第五話 昨夜、彼女と 後
第五話 昨夜、彼女と
後編
“お前にした事、今でも後悔している・・・。”
確かにイーザはそう言った。そしてさらに、
“まあ、いくら謝ったところでもう、許してはもらえないだろうけど。”
と続ける。
「何か、女絡みっぽいんだけど。」
「若い内にはいろいろあるものなのですよ、ルシアさん。」
「マスターイーザ・・・。」
“でも、もうお前の事忘れていいよな。”
「え?」
“俺はこの能力・・・無限精力を持ってる限りは人の社会に深く入れない。・・・多分、永遠にだ。”
「ってか、コレッて独り言なの?」
「黙れルシア。」
“だけど俺は今、一緒に居てもいい奴らがいる。俺は命ある限り、こいつらを幸せにする義務があると思うんだ。”
「マスターイーザ・・・。」
“だからお前も、自分の居ていい場所を早く見つけてくれ。”
「イー・・・ザ・・・さん。」
「じゃあな・・・磋煦夜。」
そう言い、イーザはポケットから名も知らない小さな花を一輪、そっと取り出し海に落とした。花は右に左に舞いながら落下して行き、すぅっと、水面を滑る様にして浮いた。
それを見届けてから、両手をそっと合わせ、祈る。しばらくして振り返り、断崖絶壁に背を向けると、歩きだした。力強く、しっかりと。 だが、その時背後に殺気を感じ、イーザは咄嗟にその場から飛び退いた。すると、先程まで彼の立っていた場所が三日月型にえぐれ、地面を吹き飛ばした。
「くっ・・・そ、誰だ。」
崖の向こう、地が途切れた眼下に海しかないそこに、何者かが飛翔しているのが確認出来た。
ライオンの様な顔、ワシの様な翼と胴体、そしてヒトの様な格好。そいつはくちばしを開き、言った。
「ケッケッケッ・・・あなた、イーザさんですよねぇ?」
「お前は・・・・グリフォンか、口ばっかり達者な鳥野郎が!!」
「おや、言いますねぇ。しかし、しかし、いくらなんでもアナタよりはマシだと思いますが?」
「貴様・・・。」
グリフォンの、相手を見透かした様な目。イーザにとっては、奴の言葉よりもその目の方が頭にきた。
「焼き鳥にしてやる。・・・その前に、刻んでやるがなぁ!!」
そう言い、イーザは剣を取り出した。何もない、イーザの手元に急に剣のグリップが、続いて刃が出現したのだ。
「ほお・・・それはそれは、何ともご立派な剣ですねぇ。」
敵のイヤミは聞き流す。この剣を見た者の第一声はいつもバカにしたものであった。刀身はくすみ、刃こぼれを起こしているボロボロの剣。
グリフォンもまた、手元に剣状のものを形成する。風系魔法、大気を圧縮し、刃とする“ウィンドエッジ”だ。
「では、行きますよ。」
ドンッ、と何かが破裂した様な音と共に急加速したグリフォンは宙を駆け、一瞬で間合いを詰める。
イーザも、剣を降るい相手にぶつけ、結果、剣と剣がつばぜり合う。衝撃でいくらかイーザは押されたものの、何とか踏みとどまった。
「ケッケッケッ・・・無限精力、何と愚かしい力でしょう。その力の為にどれだけの人を苦しめました?」
「クッ!!」
「貴方は、己の欲望に支配され、止まらなかっ・・・。」
「黙れ!!」
「おやおや、私は事実を言っているだけですが?」
「黙れぇぇぇー!!」
イーザの激情に感応したのか、ボロボロの刃が急激に輝き、金色の光を纏う。
瞬間、敵の風の刃は真っ二つとなった。だが、対象のグリフォンはすでにそこにはいない。
「遅いですよ。」
背後から声がっ、
「ぐばあああぁぁぁ!!!!」
背中に強烈な一撃。イーザの身体は跳ねとばされ、崖の、ギリギリ端でようやく止まる。
「ぐっ、げはぁああぁぁー!!」
敵にスキを与えてはならない。すぐに、イーザは起き上がり敵を睨み付けた。額から血が流れ出し、視界を微かに赤くしている。
