§弐 始まり §
駈焔はある建物の前に立っていた
いや、建物ではない。これでは建物と呼べない
なぜなら目の前に建っていたものは・・・・・・・・・・・
「ジャジャジャ――ン!ここが自慢の我が家、『月見里の家』でーす!素敵でしょう?」
と、莉依が自慢げに指すその家は・・・・・・・・
ダンボールでできていた
(・・・・・・・・え?)
駈焔は心の中で呟いた、というか叫んでいた
(何でダンボールの家に住んでんの?雨の日とかどうするんだよ!)
ドン引きしている駈焔をよそに、いそいそと莉依は家|(?)に入っていく
家の中は、ダンボールでできているため、高さがかなり低かった
駈焔が腰を曲げないと立っていられないほどの高さである
しかし莉依のほうはまったく気にした様子はなく、こんなことを言い出す
「ささっ!!どうぞー」
もはやいじめではないかと錯覚するくらいの悪気のない笑顔である
ふと、少々青い顔で立っている駈焔の様子にやっと気づいたらしく、莉依はこんどは困ったように笑った
「あ、やっぱり変ですよね。でも私物心付いたときからここにいたんです。だからここにしか思い出がなくて・・・・。だからここが私の自慢の家なんです!!」
正直、今そこは問題じゃない
「親とかはいないのか?」
不躾な質問だと、言った後に気づいた駈焔だったが、一度出てしまった言葉はもう戻せない
だが、気にする風もなく、莉依は答えた
「会ったことないですね。私、ここに捨てられてたらしいので・・・・。捨て子っていうだけでずいぶん苛められましたしね」
「・・・・・人なんて単純な理由で人を苛めるもんだ。俺もこの右目のせいでどれほど苛められたか・・・・っ!!」
自分と同じような経験をした莉依の気持ちは痛いほど分かるのだ
だが駈焔は苛められても挫けなかった。逆に、相手を見返してやるという気持ちが大きかったのだ
だが、莉依にはそんな駈焔の幼いときの一部の話をしても分からないわけで
「右目?右目がどうかしたんですか?」
と、まったく理解できていなかった
「駈焔はな、ちっさいときに誰かに右目を奪われたんだ」
駈焔が答えないので、金烏が代わりに答えてやった
「そ、そうなんですか!?」
目を奪われるなんて、と少し莉依の顔が青ざめた
そんな莉依をみて、慌てたように金烏が付け足す
「大丈夫だって。今はなんともないしな。なぁ、駈焔」
「あ?あぁ」
そうしてしばらく三人は他愛もない話をダンボールの家でしていた
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カンカンカン、と音が鳴った
「なんの音だ?」
「これは玄関に付けてある木の呼び鈴の音です。でも誰でしょう、こんな遅くに・・・・。ちょっと出てきますね」
そういって、莉依は玄関へ向かっていった
二人だけになって喋ることがなくなった駈焔に、金烏が唐突に話を始めた
「なぁ、駈焔・・・・」
「なんだ?」
パタリと翼を動かし、駈焔の目線まで飛び上がった金烏は首を傾げて言った
「お前、まだ人と関わるの・・・・嫌か?」
その言葉にピクリと眉を動かすと、ふいと駈焔は金烏から目をそらす
「別に嫌って訳じゃない・・・・。他人が俺に関わるのを嫌がっただけだ。別に俺は・・・・」
「でもお前から他人を避ける時だってあるじゃないか。・・・・・昔と今じゃお前も周りも変わったんだ。だからもう・・・・・」
金烏は心配そうに駈焔を見つめる
駈焔だって、金烏の言いたいことくらいは分かっている
だけどまだ、他人と掠る程度でしか関われない
他人と自分とは、なにかがかけ離れていて、それと関わることで自分も他人も壊れてしまう気がするのだ
「それに・・・・」
金烏が続ける
「今日は、あの子とは、普通に喋れてたじゃないか」
「っ!?」
言われてみれば確かにそうだ
今まで旅をしてて、他人とは、仕事仲間とでさえもこんな風には接していなかった
・・・・・・・・・・一人例外がいるが
「今日こんな風に接してたのに、他の奴らと関われないわけないじゃないか。もう大丈夫だよ」
金烏の言葉がぐるぐると回り始める
駈焔は黙り込んで物思いにふけり始めた
そんな駈焔も見て、金烏は小さなため息をついた
駈焔のことを、駈焔が小さいときからずっと見てきた
ずっと一緒にいた
それだけに、駈焔にはもっと人と接してほしいのだ
他人の温かさを知ってほしい、他人がみんなあんな奴らだと、思ってほしくない
黙ったままの駈焔を見ながら、金烏はもう一度ため息をつこうとし、小さく息を吸った
「・・・・・・?」
「焦げ臭い・・・・・?」
部屋に、ほんのり何かが焼けて焦げるにおいが漂っている
金烏の言葉に、駈焔は我に返り、ふと部屋を見回すと、隅の方で鮮やかな小さな火が燃えていた
「なんで火が・・・・・?ぐえっ!!」
金烏の尻尾をむんずと掴んでダンボールの家から出る
「おいっ!お前の家燃えてるぞ!!」
駈焔が外に出ると、そこには大勢の男たちが家にたかっていた
莉依の姿を探すと、リーダー格だと思われる男に、ぐったりとした様子で捕まっているのが見えた
足元には燃え尽きたマッチの黒炭
「何を、している・・・?」
駈焔が刀の柄に手をかけながら聞くと、リーダー格の男がめんどくさそうにため息をついた
髪は焦げ茶、灰色の目をした、二十代ほどの男だが、顔に少し幼さが残っている
「あらら・・・・・他人がいたのか・・・・」
少し困った様に肩をすくめる男の背後で、茶髪の黒い瞳の青年が、慌てた風に尋ねる
「どうしましょう、憐吾隊長・・・・・」
「うーん・・・・・その片目君・・・・・どこかで聞いたような・・・・・・」
憐吾と呼ばれた男は、駈焔をじっと見つめると、思い出したように言った
「あ!思い出した!君・・・・・妖祓師だろ?結構強いって噂の」
明るく笑う憐吾は、茶髪の男に莉依を渡すと、小声で指示を出した
「夷・・・・・その娘連れて他の奴らと逃げろ。俺は口封じしてから行くから」
そして憐吾は駈焔に向き直ると、強気に笑って言った
「それじゃ、片目君・・・・・・・・・」
「お手合わせ願おうか?」
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