§四 夷 §
ハァハァ、と息を切らしながら夷は林の中を走っていた
腕の中には、未だ気絶したままの莉依がいる
元々走ることがあまり好きではないのと、人を抱えているため腕が振れないのと、さらに今が夏であるという悪条件が三つそろっている中で、夷は必死に走っていた
隊長・・・・・憐吾の信頼を裏切らないように、そして・・・・・・・・・
「待てぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
あの訳の分からない生物から逃げるために!!
「う、うわぁぁぁっ!?」
猛スピードで、金烏が突っ込んでくる
びびった拍子に、夷は前に倒れこんだ
それでも莉依を傷つける訳にはいかなかったので、倒れるとき体を回転させ、背中から倒れこむ
「あっ!・・・・・・ふげっ!」
倒れたことで夷は金烏の突撃を回避できた、が金烏は前方の木にゴンッと思いっきりぶつかった
「てめ・・・・っ!アレ?」
翼を動かしても動かしても木から離れられない。角が木に刺さってしまったのだ
「角が・・・・取れない・・・・っ!」
もがく金烏を眺めながら、夷はガクガクしながら地面に座り込んだ
(なんなんだよ、アレ!あの生き物は!)
妖というモノがいるのは知っていたが、アレがそうなのだろうか?
だとしたらめっちゃ怖いっっ!!
走ることも嫌いだが訳の分からない生き物も嫌いだ
(あんなちっちゃな奴でも、かなり怖いのだっているって聞いてるし・・・・・。腰抜けちゃって立てないし・・・・・、仲間ともはぐれたし・・・・・)
夷がオロオロしているうちに、金烏の角がようやく木から抜けた
「よっしゃぁぁぁ!」
金烏は雄叫びを上げながら再び夷に向かって飛んだ
「わ、わぁぁぁぁぁぁっ!?」
夷はさぁっと青ざめて、目を硬く瞑った
(やらなきゃ・・・・・やられる・・・・・っ!)
夷はぎゅっと目を瞑ったまま、すぅ、と息を吸った
そして叫んだ
「う、動くなっっっっ!!」
空気が震えだした。まるで水面に波紋をつくるように声の波が空気を震わす
その波に当たった金烏は、ピタリと空中で停止し、ドサッと地面に落ちた
ピクリとも動かない金烏を見て、夷は安堵のため息を漏らす
「や、やった・・・・・。ひ、久しぶりに音従使ったから、もしかしたら効かないかもって思ったけど・・・・・・。」
音従。それは、たいして特技のない夷のただ一つ誇れる能力だった
それは声で相手を操るというものだった。声が空気を伝わり、声の起こした波に当たったら、その声に従わなければならなくなるというもの
「あ、妖ってのにも効くんだ・・・・・・。ハハ、人間って、安心するとこんな喋るものなのかな?と、こんなことしてる場合じゃないや」
隊長はそろそろ終わっている頃だろう
早く行かないと、どやされる
そう思って立ち上がろうとした、そのときだった
ピクリ、と金烏の翼が動いたのだ
「え・・・・・・・・?」
目を丸くする夷の耳に、金烏の声が流れ込む
「へぇ〜。音従ってさ、声で人や物の動きを操るってやつだろ?」
バサッ、と翼が羽ばたき、金烏はふわりと飛び立つ
金烏は、黒い笑みをたたえていた
「まぁ、確かに普通の人とか、動物とか、妖にも効くかもしれないね〜。でもさ・・・・・・俺、こんな姿でも神様なんだよね〜、一応。」
ふわふわと夷に近づいていく金烏
もう夷は、カタカタと震えるしかなかった
「あ・・・・・う・・・・・」
「音従なんて・・・・・そんなもん効かねぇよっっっっ!!!」
金烏が夷に突進していった
夷の叫び声が林の木々を揺らした
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