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第三話 私の名前は 後
 第三話 私の名前は
     後編



 火球でどうにか、バンシーの視界を塞ぎ、僅か数瞬の間にルシアはイーザを抱え、奥の部屋に逃げ込んでいた。

 彼、イーザは胸部から左肩にかけバンシーの鞭による攻撃を食らっていて、その部位のスーツは引き裂かれ、大きく腫れあがっている。

まともに直撃していれば命は無かっただろう。

 「イーザ・・・大丈夫?」

 ルシアが静かに訪ねる。

イーザは、顔を苦痛に歪めつつも無理に笑みを浮かべ、

 「ふっ・・・ふふふっ・・・油断しちまった・・・ルシア、お前は怪我無いか・・・。」

 「うん、私は平気・・・だけど・・・。」

 「んな顔・・・すんなよ。かわいい笑顔が・・・俺を癒せるから、なっ。」

 「・・・そだね。」

 ルシアもまた、精一杯、笑顔を浮かべた。

 「そうだ、それが・・・一番だ・・・。」

 イーザは、少し活力が湧いた様な気がした。いや事実、少し元気を分けてもらったのだ。

 「ルシア・・・、俺は、なんとか動ける。だから、行くぞ・・・。一気に・・・奴を倒す。」

 「いや、私に任せてよ。イーザは休んでて。・・・じゃ、サクッと殺ってくるからここで待っててね。」

 そう言うと、彼女はバンシーの元に向かって行った。

“待て・・・ルシア。”と、イーザが言った時には、既に扉が固く閉じられていた。



 「貴女一人?・・・男の方はもう動けないのかな?」

 バンシーとルシア、二人は向かい合い立っている。

 「あんたなんて、私一人で上等って事。」

 その言葉にはかなりの緊張も含まれており、バンシーはそれを聞き逃さなかった。

 「そっ、じゃあ避けて見てよ。」

 再び、鞭が轟音をたてルシアへ向かう。

ルシアもまた、バンシーが攻撃を開始したのと同時に、思い切り床を蹴りジャンプした。

 (下っ・・・。)

 床を跳ね、黒蛇は空中のルシアへ軌道を変える。

 (左から、右っ。)

 鞭は、ルシアを掠めるだけで捉えてない。軌道を、読んでいる。

 「はっ、速い。」

 「フレイム・ボール。」

 直後、火球が五つ、ルシアの手より放たれる。

 「ちぃ、スパイラル・ウィップ。」

 鞭を新体操のリボンの様に回転させ、バンシーの前方に。その回転鞭に触れた火球が霧散する。

 だが、彼女はルシアから、一瞬とはいえ目を切ってしまった。

 「プロミネンス・アズヴァァァーン!!」

 ルシアは、バンシーの頭上にいた。そして今、彼女の最強にして最大の火球が下目がけ投下される。

 「なっ、なにぃぃぃぃー。」

 防御陣を張る隙さえ与えられず、バンシーは炎に包まれた。

 「ぎぃやぁぁぁぁー!!」

 「終わりよ、クソガキぃ!!」

 「なめてんじゃねぇぞぉぉぉぉ小娘ぇぇぇー!!」

 バンシーの耳をつんざく凄まじい咆哮が、炎を薙払う。

爆心地のバンシーは、所々焼け焦げ、肩で息をしているから、無傷ではない。

だが、闘気、そして殺気はさっきとは比にならない程になっている。

 「がぁぁあああバーストおウィップぅぅ!!」

 鞭をさらに大きく、鋭く、速く。

床を大きくえぐり、壁に穴を開け、天井に当たり跳ね返る。

 上から下から正面からと、避けても避けてもきりがない。手を掠め、足に当たり、髪を擦る。

 (しまっ・・・。)

