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第四話 そして堕落へと
 第四話 そして堕落へと
 
 
 
 
 
 (・・・うーん、何か物足りないのよねぇ。)
 
 
 
 カラカラの、ボロ雑巾の様になっている男達を尻目に、リリスは思っていた。
 
 
 ここはホテルの一室。
 
 リリムと二人で何人もの男と遊び、どれだけその身を満たそうと動いた事だろうか。
 
 強要した事だろうか。
 
 
 何故か、必要なものが満たされていない様な・・・そんな感覚が自分の内にあった。
 
 
 
 (うーん・・・。)
 
 
 
 よぉく頭を使い、ひねって考えてみても、必要なものは分からない・・・むしろこんがらがるばかりだ。
 
 
 それもそのはず、彼女は大体は答えは分かっている。分かってはいるのだが、それをあえて無視して考えるから、こんがらがるのだ。
 
 
 その答えは、彼女にとっては認めたくないものであるから、無視するのだ。
 
 何故ならば、答えは今までの自分の生き方を否定するから。
 
 
 
 そう、答えはイーザである。
 
 
 
 (いやいや、考えちゃダメダメ・・・あんな男なんて・・・あんな×××の事なんて・・・。)
 
 
 
 頭を振り、その思考を脳内から弾き出そうと努力したが、ダメ。逆に、刻まれてゆく。
 
 質の良いものを知ってしまっている彼女らだから、現状で満足いかないのだろう。
 
 
 
 (・・・私は・・・吸精鬼、間違ってなんか・・・。)
 
 
 
 ふと視線を落とすと、もう一つのベッドには、すやすやリリムが眠っている。
 
 一見して幸せそうな寝顔だが、
 
 
 
 “ん〜イーザ・・・もっとー・・・もっと精よこさんかワレェ!!”
 
 
 
 と、夢の中にはイーザがいた。イーザが生きていた。
 
 
 
 (私だけじゃなさそうねぇ、欲求不満ちゃんは・・・。)
 
 
 
 リリスは改めて考える。物事を単純化させてだ。
 
 
 
 (えーっと、男はいくらでもいる。・・・が、吸精鬼事件の報道とかがあってから、警戒が強くなってて・・・最近特に引っかかんなくなったし・・・しかも、普通の男なら質も良ろしくない。
 
 えー、イーザちゃんは死んでぇ・・・でもある意味、理想の供給源でぇ、精の品質保障付き・・・しかも、一日二ケタOKの・・・・・・お得じゃない!! イーザちゃんてば、かなりお得だったのねぇー、もったいない・・・。)
 
 
 
 もったいない・・・心の底から思った事だった。
 
 彼女の、人間の男に対しての“もったいない”とは、最上級の好意の表現であった。
 
 男=使い捨てという、吸精鬼の一般的な考えを当然の様に肯定している彼女にとって、単に惜しんでいるだけにしても、もったいないなどという感情は初めてなのだ。
 
 そんな自分、好ましくないと思っているのか、口から出るのはイーザを侮辱した言葉ばかり。
 
 小学生が、好きな子にちょっかい出したりするのと同じ原理だと思われる。
 
 男の相手には一番慣れてそうなリリスだが、そこに特に感情はない訳だし、後々の事など一切考えない付き合い方だから、関係がいくら長く続いても、二日・・・。
 
 つまり、長期、三日以上にわたり同じ男と、っていうのはイーザが二人目であった。
 
 
 
 (でもなぁー、あんな・・・。)
 
 
 
 思い浮かぶ彼の顔。今日、何度目だろうか、気付くとこれだ。
 
 
 
 (・・・まいったわねぇ、これは・・・。)
 
 
 
 まさか、自分が一人の男を気にしてるとは・・・・・・やれやれ、仕方ないか。
 
 
 
 (こうなったら・・・・・・こうなった以上は、美女を置いて逝った事を後悔させてやらなけりゃあね・・・今度こそ、私なしじゃ生きれないくらいにして・・・いや、私達、ね。)
 
 
 
 思い付き、即実行。思い立ったが吉日の様な彼女は、すぐに次の行動へと移る。
 
 
 
 「リリム起きてぇ!! 起きろー!! はい、起きたらすぐ服着て、ほら早く。」
 
 
 
 「んー? もう〜何? 何でそんなテンション高いの?」
 
 
 
 「いいから、ほら早く。戻るわよ!!」
 
 
 
 窓を開き、街の情景を見渡しながら、リリスは言う。
 
 
 
 「戻る? 戻るってどこへ?」
 
 
 
 その問いに、待ってましたと言わんばかりに、リリスは勢いよく振り返ると、自信満々に言う。
 
 
 
 「もちろんイーザマイハウスへよ!!」
 
 
 
 それだけ告げると、彼女は二枚のコウモリの如き羽を広げ、窓より外へと飛び降りた。
 
 すぐに上昇、飛行してゆく。
 
 
 
 「えっ、ちょ・・・待ってよ姉さん。」
 
 
 
 少し遅れ、もう一羽も飛び立つ。
 
 二人はそのまま、いずこかへと消えていった。
 
 
 
