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第三十四話 ロスト
 第三十四話 ロスト
 
 
 
 
 
 今日の天気を好ましく思わない人は、数多い事であろう。
 
 
 傘をさし、あるいはカッパを着、場合によっては長ぐつも必要となる天気だ。
 
 
 そんな日でも、一際雨が激しく、雷を伴っているのが三丁目の幽霊屋敷と称される場所・・・イーザ邸である。
 
 
 雲に隠れ、日の覗かぬ日の出の時刻。
 
 この屋敷の主である、イーザラント・ダスト・カナートゥスの寝室の扉をノックする音が聞こえる。
 
 少し間を置き、扉ががちゃりと音をたて開き、入室して来たのは天使の微笑みと名高き、マリア・フローネ。
 
 
 「イーザ様、朝ですよ。」
 
 
 と、彼女は未だ布団の中の男に声をかける。
 
 男・・・イーザはその声に対し返事をする。
 
 
 「ん・・・おはよう、マリアさん。」
 
 
 「朝食のご用意が出来ましたので、早めにお越し下さい。」
 
 
 「分かったよ。」
 
 
 彼はそう答えると、その身をベッドから起こし、足をつき、立ち上がろうとし・・・よろめいた。
 
 
 「大丈夫ですか?」
 
 
 「ああ・・・四日振りだもんな、立つの・・・。」
 
 
 そう、イーザの魂がその身にかえってから、既に四日が過ぎていた。
 
 初めの、戻った初日、修復された身体はうまく機能せず、何度か死にかけてしまったが、マリアをはじめとするこの屋敷に住む面々の手厚い看病の甲斐あって、二日目には食事を、三日目には今までの事を思い出し、そして四日目の今日、ついに立てた。
 
 
 貧血の症状にも似た目眩と、重く感じる身体・・・足には力が入らない。
 
 それでも彼は、ベッドを支えとして直立、歩いてみる。
 
 ぎこちない歩みだが、回復はすぐであろう。
 
 
 
 と、直後、再び扉が開き、更に二人の女が現れる。
 
 双子・・・とはいえ、夢色魔の女王、この屋敷において最もサキュバスというものを体現している、姉という扱いのリリス・サーキュリス。
 
 そして娘だが、妹という立場で落ち着いたリリム・サーキュリス。
 
 
 「イーザちゃんどぉ? 調子の方は。」
 
 
 「あぁ、だいぶよくなったぞ。」
 
 
 「ふーんそぉ、なら早速今夜からでも××××出来る訳ねぇ。」
 
 
 「ちょっと姉さん・・・一応病み上がりみたいなもんだし、もう少し待っても・・・。」
 
 
 「いや、いいぞ。・・・二人まとめてかかって来い。」
 
 
 「あらあら・・・お二人だけですか? イーザ様。」
 
 
 「・・・三人まとめてかかって来い!!」
 
 
 「そぉ、じゃあ今夜は楽しみにしてるからねぇ。」
 
 
 「まあ、いいか。それじゃあねイーザ。」
 
 
 と、双子は部屋を出て行き、イーザとマリアもまた、部屋をあとにする。
 
 ベッドが軋んだ。
 
 
 
 四日振り・・・いや実質もっと振りに、まともにメシを口に含む。
 
 やはり自らの手で、自らのペースで食するのが一番だ。
 
 素直に、何の抵抗もなく口に入り、胃に入る。
 
 栄養が不足がちだった身体の、隅々にまでエネルギーが行き渡り、次第に細胞を活性化させ、食欲に更に勢いをつける。
 
 
 すぐに皿は空となった。
 
 
 「ごちそうさま。」
 
 
 「はいはい、お皿は下げますね。」
 
 
 カチャカチャと皿を重ね、下げてゆくマリア。
 
 イーザは席を立ち、ゆっくりゆっくりと足の出具合を確認しながら歩き、部屋を出る。
 
 
 
 じりじりと廊下を、慣らしの意味も兼ねてブラブラしていると、扉が開けっ放しの部屋が一室。
 
 確かあそこはメイルの部屋。
 
 そういえば、この四日の間、彼女の姿を目にしていなかった。
 
 という訳で、悪いとは思ったが、部屋に入らせてもらう。
 
 
 「メイル・・・?」
 
 
 室内は機器部品やオイル、グリスにチリ、あげく工具が散乱していて、足の踏み場がかろうじで確保されている状態であり、壁にもたれる形でメイルは、すうすうと寝息をたてていた。
 
