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第二十八話 シャイニング・マザー 5
 第二十八話 シャイニング・マザー5



 
 ここは、ゼルニウィック唯一の医療機関の一室である。

 イーザが門を突破した頃、磋煦夜の方は汚れた手に辱めを受ける寸前であった。

 あろうことか白衣の男、この病院の医師にである。

 彼女は全く、目を覚ます気配がないし、部屋の扉には鍵がかかっている。

 つまりは男の行為を阻害するものなどなく、まさに絶体絶命。

 だが、男の下卑た笑みはすぐに凍り付く事となる。

 「おいオッさん、何してんの?」

 突然、二人しかいないはずの空間で、第三者の声が響き渡る。

 そして同時に、医師の首にあてがわれた、冷たいもの。

 この現状を理解するのに、男は数秒を費やし、やがて知る。

 自分は今、ここに侵入した何者かによって、首筋に凶器をピタリと当てられているという事を。

 小さな声を絞りだし、男は言う。


 「か・・・金は、いくらでも・・・出すから・・・どうか、助け・・・て。」


 どうやら強盗の類だと思われたらしい。

 第三者・・・女は溜め息混じりに、空いている左手に短刀を握ると、さっと動かした。

 白衣にしぴっと切傷が入る。


 「ヒィッ・・・なっ、何が目的だ・・・。」


 「さあ? 何だろうねぇ。」


 さらに一振り、腕部、縦に真っ直ぐきれいに傷が入り、白衣をたちまち赤く染め上げる。


 「いっギッ、ギヤ・・・止めろォォ・・・おっ、お願いぃぃぃ・・・。」


 そんな医師の様子を心底楽しそうに見ている第三者。

 やがて、一言だけ男の耳元で呟く。


 「ヤダ。」


 血が勢いよく噴き出、周囲の全てを赤く塗りつぶす。


 「〜〜〜〜〜〜!!」


 悲鳴をあげる事さえ出来ず、息絶える男。


 「ヒハハハハハハハハはァァァ!!」


 その第三者デュード・デュオニュソスは、自身の存在を、行動を最大限強調するかの様に、笑い声を吐き出した。

 彼女の目論見通りなのか、磋煦夜は一瞬で跳ね起きた。

 目を開き覚醒した彼女が、最初に見たものとは、血にまみれた刃を握り仁王立ちしている怨敵、デュードと、血溜まりの中に沈む白衣の医師の姿であった。

 そんな惨状を目の当たりにした彼女の体に熱が、怒気による熱がつま先から髪の一本一本に至るまで駆け上がり、一瞬で戦闘状態へと身体を仕上げてゆく。


 「デュゥゥゥドォォォォー!!」


 布団を跳ね退け、短刀を手中に顕現、デュードへと切りかかる。

 金属音。互いに刃をクロスさせ、均衡を保っている。


 「デュゥゥゥドォ、また罪ない人を殺したなぁ!!」


 「ククク・・・だったら、俺をどうするってんだぁ?」


 「殺してやる!! 今、ここでぇ!! 貴様をを!!」


 消失、同時にデュードの背後へと出現。

 そこから短刀を、この女の背中に突き立てて・・・。

 そこから先、何が起こったのか分からなかった。

 天地が逆さまに、そして身体を襲った浮遊感。

 気付けば、床に叩きつけられていた。

 ダメだ・・・再び視界がぼやけ始める。


 「おいおい・・・ここは病院だぜ? 一応な。怪我人は静かに寝てねぇとよォ。」


 「ぐっ・・・ひっ、人を殺し・・・何を・・・言って・・・。」


 「じゃあなぁ・・・。」


 正直、コイツにもお前にも用はなかったんだがねぇ・・・そうボソッと磋煦夜の耳に入らぬ様呟き、振り返って扉のロックを開放、出ていくデュード。


 「ま・・・待・・・デュ・・・ド・・・。」


 背後から微かに響く声、彼女は振り返りもしなかった。


 (やれやれ・・・薬切れたからパクりに来ただけってのに・・・また奴の怨み買っちまったか・・・。)