 ちなみにこのホテルの件については後日、続・吸精鬼事件として新聞、テレビ、その他の数々のメディアで騒がれる事となる。
 
 
     ・
 
 
 〜光も、色彩も届かぬ場所、この世界の果ての向こう
 
 ABYSSICK ROOUWNESS
 
 
 〜空の、地の、海の最も黒く、深く、奥の・・・
 
 CHAOSICK ROOUWN
 
 
 両を織り込まれし乙女は、紅涙を流し、怒りに燃えるその御手で、多くの者の未来を奪う。
 
 
 
 
 
 ここは獄界と魔界のちょうど中間。
 
 まるで宇宙の様な広大な空間、その中に一つ、巨大な扉が建っていた。
 
 
 建っているといったが、地が無いこの空間において、常に浮いている様にしか見えない。
 
 見上げれば、首が痛くなりそうなとてつもなく大きな扉に、一人の少女が近づいていた。
 
 
 六枚の黒翼を持つ、異常な魔力の塊であった。
 
 

 いくら何でも不自然な彼女を、門番の二人は制止する。
 
 羽毛、翼にくちばし等々、姿からして鳥獣族だろう。
 
 
 
 「ちょっとお待ちくださぃ。」
 
 
 
 その言葉に、少女は素直に応じた。
 
 応じはしたが、その目は憎悪を、そして悪意を濃縮した球体の様であり、門番の鳥獣の青年を、殺気を隠そうともせずに睨み付けた。
 
 その眼球に宿る圧倒的な害意は、青年を触れる事なく失神寸前まで追い込んでしまう。
 
 
 
 「ヒッ・・・あぁ・・・あっ・・・ああっ・・・。」
 
 
 
 少女は語らない。言葉の代わりに、ただ、手をさっと振った。
 
 何の事はない、顔の周りを飛ぶハエを、遠ざける様に。
 
 
 ただそれだけの事で、制止に来た青年の内、一人の体が四散した。
 
 体内の何かが弾け、パンッと、軽い、間抜けな音でバラバラになったのだ。
 
 
 少女の顔は変わらない。何も、ない・・・。
 
 
 
 「ア・・・アァたっ、助け・・・。」
 
 
 
 もう一人は、必死で逃げようとしているのだろう、翼で飛ぶ事さえ忘れ、足を引きずり、少しでも早く少女から離れようとしている。
 
 
 
 「・・・・・・。」
 
 
 
 今度は手をかざし、魔力をほんの僅かだけ行使。
 
 突如、彼の周囲から炎が現れ、青年を一瞬で喰らい尽くし、後には何も残さなかった。
 
 
 つまらなくなった。
 
 
 破壊するものが、なくなった。
 
 
 いや・・・まだだった、まだこれから。
 
 
 扉を、ゆっくりと見上げる。そうだった、この扉の向こうにアイツがいる。アイツを壊す。
 
 だからまず、扉だ・・・扉を壊さないと。
 
 
 
 「シャダイ・エル・カイ・アドゥナイ・・・メレク・・・ガブルフェルン・メティリパージ!!」
 
 
 
 光の陣、左手に。
 
 六つの陣より、膨大な光のエネルギーが放出され、扉を一気に貫通、大穴を開けた。
 
 
 ゆっくりと、そして悠々とその穴から内部に進行してみれば、中には足をつく場所がなく、広い広い空だけがそこにあった。
 
 
 重力が一応はある様で、体が落下を始める・・・六枚翼を使用し、飛行。
 
 赤茶色の空の中を真っ直ぐに進みながらの、彼女の頭の中を支配しているのは、ただただ報復ばかりである。
 
 
 
 (破壊する・・・マスターイーザを殺めた・・・破壊する。)
 
 
 
 さてほんの少し、時間にして侵入してから分も経っていないその時、彼女の目に、黒い、ごまつぶの様な点々が多量に、写った。
 
 
 さらに接近すると、それらは鳥獣の、グリフォンの戦士達だというのが分かる。
 
 千・・・二千・・・三千はいるだろうか。いや、もしかしたら万はいるかもしれない。
 
 
 だが、少女、エリス・ブラッドにとっては全てがイーザの仇。
 
 
 
 「エア・グラビトン。」
 
 
 
 「ウィンド・エッジ。」
 
 
 
 「ウィンド・ボール。」
 
 
 
 「クライド・エア。」
 
 
 
 問答無用で一斉に放たれる、呪文、呪文、呪文。
 
 
 前方より、無数の風系魔術が襲来、彼女の視界を埋めてゆく。
 
 
 だがエリスは軌道を変えず、一直線に飛行を続け、自ら大嵐の中へと突っ込んで行ったのだ。
 
 
 
 「何だアイツは・・・。」
 
 
 
 「馬鹿か!?」
 
 
 
 いずれも、六翼の敵にヒットし、今頃は吹き荒れる魔術の乱流に四肢を引きちぎられるか、バラバラになっているか・・・というハズだった。
 
 
 
 「広域解呪ラウド・ディスペル。」
 
 
 
 しかし、エリスを中心に逆巻きの乱流が発生したかと思うと、戦士達の魔術を全て、無力化した。
 
 
 さらに、彼女はもう、その場にいない。
 
 彼らの後方に、その姿を現していた。
 
 
 
 「光も、色彩でさえも届かぬ闇の底にて、我が怨言を聞け・・・ABYSSICK ROOUWNESSアビシック・ルーネス!!」
 
 
 
 漆黒の闇が・・・。
 
 


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