 ガードが開いた瞬間を、黒蛇は的確についた。

 大鎚の如く一撃が、ルシアの軽い身体をいとも簡単に吹き飛ばす。

重力がなくなった様な感覚の後、後頭部と脇腹に鈍く激しい痛みが襲いかかる。声すら挙げる事すら出来ずに、頭を半分近く柱へめり込ませて。

 「あっ・・・かぁっ・・・。」

 まずい。痛みが薄れる。相手がぼやけて見える・・・。抵抗する力さえもが抜けていき、生命活動が低下していくのが分かった。

 血が、頭からとめどなく流れ出し、床を赤く染め、ぴちゃん、ぴちゃんという音だけはっきり耳に入る。

周りが、また少し暗くなった。

 バンシーは、ゆっくり呼吸を整えているようだ。

 「はぁ・・・はぁ・・・もう、終わり。」

 彼女は、鞭をスッと振り上げ、そして渾身の力をもって一気に振った。黒蛇は真っ直ぐにルシア目がけ突進する。今までで、一番重い一撃だろう。

 (死ぬのかな・・・。)

 目の前まで鞭が迫る。もう目を閉じよう。その先にあるのは死・・・。短い人生だったな。本当はまだまだやりたい事が沢山・・・。

 「おい・・・。」

 聞き覚えのある声が聞こえる。

「・・・・・・?」

 「俺の許しなく、勝手にくたばんな。」

 「イー・・・ザ。」

 「なんたって、屋敷の主だからなぁ!!」

 イーザは、何と鞭を受け止め、ルシアの盾となっていた。

 「ふん。」

 掴んだ鞭をバンシーに投げ返し、

 「さて・・・お仕置きの時間だ・・・。」

 と言った。彼の顔には、少々苦痛の色が見られる。
 「馬鹿め、その怪我でボクを倒すだって?笑わせてくれるね。・・・だけど、そのしぶとさに免じてボクの本気、見せたげる。」

 「本気・・・だと・・・。」

 次の瞬間、バンシーを光の粒子が包み込んだ。眩い白光が辺りを照らし、目を開けていられない程まで達した後、収束に向かう。

 (これは・・・エリスのパワーアップに似ている。)

 やがて、光の中から何かが現れる。

 「これがボクの本当の姿だー!!」

 現れたのは、アダルトチェンジしたとでもいうべき姿のバンシーだった。

 頭身は八にあがり、脚はすらりと伸び、プロポーションも抜群に。美女と呼んでも全く差し支えない。

 「これでボクは完全だ。もうお前らに勝ちは無いよ。」

 彼女はもう、勝利を確信しているようだ。怪我人二人が相手なのだから。

 だが、このアダルトチェンジがバンシーの敗因となってしまった。

何故なら、彼女は、イーザという男の本性を見抜いていなかったからだ。

 「フフ・・・フフフッ・・・ハーッハッハッハァ!!」

 突然、笑い声が周囲を駆ける。声の主はイーザだった。

 「何がおかしいの。」

 「ククク・・・そうかそうか・・・わざわざ俺好みに変身してくれたか。」

 ぶつぶつと、念仏でも唱える様に言葉を発してから、次にバンシーを指差し宣言した。


 「お前を犯して屈服させる!!!!」

 「はぁ?気でも狂った?」

 そう言われるのも無理からぬ事にちがいない。確かに今のイーザは、絶望や恐怖に押し潰されて正気を保てなくなってしまった様なテンションだ。

 だが、やけくそや崩壊の類ではないというのはすぐに分かった。

 何故なら、イーザの身体から発せられるオーラの流れとでもいうものが、明らかに異質だからだ。

そしてそれは、現在進行でどんどん高まって行く。

 「なっ、何?この・・・まとわりつく様な・・・嫌な感じは・・・。」

 バンシーがそう感じた様に、ルシアも同種のものを感じ取っていた。

 (何・・・私、鳥肌が・・・。)

 「行くぞぉ、無限精力解放ぉぉぉぉー!!」

 床を蹴り、イーザはバンシーに接近する。

 「!!!・・・っつ、いっ、嫌っ、寄るなぁぁー!!」

 咄嗟に、バンシーは鞭をイーザ目がけ滅茶苦茶に振ってしまった。だが、うまく受け流されダメージを与えられてない。

 彼女の本能が、イーザの接近をひどく嫌がったのだ。体が何故か震えだす。

 「なっ、何をしている、貴様ぁ!!」

 イーザは何も答えない。だが、嫌な感じはますます高まって行くばかりだ。

 (あっ・・・そうか・・・私、分かった。この嫌な感じは・・・。)

 再び、彼はバンシーに接近を試みようと、攻撃体制に瞬時に移行。相手へと猛ダッシュした。

 目を、ぎらつかせて。

 「バぁぁンシぃぃぃぃ〜ちゃぁ〜ん。」

 (今のイーザは、完全なエロモードなんだ。)