 腕に巻かれた包帯をさすりながら、彼女は病院を後にした。


 「待・・・て・・・。」


 再び磋煦夜は、意識を失っていった。


     ・


 地下へと伸びる階段が遂に終わり、辿り着いたのは広大なスペース。

 すりばち型の客席らしい外枠、そして中央には土を敷き詰めているらしく、競技場の様になっていた。

 コロシアム・・・そう、まるでコロシアムだ。


 「ようこそマリア・・・殺戮場へ。」


 「マグサル、余興は止めにしませんか?」


 「フフ、そう言うな。罪人は相応の処刑法で葬らねばならんのでな。」


 「罪人・・・ですか、私が。」


 「そう、罪人の中でも特に重い咎を負った者は、ここに放り込まれ見せ物となる。・・・素晴らしいだろう? 生憎、観客は一人もいないがな。」


 「ソート・レイ。」


 光線を一切の容赦なく、客席に立ち演説するマグサルに放つ。

 命中する・・・はずであったが、彼の直前でビームは四散し、消失してしまう。


 「対魔術防壁ですか・・・腐っても元大神官様の部下という訳ですね。」


 「そう急くな・・・貴様の相手はコイツだ。」


 マグサルがそう言った直後、断続的に地が振動し景色を揺らす。

 ビル程はありそうな巨人が、歩いているかの様だ。

 そしてコロシアムの端、マリアが入場した入口とは真反対に位置する広大な通路より、それは現れた。


 「・・・これは?」


 それは四本の逞しい脚を持つ、巨大な犬の様であった。

 大型トラックを二割増ししたくらいの犬を、そのまま全身機械にしたらこんな感じになるだろうか。

 グレー色の装甲を鈍く光らせ、咆哮をあげる。

 鳴き声まで、犬に近い。

 ただ外見上、本来の犬と大きく異なるのは、背中から伸びる二門の大砲の存在である。


 「ゴーレムと同じさマリア・・・魔導兵器ガーゴイル、前大神官の傑作だ。」


 前大神官・・・その名がマグサルの口が出た時、マリアは少なからず動揺を見せた。


 「前大神官様が?」


 「そう、コイツは純粋な兵器だ。・・・防衛目的で作られたゴーレムとは違ってな。」


 「・・・何を言っているのです、あの御方がこんな破壊目的の兵器をお作りになる筈が・・・。」


 その時の彼女の脳裏には、まさかという考えがよぎってはいたが、マグサルの返答は想像をはるかに超えたものだった。


 「あの御方・・・と言ったか? ・・・そういえばお前の周りじゃ、あのオヤジは善人ぶってたからなぁ、知らなくても無理はないか・・・。そもそも、あのオヤジが本気でこの町の事、考えてたと思うか?」


 「なっ・・・それでは一体・・・。」


 この瞬間、突如としてガーゴイルと呼ばれた兵器が起動、獣の様な動作で突進。

 これに反応を遅らせたマリアは、自分の身体よりも太い前脚をまともに喰らい、観戦席方向へと吹き飛び、背中から突っ込んだ。


 「ああぁぁっ!!」


 さらに追い打ちが、高く跳躍したガーゴイルがマリア目がけ落下。押し潰すつもりらしい。


 「あっ、アネイルシェント・セレナーデ!!」


 半透明の防壁が、ガーゴイルを空中で受け止める。だが、少しずつ脚部が食い込んで・・・。


 「くっ・・・ううぅ・・・。」


 さすがに、全重量を支えているのだから、いつものニコニコ顔でいられないのも当然だ。

 しかも、奴が防壁上で暴れ始めてしまったので、長く保つ訳がない。


 「うっ、あぁぁああああー!!」


 盾が、魔力の盾が粉々に砕け散り、前脚部がマリア目指し落下。総重量約12.5トン。

 寸前、魔力を左方で爆破。そのエネルギーで僅かに移動し直撃は避けたものの、衝撃をもろに受け、体がまたも跳ね飛んだ。

 幾度もコンクリート床に頭をぶつけ、意識が体を離れそうになる。


 「う・・・ぁぁ・・・ぁ・・・。」


 気を保つだけで精一杯だ・・・。いつ気を失ってもおかしくはない。

 視界がぼやけ、物が霞んで見える。

 限界が、たった二度の攻撃で訪れてしまったのだ。


 「ハハハハハ・・・マリア、どうせ死ぬのだ、最後に俺の見た全てを教えてやろう。」


 ガーゴイルに待ての司令をマグサルが出すと、ひょこっと伏せのポーズ。

 やけに滑らかな動作に強い違和感がある。


 「お前の信じていた元大神官様はな、マッドサイエンティストといっても差し支えないだろうな・・・。


 何せ魔導兵器の発展の為に防衛と称して、侵略者のみならずこの町を訪れるものを殺して、データ採取をしていたのだからな。


 まあその結果、強化改良を重ねて完成したのがコイツだ。分かったな? 元大神官様は目的の為なら人殺しも厭わない、極悪人だったという訳だ。」


 「そん・・・な・・・。」


 マリアの様子を眺め、愉快そうにマグサルはとどめの一言を発する。


 「そしてマリア、お前はその手伝いをしていた・・・人殺しのなぁ!!」


 改めて過去の事を思い返せば、確かに不自然な点がいくつかあった。

 あの時、私が敵に捕まったのは・・・私の周りのゴーレムが突然、防衛能力を失ったのは・・・私が目障りになったからだったとしたら・・・。


 「言葉も出ないか? ・・・では、お別れだ。さようならマリア。」


 左手をさっと挙げる合図を、ガーゴイルに。

 伏せの体勢から即座に体を起こし、背中の大砲・・・砲首に熱が宿る。


 「撃て・・・。」


 爆音。砲が火を噴き、二発の弾丸がマリア目がけ飛来。

 やがて着弾し、爆発を起こした。


 「フン・・・あっけなかったな。」


 巻き上がる黒煙を背に、マグサルが一歩を踏み出した、まさにその時であった。


 「ちょいと待てや、腹黒オヤジ!!」


 背後より何の前触れもなく響いた声に、彼は慌て振り返る。

 すると、大きくクレーター状にえぐられた観戦席の後方、そこにマリアを抱き抱える男の姿があった。


 「何だ、貴様!!」


 その問いに、口の端を吊り上げ男は返答する。


 「フッフッフッ・・・教えてやろう!! 俺はサキュバスキラー、イーザ。覚えとけぇ!!」


 以前はゴーストバスターとか名乗っていた気もするが、関係なしにイーザは高々と宣言する。


 「お前を犯し・・・いや違う、違うぞぉ!!!! お前を倒し・・・えー・・・ほっ、報酬もらう!!」


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