「恐ろしい眼ですねぇ、彼女もきっと、そんな目をしたアナタに・・・。」
「黙れと言ってるんだ・・・次、口開いたらブッ殺す!!」
「ケッケッケッ、いいでしょう。では、じっくり痛めつけて差し上げます。いい顔で苦しみながら、自ら殺したあの女の思いを知りなさい。」
そう言うグリフォンの周囲に大気が渦を巻く。一点に空気を圧縮し、巨大な風の高密度球体を作ったのだ。
「・・・殺した?」
「そうです。今朝、アナタの記憶の一部を見せて頂きました。女をなぶり、殺害するアナタの姿が見えましたよ。確かサクヤ、といいましたか?・・・覚えがあるでしょう、アナタの殺した女なのだからね。」
グリフォンの歪んだ笑みが、笑い声が辺りに響いた。イーザの苦悶の表情を予想する。
だが、彼の顔は痛みも苦しみも、負け犬のそれでもない、全く真逆の表情だった。
「ククッ・・・ククク・・・。」
イーザの押し殺した笑いが少々、癪に触ったのか、グリフォンは声を荒げ、言った。
「何がおかしい?・・・それとも、気でも狂ったのですか?」
「いいや、お前が間違っているから、つい・・・なっ。」
「何?」
「磋煦夜はなぁ、死んでねぇんだよ!!」
「バッ、バカなっ、お前の記憶の中では確かにあの女は血塗れで死・・・。」
「トマトジュース飲んでて、足滑らせて気絶してただけだぁ!!」
「なっ・・・。」
“なぁ〜っ!!!!”
「うぅ・・・初めて、初めて人間のカノジョが出来たと思ったのに・・・。」
“磋煦夜は、サキュバスだったんだよぉぉぉ〜!!分かった後、逆上して犯しまくったら、事件になっちまたんだぁぁ〜!!”
リリムの回線を通じ、聞こえて来た衝撃の真実。皆、一瞬呆気に取られていたが、エリスだけは、
「マスターイーザ・・・そんな悲しい過去が・・・。」
と言い出す始末だ。
「つい、逃げ出しちまったから、後から顔も合わせにくいしよぉ!!」
「・・・なんと・・・誠実さの欠片も無い男・・・。やはり、アナタは消さなければならない様ですねぇ。」
彼は、手元から周囲にかけ圧縮していた巨大な空気塊を放つ。
「ケッケッケッ、消えなさい。エア・グラビトン。」
(ヤバッ、例え俺が保ったとしても・・・。)
仮に、イーザがこの一撃に耐えられたとしても、ここは地の端、断崖絶壁の一歩手前である。
ここの地面の方が保たないだろう。そうなれば当然、海にまっ逆さま、助かる確率は万に一つもない。
(ケッケッケッ、念には念を入れておきますか。)
グリフォンの方は、再度空気の圧縮を開始した。場合によってはもう一撃、エア・グラビトンを放つつもりなのだろう。万が一さえ潰す気だ。
「チィッ、こうなったら・・・。」
イーザが、覚悟を決めたその時だった。
「アネイルシェント・セレナーデ。」
突如として、空気塊が散乱する。エア・グラビトンは、イーザの数十センチ手前に出現したバリアーの様な壁に阻まれたのだ。
「何事ですか!?」
「これは・・・マリアさん?」
「はい〜!!」
グリフォンの後方、木々の間より女性が駆けて来るのが分かる。
イーザのカンは正しく、屋敷の吸精鬼が一人、マリア・フローネだった。
「なんとか間に合いましたね。それにイーザ様、私だけではございませんよ。」
マリアがそう言った時、ある者は飛行しながら、またある者は走りながら、残りのメンバーが現れた。
「マスターイーザ、遅れて申し訳ありません。」
「こいつ、私の炎で焼き鳥にしようか?」
「イーザちゃんのピンチだから、わざわざ来たのよ。」
「姉さんに同じく。」
「で・・・も・・形勢逆・・・転で・・す・・・。いてまうど、このクソ鳥ィィィ!!!!」
