§壱 片目の少年 §
ヒョォ、と冷たい風が吹いた
夜、月が綺麗な日のこと
ある町の入り口付近に、一人の少年が立っていた
服装は至って普通の袴。腰には刀の入った鞘をさし、背には黒い荷物を背負っている
黄色がかった長い髪
それを耳のあたりの髪を少しだけ残し、あとは首の辺りで結んでいる
少年の右目は閉じられ、瞼あたりを長い傷跡が頬まで走る
(ここが次の町か・・・・)
ふぅ、と少年は息を吐き、呟いた
「一体どこにあるんだ?」
俺の右目―――
*************
「ギ・・・・ギギ・・・」
パタパタと、黒い蝶が飛んでいた
普通の蝶ではない。妖である
突然、何かから逃げるように飛んでいたその蝶に、一陣の突風が襲い掛かる
ゴォッと音を立てて迫る突風は、あっというまに蝶の体を切り裂いていった
「ギャッッッ!!!」
と、短い叫び声の後に、ふっと蝶の体は消えてしまった
そして影から、ひとりの少年が姿を現した
「人の生命力を蜜の代わりに吸う蝶・・・・・命蝶。よりによって次に狙った獲物が妖祓師とは・・・・運がなかったな」
最後に、アホなやつ、と少年は呟いた
すると、どこからともなく
「まぁそう言ってやるなよ」
と声がした。そして、続ける
「妖だってな、生きんのに必死なんだぜ?」
そのどこからともなく聞こえてくる言葉に慣れっこな少年は、ふと考えて、言った
「妖は、アレ・・・・生きてるって言うのか?」
妖は、まぁ例外もあるが、魂からできていたり、人の負の感情や、土地の気によってできているのが大半なのだが
それを聞いた声の主は、
「おうともさ!!」
と勢いよく答えた後、小さく多分と付け足した
「今、小さく「多分」って聞こえたぞ」
半目で少年が抗議すると、少年の右目がポゥっと光り、ポンっと何かが出てきた
額に角、背には真っ白な翼、胸には澄んだ蒼の丸い玉をつけた狐のような生き物
体は仄かな金が綺麗に混ざった黄色で、大きさは肩に乗るくらい
しかもこいつ、喋る
さっきまでの声の主である
その生き物は、あははと笑って少年に向かって言った
「気のせい気のせい。んな細かいこと気にすんなって!もっと気楽にいこうぜ?なぁ、駈焔よ!」
そう、この少年の名は駈焔。本名を功刀 駈焔という
歳は十七、さすらいの妖祓師だ
駈焔は、幼い頃何者かによって右目を奪われた
今はその奪われた右目を求めて妖祓師の仕事をしながら旅をしている
そして、その右目から出てきた生き物、名を金烏という
金烏は、実は太陽の神で、今は色々あって駈焔の右目跡に宿っている
もう旅を始めてかなり経つが、未だ見つからない右目
(ったく、俺の右目どこにあるんだよ・・・・・・・)
ふと、自分の右目に思いを馳せた駈焔の耳に鋭い叫び声が聞こえた
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「何だ?」
急いで声がした方へ向かってみると、そこには刀を持った男と、今にも斬られそうな少女がいた
「おい、貴様。何をやっている?」
駈焔が男に声をかける
男は振り向き、自信ありげに言う
「へっ、兄ちゃんよォ、この人斬りの俺に勝てるとでも?命知らずにもほどがあるぜ」
だが駈焔は、そんな言葉に臆することもなく、男に言った
「<人斬り>なんてそんなくだらん肩書きに俺は負けるつもりは一切ない」
すらりと腰の鞘から刀を抜きあまりと言えば無防備な構えで刀を持ちながら言った
「来いよ。一発でのしてやる」
男は薄く笑うと
「・・・・・・へっ。のされるのはお前だァ!」
と叫び突っ込んできた男の刀の鋭い先端が、駈焔に猛スピードで迫る
駈焔は軽くその刀を刃で受け止めると、すっと腰の鞘に手をかけた
そして
ドガッッッ
「がっっっ!!」
男の頭に目にもとまらぬ速さで鞘で思いっきり殴り飛ばした
「ぐっ・・・・ぐぁぁぁ!」
男は地面に伏せながら唸ることしかできない
カラン、と男の刀が地に落ちる
「お前みたいなのに使われる刀が可哀想だな」
そして駈焔は、男に視線を移す
「一発でのす」と言ったがどうも一発では無理だったようだ
まぁ、そこにこだわりがあるわけじゃないから良しとしよう
「二発目くらいたくなかったら消えろ。じゃねぇと・・・・」
スッっと駈焔は再び刀と鞘を構える
そのあまりの迫力に圧倒され、男は
「ヒ、ヒィィィィ・・・・・・お、覚えてろ―――っ!」
と叫んで逃げていった
「フンッ、ワンパターンな捨て台詞だな」
と、駈焔は鼻で笑い、少女に向き直り言った
「おい、大丈夫か?」
少女はコクコクと頷き、おずおずと立ち上がってペコリと頭を下げた
「た、助けてくださってありがとうございます」
歳は十六ほどだろうか
駈焔と似た薄黄色の長い髪。それを後ろで少しだけ結っている。薄桃色の着物とよく似合っている
穏やかそうな相貌だ
「私、月見里 莉依と申します」
行儀よく名乗る莉依に、駈焔も名乗り返した
「俺は功刀 駈焔だ」
「駈焔さんですね」
「・・・・・できたら功刀で呼んでほしいんだが」
初対面でいきなり名前はないだろう
「駈焔さんですね」
「いや、だから功刀で」
「駈焔さんですよねっ」
「だから、功刀で・・・・・・」
「駈焔さんでしょう?」
「・・・・・・・・・・・もういいです」
「では、駈焔さん」
ニコリとした顔で、莉依は言う
「もう日も暮れてきましたし、夏ですので蚊も多いので、今夜は私の家にお泊りください」
こっちです、と莉依は先に進む
とうの駈焔はあまりに唐突な招待に戸惑うばかりで
「・・・・・・・・・え?」
と、呟くのが精一杯だった
「やった―――っ!今日は野宿じゃねぇぞ―――っ!」
と、金烏だけはご機嫌だった
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