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第七話 ウィッチ 2
 第七話 ウィッチ2

 屋敷を後にしたイーザらは、依頼人から渡された地図を頼りに、ウィッチ退治へと赴いていた。

 地図の場所は、屋敷から車で約三時間程度と、近い様で結構遠い。

 イーザマイカーは、以前はかなり古い型式で、廃車寸前の有様であった。

 しかし現在、外見から中身まで、完璧に整備されている。

 実は、イーザ邸に住むサキュバスが一人、メイル・アルバンレストは機械分野についてかなりのもので、この車も定期的に保守点検を行ってくれている。

 「ってかさぁ、今思ったんだけど。」

 「ん〜、何ぃ〜?」

 後部座席でのんびりくつろいでいるリリスに、運転中のイーザが言った。

 「お前、物質転位の能力あったよな?ここまでワープして来りゃあよかったんじゃないのか?」

 「いや、それ無理。座標もそこのイメージも無いでしょ。それに、結構エネルギー喰うのよねぇ、あれ。」

 「あぁ・・・そう。」

 「ま、エネルギー喰ったら喰ったでイーザちゃんが補給してくれるなら、話は別だけど?

 そうだ、今ついでにやっとく?」

 「おいっ!!」
「姉さん!!」

 「ジョークよ、ジョーク。お楽しみは夜までとっとくわ。」

 と、そんなやりとりをしている内に、目の前に城の様な建造物の廃墟が姿を見せる。

 三人は車を降り、その建物を目指した。レンガ造りの外壁は所々朽ち、その上を這う様に植物が生育している。

 「まるでウチみたい。雨は降ってないけど。」

 「俺んちはずっとマシだ。」

 彼らは他愛のない話をしながらも、瓦礫を踏み分け、やがて玄関と思しき部分の扉に手をかけた。

 ギギッと何かを擦る音と共にゆっくりと開く。中からは、冷やりとした風が音もなく吐き出されてくる。

 「生物の気配は・・・しないな。」

 「とにかく、入ってみましょ。」

 「そうね。」

 と、三人は慎重に建物内へと侵入する。

 そこは、いきなりだだっ広い空間であった。灯りが当然ながら一切無いので、周りは薄暗い。

 ホコリの積もった床に、一人分の足跡だけ残し、一行は奥へと進む。彼女らは、ホコリの上を歩くのが嫌なのか、背の羽根をパタパタさせ少し浮いているのだった。

 少し進んだ時、イーザがホコリの上に奇妙なラインが引いてある事に気付く。そのライン上にだけ、ホコリが積もっていない為気付けたのだ。

 「何だ、こりゃ・・・?」

 よくよく見ると何かの図形だろうか、複雑な形が描かれていた。

 イーザはしっかりと確認する為に、図形に近づいて行く。

 その時、図形の形状を認識したリリムが、大声で叫ぶ様に言った。

 「イーザ、それに近づいちゃダメ!!」

 「え?」

 直後、図形が活性化。光が紋様に宿り、ラインがはっきりと浮かび上がる。

 (あれは・・・転位属性の紋。)

 リリスの分析通り一秒としない内に、イーザの姿は消え失せ、同時に紋様もロストしていた。

 「ああっ、姉さん、イーザが・・・。」

 「ちょい待ちリリム。何か来る。」

 二人の周囲、包み込む様に、今度は八つの青色の光の宿った陣が発生した。

 “これは、召喚陣ね。中級クラスの。・・・そこそこの使い手みたいねぇ、ウィッチとやらは。”

 “そうみたいね。・・・姉さん、コイツらの相手、任せていい?私はイーザの転送先を調べたいから。”

 “了解〜。”

 二人は、精神会話を止め、リリスは戦闘体勢へ移行。

 相手は、大きく裂けた口だけが見える、黒色一色の体の形状がゆらゆらとして定まっていない、そんな魔物だった。

 (ふん、ナイトシャドウか・・・。その程度の魔物でねぇ・・・。)