 エロモード。別名、性欲剥き出し状態。簡単に説明すると、男が極めて激しく本能のままに性欲に身を任せてしまった時、本来の身体能力を遥かに凌駕した力が発揮される事だ。

 具体例を挙げれば、それまでただの童貞だった男が、初夜にて超人的な体力を見せる事などである。

 つまり、イーザはこの能力を極めて強いランクで持っていて、無限精力が更にそれを増幅したため、そのパワーアップ振りはバンシーのアダルトチェンジを軽く上回っていたのだ。

 そして彼女らが、先程から感じていた悪寒は、イーザのエロ波動?をもろに受けている事から、である。

 「寄るなっ、寄るなぁー!!」

 鞭が、上下左右からイーザを襲うが、僅かな隙間を縫って少しずつ間合いを詰めてきている。

 「ええじゃないか、少しぐらい触らせてもらっても!!」

 目がマジだ。肌で感じられる程の、ギラギラとしたイーザの意識が質量を持ってバンシーに流れ込む。

 鞭を振る腕力が、確実に低下して来ている。相手側の意識がノイズとなり精神を掻き乱され、戦闘に集中出来ない。

 このままでは・・・。

 「捕ま〜えたぁ〜。」

 「ひぃぃぃやぁぁー!!」

 いつの間にか、後ろから乳を鷲掴みにされてしまっていた。ぐにぐにっと手が小刻みに動く。

 「ちょ、やめっ、放せー!!」

 「ククク・・・お前も男の素晴らしさを知るがいいぃぃぃー!!!!」

 「い、嫌〜っ、やめえーい!!」

 「・・・イーザ・・・。あんたって本当に見境無いんだね・・・。」

 こうして、計二時間に及ぶ、イーザの制裁が幕を開けた。



 「そんで、バンシーの奴は?」

 依頼人の老人、マインは再びイーザ邸を訪れていた。あれから十日、何の報告も無かったからだ。

 「はぁ、その・・・退治しました。・・・一応は。」

 「そうですか。まあ、私を殺しにこねぇって事は、退治なすったのでしょう。どうもありがとうござ・・・。」

 「イーザぁ、アイツが来てるんだって?」

 二人の会話を遮り、突如室内に侵入して来たのは、何と退治されている筈のバンシー本人だった。

 「なぁっ、お、お前はぁ・・・。先生、これはどういう事じゃ。」

 「バ、バカ、何出て来てんだ!!・・・い、いや、これはですね・・・ハハッ。」

 バンシーは、二人の言い合いを無視し、マインに歩み寄る。

 「ひっ、ひぃ、すまん、ワシが悪かった。頼む、許してくれ、頼む・・・。」

 「あんた、何言ってんの?」

 「え?」

 バンシーは深〜く息を吸い込むと、かなりデカイ声で怒鳴った。

 「ボクはねぇ、もうてめえみたいなジジイには一切興味ないの!!この男に体捧げちゃったし。もう、あの約束は無しよ無し!!」

 いまいち状況を理解出来ないマインは、ただただ呆然とだけしている。

 「だからクソジジイ、さっさと失せろ!!」

 バンシーがそう言ったのと同時にマインは我に帰った様で、老人とは思えない速度で逃げる様に屋敷を飛び出して行った。

 「言いたい事言ったらスッキリしちゃった。」

 と言うバンシーとは対照的にイーザは、

 「バンシー・・・いや、ステア、お前のせいで、成功報酬もらい損ねたじゃねえか・・・。」

 と、ガックリ言った。

 「ま、いいじゃん。美女が一人増えたんだから。・・・そうだ、ボクまだヤりたらないで〜す。」

 と、バンシーはそう言いイーザに思い切り抱き付く。

 「おいっ!!」

 「あ〜っ、新入りのクセにズルい。」

 そう言って、近くにいたルシアも抱き付き、更には騒ぎを聞きつけ他のメンバーも殺到、結果大変な事になった。

 「仕方ないか・・・よし、全員まとめてかかってこい!!」

 平日の昼下がり。今日も幽霊屋敷から、女の喘ぎ声が聞こえていたのは言うまでもない。


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