太陽と影 §
そこは、暗い部屋だった
照明のない殺風景な部屋は、家具もあまりなく、広々としていて、その広さが部屋の寂しげな雰囲気をより強調させている
その部屋にある唯一の家具であるひとつの椅子に、男が座っていた
暗闇に姿は溶け込んで、はっきりと見定められない
コンコン
部屋の扉を叩く音が、音のない部屋に突然響いた
ピクリと男の肩が動く
「やっと来ましたか・・・」
男が肘掛をつつく音が部屋に木霊する
その音を聴いて、扉の外にいる人物がギィッと音を立てて入ってきた
「お呼びでしょうか」
部屋に入ってきたのは、憐吾だった
椅子に座っていた男はふぅっとため息をつくと言った
「例の娘を連れ去るのに失敗したそうですね」
「っ!」
憐吾が肩をビクリと震わせる
「せっかく見つけたというのに・・・。これ以降は警戒されて近づきにくくなってしまいますよ」
「も、申し訳ありません・・・」
男の口調が厳しくなっていく
「あなたは娘一人連れてこれないんですか?」
「それが・・・・片目の妖祓師に邪魔されてしまい・・・・」
「片目・・・・?」
男が眉をひそめる
「はい。功刀 駈焔という名の妖祓師です」
「・・・・・・・・・・」
男は暫く黙り込み、そして口元をほころばせた
「そうですか。ではその妖祓師に、あなたを退けたご褒美に、贈り物をあげましょうか」
男がスッと手を少し持ち上げると、手のひらに仄かな光の玉が浮かび上がった
「この子を・・・・・ね」
「駈焔さん、駈焔さん」
駈焔と莉依は、町外れの小路を歩いていた
莉依の呼びかけに、駈焔は立ち止まる
「何だ?」
「駈焔さんは妖祓師なんですよね?」
「そうだが・・・。それがどうかしたのか?」
「今までそのようなお仕事を聞いたことがなかったので、どういう仕事なのかなと思いまして」
確かに、莉依が知らないのも不思議ではない
妖祓師はそんなに広くは知られていない職業だからだ
裏方のような仕事である
「まぁ、誰でもなれる訳ではないからな」
「そうなんですか?」
「あぁ。まず第一に、ある一定以上の霊力を持ってないと妖祓師にはなれない。
理由は、妖を祓うにはある程度の霊力がいるからだ。
持っている霊力量がそれ以下だと、たとえ妖を視ることはできたとしても、祓う力がないから妖祓師にはなれない」
第二に、と駈焔は続ける
「霊力のコントロールというのは、意外に難しいんだ。
霊力は個々で違う性質や効力を持っているから、自分の霊力と霊力量に見合った、自分の霊力が最も有効となるような技や戦い方をしなければいけない。
それに気付くのも難しいことで、気付く前に妖に殺られたり、途中で挫折する奴がたくさんいる」
「そ、そんなに大変なんですかっ!?」
「それに、危険な仕事だしな。もし危険に曝されても、ほとんどの妖祓師は一人で旅をしていたりするもんだから、全て自力で解決しなければならない。周りに他の妖祓師がいることなんて滅多にないからな」
「まぁ、お前の場合は俺がいるから危険は少ないけどな」
「確かにな・・・・・って、金烏、お前何勝手に出てきてるんだ」
いつのまにか右目から出てきた金烏が、駈焔の周りをパタパタ飛んでいた
「別にいいじゃん。俺だって日光浴したいんだいっ!」
「俺らは別に日光浴をしているわけじゃないんだが・・・・」
普通に道を歩いているだけだ
「ケチーケチー!!ケチ駈焔!!・・・・・・・・・ふぎゃっ!!」
駈焔が金烏の尻尾を握る
「俺の尻尾っ!」
金烏が叫ぶが、駈焔はその叫びを無視して握り続ける
「・・・・・とにかく、俺と旅をするからには妖と遭遇する確率が高いということだ」
ここでようやく駈焔は金烏の尻尾を離した
「気を付けろよ」
駈焔は莉依にそういうと、また歩き出した
「はいっ!」
と明るく返事をすると、莉依はそのあとを追う
「駈焔のバカーっ!!!尻尾ばっかいじりやがってぇ!!!」
金烏の雄叫びだけが、小路に響いた
駈焔たちが立ち止まっている間、遠くの林の中でずっと彼らを見つめる影があった
林の影とは別の、人の形をした影
ユラユラとした影は、駈焔たちが歩き出すとふっと姿を消した
「今日はここらで野宿にするか・・・」
駈焔と莉依は林の中に円形に広けた空き地を見つけ、そこに腰を降ろしていた
傍らには、小さく膨らんだ風呂敷と、大量の小枝
沈みかけている夕陽が、空を赤く染めている
何故野宿かというと、お金はあったけど宿がなかったからである
夏なので外は暑いが、そこは術を使えばどうにでもできる
「それでは、火を焚きますね」
莉依はマッチを取り出す
そんな莉依を、駈焔は不思議そうに眺めて言った
「お前、野宿平気なのか?」
もしかしたら嫌がるのではないかと思っていたが・・・意外だ
「え?えぇ。だって今までずっと野宿みたいなものでしたし」
(あ、そうか・・・・)
そういわれてみるとそうだ
「それに、一人で野宿なんかより、駈焔さんがいてくれますから、ずっといいです!」
笑ってそう言うと、マッチに火を点ける
(一人なんかよりずっといい・・・・・・か)
一人に慣れすぎたせいで、二人がどのようなものか忘れていたんだろうか
何故か、懐かしい感じがした
今まで一人旅だったが、こういうのもいいものだ
駈焔は誰も気付かないほど小さく、それでも確かに笑った
自分がこんなこと考えるなんて、あの日以来あっただろうか
そんなことを考えているうちに、焚き火はパチパチと音を立てて燃え始めた
「さぁ駈焔さん。さっきのアレを!」
駈焔は頷くと風呂敷を手に取り、結び目を解いた
中から出てきたのは――――キノコ
色はまちまち。赤、黄、そして何故か金色
「で・・・・・・・どれが食べられるんだ?」
駈焔は試しに金色をしている不思議なキノコを手に取った
重い。キノコが何故にここまで重いのか
しかもかなり硬い
「これは・・・・・無理だろうな」
キノコを草むらに放ると、それはズシンと音を立てて地面に落ちた
「・・・・・・・・」
不思議なキノコも世の中にはあったもんだ
駈焔は脳内でこう結論づけると、他のキノコに目をやる
変なにおいを放ったり、変な色の胞子を吹いたり、笠にへんなぶつぶつがついていたりと、とても食べられるものではない気がする
今夜は食事抜きかと諦めかけた時、莉依があるキノコを指差した
「あっ!駈焔さん!しいたけがあります!」
「・・・・・あ」
やっと食べられるキノコを発掘した
さっそく荷物から調味料一式を取り出して、キノコにかけて火で炙る
すると、すぐにいい香りがし始めた
量は少ないが、味はまぁまぁよさそうだった
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