 「ぐっ・・・何だったんだ・・・。」

 目の前が真っ白になったと思ったら、次の瞬間真っ暗い所にいた。

 同時に両手、両足を束縛魔術により封じられている。

 「くっ、そ・・・解呪は・・・無理だろうな。」

 「どうだい、ワシの魔術は?」

 「誰だ!!」

 「魔女って言えば、分かるかい。」

 何かの儀式台の様な場所に、
黒いローブを身に付けた老婆がいた。ろうそくの灯が、しわだらけの顔に光と影を刻み込んでいる。

 「ウィッチってババアだったのか・・・。おい、お前何歳だ。」

 「そうだねぇ・・・魔道にこの身を売って・・・七十五年だから・・・えーっ・・・九十二になるのかねぇ・・・。」

 (九十二・・・守備範囲超えまくってやがる。もう、ダメかもしれねえ・・・。)

 「さて、ワシは老いた・・・。じゃから、あんたの無限の精力の力・・・それを借りて若返りたいというわけさ。」

 「何故俺の能力を!!」

 「あんたの力には、前々から調べがついてたんだけど、家の場所が分からなくてねぇ・・・。

 だけどそんな時に、こんなビラをもらってね。」

 と、ウィッチは一枚の紙切れを差し出す。それは、紛れもない宣伝用に配布させていたものだった。

 「チッ・・・宣伝が裏目に出たか。」

 「もういいだろ。では、精を頂くとしようかね。」

 「俺はババアとヤるつもりは、ねえんだよ。」

 「ヤるって・・・ワシの体が保たんよ。間接的に吸わせてもらうのさ。」

 そう言い、ウィッチはスペルを唱え始めた。それは、バスケットボールくらいの玉を生み出す。

 更に、ウィッチがスペルを唱えると、イーザの体から光の粒子が溢れ、その光は玉に吸い込まれて行く。

 (くそっ・・・。)

 「おおっ・・・力が、流れ込んで来る・・・。」

 それまで、無色透明であった玉が、少しずつ色素を帯びてきていた。





 “ゴォォォォォォ。”

 魔物ナイトシャドウの咆哮が、先程まで静まり返っていた空間に響き渡り、複数の拳がリリスへと迫る。

 奴らは、体の一部の形状を変化させ、手にあたる部分だけを伸ばし、中央のリリスに集中攻撃をかけたのだ。

 だが、拳は全て空を切りナイトシャドウ1の背後にリリスが出現する。

 「物質転位よん。便利でしょ?」

 “ゴォッ?”

 「ルンペルハンマー。」

 手元には、異空間より取り出した、1・5メートルはあろうかという鎚。

 勢い良く振るわれた一撃は、ナイトシャドウ1の頭を砕き、文字通り影に還した。

 “グォォォォォ!!”