 服も髪にも、メガネにもグリスやダストが付着してしまっている。
 
 
 「おいメイル、風邪ひくぞ?」
 
 
 声をかける。
 
 しかし反応はまるでない。
 
 やはり、すうすうと寝息をたてており、無邪気な寝顔のままである。
 
 
 「ん? ・・・これは・・・。」
 
 
 と、そこでイーザの視線は、メイルの向かい側にある物へと向く。
 
 二メートルちょいくらいの円筒形のカプセル状物体の中の存在にだ。
 
 
 「説明してやらぁぁぁぁ!! そいつはソーニャスver,2だぁぁぁぁ!!」
 
 
 「うぉあ!?」
 
 
 「全ての駆動系を私なりにチューンアップしといたから、従来比、約32・56%性能アァァップ!! 更に右手イフリートユニットをより大型化し一撃に特化、更に更に、あんの黒い奴に対抗する為、背中に生やしたるは飛行翼“ヘルメス”!! ビュンビュン飛び回って敵を討つ、無敵最強超絶ロボ・・・じゃあない、まだ途中、夢の途中。まだまだこれからじゃあぁぁぁぁーーーー!!」
 
 
 「・・・なんか久し振りだな・・・。」
 
 
 「んぁ? クソイーザじゃねぇかぁぁぁぁ!! 目ぇ覚ましたんか、あぁ!?」
 
 
 「ああ、おかげさまでな。」
 
 
 「そうかそうかぁぁ!! それだったらご・・・・・・お久し・・・振り・・・の・・・様な・・・気・・・がし・・・ます・・・。」
 
 
 「・・・おい・・・突然替わられると、反応に困るんだが。」
 
 
 「すい・・・ま・・・せ・・・ん・・・。」
 
 
 「いや別に謝らなくても・・・まぁ、元気そうだからよかったよ。じゃあ、また後でな。」
 
 
 「あっ・・・。」
 
 
 イーザは既に扉の外。もう少し、お話ししたかったなとメインメイルは思った。
 
 
     ・
 
 
 続いて自室に戻ろうとしている時であった、ふと目に止まったのが、窓が一ヶ所開けっ放しになっていて、雨が降り込んでしまっているという光景である。
 
 
 「?」
 
 
 イーザは、足を滑らせない様、慎重に歩み寄り・・・そしてゆっくりと窓を閉じる。
 
 丁度庭が一望出来る位置の窓であった。
 
 今の天気は土砂降りの大雨、当然ながら庭には誰も居な・・・。
 
 
 「ん?」
 
 
 気のせいだろうか、一瞬、門へと向かう者が居た様な・・・。
 
 刹那、妙な胸騒ぎがした。
 
 どうしても、自らの眼で確認しなければならない気がする。
 
 
 彼は、一階へと通ずる階段をじっくり駆け下り、正面に見える玄関、入口扉へと出来るだけ急ぐ。
 
 そして扉に手を掛けようとしたその時、扉は彼の意志を無視して開き、外には一人、すぶ濡れの少女が立っていた。
 
 
 「ルシア!?」
 
 
 そう、今しがた突然声を掛けられ、ちょっとビックリしているのはルシア。
 
 屋敷内に足早に彼女は入ると、手や足の水滴を払いのけている。
 
 赤い髪の毛が、すっかり縮んでしまっていた。
 
 
 「傘くらい持って行った方が良かったんじゃねえか?」
 
 
 そう言うイーザに対し、ルシアは“うん”とだけ返す。
 
 まるで、彼の事は空気の様な扱いで、廊下を歩いて行く。
 
 
 「オイ、ルシア・・・どうかしたのか?」
 
 
 「別に・・・。」
 
 
 「別にって・・・お前、何かおかしいぞ?」
 
 
 「・・・・・・エリス・・・エリスに会えたよ、ついさっき門の所で。」
 
 
 「エリス・・・?」
 
 
 「ほら、アンタもそうやって知らないフリをする。皆にしてもそう。どうして彼女を引き止めなかったんだろうね・・・あの子、とても悲しそうだった。行くアテもないのに、この雨の中、飛び出して行った。」
 
 
 「???」
 
 
 「・・・私は部屋に戻るから。」
 
 
 と、彼女はそう言い残し、自室へと姿を消していった。
 
 
 エリス・・・それを、その意味を、イーザは考えていた。
 
 
     ・
 
 
 その日の夜・・・事件は起こった。
 
 
 「きゃあああああああああああ!!」
 
 
 夜の静寂を破る悲鳴が、イーザ邸内を駆け巡る。
 
 
 それを耳にしたルシアは、すぐさま声のした方・・・すなわちイーザルームへと急ぐ。
 
 他の者は誰一人として向かってはいない。
 
 すぐに扉を開け、
 
 
 「何事!?」
 
 
 と彼女は言う。すると・・・。
 
 
 「イーザちゃんがぁ、カラカラのゴミみたいにぃぃぃぃ!!」
 
 
 
 サキュバス群がるベッド、その上には、精気を吸い尽くされ、ミイラの様になりかけたイーザの姿があった。
 
 
 
 


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