§六 現夢 §
パタ・・・・・・・パタ・・・・・・・
地面に血が吸われていく
「よく急所から避けたね。まぁ、頬はざっくりいっちゃったみたいだけど」
憐吾が刀についた血を拭う
駈焔は、憐吾の首への攻撃をすんでのところで避け、そのかわり左頬を深く斬られていた
確実に獲れると思っていたのか、あの謎の刀の力は使っていなかったようで、それが幸いして、この程度の傷で済んだ
拭っても拭っても流れてくる血はパタパタと地面に染みを作っていた
「ま、その様子だと出血多量でトドメ刺さなくても死んでくれるかな?」
クスクスと笑う憐吾
苦しそうに表情を歪ませていた駈焔は、懐に手を入れ何かを探し始めた
「何?傷薬でも付けようっての?無駄だって、やめておき・・・・・・・っ!?」
懐から駈焔が取り出した物を見て、憐吾は言葉を切った
駈焔の手に握られていたのは
「ば、爆薬・・・・・・・・っ!?」
憐吾がサッと身構える
同時に駈焔の手から爆薬が放たれた
「誰が死ぬって!!!?」
放たれた十個ほどの爆薬は、地面に落ちると同時に、盛大な爆音を上げた
「く・・・・・・・っ!!」
辺りを爆風と砂埃が包み込む。爆風と爆風がぶつかり合い新たな爆風を生み出していく
「くそ・・・・・っ!」
憐吾はなんとか爆弾に当たらずに、爆風の中で耐えていた
“現と夢の境目を――――”
ふと、憐吾の耳に微かな声が聞こえた
「なん、だ?」
爆風と砂埃の向こう、その人影から、声は聞こえていた
“超えてゆけ、現夢”
いつのまにか爆音と爆風がやみ、砂埃が徐々に晴れていく
人影が、姿を現した
「妖祓刀・・・・・・・現夢」
そこには刃が両端に二つ付いた刀を持つ駈焔が立っていた
二枚刃の片方は黒く染まり、片方は白く染まっていて、黒刃からは黒の、白刃からは白の炎がた
ち、刃を覆っていた
「お前は言ったな、自分の刀は他のとは少し違うと。だったら俺のもそうだ。この刀・・・・・・現夢は、妖を祓える刀、妖祓刀と言われるものだ。」
そう言うと駈焔は、刀をすっと構える
「これが、本当の終わりだ。・・・・・・・・・・・夢の世界へ送ってやるよ」
ボゥ、と両刃を包んでいた炎が、色を変えた
白く、何もかもの凍らすような、冷たい雪のような白に
「睦月の夢、雪夢っっっっっ!!!!!」
両刃から放たれた炎が、一瞬辺りを包み込み、冷たい一陣の風が吹く
それが完全に晴れた頃、夏だというのに空気が冬のように冷たくなっていた
「一体何を・・・・・・・っ!?これ、は?」
憐吾が目を見開いた
空から、しんしんと雪が降ってきた
「雪!?今は夏だぞ?・・・・・片目君、一体何をしたんだ!」
問うても駈焔はただ刀を手に空を見ている
「おい!・・・・・・・・・っ!?」
雪が、憐吾の肩にそっっと乗ったその時だった
憐吾の体がビクッと一度痙攣し、目の前がぼやけていった
ふらふらと、おぼつかない足取りで逃げようとする憐吾に、駈焔は冷たく言った
「無理だ」
言葉の通り、憐吾は立っていることができず、ドサリと地面に座り込む
「く、そ・・・・・っ」
そして、完全に意識を失った
「・・・・・・いってらっしゃい」
憐吾を一瞥すると、駈焔は刀にそっと触れて、唱えた
“今、夢より還れ、現夢”
ぱっと仄かに刀が光り、消える頃には元の刀に戻っていた
駈焔の愛用するこの刀は、現夢という
妖を祓うことのできる刀で、功刀家に代々伝わる刀らしい。功刀家で妖祓師がいたなんて聞いたこともないけれど
そしてこの刀は、普通の刀と違い、能力が備わっている
先ほど駈焔が使ったのは、『睦月の夢 雪夢』
この『雪夢』はどんな状況でも雪を降らせることができ、その雪に触れた使用者以外の生き物は、眠りにつく。冬眠に近いがそこまで長くは眠らない。
他にも、如月、弥生、卯月・・・・・・・と、十二ヶ月の月を基にした技が使えるのだ
とにかく、駈焔はこの刀と技と共に仕事をしてきた
まさか人間に技を使うことになるとは思っていなかったが・・・・・・・
倒れている憐吾を一瞥すると、駈焔は茂みの奥へ消えていった
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