 よくも仲間を、とでも言わんばかりに、今度は三体の夜影ナイトシャドウが飛び掛かる。

 彼らに唯一有る口は吊り上がっており、どうやら怒りを表現しているようだ。

 「頭、悪いわねぇ・・・。」

 突然、彼女が、夜影2・3のそばに出現。鎚の柄の真ん中を持ち、横に構えた。

 勢いをつけていた夜影2・3は柄と鎚部分に思い切り、顔と思しき部位をぶつけ、悶絶。

 2・3がそうなっている間、攻撃対象を見失い、勢い余ってよろけている4を攻撃。

 4は、鎚のインパクトで吹き飛び、壁に叩きつけられ消滅した。そして、未だふらつく2の頭部を潰す。

 「さぁ〜て、どうするのぉ、残り。」

 残された3、そして5・6・7・8は、互いに顔を見合せる。

 そしてそのすぐ後、彼らの出した答えは切り札の実行だった。

 五体は一斉に雄叫びをあげ、一ヶ所に集まってゆき、互いに自らの形を崩して、溶け合い、融合していく。だが、

 「変身の邪魔をしない正義のヒーローなんて、この世にいないわよん。」

 三度目の物質転位。出現先は、合体し足の構成部分になろうとしていた、7の後方だった。

 ビチィャ、と液体を叩いた様な音、7を殴り飛ばし、右足部を排除。

 さらに続けて右手部分の5を攻撃、ロスト。

 彼らはそこまでやられてようやく、リリスの方を振り向いたが、時既に遅し、というやつで、思い切り鎚を振りかぶっているリリスがいた。

 「全員まとめて消えなさぁい、ハイパァーギガトンハンマー。」

 この掛け声と共に、1・5メートル程度だった鎚が、その数十倍へと膨れ、圧倒的な質量をもって振り下ろされる。

 たったその一撃で、ナイトシャドウ全員が押し潰され、ペシャンコになってしまった。

 「ふぅ〜う、あ〜汗かいた、帰ったらすぐシャワーね・・・。」

 “・・・姉さん、転位先、割り出したわ。”

 “はいはい了解。じゃ、すぐ行こうか。”

 二人は、イーザが転位させられたと思われる場所へ、転位した。
     ・
 「よしよし・・・これで、ワシの力が戻って来る・・・。」

 ウィッチはそう言い、紫色を帯びたバスケットボール大の玉を、体内に取り込んだ。

 少しずつ、老婆は、玉を取り込むと同時に発生した光の中へと溶けてゆく。

 「チッ・・・マズイぞ、この感じは。」

 「ようやくじゃ・・・ようやく、あの頃の・・・望んでもかなわなかった力が・・・手に入る。これで、ワシは・・・。」

 最後に、老婆のシワだらけの顔が光の中に飲み込まれ、まるで心臓の鼓動の様なリズムが、振動となって辺りを包む。

 そして、少しの時の後、光は収束を始め、それらは人の形を作り出して行った。

 眩しさに目を閉じていたイーザが、再び目を開け、最初に視野に入れたものは、やはり黒いローブに身を包んだ人物のシルエットだった。

 「くそっ・・・ババア!!」

 「誰が、ババアだって?」

 その時聞こえた声は、老婆のものではなく、若い女のそれであった。

 「アンタ、礼を言わせてもらうよ。おかげで若い頃のワシ・・・そして望んだ力が手に入った。」

 よくよく見るとローブの中の人物は、九十過ぎの婆さんではなく、十代も半ばぐらいの少女だった。

 「おや・・・ちと若返り過ぎたねぇ。」

 だが、全身から立ち昇るオーラは、人という枠から大きく逸脱している。

 「さてと、アンタ、お願いがあるんだがね。」

 「フン・・・精の供給役はお断りだな。もう、七人も先客いるし、元ババアだけはダメだ!!」

 「・・・そういう事、言うのかい?」

 「ああ、ババアは嫌だ。何ならもう一回、言ってやろうか?」

 「・・・アクアボール・・・。」

 そう言ったウィッチの周囲に、複数の水の玉が出現した。

 ウィッチは、その中の一つを、一旦高く上昇させ、そして降下、イーザの足元に着弾させた。

 (・・・マジ、かよ・・・。)