「これは・・・マズイですねぇ・・・一端、退きますか。」
と、グリフォンは脇目も振らず一目散に逃げ出した。戦力差を理解した上で最も正しく、確実な判断を下したのだ。
「どちらへ?・・・まだ礼をしてませんが?」
「えっ・・・。」
いつの間にか、逃走ルート上にエリスがいた。しかも既に、武器の槍に魔力が渦を巻く。
「スピア・サイクロン。」
神速で彼女はグリフォンを通過、少し間を置いてグリフォンの片翼の半分がバッサリと削げ落ちる。
「ぎっぁぁ・・・バッ、バランスを・・・。」
「ルンペルぅ〜ハンマーよぉ。」
物質転送能力。いわゆるテレポートで、リリスはグリフォンの懐に出現したかと思うと、身の丈近い大鎚を振り切った。
「ぎぃやぁぁぁぁぁー!!」
グリフォンの、くの字に曲がった体躯が、衝撃の凄まじさを物語る。
「ナイス姉さん、ノイズ・ウェイブ。」
激しい横向きのベクトルに加え、リリムの発した強烈なノイズ波長が、彼の思考を砕く。
「ぐうぅぅぅぅー、キ、キサマらぁぁ!!」
ノイズに乱されながらも、瞬時、彼は両手に、今までとは比にならない空気を収束させた。
「キサマだけでも死ねぇぇぇー、エアロぉぉーヴェスタ・グラビトンー!!」
圧縮空気塊に、さらに真空の刃をプラスしたお得な必殺技、その照準は、イーザだった。
「あっ・・・。」
「マスターイーザ!!」
「イーザ様にはもう、触れさせません。シャークタ・ゲッシュ!!」
マリアの身体より、魔力が解放、それは瞬時に空気塊を包み込むと、その場に固定。
「その力、滅しなさい。」
マリアの手中に出現するメイス、それで宙に十字を描くと、ドーム状のバリアにも同時に十字のマークが入り、まばたきする程の後には、バリアと空気塊は対消滅していた。
「バッ・・・バカなっ、私の最大術が・・・。」
「とどめじゃぁーキザ鳥がぁぁぁー!!」
すっかり凶悪に人格チェンジしたメイルは、コート下から大小様々な武器を展開、内訳は、ガトリング砲、バズーカ、ライフルにミサイルランチャー等々、面積的にどこにしまっているのだろう?という、おびただしい数のエモノである。
「ダァァァークファイア・フルバーストぉぉぉー!!ギィヤッハッハッハァァ、消え失せぇーい!!」
大半が、オートメーションウェポンで、無数の弾丸が、そして爆炎がグリフォンを包み込む。
だが、彼はまだ健在である。
「う・・・うぁ、お・・・のれ・・・。」
弱々しい挙動の、彼の頭上には、ラスト一人のルシアが既に、両手に炎を集めていた。
「プロミネンスゥゥ・アズヴァーン!!」
「おのれぇぇぇぇーぇぇぇ!!」
最大火球の投下に、断末魔の叫びがあがる。
火炎が彼の体を焼き、そして火勢が終息した頃、文字通り焼き鳥が出来上がっていた。
「・・・終わったか?」
「はい、もう奴は動きません。」
「一件落着だね。」
「ではでは、イーザ様は私達を幸せにして頂けるそうですが?」
「オイッ、何言ってる。」
「そうでした。・・・マスターイーザ、お疲れのところ申し訳ないのですが。」
「待て待て。」
「私、必殺技出したから、エネルギー不足気味なんだけど。」
「コラッ。」
「ボケイーザぁぁ、私も混ぜ・・・・・・お願・・・い・・・で・・・きます・・・か?」
「ウチに戻ってからだろうが!!」
「我慢はカラダによくないわよ、イーザちゃん。」
「姉さんの方が、少しは我慢するべきだと思うんだけど。」
「お前ら吸って来たばっかだろうが!!」
こうして陽が落ちるまで、グリフォンの事などすっかり忘れ、淫らなパーティーが開催されていたという。
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