 床面に水玉が命中した時、圧力によって大理石が球状に削り取られた。

 「さて、どうかね?考えは変わったかい?」

 「・・・・・・。」

 「そうかい、なら・・・。」

 ウィッチが、さっと手を振る。その手の動作に合わせ、水球が一斉にイーザ目がけ動く。

 「ぐっうぅ・・・。」

 せめて、動く事が出来たらとそう思った。彼の両手両足は束縛魔術で拘束されていて、移動すらままならないのだ。

 「ワシをババアと言った事、獄界で後悔せい。」

 「ぐぞぉォォ、させるかぁー!!」

 イーザは、必死にもがいた。動かせない手足を、全力でバタつかせた。全身全霊で、抵抗した。

 「愚か!!」

 「く、砕けろぉぉぉぉー!!」

 いちかばちか、叫んで見るものだな、と、この時のイーザは、絶対に思った事だろう。

 着弾寸前、アクアボールが全て彼の眼前で砕け散った。

 「えっ?あっ・・・。」

 「何?・・・そんな馬鹿な事が・・・。」

 「リ、リリス!!」

 そう、イーザの目の前に出現したのは、サーキュリス姉妹が姉、リリス・サーキュリスだった。

 「フフフ・・・イーザちゃん、ピンチだったぁ?」

 「姉さん、目ぇ切っちゃダメ!!」

 「うわっと!!」

 直後、氷の刃が数個、彼女の周りに着弾する。

 「ちょっとぉ、イキナリ何!?」

 「・・・こざかしい、尻の青い小娘が出て来たねぇ・・・悪魔かい?アンタら。」

 「何?アンタの方がよっぽど、尻の青い小娘じゃない。」

 先にリリスが動く。彼女は、手にしている鎚を振りかぶりウィッチへと飛行、突進した。

 「フン・・・エナジートライ。」

 三つの光球が、それぞれ上・右・左と別々の方向から、別々の軌跡を描き、対象に牙をむく。

 「甘い。」

 上と右からのを回避。左から来るのを、素手で弾き飛ばす。

 「てぇりゃぁー、スタンピング・インパクトォ!!」

 その瞬間のハンマーの質量は、数トンに及ぶ。食らえば、人外とてただでは済まない。

 “ガギィィィィン”

 と、鈍い音がした。鎚は、ウィッチを捉えておらず、直前に何かに当たって跳ね返ってしまう。

 「いったぁぁぁぁぁ〜、手がジンジンするぅ。」

 「防壁を常時展開している?」

 リリスのハンマーが一定の距離に達した時、一瞬だけ、ウィッチを包む円状のラインが見えた。

 「隙だらけだよ、小娘ぇ!!」

 渦巻く光が、ウィッチの手に収束する。

 「やばっ・・・。」

 「ソート・レイ。」

 一直線に光のビームが、リリスの鎚を直撃。同時に右手にも軽いダメージ。

 「っ・・・やるわねぇ。」

 「無駄口は止めたらどうじゃ?」

 ウィッチは既に、次弾の発射体勢をとっていた。

 「させない、ノイズ・ウェイブ!!」

 精神を乱す振動音波を放つリリム。それはウィッチの防壁では防ぐ事は出来ない。

 一瞬の集中力の乱れが、魔術の威力を大きく左右する為、次弾のソート・レイはリリスの小型防壁でも防げた。

 「ちっ・・・まあよいわ。でも、これは防げるかねぇ・・・。」

 そう言うとウィッチは、戦闘中にもかかわらず目を閉じ、長く、複雑なスペルを唱え始めた。

 「・・・・集え炎・・・誅殺の獄炎よ・・・我が元に集い集まれ・・・。」

 上空へと、ウィッチはゆっくり舞い上がる。彼女の周囲には、十二の法陣。それらは天井を突き抜け、上昇を続ける。

 「ちょっとぉリリム、邪魔してよ、さっきみたいに。」

 「してるわ。やってるけど、届いてないみたい。」

 「あれ食らったら、マズイんじゃないか?」

 「・・・その炎を以って、彼の者達を無へと帰せ・・・。」

 最上級術・・・。つまり、炎の者の力を借り、自身の魔力を必要量合成し放つ、必滅の術。

 そして今、建物上空にてウィッチの閉じた両目が開き、術が発動してしまった。

 「顕現せよ、魔力の断片・・・ジャッジメント・フレイム・トゥウェルブ!!」

 十二の法陣より、一発一発が最大術級の力を有した火球が一斉に出現し放たれ、眼下の建物に降り注ぐ。

 「・・・その炎、全てを焼き殲し、何も残さず。」

 相手に告げる最期の言葉。それを以って、術は完了に至る。


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